NeXT 用マウス幻想
手元に黒くて丸くちょっと不思議な形をしているマウスがある。もちろんAppleの製品ではないが事情をよくご存知のご同輩には一目でお分かりのことだろう...。そう、これはあのNeXTコンピュータ用のマウスである。
申し上げるまでもなくNeXT Inc. はアップルを辞めたスティーブ・ジョブズが1985年に操業した会社だ。社名はその後、Next Computer, Inc.およびNext Software, Inc. と変わっていくが、最初の製品NeXTcubeは1988年10月12日、サンフランシスコにあるコンサートホール “Louise M, Davies Sysmphony Hall” で発表された。
※1988年10月12日にデイビス・シンフォニーホールで発表されたNeXTcubeとスティーブ・ジョブズによるプレゼン映像
NeXTはスーパー・パーソナル・ワークステーションとして時代を先取りしたコンピュータではあったが価格はともかく初期モデルは動作が遅くて不評だった。ただしオリジナルのWorldWideWebがNeXTマシンで開発されたことはよく知られているし、1996年末にNeXT社がAppleに買収された後、そのOSだった OPENSTEPの技術をベースにMac OS Xが開発されたこともパーソナルコンピュータの歴史の妙だ。
さて本体の話しは取り急ぎこのくらいにしてそのNeXT用のマウスに目を向けてみよう。NeXTのマウスもキューブ型の初期は角型のマウスでありインターフェースも独自仕様だった。しかし後期になって採用されたこの円形の2ボタンマウスはADB仕様のため、Mac OSでも特別なドライバー不要でそのまま使えたのだ...。

※後期型NeXT用マウス。前面に突き出ている前掛けのような部分は2ボタンだ
当研究所には中古品と新品の2つが保管されているが、中古品の方も問題なく使えるしNeXTロゴをデザインしたポール・ランドによるロゴもしっかりと刻印されている。しかし初期型がロゴもカラーで立体的だったのに対してこちらは刻印でありどこか簡素化されている印象は拭えない。

※制作したロゴをNeXT社に持参したデザイナーのポール・ランド。右はスーザン・ケア
この丸形NeXTマウスをしばらくぶりに机上に置いて眺めていたが、例によって様々な連想が浮かんでくる。
スティーブ・ジョブズの事だからこのマウス1つについてもそれなりに拘ったに違いない。そして現在の視点から眺めてみるとNeXT社も後期はビジネス的に苦しい状態で、結局ハードウェア部門はキヤノンに売却し社名もNeXT Software, Inc.と変わる。

※後期型NeXT用マウスの背面
だからだろうか...そうした先入観からか、このマウスにはデザインといった妙は別にしてもどこか高級感が感じられない。ADB仕様にしたのも市場に併合すると共にコストダウンを計ったのかも知れないと勘ぐってしまう。ちなみに日本製である。
そして今更だが、もうひとつ…このNeXTマウスを眺めていたら気がついたことがある。これまた想像の域を出ないことだが、この丸形NeXTマウスがあの最初期の iMacに付属した円形マウスの原点だったのではないかということだ…。
iMacの円形マウスはAppleの歴史の中で汚点のひとつだと考えているが、当初はジョブズがAppleに復帰した直後に評価され表舞台に登場したジョナサン・アイブのアイデアだと思っていた。しかし復帰後、Appleの命運をかけた iMacだからしてこれまたそのマウスにもスティーブ・ジョブズの強い拘りがあったはずだ。

※NeXT用マウスと初代 iMac用円形マウス
無論 iMacのマウスデザインもジョナサン・アイブが担当したに違いないが、その原点...コンセプトはスティーブ・ジョブズのNeXTマウスへの拘りからスタートしたのかも知れないことに思いついた…。何しろマウスとして適度なサイズということもあるにしても、NeXTの丸形マウスの直径とiMacの丸形マウスの直径は共に約74mm強 とほぼ同じなのだ!
話しはまた迷走するが、Appleは1996年当時、次期モダンOS開発に頓挫していた。自社開発を諦めたAppleは外部のOSを採用しようとして一時はジャン=ルイ・ガセー率いるBeOSに傾いたが結局はNeXT社を買収しソフトウェア資産共々ジョブズを顧問として復帰させることになった。

