続「一人の仕事術」〜フリーランスで生きるには?!

2009年に「SOHOと言えば聞こえは良いが『一人の仕事術』考察」と題した一文をご紹介した。それは、1人でやる仕事は気楽だと勘違いしてはならない...という自身の体験も踏まえた内容だったが、それから早くも7年が過ぎた。残念ながら世情は7年前よりますます厳しくビジネスのやり方もよい方向に向かっているとは思えないので再び1人の仕事術、フリーランスの心得といったものを再確認してみようと思う。


デザイナーでもプログラマーでもフリーランスで仕事を始めてみて最初に困惑することは仕事そのものをどうやって得るか…だ。フリー、自由…というイメージは悪いものではないだけにある種の期待を持ってことにあたる人がほとんどだ。しかし通勤しなくてもよいとか上司や部下との付き合いも不要だし、時間の配分も100%自身でコントロールできると思ったものの、「一人の仕事術」も現実は生易しいものではない…というのが前回のテーマだった。今回はもっとシリアスな内容だ :-P

まず知っておくべきことは、会社を辞めて独立することを打ち明けたクライアントが諸手を挙げて「応援しますよ」といったかも知れないその言葉は単なる社交辞令でありそのまま信じてはならないということだ。
もしクライアントの担当者が本気であなたを応援しようと考えたとしても仕事を依頼するに際して実績の無いフリーランスでは心許ないと上司が反対することもあるに違いない。要はそんな不確かな話しを本気にして会社を辞めるという判断こそ、その先が危うい...。
とかく大企業にいてそれなりの地位にあった人ほど自分の本当の実力を見誤っていることが多い。

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会社組織に組み込まれているとき、私たちは仕事というものは誰かが取ってくるもの、向こうからやってくるものとして当たり前のことと考えているフシがある。そして自分の後ろに長い間、実績や信用といったものを蓄積した無言の看板を背負っていることを忘れがちだ。
しかしフリーになって気がつくことはなにもしなれば仕事はやってこないということだ。やってきたとしても多くはあなたが直接クライアントを回って取った仕事より、友人知人たちからの気遣いで回して貰った仕事ではないだろうか。

やはり古くさい物言いかも知れないが、フリーになって成功するにはそれ以前に多くのよい人間関係を構築していなければならないし、ネットワークの輪を...それも異業種に至るまでの輪を広げておくべきということだ。そうでなければ飯の種になるような仕事はなかなか手にできないと思わなければならない。
早期退職までして勇んで1人仕事を夢見たものの早々にサラリーマンに戻ったという人たちをこれまでにも多々見てきたのはそういうことなのだ。

会社を退職したは良いが予定した仕事が来ないのは実に不安なものだ。友人知人に会ったり連絡を取ってなにか回して貰える仕事は無いかと依頼することになるとしても自分の足でいくつかお目当ての会社へ日参するかも知れない。しかしここでそうした焦りが重要な点を曇らせる...。

それは仕事が欲しい一心でクライアントの依頼を鵜呑みにし、適切な契約書も取り交わさずに仕事を受けることになりやすい点がひとつ。そしてその対価も業界の標準というものがあるとして、これまたいいなりで激安あるいは無料で受けてしまうことだ。
この2点は肝に命じておかなければならない。何故なのか...について疑問を投げかける人はいるだろうか。いや「損して得を取れ」という言葉があるではないかと反論する人もいるかも知れないが、フリーランスがこの点を曖昧にして仕事を受けるということは早々に自滅する道に乗ってしまったと思わなければならない。

仕事を受けるということは約束事の積み重ねだ。例えばソフトウェア開発にしても、どのようなソフトウェアをどのような仕様に沿って作るか、納期はいつか、対価は、支払条件は…などなどの約束事があって初めて成立する。特に仕様というものは例え立派な仕様書を差し出されたとしても私の経験からいえば、すべての実装すべき機能に関して記述できるものではない。
開発途中あるいは納期間際、最悪は納品してから「ここはそういうつもりではなかった。このように直してくれ」といった要望が必ず出るものだと思っておかなければならない。

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※1990年からのキヤノン、キヤノン販売との契約書類(一部)。キヤノンは私にとって最良のクライアントとして大変お世話になった


