Apple QuickTake100 リリース前秘話
本来の意味でデジタルカメラのブームはAppleのQuickTake100から始まったといえる。発表は1994年1月だがそれはコダック製であった。しかし残念ながらビジネス的には成功せずその後に登場したカシオのQV-10に市場の興味はすっかり移ってしまった感がある。 詳細な月日は記録がないが、1994年のある日...としておこうか。アップルコンピュータ社から電話が入った。アップルが千駄ヶ谷にあった頃の話しである。
依頼の内容は新発売するデジタルカメラについて意見を聞きたいということだった。私の会社はMacintosh関連のグラフィックにフォーカスしたソフトウェアを多々開発していたこともありAppleブランドのデジタルカメラを日本でリリースするに際しデベロッパの代表として意見を聞きたいという話だった。
早速私は千駄ヶ谷のアップルを訪れ、QuickTake100のプロダクト担当者に紹介されたが、米国からわざわざ来日した担当者とアップルのデベロッパー担当者、そして私との間で約1時間半程度のミーティングを行った。
見晴らしの良いビルの一室。モノトーンの綺麗な室内。そしてアップルのビルから見える真っ青な空が印象的だったが、担当者から見せられたQuickTake100は想像していたより大きかった。そして当時のPowerBookなどと同一の濃いグレーカラーは私にとってあまり好みではなかったがデザインは新鮮に映った。
しかし要はデザインとか大きさのことではなく(^_^)、販売戦略としてどのような位置づけをすべきなのかという一点が問題だった...。
QuickTake100は内部メモリーに最大でも8枚しか撮影ができないこと(現在のようにメモリカードなどはサポートされていない)。そして製品としては確かに画期的であったがその39万画素による最大640×480ピクセルの画質はお世辞にも写真とはいえない画質だった。それは当時としてはやむを得ないもののビジネス利用はもとより家庭向けとしても十分な画質ではなかったのである。

※Apple純正デジタルカメラ「QuickTake 100」
さて意外なことにAppleのプロダクトマネージャーはDTPの利用を想定して作ったパンフレットを持ち出し意見を求めてきた。どうやらスモール・ビジネス、そしてホームユースとしてデスクトップ・パブリッシングを意図した販売戦略を企画したらしい。なにしろApple純正カラープリンタであるStyleWriterとの組み合わせもアピールすることになっていた。
しかし私は即刻「このコンセプトにQuickTakeはそぐわない」と反対した。
QuickTakeの画質を直視し、勿論Macintoshユーザーの志向を考慮するなら「デジタルデータをデジタルデータのまま利用する「電子アルバム」向けの戦略が中心であるべきだ」というのが私の意見だった。撮影したデータは印刷には不向きであっても少々工夫することでモニター上の表示なら活用できると判断したからである。
それは当時すでに私の会社がNIFTY-Serve(現@nifty)のオンラインショップ向けに「QTアルバム」という電子アルバムソフトをリリースしていた実績があり、ユーザーからの反応も含めて総合的に考察した結論だった。
「QuickTakeでなければ出来ない」、「QuickTakeらしさ」といった方向を考えれば自ずとフォーカスが決まると思うが、QuickTakeを一般のカメラに立ち向かわせる時代ではなかったし、その性能でもなかった。事実StyleWriterで出力するQuickTakeの画像はお世辞にも綺麗なものではなかった。ましてやそれをビジネスで実利用することができるはずもなかった。
しかし当のプロダクトマネージャはPowerBookによる私のプレゼンテーションや「デジタルデータをそのまま活用させるべき」という提案をどうも理解できない様子だった(^_^)。最初は通訳してくれるアップルのスタッフがきちんと意味を伝えてくれないのかと思ったがどうもそうではないらしい...。
当時は「電子アルバム」といったソフトウェア自体もあまり見受けなかった時代だからしてそれがどのような意味を持つのかが理解できなかったのではあるまいか。
別に私の意見や提案が常に正しいというつもりはまったくない(笑)。しかしこれまで多くの米国Appleのプロダクトマネージャたちに会ってきたが、現在はともかく当時は意外なほど彼ら彼女らはその任されたプロダクトの専門家であるケースはほとんどなかった...。
