映画「おみおくりの作法」の感想
ウベルト・パゾリーニ監督・脚本・制作による映画「おみおくりの作法」(原題:STILL LIFE)をDVDで観た。予告編や公式ウェブサイトなどで情報を得て文句なく観たいと思ったのでAmazonにDVDを予約しておいた...。ちなみに本作品はヴェネチア国際映画祭を始め、世界中の映画祭を席巻した作品となった。
大ヒットの映画だという。私は近年映画に疎くなっているので主役のジョン・メイを演じるエディ・マーサンという役者のこともまったく知らずにこの映画に臨んだ。
そもそもがストーリーからして地味な...大変地味な映画である。アクションがあるわけでも派手なカーチェイスもなければイケメンやとびっきりの美女が登場するわけでもない。

※映画「おみおくりの作法」(原題:STILL LIFE) DVDパッケージ
主人公ジョン・メイはロンドンの南部、ケニントン地区の民生係を勤める公務員。ひとりきりで亡くなった人...すなわち孤独死した人を弔うのが彼の仕事であった。ただ、彼は事務的にことを始末するのではなく個人の生き様を調べて少しでも当人に相応しい弔いを行ってきた。
ジョンは亡くなった人の写真を見つけ出し、宗教や人生に合った弔辞やBGMを選び、故人と交友のあった人たちを探して葬儀への出席を促す。しかしほとんどの場合、ジョン1人しか列席者はいなかった...。
しかし時間と費用がかかるこの誠実な仕事に対してあらたに配属されてきた上司は理解を示さずジョン・メイに解雇を言い渡す...。
彼は最後の仕事として自身の向かいの家に住んでいたビリー・ストークという男が孤独死した葬儀を担当することになる。近所に住んでいながら言葉を交わしたこともないビリーの人生をひもとくために故人を知る人たちを訪ね歩きその人生を俯瞰し始める...。
役所、自宅、死体安置所、墓地といったシーンはもとよりだが、ジョンの視線でストーリーが展開する場面は目を見張るような美しい場所が多々登場するわけでもないものの素晴らしいカメラワークと魅力的なBGMにも支えられてか眼を離すことができない。
ただしテーマが孤独死であるにも関わらず、描き方は決して悲惨さを強調するわけでもいたずらに涙を誘うわけでもない。切なさに心が満ちあふれ、次第にジョン・メイと心が重なっていくように思える。
ジョン・メイが担当する孤独死した人たち、死んで数週間も経ってから発見される人々の話は核家族が進み、人生を謳歌することが難しい現実と重なってリアリティを感じる。しかし誠実に仕事をこなすジョンは感情を表にあらわすことなく粛々と自分の信条に逆らわずに日々を過ごす。
机上に置いた物をまっすぐに直し、いつも質素な食事、そして日々着るものは同じといった画一さと几帳面さが身上だったジョンは調査のために様々な人たちと出会っていく中で少しずつ変わっていく。調査の日程を延ばすために役所に仮病を使ったり、これまで食べたことのないものを食し、アル中の男たちとウィスキーを回し飲みする。そして着るものも変わっていく。
最後の仕事をやり終える直前のラストシーンに直面してあらためて気がつけば、ジョン・メイ自身もいつも1人だった。44歳で独身だし、家族が身近にいるとは思えない。そのジョン・メイにほのぼのとした暖かいものが芽生え始めるが...。
本当ならそのラストシーンを紹介したいのだが、野暮は遠慮しよう。
とはいえ個人的な感想を正直にいうなら、このラストシーンは "ずるい" と思う(笑)。確かに印象的で後々まで記憶に残る強烈なシーンだが、ひたすら現実社会を追った映画なのに…このラストだ。したがって感動というより「う~ん」と唸ってしまった。
もうひとつ違和感を感じる点は「おみおくりの作法」という邦題だ。これは日本映画「おくりびと」を意識して名付けたものに違いないが映画の内容と大きな矛盾はないものの原題が「STILL LIFE」であることを考えれば制作側の意図とは些かニュアンスが違っているように思えてならない。
「STILL LIFE」をそのまま訳せば「(画材としての)静物」を意味する...。
もしかしたら本作品の主役はその原題から察するにジョン・メイが大切にしていた彼の部屋、真っ白いテーブルクロスがかけられた狭い食卓、コルク製のランチョンマットとコースター、これまた小さな作業机と椅子、その上にある電気スタンド、写真アルバムとピンセットや糊などがあるトレーなどなど、いつも変わらずその場所に鎮座する決まり切ったアイテムたちなのかも知れない。そしてジョン自身も365日、変わらない几帳面で誠実な仕事と生活を送っていたそのことこそがテーマなのかも知れないとも感じた。
また作品も全体的にとても丁寧に作られている。ジョン・メイという人物が几帳面な性格であること、その生き方も質素であること、一日の終わりにはこれまで縁があって葬った人たちの写真を綴ったアルバムをめくるのが習慣となっているし、それだけ自身の仕事に誇りを持っていることが伝わってくる。
さらに遺体安置所での会話だが、クロスワードパズルをしているホワイトという若い男はジョンに「クイズ番組に出ればチャンピオンになれるのに」と答えを教えて貰いながらいう...。したがってジョン・メイは決して鈍い男ではなく、知識も豊富で明晰な頭脳を持っていることがわかる。
そうしたあれこれがシーンを追っていく毎に次第に分かっていき、映画の中程になればジョン・メイに感情移入している自分を発見してちょっと驚く。
それから音楽が実によい。いや、やはりラストシーンは “ずるい” と思うけど忘れられない...。