※サンフランシスコExpoにおけるBe社のブース。筆者撮影
スティーブ・ジョブズとしては当初、自分はあくまで顧問だという主張を繰り返していたがギル・アメリオCEOを退任に追い込んだ後には周囲の強い渇望もあって暫定CEO(iCEO)として職務に当たることになったわけだが、iMacは秘密裏に開発が続けられた。
そのiMac発表はNeXT発売からちょうど10年目となる1998年、5月のWWDCで発表されたがジョブズがAppleに復帰してから1年半ほどしか経っていない。
OPENSTEPがMac OS Xとして登場するには2001年まで待たなければならなかったが、ジョブズの思考回路にはまだまだNeXT時代のDNAが残っていただろうし、良いものはAppleでも継承させたいという考えがあったに違いない。
ボンダイブルーのiMacは初代Macintosh 128Kと同様、文字通りジョブズのマシンだった。内部にもメモリ以外アクセスできないクローズドな設計、冷却ファンはないしそのトランスルーセントから見える基盤や部品の配置の妙などはまさしくジョブズの作品だった。だからこそそのお披露目でモニター上に初代Macintoshの発表時を彷彿とさせる "hello again" と表示させたくらいだった。

※1998年5月、WWDCの場で発表されたiMac。当時私の会社のスタッフが撮影
その初代iMacの円形マウスがスティーブ・ジョブズによるNeXT時代の拘り、残り香だと思うとNeXT本体には興味がわかなかった私でもちょっと愛しい気持ちになってくる。
ただしNeXTのマウスは前部分に明らかに目立つ2つのボタンがあったからその保持する位置を誤ることはなかったはずだが iMacのそれは明らかに使いづらいという違いがある。
いずれにしてもNeXTコンピュータといえば我々はキューブ型の本体を思い浮かべるが、後期型とはいえマウスに円というか半球を思わせるようなデザインを採用するといった多面性はさすが?スティーブ・ジョブズではなかろうか...。
申し上げるまでもなくNeXT Inc. はアップルを辞めたスティーブ・ジョブズが1985年に操業した会社だ。社名はその後、Next Computer, Inc.およびNext Software, Inc. と変わっていくが、最初の製品NeXTcubeは1988年10月12日、サンフランシスコにあるコンサートホール “Louise M, Davies Sysmphony Hall” で発表された。
※1988年10月12日にデイビス・シンフォニーホールで発表されたNeXTcubeとスティーブ・ジョブズによるプレゼン映像
NeXTはスーパー・パーソナル・ワークステーションとして時代を先取りしたコンピュータではあったが価格はともかく初期モデルは動作が遅くて不評だった。ただしオリジナルのWorldWideWebがNeXTマシンで開発されたことはよく知られているし、1996年末にNeXT社がAppleに買収された後、そのOSだった OPENSTEPの技術をベースにMac OS Xが開発されたこともパーソナルコンピュータの歴史の妙だ。
さて本体の話しは取り急ぎこのくらいにしてそのNeXT用のマウスに目を向けてみよう。NeXTのマウスもキューブ型の初期は角型のマウスでありインターフェースも独自仕様だった。しかし後期になって採用されたこの円形の2ボタンマウスはADB仕様のため、Mac OSでも特別なドライバー不要でそのまま使えたのだ...。

※後期型NeXT用マウス。前面に突き出ている前掛けのような部分は2ボタンだ
当研究所には中古品と新品の2つが保管されているが、中古品の方も問題なく使えるしNeXTロゴをデザインしたポール・ランドによるロゴもしっかりと刻印されている。しかし初期型がロゴもカラーで立体的だったのに対してこちらは刻印でありどこか簡素化されている印象は拭えない。

