パソコン・キーボードは永遠か?!
1976年にApple 1が1977年にApple II が登場という事実から考えても、パソコン登場から今日まで40年ほどの歳月が過ぎている。その間、コンピュータの性能や能力は計り知れないほど向上しマウスといった新しいポインティングデバイスも登場した。しかし40年間基本的に変わらないものがある...。それがキーボードだ!
勿論キーボードという文字入力、コマンド入力デバイスがまったく変わっていないわけではない。薄型軽量の製品、持ち運びが可能な製品、ワイヤレスの製品といった様々なキーボードも登場した。さらにiPhoneなどでは物理的なキーボードではなくソフトウェアキーボード(仮想キーボード)が実用になっている。ただし、QWERTY(クワティー)配列が標準であることはもとより、キーボードの使命とその重要性は些かも変わっていない。

※Apple II スタンダードのキーボード(部分)

※iOSでも使えるMicrosoft社製折り畳み式 Bluetoothキーボード
別項の「ピアノ演奏のようにパソコンキーボードを打鍵するにはパームレストは不要!?」でも述べたようにコンピュータ用のキーボードはコンピュータの発明発展と共に生まれたのではなくタイプライターやそれ以前の通信機器の発展に依存している。

※典型的な手動式タイプライター「CORONA #4 Portable」当研究所所有
コンピュータに何らかの指令を与えるために英数字を入力するとなればそれまで通信技術や一般のビジネスで使われてきたキーボードを転用しようと考えるのは至極自然なことに違いない。しかしテクノロジーの進歩・進化が目まぐるしいほど早いこの世界において半世紀に近い間、基本的に変化のないキーボードというデバイスはある意味で驚異ではないだろうか。
ところで "キーボード (keyboard)" といえば今ひとつの物を連想する。それは申し上げるまでもないだろうがピアノ・オルガンなどの楽器鍵盤である。
面白い事に、何かを押すとそれがアルファベットの一文字と結び付くように配慮した初期のタイプ印字電信機や最初期のタイプライターの試作にはピアノ鍵盤型キーセットを使ったものも多々作られたという。

※クリストファー・レイサム・ショールズらが1868年6月23日に特許を取得した「タイプ・ライター」と名付けられた活字印刷機械のプロトタイプ。Herkimer County Historical Society の承諾を得て掲載【転載不可】
それもそのはずで、タイプライターのアクションは幾多の試行錯誤と失敗の後で基本的にピアノ鍵盤のアクションと同じような発想に至る。ピアノは鍵盤を押し下げると梃子の原理でハンマーが持ち上がり勢いを付けてピアノ線を打って音を出す。タイプライターもこのピアノアクションを参考にすることで完成度を高めたのだ。したがって初期試作の文字印刷機のキーはピアノの鍵盤と同じものを採用したケースはある意味自然だったのである。
ただしタイピングの機械を開発する長い歴史の中で1873年、レミントン社が現在のタイプライターキーの源流となるQWERTYキーボードを採用したことがタッチタイピングに有利と見なされたという話しもあるようだが(商用機生産は1874年)、そもそもタッチタイピングとQWERTYキーボードとの間にいかなる自然な関係はなかったし1900年頃までは、ほとんどのタイピストはキーボードを見ながらキーを打っていたという。それに "タッチタイピング" という言葉は20世紀に入ってから使われた言葉だそうである。
私見ながら鍵盤キーではなく現在のタイプライター式キーボードが何故生き残ったのかといえば、アルファベット全体が比較的狭い範囲に一望でき、誰にでも分かりやすかったからではないか...。ただし利点を評価されてそれが標準になったということではないこともまた事実のようだ。
なぜならQWERTYの配列に何か意味があるのか、なぜこのような配列になったのか、という論争は昔から多々あった。例えば「早くキーを打つとタイプバーがジャムるため、(打鍵を遅くするため)わざと打ちにくい配列にした」というまことしやかな話しもあったが現在では否定されている。
あるいはレミントン社のセールスマンが自社のブランド名 "TYPEWRITER" という10文字を素早く打鍵するデモンストレーションをやりやすいようにとこれらの文字をすべてひとつの列に並べたという説もあるが、当時の正式な商標は "Sholes and Glidden Type-Writer" であり、 "Sholes and Glidden" はともかくとしても "Type-Writer" を記すに必要なハイフンは同列に配置されていないこともあって、これまた噂話の域を出ないようだ。
ではこの合理的とは到底思えないQWERTY配列のタイプライターがなぜ標準になったのか...。タイピストを養成する学校などでQWERTY配列のタイプライタが使われ始めたのをきっかけにデファクト・スタンダードとなったことは事実だが、Thierry Bardiniは著書「Bootstrapping」でいう...。
「QWERTYが標準になったのは、それに何か技術革新としての本来的な優位性があったためではなく(中略)それは標準になったが故に標準になったのである。何かが標準になる必要があったのだ」と...。

