Old Macintoshと "RACTER" に見る白昼夢
オールドMacファンなら"RACTER" というアプリケーションはご存じなはずだ。少々古いことを調べる必要があり久しぶりに愛機Mac Plusを引っ張り出してその"RACTER"を起動してみた...。
やれIntel MacだBoot Campだと騒がしい昨今だが(笑)、昔のMacintoshを手にすると何故か故郷に帰ったような気がして懐かしさだけでなくほっとする。
現在御影石調に塗ってある愛機は1984年にリリースされたMacintosh 128Kを翌年に512KBにRAM増設し、1986年にMac Plusにハードウェア・アップデートをしたものだ。幸い現在でもモニターやロジックボードはもとよりフロッピーディスクドライブも健在であるが無論ハードディスクは内蔵されていない。

※Racterのスタートアップ画面を表示する愛機Macintosh Plus
さて今回の主役である"RACTER" というソフトウェアだが1984年、Inrac Corporation, Manufactured.からリリースされたが翌年の1985年にMindscape,Inc.からの販売となった。当時は新しいソフトウェアで入手できるものはほとんど手に入れたものだが、そうした中でも大きな衝撃を受けたソフトウェアのひとつである。
ご存じない方も多いと思うから簡単に説明するならこの"RACTER" というソフトウェアはエンターテインメントの部類にはいるのだろうか...マックの中の"RACTER" という人格?とユーザーが会話(英語)を楽しむという未来的で挑戦的な製品であった。これまたありがたいことにそのオリジナルディスクは今もって健在である。

※"RACTER" のオリジナルフロッピーディスク。この一枚にアプリケーションとOSが含まれている
「コンピュータとの会話」となればAI (Artificial Intelligence=人工知能)にも感心が向くが、"RACTER" は残念ながら現在でいうところのAIが搭載されているわけではなくアプリケーション側の辞書とユーザーの入力テキストとをパターンマッチングさせてそれらしい進行を演出するというお遊びである。
しかし"RACTER" 側はテキストだけではなかった。1984年のMacintosh発表会でスティーブ・ジョブズが紹介し、キャリングバッグの中から登場したMacintoshは自ら合成音でスピーチしたことは知られているが"RACTER" は同様に"SmoothTalker"というスピーチ・エンジンを使っているため男性の声で話しかけてくる。なにかHAL9000と会話をしているような楽しさがあるのだ。

※"RACTER" のスタートアップ画面
ただしその会話自体は英語であるだけでなくスラングも多く正直私などには歯が立たないが、会話の途中で「ちょっと待ってくれ...」と言って中座したり、いきなり「共産主義についてどう思うか?」と質問する(笑)。またこれまでの経験でシェイクスピアに詳しいようなので(笑)今回はいきなり「シェイクスピアを知っているか?」と"RACTER" に質問をしてみたが「私は以前から知っている」と自慢すると思ったらいきなり「プラトンは恐らくニーチェが好きではないだろう...」と話を変え「あなたはニーチェがconventional(平凡とすべきか)であったと思うか?」などとはぐらかす。
この"RACTER" が400KBのフロッピーディスク一枚にOSと共に収録されているのだから今更ながらに驚くではないか...。