あるケースでは3ヶ月も一緒に進捗状況を見てきたクライアントの担当者が「これで結構です」と納品を認めてくれたにもかかわらず、その上司からいちゃもんがついて仕様の見直しを迫られたこともあった。ただしひとつひとつのステップで仕様の了承を得ていた書面があったこと、基本契約書を取り交わしていたことから不本意な依頼を突っぱねることができた。

そう…例え納品ができてもメンテナンスは? 無償保証期間は? それ以降のメンテの費用は?といった現実的な問題もある。聞いた話し、契約書の取り交わしが無く開発したソフトウェアを納品してから2年以上も経って「OSのアップデートに合わせてソフトウェアもアップデートしてくれ。メンテは無期限で無償だったよね」という依頼があったという。

契約書はお互いの「やるべきこと」や「やらなくても良いこと」を示し、責任範囲を明確にするために取り交わされるものだから、仕事を受けるに際してどこまで責任を負うかを明確に出来なければその案件にずっと引きずられてしまうことになる。さらに契約書はそもそもクライアント側に有利な文面で出来ているものだから、内容をしっかりと確認して万一一方的な条項があれば正攻法で手直ししてもらうよう交渉するくらいの意識がなければならない。

法的なあれこれなど分かりようもないというかも知れないし弁護士に依頼する予算もないという言い訳があるかも知れないが、フリーランスで仕事を始めてそれなりに成功するためにここは一踏ん張りしなければ無法地帯で労働力を渡すことになってしまう。

対価についても臆せず明確な見積ができなければならない。無論クライアントとあなたは金額という点において100%利害が対立する(笑)。それを承知で当然の見積額を提示し、なぜこの額になるのかについてこれまた明確に説明できなければならない。
勿論これらは易しいことではないが、もしクライアントがまともな企業であり、その担当者がまともな人であるなら、あなたの真摯な対応にこそ信頼できる相手だというお墨付きをくれるのではないだろうか。

はっきりいえば、いわゆるブラック企業からブラックボックスな仕事を受けてしまうより仕事がない方がよほどマシなのだ。契約書も交わさず明確な対価も決めずに仕事を受けるなどブラックホールの縁に立つようなものでありその結末は知れている...。

ではフリーランスとなって成功できるポイントは何なのか?
それはフリーランスになってからでは遅いのだが(笑)、これまでどのような企業でどんな仕事についていたかはともかく、そのポジションで常に誠実で真面目に仕事に取り組み、ひとつひとつ成果を上げ、周りの人たちに頼られるような存在であることに尽きる...。
そうした人材がきっかけはともかく組織から離れて独立すれば周りが放っておかないだろう。

「私は○○という大企業の課長で長年△△の仕事をやっていました」といってもくどいようだがそれは企業の看板を背負ってできたことだ。何の後ろ盾も無くフリーランスとなってもあなたを気遣う人などほとんどいないと肝に銘じなければならない。
仕事以前にまずは自分の存在を世間、業界に知られることが重要だ。でなければいつまでも親しい友人たち以外は見向きもしてくれないだろう。

そして重要な事だがフリーランスに発注された仕事は社内に向けられたクオリティを越えたものでなければ当然のこと次はない。それこそ自分の存在を知らしめることは勿論、デザインでもプログラミングでも目標とするビジネスに関して誰にも負けないという自負と実力が備わっていない限りフリーランスとして成功することは難しい。

幸い私がフリーランスになった時代と比較して現在はFacebookやTwitterなどソーシャルネットワークの存在がある。そうしたツールを活用して自分の存在をアピールし同調してくれる仲間を増やすことだ。そして業種・異業種間の催し物や会合にも可能な限り足を運んで情報を集め、顔と名前を知ってもらいながら情報発信していく必要がある。

小さなことでも人の役に立てれば次第に大きな反応として自分にチャンスが巡ってくるものだ。私はそう信じてきた。
そして逆にフリーランスだとしてもあれもこれもすべて1人でやらなければならないと思ってはダメだ。状況が許せば仲間に対してきちんとした対価を決め応援を求めるのも賢い方法だと思う。

人が寄ってこない人物には仕事もチャンスも近寄らないものだ。フリーランスになってから早くも足掛け13年経つ私の自戒であり本音である。まあ…その結果、成功にはほど遠いものの、おかげさまで友人知人たちそして旧知のクライアントの助けでなんとかここまでやってこれたのだ...。
結局これまでの成果を見渡してみると、そのきっかけは起業時代の縁につながるという事実に驚くばかりである。




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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員