個人的なフラッシュ・デバイス物語

先日引き出しの中から忘れ去られたメディアカードが出て来た。一瞬何かと思ったが、それはAppleの純正デジカメQuickTake 200で使ったSSFDC(ソリッドステート・フロッピーディスクカード)とも呼ばれたSuper Filing Chip(スマートメディア)とそのPCMCIAカードアダプタだった。


現在、フラッシュドストレージといえばSSDを思い浮かべる人が多いと思うが、一般的にフラッシュストレージといえばUSBメモリを代表格にSDメモリカードあるいはコンパクトフラッシュといったデバイスを連想する方も多いと思う。
ということで思いついた時は吉日…と手元にある関連デバイスを引っ張り出して並べてみたが、時代の推移を俯瞰できて面白い。覚書のつもりで自身のフラッシュメモリ仕様歴を記憶の隅から引き出してみたい。

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※引き出しの奥から出て来たスマートメディアとPCMCIAカードアダプタ


ただしここではUSBメモリとかFireWireのフラッシュドライブといった製品たちだけでなくデジタルカメラやデジタルガジェットの記録媒体としてのフラッシュメモリについて思い出してみたい。とはいっても技術的な話は私の専門外でもあるからしてあくまで個人の体験に基づくお話しである。

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※現在も便利に活用しているUSBメモリ(左の二種)とFireWire仕様のフラッシュメモリ(右)


さてマイコンとかパソコンの最初期からその種のデバイスを使ってきた1人として振り返って見ると、コンピュータで動作させるプログラムやユーザーが書き込んだ情報を保存し、再度読み込ませて使う...いわゆるストレージで最初に使ったのは音楽用のカセットテープだった。
いまから考えるとその300 ボーレートという超遅いスピードとエラーが多い不安定な点は使うに値しないものに思えるかも知れない。しかしこのカンサスシティ・スタンダードと呼ばれた書き込みおよび読み出しのシステムがなければ一般ユーザーはその都度プログラムを入力しなければならなかったのだから大いに存在する意味があったのである。
私自身、ワンボードマイコンのFACOM Lkit-8を皮切りにコモドール社PET 2001およびApple IIなどでカセットレコーダーを活用していたが、特にコモドール社PET 2001では本体内蔵のカセットレコーダーと別途外付けのカセットレコーダーの2台をサポートしていた。

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※左のPET 2001のキーボード左に装備されているのがカセットレコーダー。また写真右の自作ケースに納まっているワンボード・マイコンの上に置かれているのはまさしくカセットテープ・レコーダーだ (1978年当時の筆者仕様のシステム)


その後にフロッピーディスクが実用化され、ご承知のように8インチ、5インチのフロッピーディスケットから始まり1984年1月に登場したMacintoshで3.5インチのフロッピーディスケットを使うようになる。
このフロッピーやハードディスクに関して今回詳しい話は避けるが、しばらく一般ユーザーの前にフラッシュメモリの類は登場しなかった。
なにしろ1989年に手にしたキヤノン製Q-PICやその上位機種RC-470というデジカメの元祖のような製品でさえ、実はその記録はアナログであり、撮影データは Still Video Floppy Disk と呼ばれた2.5インチの小型フロッピーディスクに保存する時代だった。

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※キヤノン製Q-PIC(上)および上位機種RC-470(中)。それらで使う記録メディアは2.5インチの小型フロッピーディスクだった(下)


最初期のデジタルカメラとして手にしたApple純正のQuickTake 100 (1994年2月発売)とかカシオのQV-10(1995年3月発売)などは現在のように抜き差しできるメモリデバイスは採用されておらず、電源を供給しなくても記憶を保持する不発揮性メモリを内蔵していたがその容量は大変小さかった。

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※Apple最初の純正デジタルカメラ QuickTake 100


例えばQuickTake 100のメモリは1MBであり、640x480ピクセル(VGA)の高画質モードでは8枚しか記録できないありさまだった。また撮影したデータをパソコン側に転送するにはケーブルをつなぎ、専用のソフトウェアを使うことになる。
この時期、本格的デジタルカメラとして手に入れたのは発売したばかりのリコー DC-1(1955年4月発売)だった。比較すればQV-10などはオモチャ同然の製品だったのに対しこのDC-1は普及型デジタルカメラとして初めて機械式シャッターを採用し有効38万画素の写真は当時として素晴らしいものだったし、確かSRAMカード(PCMCIA 2.1準拠)のカードを記録メディアとして使っていた…。また余談ながらこの製品が縁で私の会社はリコーと親密な取引をさせていただくことになった…。