※"RACTER"とのやりとりはこんな感じで進む(上)。下では生意気にもプラトンやニーチェの名前まで引き合いにして煙に巻く(笑)
さて、"RACTER" が登場してからすでに21年にもなった。先のWWDC 2006基調講演でも自然なイントネーションでスピーチする新しいテキストスピーチ機能のデモもあった。そして最近はAIという語もあまり積極的には聞かれなくなったように思うが確実に技術的な進歩はあるはずだしヒューマノイドとある種の自然会話ができるような技術も進んでいると聞く。だとすれば人がコンピュータに求める最大の関心事のひとつである「コンピュータと会話できる」的なソフトウェアが登場しても良いと思うのだが...。
以前、サイト上のエージェントとキーボードにより会話をし、検索やらの手助けをしてくれるというシステムを見たこともあるがその後メディアに大きく取り上げられた記憶もない。
HAL9000と会話(キーボードからでも良いが)をするようにMacintoshと会話ができたらいいなあと思うと同時に、特定分野の問題解決の支援に役立てたいと思うのだ...。一言で言うなら私はパーソナル・エキスパートシステムが欲しいのである(笑)。
例えばだが、"New RACTER"を起動すると「...私はマッキントッシュ。アメリカのアップルコンピュータ社で生まれました」だなんていうアバウト的なやりとりで始まり、ユーザーの名前を覚え、これまで起動したアプリの名やその年月日を記憶するだけでなくSpotlight的にメーラーやワープロ、テキストエディタでユーザーが入力した文章などを統括して知識ベースを構築するシステムはできないものだろうか。日々入力や検索した情報を元にパソコンが学習機能も含めて利口になっていくと面白い。そうしたデータベースを元に人とコミュニケーションでき、単なる検索システムで終わらないある種のエキスパートシステムが構築できないものかと思う。
そうした中でコンピュータ側はユーザーの趣味趣向も覚えていくだろうし、コミュニケーションがより楽しくなるのではないか。
もっと大きな意味でいうなら、あのテッド・ネルソンが提唱したハイパーテキストの概念はHTMLやHTTPなどの技術を組み合わせ、現在ではWWWとして世界規模のハイパーメディアシステムが構築されている。そうしたものを単に断片的で即物的なデータの集合、すなわち量だけで済ますのではなく、そこから何らかの目的に即した知識ベースが構築できれば一台のコンピュータ...いやMacintoshはますます我々にとって単なるマシンではなく仲間であり友人になっていくと思われる。まあ生身の人間よりコンピュータの方がよい...といったことではまずいのだが(笑)、そんな気持ちにさせるようなコンピュータが欲しいと思う。
久しぶりに"RACTER"を使ってみてその「Hello, I'm Ractor...」という声に懐かしさを覚えただけでなく、どうやら白昼夢を見てしまったようだ...。
やれIntel MacだBoot Campだと騒がしい昨今だが(笑)、昔のMacintoshを手にすると何故か故郷に帰ったような気がして懐かしさだけでなくほっとする。
現在御影石調に塗ってある愛機は1984年にリリースされたMacintosh 128Kを翌年に512KBにRAM増設し、1986年にMac Plusにハードウェア・アップデートをしたものだ。幸い現在でもモニターやロジックボードはもとよりフロッピーディスクドライブも健在であるが無論ハードディスクは内蔵されていない。

※Racterのスタートアップ画面を表示する愛機Macintosh Plus
さて今回の主役である"RACTER" というソフトウェアだが1984年、Inrac Corporation, Manufactured.からリリースされたが翌年の1985年にMindscape,Inc.からの販売となった。当時は新しいソフトウェアで入手できるものはほとんど手に入れたものだが、そうした中でも大きな衝撃を受けたソフトウェアのひとつである。
ご存じない方も多いと思うから簡単に説明するならこの"RACTER" というソフトウェアはエンターテインメントの部類にはいるのだろうか...マックの中の"RACTER" という人格?とユーザーが会話(英語)を楽しむという未来的で挑戦的な製品であった。これまたありがたいことにそのオリジナルディスクは今もって健在である。

※"RACTER" のオリジナルフロッピーディスク。この一枚にアプリケーションとOSが含まれている
「コンピュータとの会話」となればAI (Artificial Intelligence=人工知能)にも感心が向くが、"RACTER" は残念ながら現在でいうところのAIが搭載されているわけではなくアプリケーション側の辞書とユーザーの入力テキストとをパターンマッチングさせてそれらしい進行を演出するというお遊びである。
しかし"RACTER" 側はテキストだけではなかった。1984年のMacintosh発表会でスティーブ・ジョブズが紹介し、キャリングバッグの中から登場したMacintoshは自ら合成音でスピーチしたことは知られているが"RACTER" は同様に"SmoothTalker"というスピーチ・エンジンを使っているため男性の声で話しかけてくる。なにかHAL9000と会話をしているような楽しさがあるのだ。