※Thierry Bardini著「Bootstrapping」
事実アルファベットの出現頻度に基づいて考案され、QWERTYよりも優れているとされたDVORAK配列が普及しないのもすでにQWERTY配列という標準が行き渡ってしまったからだが、広く知られていく過程には意図的にQWERTY配列を推す力や存在もあったに違いない...。
このQWERTY配列に関してその起源や採用の理由といったことに関してさらに調べているので別途ご報告できたらと考えている。
ともあれパソコンはGUIと共にポインティングデバイスとしてのマウスが加わった。そして現在ではトラックパッドやペン型デバイスなどがあるものの、キーボードの存在は否定される気配はないし、音声認識を別にするなら取って代わるデバイスが登場する気配もない。キーボードはこれからも残っていくのだろうか...。
ちなみに2013年公開 スパイク・ジョーンズ監督・脚本によるアメリカSF恋愛映画「her/世界でひとつの彼女」は人工知能との恋愛がテーマで近未来が舞台だが、デスクトップにモニターはあっても我々が使っているようなキーボードは出て来ない。

※スパイク・ジョーンズ監督・脚本によるアメリカSF恋愛映画「her/世界でひとつの彼女」
一部のシーンで小型のキーセットのようなものが映るが、想像するに基本的なインプットは音声認識で済む時代であり、何らか...例えばフリーズしたような場合に使うコマンドセットなのかも知れない。
パソコンの未来においてもQWERTY配列のキーボードは存在し続けるのだろうか...。
【主な参考資料】
・Thierry Bardini著「Bootstrapping」STANFORD UNIVERSITY PRESS刊
・Thierry Bardini著/森田 哲訳「ブーストラップ(Bootstrapping)」コンピュータエージ社刊
勿論キーボードという文字入力、コマンド入力デバイスがまったく変わっていないわけではない。薄型軽量の製品、持ち運びが可能な製品、ワイヤレスの製品といった様々なキーボードも登場した。さらにiPhoneなどでは物理的なキーボードではなくソフトウェアキーボード(仮想キーボード)が実用になっている。ただし、QWERTY(クワティー)配列が標準であることはもとより、キーボードの使命とその重要性は些かも変わっていない。

※Apple II スタンダードのキーボード(部分)

※iOSでも使えるMicrosoft社製折り畳み式 Bluetoothキーボード
別項の「ピアノ演奏のようにパソコンキーボードを打鍵するにはパームレストは不要!?」でも述べたようにコンピュータ用のキーボードはコンピュータの発明発展と共に生まれたのではなくタイプライターやそれ以前の通信機器の発展に依存している。

※典型的な手動式タイプライター「CORONA #4 Portable」当研究所所有
コンピュータに何らかの指令を与えるために英数字を入力するとなればそれまで通信技術や一般のビジネスで使われてきたキーボードを転用しようと考えるのは至極自然なことに違いない。しかしテクノロジーの進歩・進化が目まぐるしいほど早いこの世界において半世紀に近い間、基本的に変化のないキーボードというデバイスはある意味で驚異ではないだろうか。
ところで "キーボード (keyboard)" といえば今ひとつの物を連想する。それは申し上げるまでもないだろうがピアノ・オルガンなどの楽器鍵盤である。
面白い事に、何かを押すとそれがアルファベットの一文字と結び付くように配慮した初期のタイプ印字電信機や最初期のタイプライターの試作にはピアノ鍵盤型キーセットを使ったものも多々作られたという。

