ドキュメンタリー「イヴ・サン=ローラン」を見て思い出した私との接点(笑)
ファッションに革命を起こし続けた革命児、イヴ・サン=ローランとの愛をピエール・ベルジェが初めて語ったドキュメンタリー(2011年公開)を見た。オートクチュールといったものに縁があるはずもないが、私とサン=ローランの接点はネクタイだった(笑)。実は20代後半の時代、毎月池袋の西武デパートでサン=ローランのネクタイを買うのが楽しみだった...。
ネクタイを買うといっても一人でネクタイ売り場に出向いたわけではなかった。高校時代の友人2人と待ち合わせ、ネクタイを買うことを理由にして遊び歩いていたわけだ...。
最近はネクタイも絞めなければデパートにも行かないので様子はわからない。しかし当時は僅かの給料からネクタイ一本とはいえブランド品を買うことはなかなか大変だったし、デパートは若造の私たちにとって特別の場所だった。さらにデパートのネクタイ売り場は独特の雰囲気を持っていた。

※ドキュメンタリー「イヴ・サンローラン」2011年公開
ネクタイは男性のビジネスアイテムだから客は男がほとんどだ。だからということなのだろう、ガラスケースの内側にいる店員さんたちのほとんどは女性であったしそれも我々のような若造から見ても魅力的な女性たちが多かった。
それに様々なブランド毎に区分けされているネクタイ売り場を歩くとそれらの店員さんが声をかけてくるのも楽しみだった。「どのような品をお探しですか?」はまだしも、いきなり「これなどはお似合いですよ」とネクタイを差し出されたり「いまお召しのスーツにこの柄はいかがですか」といった様々な売り込みがあった。
とはいえ私は意固地な客で(笑)サン=ローランのネクタイ売り場を目指しているのだからそうした売り込みに立ち止まることなく通り過ぎたが「いまお召しのスーツにこの柄はいかがですか」と差し出されたネクタイのほとんどは生意気にも「ダサイ」と思うものばかりだった。怖いもの知らずの我々は「あの店員さんはセンスないね」などと軽口を叩きながら進んだ…。
どのくらいの期間、西武デパートのネクタイ売り場に通ったのかは覚えていないが、サン=ローランのネクタイ売り場のお姉さんは他の売り場の女性たちとは違って見えた...。
数メートルまで近づくと我々に気づいたそのお姉さんは素晴らしい笑顔で迎えてくれた。その笑顔に会いたくてまたその売り場に足を向けたようなものだった。

※現在の池袋東口・西武デパート(Google ストリートビューより)
いや、笑顔が素敵だっただけではなく彼女の「これは一昨日入荷した新柄よ」と差し出したネクタイはいつも素晴らしかった。私は特にプリント柄の奇抜で派手なデザインが好みだったが他の柄と見比べることもなく「ではそれいただきます」ということが多かったと記憶している。
他の売り場では「どんなスーツにお合わせですか?」ということでスーツにネクタイ側を合わせるような売り方をしていたが、サン=ローラン売り場のお姉さんは「スーツ云々より好きなネクタイ柄を選ぶべきよ」という。あるボーナス時期など、お姉さんの口車に乗りネクタイの柄に合わせてスーツまで新調してしまったことがあった。
我々がその売り場の女性に心を許したのはなんでもかんでも売れば良いといった接し方ではなかったことにあった。例えば1ヶ月ぶりの挨拶を交わした後に彼女はいう...。「来週の○曜日から特売が始まるの。いまお気に入りのネクタイがあれば取って置くからご面倒でしょうけど来週またお見えになりませんか。1500円くらい安くなるから...」という。
そうした便宜がデパートの店員さんとして許されることなのかは知らないが、若造の我々にはとてもありがたく、お姉さんがマリア様に見えた(笑)。
私にとってサン=ローランというブランドはネクタイのブランドだった。そしてイヴ・サン=ローランという天才デザイナーが、行ったことも見たこともないフランスの地でどのような華々しい活躍をし、反対に大きなプレッシャーと共に挫折を味わったかなど知る由もなかった。
私にとって「イヴ・サン=ローラン」という名はガラスケースの向こうから素晴らしい笑顔で迎えてくれたネクタイ売り場の女性の姿なのだ。ただし総数二十数本にもなったはずのサン=ローランのネクタイだが、すでに一本も残っていない...。
さてドキュメンタリーの内容だが、正直あまり面白くなかった。サン=ローランの生い立ちや生き様、あるいはファッション業界のあれこれが語られるのかと期待したが、中身はサン=ローランの公私共のパートナーだったピエール・ベルジェがサン=ローランへの想いを語っていく中で、二人で集めた美術コレクションや、一緒に過ごした邸宅の映像紹介が主軸となっているからだ。もう少しサン=ローランの業績や仕事にフォーカスを絞ってほしかった。そうした点では今年の作品であり、イヴ・サンローラン財団初公認作品でピエール・ニネ 出演の映画「イヴ・サンローラン」の方が面白いかも知れない...。
ネクタイを買うといっても一人でネクタイ売り場に出向いたわけではなかった。高校時代の友人2人と待ち合わせ、ネクタイを買うことを理由にして遊び歩いていたわけだ...。
最近はネクタイも絞めなければデパートにも行かないので様子はわからない。しかし当時は僅かの給料からネクタイ一本とはいえブランド品を買うことはなかなか大変だったし、デパートは若造の私たちにとって特別の場所だった。さらにデパートのネクタイ売り場は独特の雰囲気を持っていた。

