ヘッドマネキン、その後の顛末と人形愛序説

撮影用小道具の一環として先般初めてヘッドマネキンなるものを手に入れて業務に使い始めているが、やはり花束やら果物といった静物とは違い、例え人形(マネキン)とはいえリアルな "ヒトガタ" を相手にしていると感情移入している自分を発見し苦笑してしまう…。私の感覚としてピグマリオンコンプレックスにはほど遠いと思っているが友人たちはそうは見ていないようだ(笑)。


人形といえば、思い出したことがある。二十歳前半、澁澤龍彦の著作にどっぷりと浸っていた時期があってそこに展開する魔術やタロット、あるいはおどろおどろしたオカルト的な内容に強く引かれた...。そのひとつが人形だった…。そんなことはすっかり忘れていたし今般ヘッドマネキンを手に入れたのは決して人形そのものを愛でる目的ではなく撮影の小道具としてだった。しかし若い時に夢中になった性癖がヘッドマネキンを手にした瞬間、深層から浮き上がってきたようだ…。

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※はじめて手に入れたヘッドマネキン


例えば1967年12月20日初版の「幻想の画廊から」(美術出版社刊)では今でこそ知られているが、当時初めて知ることになる妖しげな芸術家たちがぞろぞろと紹介されていた。
マックス・ワルター・スワンベルク、ポール・デルヴォー、レオノール・フィニ、バルテュス、イヴ・タンギー、ルネ・マグリッド、フリードリヒ・ゾンネンシュターン、ジュゼッペ・アルチンボルドらと共にハンス・ベルメールのページもあり、その関節人形には大きな衝撃を受けた...。

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※澁澤龍彦著「幻想の画廊から」1967年12月20日初版(美術出版社刊)


二十歳代の頃、そうしたハンス・ベルメールや四谷シモンが作る妖しげな人形に影響を受けて自分でもリアルな人形を作ってみようか…という気になったことがあった。ちなみに澁澤龍彦は書斎に四谷シモン作のお気に入りの関節人形を飾っていた。

その澁澤龍彦著「少女コレクション序説」によれば「…人形を愛する者と人形とは同一なのであり、人形愛の情熱は自己愛…」ということらしい。そして「20世紀のシュルレアリストたちが、エルンストもダリもマッソンも、競ってマネキン人形の製作に熱中しているのは、この意味からも興味深い」と言っている。

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※澁澤龍彦著「少女コレクション序説」中公文庫刊。表紙には四谷シモン作の人形が...


とはいえ自分を振り返ってみると自己愛というものがないとは言わないが、人形を好む心理は自己の投影と単純には言い切れない。そもそもこれまで人形を身近に置いたりコレクションしたことは一切なかったし、端的な話し私は郷土人形や民芸品の人形にはまったく興味はない。

そうした一般的な人形が好みなのではなく “美形な女性” のヒトガタが好みなのだ。その事をヘッドマネキンを手にしてあらためて感じたということだ。だとすればマネキンは私にとって理想の女性象と捉えているというより単に自分が美しいと思うものを身近に置く心地よさということなのではないか…。

さて、結論から申し上げれば前記した手作りの人形は完成することはなかった。顔の造作などは何とかできたが髪の毛をそれらしく作りたいと思ったものの当時はいまみたいに安価で完成度の高いウィッグが手軽に入手できなかったからだ。あれこれと工夫をしてみたが満足できる材料と作り方が分からず挫折した...。

そんな若かりし頃の人形に対する熱いあれこれを思い出しながらヘッドマネキンと対峙しているが、これをそれらしく演出するには本体とウィッグがあれば良いというものではないことも分かってきた。
残念ながらこのヘッドマネキンは手足もないし首も回らないからポーズをとらすことはできない。したがって変化を求めたい場合には置き位置を変える、撮影アングルを変える、そして照明の変化といった程度しか工夫はできないのだ。

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※マネキン用として手に入れたウィッグのひとつ


勿論ウィッグの種類を変えれば雰囲気はがらりと変わるが、それにしてもバストショットの構図を考えるならブラウスくらいは着せないと絵にならない。早速ネットで安物を探したが、どうしても肩や胸がないのでは様にならない...。ということでリアルさを演出するには様々な工夫が必要なことがわかった。

そのバストショットを自然にするためには両肩を作り首の下周りから胸にかけて詰め物をしてボリューム感を出さなければならない。なお米国のサイトの中には胸像そのものずばりのマネキンもあったが顔がまったく気に入らなかったので選ばなかった…。その点我が研究所の専属モデル嬢は実に美しい!