無論デジタルカメラの専門家なんて当時はこの世になかったし、ましてや彼はカメラそのものに関しても十分な知識があったとは思えない。
だから...自分で言うのも気恥ずかしいが...例えば私より日常多くの写真を撮り、私より多くのデジタルカメラ利用の経験を持ち(それ以前はスチルカメラというアナログ記録のカメラが存在した)、ソフトウェアの事情に詳しく、Macintoshの市場に精通し、そしてMacintoshユーザーの気持ちを理解・代弁できるプロジェクトマネージャの判断なら意見が違っても一理はあるかも知れないと考えるだろう。しかし失礼ながら特に写真とかカメラを好むわけでもなく、単にプロジェクトマネージャに任命されたというだけの担当者に何が分かるのだろうか(^_^)。
デベロッパーの意見を聞きたいというその姿勢は良い。そしてせめて「貴方の(私のこと)いうことはよく分かる。しかしこうした理由で私たちは(Apple)はこういう戦略をとりたいのだ」というのなら話し合いは意味のあるものになるだろう。しかしそのミーティングのほとんどはAppleの販売戦略がどのようなものになるのかという説明に終始した。結局ストーリーはすでに出来上がっていたのだ...。
正直言ってやりたかった。「私も暇ではない。なぜあなた方は私を呼んだのか」と。
私はその言いたい言葉を飲み込みながら「現在の計画通りDTP路線でQuickTake100を販売するなら市場やユーザーの支持を得るのは難しいでしょう」と結論づけて席を立った。
アップルのビルのエントランスを出て「ふぅ〜」と大きなため息をつきながら空を見上げると、そこはすでに茜色に染まりつつあった。
その後のQuickTakeは150がリリースされ、さらに富士写真フイルムのOEM製品であるQuickTake200まで生き長らえたがせっかくのデジタルカメラ一番乗りはビジネスとして成功したとはいえず、続くカシオのQV-10の出現にその興味の座は奪われてしまった。

※QuickTake 200、富士写真フイルム製「クリップ・イットDS-8」のOEMだった
QuickTakeとMacintosh本体との接続はシリアルケーブルで行ったがコントロールパネルから認識させることができ、デスクトップにマウントされるという後のUSB接続を先取りするような斬新なものだっただけに残念に思う。
しかし私自身は律儀にも(笑)そのQuickTake 100ならびに150を仕事に関係したとはいえ、そして批判しながらも数台購入したのだからあまり偉そうなことも言えないのである...(^_^)。
依頼の内容は新発売するデジタルカメラについて意見を聞きたいということだった。私の会社はMacintosh関連のグラフィックにフォーカスしたソフトウェアを多々開発していたこともありAppleブランドのデジタルカメラを日本でリリースするに際しデベロッパの代表として意見を聞きたいという話だった。
早速私は千駄ヶ谷のアップルを訪れ、QuickTake100のプロダクト担当者に紹介されたが、米国からわざわざ来日した担当者とアップルのデベロッパー担当者、そして私との間で約1時間半程度のミーティングを行った。
見晴らしの良いビルの一室。モノトーンの綺麗な室内。そしてアップルのビルから見える真っ青な空が印象的だったが、担当者から見せられたQuickTake100は想像していたより大きかった。そして当時のPowerBookなどと同一の濃いグレーカラーは私にとってあまり好みではなかったがデザインは新鮮に映った。
しかし要はデザインとか大きさのことではなく(^_^)、販売戦略としてどのような位置づけをすべきなのかという一点が問題だった...。
QuickTake100は内部メモリーに最大でも8枚しか撮影ができないこと(現在のようにメモリカードなどはサポートされていない)。そして製品としては確かに画期的であったがその39万画素による最大640×480ピクセルの画質はお世辞にも写真とはいえない画質だった。それは当時としてはやむを得ないもののビジネス利用はもとより家庭向けとしても十分な画質ではなかったのである。

※Apple純正デジタルカメラ「QuickTake 100」
さて意外なことにAppleのプロダクトマネージャーはDTPの利用を想定して作ったパンフレットを持ち出し意見を求めてきた。どうやらスモール・ビジネス、そしてホームユースとしてデスクトップ・パブリッシングを意図した販売戦略を企画したらしい。なにしろApple純正カラープリンタであるStyleWriterとの組み合わせもアピールすることになっていた。
しかし私は即刻「このコンセプトにQuickTakeはそぐわない」と反対した。
