今更のドゥブルトゥールApple Watch Hermès考察

Apple Watch Hermèsが届いた…。Apple Watchがリリースされたとき、その事実より驚いたのがApple Watch Hermèsバージョンの発表だった。Apple Watchの販売からすでに一年が過ぎたものの遅ればせながらApple Watch Hermèsの意義を考えてみたい。


まずなぜ今頃のHermèsバージョンなのか...。単にこれまで予算がなかったというのも本音だが(笑)、来月のWWDCではデザインはともかく新機能が搭載されたApple Watchがリリースされるのではないか…という期待もあるし噂もある。そんな時期になんでまた...とお考えの方もいるかも知れない。

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※Apple Watch Hermèsはドゥブルトゥール38mmステンレススチールケースとヴォー・バレニア(フォーヴ)レザーストラップ(L)だ


その答えだが、Apple Watch Hermèsは是非にもこの “最初の製品” を手に入れておきたかったということに尽きる。というよりこれまで私はApple Watchをガジェットとしては高く評価するものの、ファッションへの扉を開く腕時計としてはまだまだという気がして辛口の評価をしてきた。

現行の文字盤を含むデザインでファッションの世界に流し目を使う…などとは烏滸がましいと思っているからだ。そして腕時計好きのひとりとしてApple Watchを真に楽しむのなら現状ではその文字場に故にApple Watch Hermèsしかない…という気持ちでいた。
それにAppleにとっていわゆるOEMというかダブルブランドの製品はこれまでほとんど例がなかった大変珍しい事例だという点にも興味を引かれるし相手がエルメスということも…。まあ、そうした説明が本編の目的である。

ところでAppleのダブルブランドといえばただひとつApple II 時代にApple II をBell & Howell という映像関連企業にライセンスした事実がある。筐体デザインもサイズも同一だが、ケースやキーボードもブラック仕様でプレートは Bell & Howell とApple Computerとのダブルネームになっていた。

そうした歴史をApple Watch Hermèsは思い起こさせるが、Apple Watch HermèsにおけるAppleの目論見はApple II 時代とは当然のことまったく違うことは明白だ。ただなぜAppleはエルメスを選んだのかという点に興味があるし、反対にエルメス側がこれまたなぜ応じたのかという点にも強い興味を持たざるを得ない。このAppleとエルメスの提携がどれほど続くかはまったく分からないものの、この最初のプロダクトはそれこそ歴史に残ることだと確信しているので提携が消滅しないうちに手に入れておきたかった…。

いや、すべてを理論然と情報を精査した上での話しではないので想像を交えるしかないが、Apple Watch Hermèsの実現はAppleがまずは望んでエルメスにアプローチしたに違いない。エルメス以外のビッグブランドにも声をかけたかどうかについては不明だが、Appleとして第1候補がエルメスだったように思う。

なぜエルメスだったのか、エルメスでなければならなかなったのかは明らかだ。AppleとしてApple Watchを単なる電子デバイス、ガジェットの類で終わらせるのではなくファッションアイテムとして世界中に認知させたいと考えたものの、さすがに単体では難しいとエルメスに声をかけたと考えるのが自然だ。それにAppleはエルメスを自分たちと同様妥協を許さず究極のもの作りを求める企業と評価したのだろう…。

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※ドゥブルトゥールのストラップは腕に2重に巻くため長い...


申し上げるまでもなくエルメスはフランスというより世界最大のファッションブランドのひとつである。もともと馬具の製造で創業したがその技術を元に鞄や財布といった革製品で成功を収め、現在では腕時計をはじめ、装身具や服飾品、香水などのデザイン/製造を手がけている。
無論それらはすべて最高級のブランドイメージで販売されそれなりに高価なものばかりだ。

Appleとしてはこの世界有数のブランドの冠を持ったApple Watchをしてラグジュアリーなファッションアイテムを生み出したかったに違いない。やはりいかにApple Watch本体をピンクゴールドといった価格の高い素材で作ろうとそれは下手をすれば悪趣味で終わってしまうからだ。

したがってAppleの意図は比較的分かりやすいが、個人的に興味ある点はエルメスがこうしたAppleからのアプローチに共鳴したのは何故なのか...ということだ。
Apple Watch Hermèsを詳細に検証するまでもなく、肝心の本体は市販のApple Watchと素材も機能も変わりはない。ただしご承知のように文字盤デザインにエルメス独特なデザインが含まれていること、そして背面にはHermèsの刻印がある。

