片思いのマシンNewton eMate 300との再会
仕事柄Apple がリリースしたほとんどのマシンを何らかの形で使い体験してきたが、ひとつだけ手に触れた程度で心残りのマシンがある。それがNewton eMate 300 だった。しかしいま縁あってそのマシンが手元にある...。
私はApple IIシリーズは無論のこと、初代Macintoshをはじめその後のほとんどの機種を何らかの形で使った経験を持っている。またPippin@ATMARKやNewton MessagePad100も仕事柄手にしたし、特にNewton MessagePad 100は英語版ながら実際に使っていた時期がある。しかしeMate 300は日本での発売が正式になされていなかったこともあり米国のMacWorldExpo会場で触った程度しか縁がなかった。しかしずっと気になっていた…。
今般Vintage Computer社にお願いして念願のeMate 300の完動美品を手配していただいた。

※念願のNewton eMate 300が届いた。巧く写真を撮るのがなかなか難しいマシンだ
■プロローグ
Newton eMate 300は1996年の10月に発表され翌年に出荷された。当時のAppleは経営的に最低の状況にあったがこのeMate 300は未来を垣間見ることができる製品のひとつとして注目を浴びた。しかしスティーブ・ジョブズがAppleに復帰後、そのパワーをMacintoshに集中させることを理由にNewtonプロジェクトを解散させたことはまだ記憶に新しい。無論「はじめてキーボードが内蔵されたNewton」というポジションにあったeMate 300も惜しまれながらもその生産と販売が中止された。
もともとこのeMate 300は米国の初等教育市場向けをターゲットにした製品ということもあり、日本市場には並行輸入品が出回ったに留まった。しかしそのDNAはその後の初代シェル型iBookやiMacに踏襲されたことは確かである。
その基本的な丸みを帯びたデザインはもとより、ボリカーボネート樹脂の使用やトランスルーセントの先駆けといったeMate 300のディテールはパーソナルコンピュータの筐体デザインとして新しい境地を開く先達であった。事実その深いグリーンの筐体を眺めていると光の加減よっては初代iMacのボンダイブルーの色味を思い出させる。

eMate 300はNewtonテクノロジーをもって開発された。しかし当時からこれがMac OSマシンであったなら...と多くの人たちが残念がったことも確かだった。米国の教育市場において好意的に迎えられたeMate 300ではあったが、時代背景を考えると悲運のマシンであったといえるのかも知れない。
さて今回私がこのeMate 300を手にしたのは無論実用としてではない(笑)。そのプロダクトデザインの詳細をつぶさに確認し、Appleという「デザインも品質のうち」と考えてきた企業の歴史的な製品を再評価したいと考えたからに他ならない。また前記したようにこのeMate 300がその後のAppleプロダクトに影響を与えた仔細をも再確認したいと思った。
■eMate 300のデザイン考
eMate 300はかなり特異なデザインにもかかわらず、最初に見たときにも違和感は感じなかった。まあ正直当時は「自分には縁がないマシン」と思っていたフシもあったが(笑)、実は同じシェル型といってもその後に登場した初代のiBookは嫌いだったので買わなかった(^_^)。
eMate 300の外見は一般的なコンピュータ機器類とは違い、どこか有機的な匂いがする。三葉虫などを思い出させる甲殻類的ともいえるし、その補強用のリブは葉脈のようにも見えて亜熱帯植物の大きな葉のイメージにも似ている。


※eMate 300ケース表面から見えるリブ(上)と、裏面の文字通り葉脈のようなリブ(下)
しかしその濃いグリーンのトランスルーセントの筐体は写真でそのニュアンスを伝えるには大変難しいことを最初に記しておかなければならない。
現在のアルミニウムで出来ているボディや、かつてのベージュカラーのようにどこから撮影しても均一のイメージで伝えられるものではなく、まさしく照明や光の当て方でそのイメージは大きく変わる。撮影の仕方で単なるプラスチック製の黒々とした筐体のようにも見えるし、上手に光を回すと突然それは妖しい様相を魅せるので難しい。
eMate 300は子供が扱うことを前提にしたマシンだったから多少の乱暴な扱いを許す設計がなされていた。その大きなファクタとして壊れやすいハードディスクは内蔵されてなく、内蔵メモリやPCカードによる動作を前提にしていたことと衝撃に強いポリカーボネートの採用や葉脈のような補強用のリブが多用されている。また全体的に貝殻のような隆起が目立つ曲線を多用したデザインであり、その一見異様なデザインもよくよく観察すれば、強度を含めて子供の扱いを考慮したさまざまな工夫が見て取れる。
早速目に付く部分から見てみよう。
1.ハンドル
ハンドルをつけたマシンは過去にもあったがeMate 300のそれはあくまで「重いから付けた」のではなく確実に持ち運べるようにと考慮されたものと思われる。実際に手にしてみると大人の手には少々小さいがハンドル内側には滑り止めのラバーが貼ってあるなど神経が行き届いている。ちなみに本体の重さは1.8Kgほどだ。