QuickTakeの画質を直視し、勿論Macintoshユーザーの志向を考慮するなら「デジタルデータをデジタルデータのまま利用する「電子アルバム」向けの戦略が中心であるべきだ」というのが私の意見だった。撮影したデータは印刷には不向きであっても少々工夫することでモニター上の表示なら活用できると判断したからである。
それは当時すでに私の会社がNIFTY-Serve(現@nifty)のオンラインショップ向けに「QTアルバム」という電子アルバムソフトをリリースしていた実績があり、ユーザーからの反応も含めて総合的に考察した結論だった。
「QuickTakeでなければ出来ない」、「QuickTakeらしさ」といった方向を考えれば自ずとフォーカスが決まると思うが、QuickTakeを一般のカメラに立ち向かわせる時代ではなかったし、その性能でもなかった。事実StyleWriterで出力するQuickTakeの画像はお世辞にも綺麗なものではなかった。ましてやそれをビジネスで実利用することができるはずもなかった。
しかし当のプロダクトマネージャはPowerBookによる私のプレゼンテーションや「デジタルデータをそのまま活用させるべき」という提案をどうも理解できない様子だった(^_^)。最初は通訳してくれるアップルのスタッフがきちんと意味を伝えてくれないのかと思ったがどうもそうではないらしい...。
当時は「電子アルバム」といったソフトウェア自体もあまり見受けなかった時代だからしてそれがどのような意味を持つのかが理解できなかったのではあるまいか。
別に私の意見や提案が常に正しいというつもりはまったくない(笑)。しかしこれまで多くの米国Appleのプロダクトマネージャたちに会ってきたが、現在はともかく当時は意外なほど彼ら彼女らはその任されたプロダクトの専門家であるケースはほとんどなかった...。
無論デジタルカメラの専門家なんて当時はこの世になかったし、ましてや彼はカメラそのものに関しても十分な知識があったとは思えない。
だから...自分で言うのも気恥ずかしいが...例えば私より日常多くの写真を撮り、私より多くのデジタルカメラ利用の経験を持ち(それ以前はスチルカメラというアナログ記録のカメラが存在した)、ソフトウェアの事情に詳しく、Macintoshの市場に精通し、そしてMacintoshユーザーの気持ちを理解・代弁できるプロジェクトマネージャの判断なら意見が違っても一理はあるかも知れないと考えるだろう。しかし失礼ながら特に写真とかカメラを好むわけでもなく、単にプロジェクトマネージャに任命されたというだけの担当者に何が分かるのだろうか(^_^)。
デベロッパーの意見を聞きたいというその姿勢は良い。そしてせめて「貴方の(私のこと)いうことはよく分かる。しかしこうした理由で私たちは(Apple)はこういう戦略をとりたいのだ」というのなら話し合いは意味のあるものになるだろう。しかしそのミーティングのほとんどはAppleの販売戦略がどのようなものになるのかという説明に終始した。結局ストーリーはすでに出来上がっていたのだ...。
正直言ってやりたかった。「私も暇ではない。なぜあなた方は私を呼んだのか」と。
私はその言いたい言葉を飲み込みながら「現在の計画通りDTP路線でQuickTake100を販売するなら市場やユーザーの支持を得るのは難しいでしょう」と結論づけて席を立った。
アップルのビルのエントランスを出て「ふぅ〜」と大きなため息をつきながら空を見上げると、そこはすでに茜色に染まりつつあった。
その後のQuickTakeは150がリリースされ、さらに富士写真フイルムのOEM製品であるQuickTake200まで生き長らえたがせっかくのデジタルカメラ一番乗りはビジネスとして成功したとはいえず、続くカシオのQV-10の出現にその興味の座は奪われてしまった。

※QuickTake 200、富士写真フイルム製「クリップ・イットDS-8」のOEMだった
QuickTakeとMacintosh本体との接続はシリアルケーブルで行ったがコントロールパネルから認識させることができ、デスクトップにマウントされるという後のUSB接続を先取りするような斬新なものだっただけに残念に思う。
しかし私自身は律儀にも(笑)そのQuickTake 100ならびに150を仕事に関係したとはいえ、そして批判しながらも数台購入したのだからあまり偉そうなことも言えないのである...(^_^)。
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