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※Apple Watch Hermès本体背面には "HERMÉS" の刻印がある


そもそもがスクエア形であればこの種の文字盤デザインを標準で多々用意すべきところだと思うが、Appleはエルメスに配慮して一般販売のApple Watchには入れなかったのではないか...。
さらにエルメスの文字盤に当然のことながらエルメスのロゴが輝いているがAppleのロゴはないのも面白い。この辺はAppleのというよりエルメスの強い拘りがあったと想像している。

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※この文字盤がApple Watchの価値をより高めている


ともかく本体機能というか見栄えは文字盤とケース裏にHermèsの刻印があることだけの違いだ。後はストラップだが、これはエルメスお家芸の純正品を用意しているしパッケージもまさしくエルメスのものである。
こうして見るとハードというか "物" としてエルメスが主張できるのはバンドとパッケージだけであり文字盤がユニークだとしてもエルメスがApple Watchに "Hermès" の冠を付け、自分の店舗での販売まで手がけるメリットや意図がどの辺にあるのかについては興味深い。

さて、その理由のひとつとしてエルメスという超高級ブランドも時代の流れに遅れることなく常に新しいイメージを持ってビジネスを展開することは易しいことではないに違いない。というかこれまでも時代を先読みできるからこそブランドイメージを崩さず生き残ってきたのだろうし、例えば韓国の自動車メーカーとタイアップした企画を発表したりとエルメスも決してお堅いイメージばかりではないのだ。

したがって普通に考えれば腕時計も扱っているエルメスとしていわゆるスマートウォッチの市場調査を兼ねた試みと考えても悪くはないだろう。大きな話題性を持っていることでもあるし…。
それにApple Watch Hermèsの価格はエルメスブランドの腕時計のラインナップから見てエントリーレベルであり、その存在がこれまでの "エルメスの腕時計" の先行きを明るくすることはあっても大きく邪魔することはないと判断したに違いない。さらにApple Watch Hermèsの文字盤はディスプレイ表示ではあるものの、エルメスの各店舗にしても腕時計の販売実績とノウハウも持っており、現場での混乱もほとんどないと考えたと思う。

Apple Watchに依存する機能の問題は「アップルに問い合わせてね」で基本済むに違いないから…。それに想像するにエルメスのオフィシャルな店舗数は限られているから当初はAppleが他に例もあるようにスペシャリストを派遣して対応するという手もあったろう。

ともあれこのAppleとHermès最初のコラボ "Apple Watch Hermès" はApple Watchが成功を収めるにしろ消滅するにしろ記念すべき代物でありその存在自体に大きな価値を持っている製品だと考える。したがってバージョン2.0が登場するにしても、さらに来年辺りにデザインにも変更を施した新製品が登場してもこの最初のApple Watch Hermèsの存在意義は大げさに言うなら歴史的価値があって揺るがないに違いない。
そもそもApple Watch HermèsはiOSのバージョンがどうのこうのといった問題とは基本的に無縁であり、あくまで腕時計としてのビジュアルであり完成度が売りなのだから…。

現実には近々Appleとエルメスの提携が終了するとは思えないが、ビジネスの世界は明日のことは分からない。手に入るうちに無理をしてでも買っておこうと考えたわけだが、実は遅れた理由のひとつにApple オンラインStoreでドゥブルトゥールのヴォー・バレニア(フォーヴ)レザーストラップ(L)がずっと品切れだったからでもあった...。

まず発売開始された数ヶ月間はドゥブルトゥールのヴォー・バレニア(フォーヴ)レザーストラップの長さが短い製品しか販売されておらず、一般的な男性の手首には装着できなかったから手に入れようもなかった。やっとここ数ヶ月前にLが登場したが、直後にヴォー・バレニア(フォーヴ)は売り切れたのかオンラインストアでは購入できなかった…。
ということで些か新鮮味は薄れたかも知れないが、Apple Watch Hermèsの具体的な感触・感想は順次ご報告していきたいと考えている。無論これはコレクターズアイテムではなく私自身が身につける実用品である。



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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員