※ドキュメンタリー「イヴ・サンローラン」2011年公開
ネクタイは男性のビジネスアイテムだから客は男がほとんどだ。だからということなのだろう、ガラスケースの内側にいる店員さんたちのほとんどは女性であったしそれも我々のような若造から見ても魅力的な女性たちが多かった。
それに様々なブランド毎に区分けされているネクタイ売り場を歩くとそれらの店員さんが声をかけてくるのも楽しみだった。「どのような品をお探しですか?」はまだしも、いきなり「これなどはお似合いですよ」とネクタイを差し出されたり「いまお召しのスーツにこの柄はいかがですか」といった様々な売り込みがあった。
とはいえ私は意固地な客で(笑)サン=ローランのネクタイ売り場を目指しているのだからそうした売り込みに立ち止まることなく通り過ぎたが「いまお召しのスーツにこの柄はいかがですか」と差し出されたネクタイのほとんどは生意気にも「ダサイ」と思うものばかりだった。怖いもの知らずの我々は「あの店員さんはセンスないね」などと軽口を叩きながら進んだ…。
どのくらいの期間、西武デパートのネクタイ売り場に通ったのかは覚えていないが、サン=ローランのネクタイ売り場のお姉さんは他の売り場の女性たちとは違って見えた...。
数メートルまで近づくと我々に気づいたそのお姉さんは素晴らしい笑顔で迎えてくれた。その笑顔に会いたくてまたその売り場に足を向けたようなものだった。

※現在の池袋東口・西武デパート(Google ストリートビューより)
いや、笑顔が素敵だっただけではなく彼女の「これは一昨日入荷した新柄よ」と差し出したネクタイはいつも素晴らしかった。私は特にプリント柄の奇抜で派手なデザインが好みだったが他の柄と見比べることもなく「ではそれいただきます」ということが多かったと記憶している。
他の売り場では「どんなスーツにお合わせですか?」ということでスーツにネクタイ側を合わせるような売り方をしていたが、サン=ローラン売り場のお姉さんは「スーツ云々より好きなネクタイ柄を選ぶべきよ」という。あるボーナス時期など、お姉さんの口車に乗りネクタイの柄に合わせてスーツまで新調してしまったことがあった。
我々がその売り場の女性に心を許したのはなんでもかんでも売れば良いといった接し方ではなかったことにあった。例えば1ヶ月ぶりの挨拶を交わした後に彼女はいう...。「来週の○曜日から特売が始まるの。いまお気に入りのネクタイがあれば取って置くからご面倒でしょうけど来週またお見えになりませんか。1500円くらい安くなるから...」という。
そうした便宜がデパートの店員さんとして許されることなのかは知らないが、若造の我々にはとてもありがたく、お姉さんがマリア様に見えた(笑)。
私にとってサン=ローランというブランドはネクタイのブランドだった。そしてイヴ・サン=ローランという天才デザイナーが、行ったことも見たこともないフランスの地でどのような華々しい活躍をし、反対に大きなプレッシャーと共に挫折を味わったかなど知る由もなかった。
私にとって「イヴ・サン=ローラン」という名はガラスケースの向こうから素晴らしい笑顔で迎えてくれたネクタイ売り場の女性の姿なのだ。ただし総数二十数本にもなったはずのサン=ローランのネクタイだが、すでに一本も残っていない...。
さてドキュメンタリーの内容だが、正直あまり面白くなかった。サン=ローランの生い立ちや生き様、あるいはファッション業界のあれこれが語られるのかと期待したが、中身はサン=ローランの公私共のパートナーだったピエール・ベルジェがサン=ローランへの想いを語っていく中で、二人で集めた美術コレクションや、一緒に過ごした邸宅の映像紹介が主軸となっているからだ。もう少しサン=ローランの業績や仕事にフォーカスを絞ってほしかった。そうした点では今年の作品であり、イヴ・サンローラン財団初公認作品でピエール・ニネ 出演の映画「イヴ・サンローラン」の方が面白いかも知れない...。
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