Altair 8800を開発したMITS社の企業ロゴ変遷の謎?

タイトルは大げさだが、要はAltair 8800を開発したMITS社のロゴが途中で変わっている。そのきっかけや動機など今更知りようもないが、いつの時点で変更になったかが気になったので調べて見た。まあ…こうした…今更…どうでもよい些細なことに気を向けるのが当研究所ならではの心意気である(笑)。


エド・ロバーツ率いるMITS社が社運をかけて開発した Altair 8800は爆発的に売れた。その狂騒ともいえる出来事はこれまでに「ホームコンピュータの元祖「Altair 8800」物語(1)(2)(3)(4)(5)」などでご紹介したが、そのAltair 8800のフロントパネルには "ALTAIR 8800 COMPUTER" とプリントされたパネルの左側にMITS社のV形ロゴがある。

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※Altair 8800のフロントパネルにあるMITS社のV形ロゴ


ただしコンソールパネルの機能を強化した第2世代モデルのAltair 8800b には円をモチーフとした六角形のロゴが採用されている...。

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※ComputerNotes Volume 2 Issue 1(1976年6月発行)にアナウンスされたAltair 8800bには新しい六角形ロゴが


Altair 8800は1974年12月に開発され、ポピュラーエレクロトニクス誌1975年1月号で紹介されたことがきっかけで販売に火がついた。なにしろ発売開始後1ヶ月も経たないうちに4,000台ものオーダーが舞い込んだという。あのビル・ゲイツとポール・アレンがマイクロソフト社を起業するきっかけもこのAltair 8800だったといわれている。

さてそのMITS社はAltair 8800ユーザーを対象にした "Computer Notes" というユーザーグループ向けの会報を配布したが、初期にはビル・ゲイツやポール・アレンの記事もある。
その "Computer Nots" の第1号は1975年4月7日付けで発行されている。しかし前記したMITS社のロゴはどこにも記されていない。

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※ "Computer Notes" 創刊号のトップページ【クリックで拡大】


第2号の発行は同年7月となっているが、その後1975年10月号(第5号)ではマイクロプロセッサにモトローラ製MC6800を採用した Altair 680b のアナウンス記事が見られる。そして同号の10ページには "MITS Creative Electronics" といった企業を鼓舞する表記があるもののロゴはまったく見られない。
結局1975年中には不定期ながら"Computer Nots" は6巻発行されたが、ALTAIR 8800のフロントに記されたロゴはもとより、それらしい表記はまったく見られなかった。

結局1976年2月に発行されたVolume 1 Issue 11になって初めて割れた六角形のような何らかの回転を連想させるロゴが現れる。ともあれMITS社のロゴが三つ巴のような六角形ロゴに変わった経緯や理由についてはともかく一般に目に触れるようになったのは1976年初頭の頃だと思われた...。

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※ "Computer Notes" Volume 1 Issue 11に新しいロゴが使われた


とはいえもう少し核心が持てる情報は無いかと探してみた結果、MITS社のロゴに関しての記述を見つけた。それは "Wikimedia Commons, the free media repository" によるもので、旧V形ロゴはAltair 8800開発以前の1972年4月に最初に使われ、1976年2月に六角形ロゴと取り替えられたと説明されていた。

そして実際にMITS社が1972年に科学技術計算向けの電卓 “7400” の広告を見つけた! この広告にはV形ロゴと共にMITSの由来である “micro instrumentation & telemetry systems. inc” が記されている。

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※1972年、MITS社科学技術計算向け電卓 “7400” の広告。V形ロゴが使われている【クリックで拡大】


確かにこれで前記した " Wikimedia Commons, the free media repository" の情報の裏が取れたことになる。ただし厳密なことを言うならこの電卓公告に使われたロゴとAltair 8800で使われたロゴとは “mits” とあるフォントデザインが微妙に違っている…。さらにV形ロゴにある mits の後に®を付けただけの場合と INC. がある場合…といった具合にどこかその場しのぎといった印象を受ける。

”Computer Notes" で使われた六角形ロゴを見てもMITS社はロゴの扱いにあまり神経を使っていないことがわかる。何故なら本来企業にとってのロゴは企業理念や自社ブランドにつながる大切なものだと思う。しかし六角形ロゴにしても本来中心に小さな点(円)があるのが正規なはずだが、一部にそれがないロゴがあったりもする。本当にいい加減なのだ(笑)。

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※六角形ロゴは上のデザインが正規なようだが、下のように中心にあるべき点がないケースもある


別の資料も当たってみた...。それはポピュラーエレクロトニクス誌1975年1月号から12月号までの記事及び広告を確認してみた。幸い前記したように1975年の1年間12冊のポピュラーエレクロトニクス誌は完全な形で当研究所に保管されている。しかしあらためて全ページを確認してみたがこれまたロゴに関して統一感がまったくない。

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※ポピュラーエレクロトニクス誌1975年1月号から12月号全12刊 (当研究所所有)


例えば大きな話題となった1975年1月号の余韻を狙った広告なのだろうが、2月号にも1ページ広告が載っているものの、これには出荷されたAltair 8800にあるV形ロゴが誌面にも載っているが、実機を示す写真に写っているAltair 8800はまだβバージョンなのかそのパネルにロゴは見当たらない。
1975年の7月号や11月号に掲載されている広告を例にすればV形ロゴはなく “Creative Electronics” のテキストと共に白抜きの大きな “MITS” の文字がまるでこれがロゴだと主張している感じで使われている。

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※ポピュラーエレクロトニクス誌1975年11月号。MITSという白抜きテキストはまるでロゴ扱いに思える【クリックで拡大】


その後のポピュラーエレクロトニクス誌にも1ページ広告は続くがロゴが使われない号が連続し、次にV形ロゴが使われるのは6月号になってからだ。しかしどうしたことかその後はまたまた当該ロゴは使われず、例えば12月号には "MITS-MAS" と題したクリスマス特集の5ページ連続広告掲載がなされているがロゴに関しては相変わらず表記はない。
要は1975年の1年間はV形ロゴが使われたものの重要視されていなかったようだ(笑)。そして前記したように六角形ロゴが現れるのは1976年2月以降ということになる。

MITS社はその翌年の1977年5月22日、当時ミニコンとメインフレーム用のディスクやテープ装置のメーカーだったパーテック(Pertec)社に600万ドルで売却したが六角形ロゴはそのまま採用された。
現実問題としてMITS社はAltair 8800の大ヒットに右往左往しながらも文字通り手を広げすぎたのだ…。そして所帯は急激に大きくなったがトラブルは相変わらず多く、したがってロゴなどにかまっている余裕などなかったに違いない(笑)。

Altair 8800は大ヒットしたが、予想外の注文を抱えて発送が大幅に遅れたし部品の検査をやらなかったため組み立てても動作しない場合もあった。続けて開発したメモリボードはポール・アレンらの意見にも耳を貸さずに正常動作しなかった。MITS社のロゴの使われ方を見ていると同社の統一性の無さ、その場しのぎといった企業の性格を読み取れると同時に予想もしなかった注文殺到で混乱するMITS社が目に浮かぶような気がして今更ながら興味深かった。


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主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員