2.スタイラスペン
キーボードからテキスト入力は勿論可能だが、スタイラスペンで直接液晶画面に触れ絵を描くことができる。そしてスタイラスペンで手書き文字の認識が可能なことはさすがにNewtonである。このスタイラスペンは本体に収納されるが使用時には右利き左利き双方のユーザーを考慮し、ペン立てが左右に用意されている。

3.液晶画面
4bitグレースケール、ELバックライトの480×320ピクセルといった仕様。昨今の明るい液晶と比較すればかなり暗いが、フル充電で24時間以上連続使用できる。

4.キーボード
テンキーはないがフルキーの上部にPowerキーと12個のファンクションキーがある。キートップはアップルロゴのコマンドキーやOptionキーなども含め、Macintoshユーザーなら何ら戸惑うことはないだろう。またファンクションキーはF1…F2…といったタイプではなく独自のアイコンを付した分かりやすいデザインとなっている。
なおキーボードの後方には液晶の明るさとサウンド出力をコントロールするボリュームレバーがある。

5.インターフェース
正面から見て左側面には電源コネクタとシリアルポートが、そしてハンドル脇にはIrDA赤外線端子が備わっている。また右側面にはPCカード(PCMCIA)スロットとオーディオ入出力端子がある。


※電源コネクタ、シリアルポートと赤外線端子部分(上)とPCカード(PCMCIA)スロットとオーディオ入出力端子部分(下)
6.その他
背面は野外での利用を考え、カメラの三脚に固定できるようにネジ穴がある。また持ち主のネームカードを入れるスペースが背面中央に用意されている。

今回はあくまで筐体デザインとハードウェア周りを中心に紹介した。その25MHz ARM710a RISCプロセッサーによるNewtonOS 2.1の使い勝手などは私自身がまだよく把握していないからでもある。
しかし1997年当時にこれだけの機能と装備を持ち、パソコンに接続でき、モデムを使ったFAXや電子メールのやりとりなどを可能としていたマシンが800ドルを切った価格で供給されていたことはある意味驚きではないだろうか。
私自身Newton eMate 300というマシンはその一風変わったデザイン面から興味を持った。しかし実際膝の上に抱えてスイッチを入れるとそこにはNewtonは勿論だがMacintoshの技術に裏打ちされた数々のテクノロジーが見え隠れして面白い。
なお余談だが、「AppleDesign」に掲載されているeMate 300と何か違うようだと実機を確認したところ、その写真はやはりプロトタイプのようであり、キーボードのファンクションキーが違うし実際の回路基板を配置した実機はあのように透けては見えないのである。念のため記しておきたい。
次はまた機会を見て、ソフトウェア面などからの使い勝手をご紹介したいと思っている。
私はApple IIシリーズは無論のこと、初代Macintoshをはじめその後のほとんどの機種を何らかの形で使った経験を持っている。またPippin@ATMARKやNewton MessagePad100も仕事柄手にしたし、特にNewton MessagePad 100は英語版ながら実際に使っていた時期がある。しかしeMate 300は日本での発売が正式になされていなかったこともあり米国のMacWorldExpo会場で触った程度しか縁がなかった。しかしずっと気になっていた…。
今般Vintage Computer社にお願いして念願のeMate 300の完動美品を手配していただいた。

※念願のNewton eMate 300が届いた。巧く写真を撮るのがなかなか難しいマシンだ
■プロローグ
Newton eMate 300は1996年の10月に発表され翌年に出荷された。当時のAppleは経営的に最低の状況にあったがこのeMate 300は未来を垣間見ることができる製品のひとつとして注目を浴びた。しかしスティーブ・ジョブズがAppleに復帰後、そのパワーをMacintoshに集中させることを理由にNewtonプロジェクトを解散させたことはまだ記憶に新しい。無論「はじめてキーボードが内蔵されたNewton」というポジションにあったeMate 300も惜しまれながらもその生産と販売が中止された。
もともとこのeMate 300は米国の初等教育市場向けをターゲットにした製品ということもあり、日本市場には並行輸入品が出回ったに留まった。しかしそのDNAはその後の初代シェル型iBookやiMacに踏襲されたことは確かである。
その基本的な丸みを帯びたデザインはもとより、ボリカーボネート樹脂の使用やトランスルーセントの先駆けといったeMate 300のディテールはパーソナルコンピュータの筐体デザインとして新しい境地を開く先達であった。事実その深いグリーンの筐体を眺めていると光の加減よっては初代iMacのボンダイブルーの色味を思い出させる。

eMate 300はNewtonテクノロジーをもって開発された。しかし当時からこれがMac OSマシンであったなら...と多くの人たちが残念がったことも確かだった。米国の教育市場において好意的に迎えられたeMate 300ではあったが、時代背景を考えると悲運のマシンであったといえるのかも知れない。
さて今回私がこのeMate 300を手にしたのは無論実用としてではない(笑)。そのプロダクトデザインの詳細をつぶさに確認し、Appleという「デザインも品質のうち」と考えてきた企業の歴史的な製品を再評価したいと考えたからに他ならない。また前記したようにこのeMate 300がその後のAppleプロダクトに影響を与えた仔細をも再確認したいと思った。
■eMate 300のデザイン考
eMate 300はかなり特異なデザインにもかかわらず、最初に見たときにも違和感は感じなかった。まあ正直当時は「自分には縁がないマシン」と思っていたフシもあったが(笑)、実は同じシェル型といってもその後に登場した初代のiBookは嫌いだったので買わなかった(^_^)。
eMate 300の外見は一般的なコンピュータ機器類とは違い、どこか有機的な匂いがする。三葉虫などを思い出させる甲殻類的ともいえるし、その補強用のリブは葉脈のようにも見えて亜熱帯植物の大きな葉のイメージにも似ている。


