コミック版「Performaで始めるMacintosh」に見る1994年
コンシューマ市場向けにと投入されたMacintosh Performaシリーズが発表されたのは1992年だった。今回は1994年12月31日に発行された徳間書店刊「コミック版パフォーマーではじめるマッキントッシュ〜並木りさ マックで絵を描く」から見た当時を覗いてみよう。
さて1994年だから、Performa 575や外観もスペック的にもLC630と同じPerforma 630が登場した時期に変わった企画が私のところに持ち込まれた。
それは徳間書店からで、すでに発刊されていた「コミック版パフォーマではじめるマキントッシュ〜並木譲マックをはじめる!」のグラフィック編を作りたいので協力して欲しいとの依頼だった。
正直、私はその本を読んではいなかったが、Performaが家庭に入っていくその勢いを追い風に、コミックで分かりやすくMacintoshによるグラフィックの世界とその可能性、そしてマルチメディアといったものを解説したいという趣旨だった。
なぜその企画が私のところに持ち込まれたのか...それは当時のPerforma向けに最適なアプリケーションを複数開発していたからである。また企画自体は我々にとっても大変美味しい部分があるものでもあった。本文には必然的に自社のプロダクトが紹介されるし、折り込み広告も制作していただけるとのことだった。
そんな話の中でこの企画は現実となった。

※徳間書店刊「コミック版パフォーマーではじめるマッキントッシュ〜並木りさ マックで絵を描く」表紙(ISBN4-19-860221-2)
コンテンツは大きく分けてSTEP1からSTEP3までの3ブロックに分かれ、STEP1が「並木りさ マックで絵を描く!」、STEP2が「パフォーマで何をするの?」、そしてSTEP3が「創ろう!ホームマルチメディア」といった内容である。
そのSTEP1の「並木りさ マックで絵を描く!」がヴァーチャル電脳漫画ということで漫画でパソコンの可能性を追った内容となっているが、そのストーリーは広告代理店に勤務する父親とその家族や周辺を巻き込んだもので、一部リアルな大人の生活感を出しながらも並木家に置かれたPerformaを長女のりさが使いこなしていく...といった内容だ。
ちなみに私の直接の担当部分はSTEP3の「創ろう!ホームマルチメディア」の項を執筆することだった。それは結果として113ページからコラムも含めて187ページまで続くなかなかの大作であった(^_^)。
さらに巻末にはフロッピーディスクが一枚付属し、そこには自社開発アプリケーションの「キューティマスコット」と「ムービーぺイント」による作品紹介が含まれていた。
この本がビジネスとして成功したかはともかく、本企画の後に早くも第3弾のサウンド編「並木鈴子 マックで歌う!」が予定されたことを考えると出版側の意気込みの大きさが伝わってくる。
さて、本書のターゲットは自ずと絞られたことだろう。それはパソコンを使いたくても苦手な父親であり、母親であるはずだ。そうしたユーザー層にコミックを使って分かりやすくパソコンの可能性と有用性、そして楽しさや面白さを伝えたいといったものである。
とにかく、当時は「一家に一台パソコンを!」といった感じの時期・時代だったし、各メーカーの販売合戦も日増しに熾烈なものになっていった。そんな中で、パソコンに強迫観念とか劣等感を持ちつつ、何とか使いこなしたいといった希望も併せ持った層にこの企画はアピールしたかったのだ。
しかし結果はどうだったのだろうか...。
ひとつはマルチメディアなどというもともと言葉やイメージが先行し、実態のないようなものをコミックといえども誌面...ペーパーメディアで伝える難しさがあった。またその内容も当事者の一人が言うのも何だが...苦手なお父さんにはまだまだやさしいとはいえなかったのかもしれない。
ただ現在の環境と違いこの企画が通った背景には、Performaのユーザーであれば、本書の中で解説しているキッドピクスやムービーペイントなどといったソフトウェアは必ずバンドルされており、あらためて予算を必要とするものではなかった。しかしそもそもこのPerforma戦略が破綻する足音はこの頃から少しづつ聞こえ始めてきた...。
アップル側は国産パソコンと競争するためには相応の数のバンドルソフトを必要としたし、価格競争にも巻き込まれていく。しかしユーザー側はよりシビアだった...というより、バンドルソフトに対しての反応が鈍かったように思う。
私の持論だが、「自分の懐から出た金で買わないものは価値がわからない」のだ。極端な例としてはアニメーションソフトのムービーペイントがバンドルされているにもかかわらず、それを知らずに別途パッケージを買おうとされるユーザーも多々いらした。さらに残念なのは多くのバンドルソフトのひとつひとつについての認識度が低く、「無料のソフトにろくな物はない...」といったオマケ感覚でほとんど無視されるユーザーも多かったように思う。しかし反面ご自分で創られた作品をわざわざ私の会社までお送りいただく熱心なユーザーがいらしたことも事実であった。
結局Performaは...というより「一家に一台パソコンを」のうたい文句で販売されたパソコンの多くは、お父さんやお母さんの真からの自主的購入というより「時代に遅れないように」とか「隣のAさんちにもパソコンがあるから」といったある種の強迫観念のなせる技であった。
それを象徴するかのように、本書に織り込まれたアップルコンピュータ社の広告コピーは「たとえば、家族のために、Macを買う。」といった内容だったのである。