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※バッテリーの持ちは良くなかったが当時としては本格的なデジカメだったリコー DC-1


ところでさらに外部記録メデイアとしてのフラッシュストレージを身近に感じた最初のものはAppleのNewton MessagePad (1993年発売)だっと思う。ちなみに現在も間違った認識をされている場合が多いようだが、Newton MessagePadの”Newton”は本来商品名ではない。「ニュートンテクノロジーに基づいたメッセージパッドという製品」といった意味合いになる...。 
ともかくNewtonではPCMCIA規格のコネクターを持っていたし、いまもNewton用2MBのフラッシュストレージカードが手元に残っている。そしてこの種のPCMCIAカードスロットは1995年11月に登場したPowerBook 190/66にも標準装備された。しかし互換性はいまいちであまり実用性は感じられなかった。

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※Newton MessagePadで利用した2MBのフラッシュストレージカード


現在のSDカードのような感覚でフラッシュメディアを使い始めたのは “スマートメディア” と呼ばれた製品が最初だった。これは東芝・オリンパス・富士写真フイルム・東京エレクトロン・セガの5社で結成したSSFDCフォーラムによって規格化されたもので1995年から市販された。
正式名称はSSFDCだからして “Solid State Floppy Disk Card” という。

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※Apple QuickTake 200とスマートメディア


このメディアを使った印象的な製品といえばAppleのデジカメ QuickTake 200だろうか…。このカメラは富士写真フイルム(当時)のOEM製品だったことでもありスマートメディアがサポートされたわけだが、そのサイズである縦45.0mm×横37.0mm×厚さ0.76mmはいま見ると異様に大きく感じる。

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※関連メデイアを並べてみた。左からNewton用Flash Storage Card、スマートメディア、コンパクトフラッシュ、xD ピクチャーカード、メモリースティックPRO Duo、SDHDカードそしてmicroSDカード


このスマートメディアはデジタルカメラだけでなく例えばiPodが登場する以前のデジタル音楽プレーヤー「JazPiper」などの記録メデイアとしても使われていた。

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※iPodが登場する以前に全盛を誇ったデジタル音楽プレイヤーのひとつ「JazPiper」もスマートメディアを採用していた


また1994年に開発された “コンパクトフラッシュ(CF)” は一時期デジタルカメラなどに積極的に採用されたがサイズ的に大きめなだけにSDカードに押され気味だった。しかしその大容量で扱い易い仕様を買われてか現在も使われている。

他にはソニーが1997年から独自規 格で採用した “メモリースティック” がある。これは同社のデジタルカメラやパソコンだけでなく例えば犬型ロボットAIBOなどにも広く使われたがSDカードなど他のメディアとの互換性がなく現在では低迷してしまった。
そして現在一番ポピュラーなフラッシュメディアといえばやはりSDカードだろう…。
SDメモリーカードは、1999年に松下電器産業(当時)、サンディスク、東芝による共同開発規格として発表されたもので比較的新しい規格である。
現在SDHCやSDXCカードという新規格や標準サイズの他、miniSDカードおよびmicroSDカードと極小サイズ製品も登場し携帯電話や小型デバイスの記録メデイアとして多々使われていることはご承知のとおりだ。

私はといえば現在デジタルカメラ用にはSDHCカードとメモリスティック Pro HG Duoを、microSDカードをULTRA WiFi 4G を代表する小型ガジェットで、そして意外かも知れないが Lisa やオールドMacの起動用デバイスすなわちハードディスクの代用…シリコン化としてコンパクトフラッシュは現役であり、System 6.0.7をインストールしてある。

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古く不安定なハードディスクをコンパクトフラッシュに取り替えシリコン化した製品例


コンパクトフラッシュは、汎用拡張カードの小型化を目指したカードだからしていわゆるPCカード規格の一部として仕様が定められているため、単純なアダプタを使用する事でPCカードスロットでも利用することができる。これらの利点を生かし、不安定なオールド・ハードディスクをコンパクトフラッシュで置き換えたものは私にとって安定性を含めて大切なアイテムとなっている。

ともあれこの種のフラッシュメディアも小型化と大容量化、そして読み出し書き込みスピードの高速化を目標に進化してきたわけだが、あらためて振り返ってみると実用化されたのはそこそこ20年といった所なのにはちょっと驚いた次第である。そしてこれからも益々お世話になるデバイスに違いない…。
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プロフィール

mactechlab

Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員