※"RACTER" のスタートアップ画面
ただしその会話自体は英語であるだけでなくスラングも多く正直私などには歯が立たないが、会話の途中で「ちょっと待ってくれ...」と言って中座したり、いきなり「共産主義についてどう思うか?」と質問する(笑)。またこれまでの経験でシェイクスピアに詳しいようなので(笑)今回はいきなり「シェイクスピアを知っているか?」と"RACTER" に質問をしてみたが「私は以前から知っている」と自慢すると思ったらいきなり「プラトンは恐らくニーチェが好きではないだろう...」と話を変え「あなたはニーチェがconventional(平凡とすべきか)であったと思うか?」などとはぐらかす。
この"RACTER" が400KBのフロッピーディスク一枚にOSと共に収録されているのだから今更ながらに驚くではないか...。


※"RACTER"とのやりとりはこんな感じで進む(上)。下では生意気にもプラトンやニーチェの名前まで引き合いにして煙に巻く(笑)
さて、"RACTER" が登場してからすでに21年にもなった。先のWWDC 2006基調講演でも自然なイントネーションでスピーチする新しいテキストスピーチ機能のデモもあった。そして最近はAIという語もあまり積極的には聞かれなくなったように思うが確実に技術的な進歩はあるはずだしヒューマノイドとある種の自然会話ができるような技術も進んでいると聞く。だとすれば人がコンピュータに求める最大の関心事のひとつである「コンピュータと会話できる」的なソフトウェアが登場しても良いと思うのだが...。
以前、サイト上のエージェントとキーボードにより会話をし、検索やらの手助けをしてくれるというシステムを見たこともあるがその後メディアに大きく取り上げられた記憶もない。
HAL9000と会話(キーボードからでも良いが)をするようにMacintoshと会話ができたらいいなあと思うと同時に、特定分野の問題解決の支援に役立てたいと思うのだ...。一言で言うなら私はパーソナル・エキスパートシステムが欲しいのである(笑)。
例えばだが、"New RACTER"を起動すると「...私はマッキントッシュ。アメリカのアップルコンピュータ社で生まれました」だなんていうアバウト的なやりとりで始まり、ユーザーの名前を覚え、これまで起動したアプリの名やその年月日を記憶するだけでなくSpotlight的にメーラーやワープロ、テキストエディタでユーザーが入力した文章などを統括して知識ベースを構築するシステムはできないものだろうか。日々入力や検索した情報を元にパソコンが学習機能も含めて利口になっていくと面白い。そうしたデータベースを元に人とコミュニケーションでき、単なる検索システムで終わらないある種のエキスパートシステムが構築できないものかと思う。
そうした中でコンピュータ側はユーザーの趣味趣向も覚えていくだろうし、コミュニケーションがより楽しくなるのではないか。
もっと大きな意味でいうなら、あのテッド・ネルソンが提唱したハイパーテキストの概念はHTMLやHTTPなどの技術を組み合わせ、現在ではWWWとして世界規模のハイパーメディアシステムが構築されている。そうしたものを単に断片的で即物的なデータの集合、すなわち量だけで済ますのではなく、そこから何らかの目的に即した知識ベースが構築できれば一台のコンピュータ...いやMacintoshはますます我々にとって単なるマシンではなく仲間であり友人になっていくと思われる。まあ生身の人間よりコンピュータの方がよい...といったことではまずいのだが(笑)、そんな気持ちにさせるようなコンピュータが欲しいと思う。
久しぶりに"RACTER"を使ってみてその「Hello, I'm Ractor...」という声に懐かしさを覚えただけでなく、どうやら白昼夢を見てしまったようだ...。
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