※クリストファー・レイサム・ショールズらが1868年6月23日に特許を取得した「タイプ・ライター」と名付けられた活字印刷機械のプロトタイプ。Herkimer County Historical Society の承諾を得て掲載【転載不可】
それもそのはずで、タイプライターのアクションは幾多の試行錯誤と失敗の後で基本的にピアノ鍵盤のアクションと同じような発想に至る。ピアノは鍵盤を押し下げると梃子の原理でハンマーが持ち上がり勢いを付けてピアノ線を打って音を出す。タイプライターもこのピアノアクションを参考にすることで完成度を高めたのだ。したがって初期試作の文字印刷機のキーはピアノの鍵盤と同じものを採用したケースはある意味自然だったのである。
ただしタイピングの機械を開発する長い歴史の中で1873年、レミントン社が現在のタイプライターキーの源流となるQWERTYキーボードを採用したことがタッチタイピングに有利と見なされたという話しもあるようだが(商用機生産は1874年)、そもそもタッチタイピングとQWERTYキーボードとの間にいかなる自然な関係はなかったし1900年頃までは、ほとんどのタイピストはキーボードを見ながらキーを打っていたという。それに "タッチタイピング" という言葉は20世紀に入ってから使われた言葉だそうである。
私見ながら鍵盤キーではなく現在のタイプライター式キーボードが何故生き残ったのかといえば、アルファベット全体が比較的狭い範囲に一望でき、誰にでも分かりやすかったからではないか...。ただし利点を評価されてそれが標準になったということではないこともまた事実のようだ。
なぜならQWERTYの配列に何か意味があるのか、なぜこのような配列になったのか、という論争は昔から多々あった。例えば「早くキーを打つとタイプバーがジャムるため、(打鍵を遅くするため)わざと打ちにくい配列にした」というまことしやかな話しもあったが現在では否定されている。
あるいはレミントン社のセールスマンが自社のブランド名 "TYPEWRITER" という10文字を素早く打鍵するデモンストレーションをやりやすいようにとこれらの文字をすべてひとつの列に並べたという説もあるが、当時の正式な商標は "Sholes and Glidden Type-Writer" であり、 "Sholes and Glidden" はともかくとしても "Type-Writer" を記すに必要なハイフンは同列に配置されていないこともあって、これまた噂話の域を出ないようだ。
ではこの合理的とは到底思えないQWERTY配列のタイプライターがなぜ標準になったのか...。タイピストを養成する学校などでQWERTY配列のタイプライタが使われ始めたのをきっかけにデファクト・スタンダードとなったことは事実だが、Thierry Bardiniは著書「Bootstrapping」でいう...。
「QWERTYが標準になったのは、それに何か技術革新としての本来的な優位性があったためではなく(中略)それは標準になったが故に標準になったのである。何かが標準になる必要があったのだ」と...。

※Thierry Bardini著「Bootstrapping」
事実アルファベットの出現頻度に基づいて考案され、QWERTYよりも優れているとされたDVORAK配列が普及しないのもすでにQWERTY配列という標準が行き渡ってしまったからだが、広く知られていく過程には意図的にQWERTY配列を推す力や存在もあったに違いない...。
このQWERTY配列に関してその起源や採用の理由といったことに関してさらに調べているので別途ご報告できたらと考えている。
ともあれパソコンはGUIと共にポインティングデバイスとしてのマウスが加わった。そして現在ではトラックパッドやペン型デバイスなどがあるものの、キーボードの存在は否定される気配はないし、音声認識を別にするなら取って代わるデバイスが登場する気配もない。キーボードはこれからも残っていくのだろうか...。
ちなみに2013年公開 スパイク・ジョーンズ監督・脚本によるアメリカSF恋愛映画「her/世界でひとつの彼女」は人工知能との恋愛がテーマで近未来が舞台だが、デスクトップにモニターはあっても我々が使っているようなキーボードは出て来ない。

※スパイク・ジョーンズ監督・脚本によるアメリカSF恋愛映画「her/世界でひとつの彼女」
一部のシーンで小型のキーセットのようなものが映るが、想像するに基本的なインプットは音声認識で済む時代であり、何らか...例えばフリーズしたような場合に使うコマンドセットなのかも知れない。
パソコンの未来においてもQWERTY配列のキーボードは存在し続けるのだろうか...。
【主な参考資料】
・Thierry Bardini著「Bootstrapping」STANFORD UNIVERSITY PRESS刊
・Thierry Bardini著/森田 哲訳「ブーストラップ(Bootstrapping)」コンピュータエージ社刊
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