※当時のアップルコンピュータによるPerformaの広告例(一部)
これでは確かに一度はパソコンを買っていただいたにせよ、それらを使いこなすどころか、次の買い換え需要や周辺機器購入およびソフトウェアの購買意識など高まるはずはない。そして結局Performa自体が放置されるはめとなる。
私にとってこの「コミック版パフォーマーではじめるマッキントッシュ〜並木りさ マックで絵を描く」の一冊は、ある意味パソコンバブル期の象徴でもあり、ひとつの新しい試みではあったものの多くの教訓を心に刻むモニュメントとなった。
さて1994年だから、Performa 575や外観もスペック的にもLC630と同じPerforma 630が登場した時期に変わった企画が私のところに持ち込まれた。
それは徳間書店からで、すでに発刊されていた「コミック版パフォーマではじめるマキントッシュ〜並木譲マックをはじめる!」のグラフィック編を作りたいので協力して欲しいとの依頼だった。
正直、私はその本を読んではいなかったが、Performaが家庭に入っていくその勢いを追い風に、コミックで分かりやすくMacintoshによるグラフィックの世界とその可能性、そしてマルチメディアといったものを解説したいという趣旨だった。
なぜその企画が私のところに持ち込まれたのか...それは当時のPerforma向けに最適なアプリケーションを複数開発していたからである。また企画自体は我々にとっても大変美味しい部分があるものでもあった。本文には必然的に自社のプロダクトが紹介されるし、折り込み広告も制作していただけるとのことだった。
そんな話の中でこの企画は現実となった。

※徳間書店刊「コミック版パフォーマーではじめるマッキントッシュ〜並木りさ マックで絵を描く」表紙(ISBN4-19-860221-2)
コンテンツは大きく分けてSTEP1からSTEP3までの3ブロックに分かれ、STEP1が「並木りさ マックで絵を描く!」、STEP2が「パフォーマで何をするの?」、そしてSTEP3が「創ろう!ホームマルチメディア」といった内容である。
そのSTEP1の「並木りさ マックで絵を描く!」がヴァーチャル電脳漫画ということで漫画でパソコンの可能性を追った内容となっているが、そのストーリーは広告代理店に勤務する父親とその家族や周辺を巻き込んだもので、一部リアルな大人の生活感を出しながらも並木家に置かれたPerformaを長女のりさが使いこなしていく...といった内容だ。
ちなみに私の直接の担当部分はSTEP3の「創ろう!ホームマルチメディア」の項を執筆することだった。それは結果として113ページからコラムも含めて187ページまで続くなかなかの大作であった(^_^)。
さらに巻末にはフロッピーディスクが一枚付属し、そこには自社開発アプリケーションの「キューティマスコット」と「ムービーぺイント」による作品紹介が含まれていた。
この本がビジネスとして成功したかはともかく、本企画の後に早くも第3弾のサウンド編「並木鈴子 マックで歌う!」が予定されたことを考えると出版側の意気込みの大きさが伝わってくる。
さて、本書のターゲットは自ずと絞られたことだろう。それはパソコンを使いたくても苦手な父親であり、母親であるはずだ。そうしたユーザー層にコミックを使って分かりやすくパソコンの可能性と有用性、そして楽しさや面白さを伝えたいといったものである。
とにかく、当時は「一家に一台パソコンを!」といった感じの時期・時代だったし、各メーカーの販売合戦も日増しに熾烈なものになっていった。そんな中で、パソコンに強迫観念とか劣等感を持ちつつ、何とか使いこなしたいといった希望も併せ持った層にこの企画はアピールしたかったのだ。
しかし結果はどうだったのだろうか...。
ひとつはマルチメディアなどというもともと言葉やイメージが先行し、実態のないようなものをコミックといえども誌面...ペーパーメディアで伝える難しさがあった。またその内容も当事者の一人が言うのも何だが...苦手なお父さんにはまだまだやさしいとはいえなかったのかもしれない。
ただ現在の環境と違いこの企画が通った背景には、Performaのユーザーであれば、本書の中で解説しているキッドピクスやムービーペイントなどといったソフトウェアは必ずバンドルされており、あらためて予算を必要とするものではなかった。しかしそもそもこのPerforma戦略が破綻する足音はこの頃から少しづつ聞こえ始めてきた...。
アップル側は国産パソコンと競争するためには相応の数のバンドルソフトを必要としたし、価格競争にも巻き込まれていく。しかしユーザー側はよりシビアだった...というより、バンドルソフトに対しての反応が鈍かったように思う。
私の持論だが、「自分の懐から出た金で買わないものは価値がわからない」のだ。極端な例としてはアニメーションソフトのムービーペイントがバンドルされているにもかかわらず、それを知らずに別途パッケージを買おうとされるユーザーも多々いらした。さらに残念なのは多くのバンドルソフトのひとつひとつについての認識度が低く、「無料のソフトにろくな物はない...」といったオマケ感覚でほとんど無視されるユーザーも多かったように思う。しかし反面ご自分で創られた作品をわざわざ私の会社までお送りいただく熱心なユーザーがいらしたことも事実であった。
結局Performaは...というより「一家に一台パソコンを」のうたい文句で販売されたパソコンの多くは、お父さんやお母さんの真からの自主的購入というより「時代に遅れないように」とか「隣のAさんちにもパソコンがあるから」といったある種の強迫観念のなせる技であった。
それを象徴するかのように、本書に織り込まれたアップルコンピュータ社の広告コピーは「たとえば、家族のために、Macを買う。」といった内容だったのである。

※当時のアップルコンピュータによるPerformaの広告例(一部)
これでは確かに一度はパソコンを買っていただいたにせよ、それらを使いこなすどころか、次の買い換え需要や周辺機器購入およびソフトウェアの購買意識など高まるはずはない。そして結局Performa自体が放置されるはめとなる。
私にとってこの「コミック版パフォーマーではじめるマッキントッシュ〜並木りさ マックで絵を描く」の一冊は、ある意味パソコンバブル期の象徴でもあり、ひとつの新しい試みではあったものの多くの教訓を心に刻むモニュメントとなった。
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