※制作したロゴをNeXT社に持参したデザイナーのポール・ランド。右はスーザン・ケア
この丸形NeXTマウスをしばらくぶりに机上に置いて眺めていたが、例によって様々な連想が浮かんでくる。
スティーブ・ジョブズの事だからこのマウス1つについてもそれなりに拘ったに違いない。そして現在の視点から眺めてみるとNeXT社も後期はビジネス的に苦しい状態で、結局ハードウェア部門はキヤノンに売却し社名もNeXT Software, Inc.と変わる。

※後期型NeXT用マウスの背面
だからだろうか...そうした先入観からか、このマウスにはデザインといった妙は別にしてもどこか高級感が感じられない。ADB仕様にしたのも市場に併合すると共にコストダウンを計ったのかも知れないと勘ぐってしまう。ちなみに日本製である。
そして今更だが、もうひとつ…このNeXTマウスを眺めていたら気がついたことがある。これまた想像の域を出ないことだが、この丸形NeXTマウスがあの最初期の iMacに付属した円形マウスの原点だったのではないかということだ…。
iMacの円形マウスはAppleの歴史の中で汚点のひとつだと考えているが、当初はジョブズがAppleに復帰した直後に評価され表舞台に登場したジョナサン・アイブのアイデアだと思っていた。しかし復帰後、Appleの命運をかけた iMacだからしてこれまたそのマウスにもスティーブ・ジョブズの強い拘りがあったはずだ。

※NeXT用マウスと初代 iMac用円形マウス
無論 iMacのマウスデザインもジョナサン・アイブが担当したに違いないが、その原点...コンセプトはスティーブ・ジョブズのNeXTマウスへの拘りからスタートしたのかも知れないことに思いついた…。何しろマウスとして適度なサイズということもあるにしても、NeXTの丸形マウスの直径とiMacの丸形マウスの直径は共に約74mm強 とほぼ同じなのだ!
話しはまた迷走するが、Appleは1996年当時、次期モダンOS開発に頓挫していた。自社開発を諦めたAppleは外部のOSを採用しようとして一時はジャン=ルイ・ガセー率いるBeOSに傾いたが結局はNeXT社を買収しソフトウェア資産共々ジョブズを顧問として復帰させることになった。

※サンフランシスコExpoにおけるBe社のブース。筆者撮影
スティーブ・ジョブズとしては当初、自分はあくまで顧問だという主張を繰り返していたがギル・アメリオCEOを退任に追い込んだ後には周囲の強い渇望もあって暫定CEO(iCEO)として職務に当たることになったわけだが、iMacは秘密裏に開発が続けられた。
そのiMac発表はNeXT発売からちょうど10年目となる1998年、5月のWWDCで発表されたがジョブズがAppleに復帰してから1年半ほどしか経っていない。
OPENSTEPがMac OS Xとして登場するには2001年まで待たなければならなかったが、ジョブズの思考回路にはまだまだNeXT時代のDNAが残っていただろうし、良いものはAppleでも継承させたいという考えがあったに違いない。
ボンダイブルーのiMacは初代Macintosh 128Kと同様、文字通りジョブズのマシンだった。内部にもメモリ以外アクセスできないクローズドな設計、冷却ファンはないしそのトランスルーセントから見える基盤や部品の配置の妙などはまさしくジョブズの作品だった。だからこそそのお披露目でモニター上に初代Macintoshの発表時を彷彿とさせる "hello again" と表示させたくらいだった。

※1998年5月、WWDCの場で発表されたiMac。当時私の会社のスタッフが撮影
その初代iMacの円形マウスがスティーブ・ジョブズによるNeXT時代の拘り、残り香だと思うとNeXT本体には興味がわかなかった私でもちょっと愛しい気持ちになってくる。
ただしNeXTのマウスは前部分に明らかに目立つ2つのボタンがあったからその保持する位置を誤ることはなかったはずだが iMacのそれは明らかに使いづらいという違いがある。
いずれにしてもNeXTコンピュータといえば我々はキューブ型の本体を思い浮かべるが、後期型とはいえマウスに円というか半球を思わせるようなデザインを採用するといった多面性はさすが?スティーブ・ジョブズではなかろうか...。
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