※eMate 300ケース表面から見えるリブ(上)と、裏面の文字通り葉脈のようなリブ(下)
しかしその濃いグリーンのトランスルーセントの筐体は写真でそのニュアンスを伝えるには大変難しいことを最初に記しておかなければならない。
現在のアルミニウムで出来ているボディや、かつてのベージュカラーのようにどこから撮影しても均一のイメージで伝えられるものではなく、まさしく照明や光の当て方でそのイメージは大きく変わる。撮影の仕方で単なるプラスチック製の黒々とした筐体のようにも見えるし、上手に光を回すと突然それは妖しい様相を魅せるので難しい。
eMate 300は子供が扱うことを前提にしたマシンだったから多少の乱暴な扱いを許す設計がなされていた。その大きなファクタとして壊れやすいハードディスクは内蔵されてなく、内蔵メモリやPCカードによる動作を前提にしていたことと衝撃に強いポリカーボネートの採用や葉脈のような補強用のリブが多用されている。また全体的に貝殻のような隆起が目立つ曲線を多用したデザインであり、その一見異様なデザインもよくよく観察すれば、強度を含めて子供の扱いを考慮したさまざまな工夫が見て取れる。
早速目に付く部分から見てみよう。
1.ハンドル
ハンドルをつけたマシンは過去にもあったがeMate 300のそれはあくまで「重いから付けた」のではなく確実に持ち運べるようにと考慮されたものと思われる。実際に手にしてみると大人の手には少々小さいがハンドル内側には滑り止めのラバーが貼ってあるなど神経が行き届いている。ちなみに本体の重さは1.8Kgほどだ。

2.スタイラスペン
キーボードからテキスト入力は勿論可能だが、スタイラスペンで直接液晶画面に触れ絵を描くことができる。そしてスタイラスペンで手書き文字の認識が可能なことはさすがにNewtonである。このスタイラスペンは本体に収納されるが使用時には右利き左利き双方のユーザーを考慮し、ペン立てが左右に用意されている。

3.液晶画面
4bitグレースケール、ELバックライトの480×320ピクセルといった仕様。昨今の明るい液晶と比較すればかなり暗いが、フル充電で24時間以上連続使用できる。

4.キーボード
テンキーはないがフルキーの上部にPowerキーと12個のファンクションキーがある。キートップはアップルロゴのコマンドキーやOptionキーなども含め、Macintoshユーザーなら何ら戸惑うことはないだろう。またファンクションキーはF1…F2…といったタイプではなく独自のアイコンを付した分かりやすいデザインとなっている。
なおキーボードの後方には液晶の明るさとサウンド出力をコントロールするボリュームレバーがある。

5.インターフェース
正面から見て左側面には電源コネクタとシリアルポートが、そしてハンドル脇にはIrDA赤外線端子が備わっている。また右側面にはPCカード(PCMCIA)スロットとオーディオ入出力端子がある。


※電源コネクタ、シリアルポートと赤外線端子部分(上)とPCカード(PCMCIA)スロットとオーディオ入出力端子部分(下)
6.その他
背面は野外での利用を考え、カメラの三脚に固定できるようにネジ穴がある。また持ち主のネームカードを入れるスペースが背面中央に用意されている。

今回はあくまで筐体デザインとハードウェア周りを中心に紹介した。その25MHz ARM710a RISCプロセッサーによるNewtonOS 2.1の使い勝手などは私自身がまだよく把握していないからでもある。
しかし1997年当時にこれだけの機能と装備を持ち、パソコンに接続でき、モデムを使ったFAXや電子メールのやりとりなどを可能としていたマシンが800ドルを切った価格で供給されていたことはある意味驚きではないだろうか。
私自身Newton eMate 300というマシンはその一風変わったデザイン面から興味を持った。しかし実際膝の上に抱えてスイッチを入れるとそこにはNewtonは勿論だがMacintoshの技術に裏打ちされた数々のテクノロジーが見え隠れして面白い。
なお余談だが、「AppleDesign」に掲載されているeMate 300と何か違うようだと実機を確認したところ、その写真はやはりプロトタイプのようであり、キーボードのファンクションキーが違うし実際の回路基板を配置した実機はあのように透けては見えないのである。念のため記しておきたい。
次はまた機会を見て、ソフトウェア面などからの使い勝手をご紹介したいと思っている。
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