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※針金ハンガーと丸めた紙、スポンジなどで肩と胸のボリュームを作ったが...


本来なら本物のブラジャーでも使って自然な造形をしたいところだが、とりあえずのカメラテストとして針金のハンガーにスポンジや紙類を巻き付け、肩と胸を造作してブラウスを着せてみた。
こうしてカメラテストは何とかそれらしくなったが、シャツ1枚変えようとなれば簡易的なものではその都度肉付き部分が動いてしまい面倒なのでしっかりした肩と胸の造形を作らねばならないと思った。

ともあれ自分なりに新しいことにチャレンジすることはそれらに関連した情報を新たに知る楽しみもある。具体的に言うならこれまで調べたことのない対象をあれこれと知ることは新しい世界を垣間見る面白さが味わえる。

結局一番手軽に肩から胸を作る方法だが、「マネキン ハンガー トルソー」というこのためにあるような安価な製品に出会ったので早速手に入れ、これをヘッドマネキンの前面に合うようにまずはアンダーバスト付近で切断し、続いて胸回りを大きく開くように切断して組み合わせる工夫をしてみた。

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※マネキン ハンガー トルソー


さらにこれまで使っていた針金のハンガーは背中の首下に付け、肩の補助として使った。ただし「マネキン ハンガー トルソー」はマネキンとはカラーが違うので肩から胸を大きく開けるような服は着せられないし肉付けとしてはままだ完全では無いが、服を着た場合の見栄えは良いし着せ替えも楽になった。

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※マネキン ハンガー トルソーなどでバストアップのボリュームを造作したおかげで上着を着せやすくなった


結果ヘッドマネキンは当初の役割果たしてくれているが、「フルボディのマネキンやドールを手に入れたいとも思わない...」といった前言を撤回し、より多彩な演出が可能であろう実寸の全身が揃ったマネキンが欲しくなってくる(笑)。自分でもいい歳して凝り性が過ぎると思うが、こればかりは性分なので仕方がない。

そんなことを考えながらこうして原稿を書いているとその昔観た「マネキン」という映画を思い出した...。
映画「マネキン(Mannequin)」は1987年のロマンティック・コメディでその音楽と共にヒットし1991年には続編の「マネキン2」が製作されたほどだ。

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※手元にあるVHSビデオテープの「マネキン」。1988年発売で価格は16,800円もした!


そのストーリーだが主人公の青年は就職したデパートでかつて自分が製作したマネキンと再会する。そしてその女性のマネキンは青年の前だけ人間と化すことができることを知る。結局彼と彼女の奮闘により落ち目で買収寸前だったデパートを救うという話しだった...。

そういえば生身の美女とマネキンとは相容れないものだという人もいるが、男にとって美しい女性という存在自体が…そもそもオブジェであろう雰囲気を感じさせるものだと思う。

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※我が研究所の専属モデル嬢はなかなかに美しい!


というわけで、もし...フルボディのマネキンを手に入れたとしたら、いま以上に思い入れが強くなるのは確実なように思える。あっ、断っておくが、これはいわゆるダッチワイフではなくあくまで撮影演出用のマネキンなので念のため(笑)。
そしてヘッドマネキンとは違い、全裸のまま置いておくのも可哀想だし気が散るからとリアルさを追求することも含めジーンズ、スカートやシャツといった衣類も探すことになるに違いない。

「えっと、バストは○○cmだしヒップは○○cmだから...サイズは?...」だなんてことを人生で初めて考えている自分を想像するに…やはりいささか危ないオヤジなのだろうが、女房に手伝ってもらうのが一番現実的な対処に違いない(笑)。この項...続くかも知れない...。




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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員