なお購入したDVDは初回限定版だということで、監督やキャストたちのインタビュー映像、撮影の舞台裏を紹介した特典映像が含まれていた。
大ヒットの映画だという。私は近年映画に疎くなっているので主役のジョン・メイを演じるエディ・マーサンという役者のこともまったく知らずにこの映画に臨んだ。
そもそもがストーリーからして地味な...大変地味な映画である。アクションがあるわけでも派手なカーチェイスもなければイケメンやとびっきりの美女が登場するわけでもない。

※映画「おみおくりの作法」(原題:STILL LIFE) DVDパッケージ
主人公ジョン・メイはロンドンの南部、ケニントン地区の民生係を勤める公務員。ひとりきりで亡くなった人...すなわち孤独死した人を弔うのが彼の仕事であった。ただ、彼は事務的にことを始末するのではなく個人の生き様を調べて少しでも当人に相応しい弔いを行ってきた。
ジョンは亡くなった人の写真を見つけ出し、宗教や人生に合った弔辞やBGMを選び、故人と交友のあった人たちを探して葬儀への出席を促す。しかしほとんどの場合、ジョン1人しか列席者はいなかった...。
しかし時間と費用がかかるこの誠実な仕事に対してあらたに配属されてきた上司は理解を示さずジョン・メイに解雇を言い渡す...。
彼は最後の仕事として自身の向かいの家に住んでいたビリー・ストークという男が孤独死した葬儀を担当することになる。近所に住んでいながら言葉を交わしたこともないビリーの人生をひもとくために故人を知る人たちを訪ね歩きその人生を俯瞰し始める...。
役所、自宅、死体安置所、墓地といったシーンはもとよりだが、ジョンの視線でストーリーが展開する場面は目を見張るような美しい場所が多々登場するわけでもないものの素晴らしいカメラワークと魅力的なBGMにも支えられてか眼を離すことができない。
ただしテーマが孤独死であるにも関わらず、描き方は決して悲惨さを強調するわけでもいたずらに涙を誘うわけでもない。切なさに心が満ちあふれ、次第にジョン・メイと心が重なっていくように思える。
ジョン・メイが担当する孤独死した人たち、死んで数週間も経ってから発見される人々の話は核家族が進み、人生を謳歌することが難しい現実と重なってリアリティを感じる。しかし誠実に仕事をこなすジョンは感情を表にあらわすことなく粛々と自分の信条に逆らわずに日々を過ごす。
机上に置いた物をまっすぐに直し、いつも質素な食事、そして日々着るものは同じといった画一さと几帳面さが身上だったジョンは調査のために様々な人たちと出会っていく中で少しずつ変わっていく。調査の日程を延ばすために役所に仮病を使ったり、これまで食べたことのないものを食し、アル中の男たちとウィスキーを回し飲みする。そして着るものも変わっていく。
最後の仕事をやり終える直前のラストシーンに直面してあらためて気がつけば、ジョン・メイ自身もいつも1人だった。44歳で独身だし、家族が身近にいるとは思えない。そのジョン・メイにほのぼのとした暖かいものが芽生え始めるが...。
本当ならそのラストシーンを紹介したいのだが、野暮は遠慮しよう。
とはいえ個人的な感想を正直にいうなら、このラストシーンは "ずるい" と思う(笑)。確かに印象的で後々まで記憶に残る強烈なシーンだが、ひたすら現実社会を追った映画なのに…このラストだ。したがって感動というより「う~ん」と唸ってしまった。
もうひとつ違和感を感じる点は「おみおくりの作法」という邦題だ。これは日本映画「おくりびと」を意識して名付けたものに違いないが映画の内容と大きな矛盾はないものの原題が「STILL LIFE」であることを考えれば制作側の意図とは些かニュアンスが違っているように思えてならない。
「STILL LIFE」をそのまま訳せば「(画材としての)静物」を意味する...。
もしかしたら本作品の主役はその原題から察するにジョン・メイが大切にしていた彼の部屋、真っ白いテーブルクロスがかけられた狭い食卓、コルク製のランチョンマットとコースター、これまた小さな作業机と椅子、その上にある電気スタンド、写真アルバムとピンセットや糊などがあるトレーなどなど、いつも変わらずその場所に鎮座する決まり切ったアイテムたちなのかも知れない。そしてジョン自身も365日、変わらない几帳面で誠実な仕事と生活を送っていたそのことこそがテーマなのかも知れないとも感じた。
また作品も全体的にとても丁寧に作られている。ジョン・メイという人物が几帳面な性格であること、その生き方も質素であること、一日の終わりにはこれまで縁があって葬った人たちの写真を綴ったアルバムをめくるのが習慣となっているし、それだけ自身の仕事に誇りを持っていることが伝わってくる。
さらに遺体安置所での会話だが、クロスワードパズルをしているホワイトという若い男はジョンに「クイズ番組に出ればチャンピオンになれるのに」と答えを教えて貰いながらいう...。したがってジョン・メイは決して鈍い男ではなく、知識も豊富で明晰な頭脳を持っていることがわかる。
そうしたあれこれがシーンを追っていく毎に次第に分かっていき、映画の中程になればジョン・メイに感情移入している自分を発見してちょっと驚く。
それから音楽が実によい。いや、やはりラストシーンは “ずるい” と思うけど忘れられない...。
なお購入したDVDは初回限定版だということで、監督やキャストたちのインタビュー映像、撮影の舞台裏を紹介した特典映像が含まれていた。
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