Appleが人間工学を考慮した製品〜Apple Adjustable Keyboard考
アップル製品はデザインの素晴らしさで定評がある。それは間違いないが、そのデザインは真の意味で使いやすさを追求するものであるかはまた別の問題である。しかし1992年に発表されたApple Adjustable Keyboardは間違いなく本当の意味で使いやすさを追求した製品のひとつだった。
パソコンのキーボード作りは難しいと同時にあまり面白みがないのではないか...。誰もが真に使いやすいとは思っていないQWERTY配列、どれもこれもキートップを同じように並べただけのような製品に新しいアイデアなど考えつかないのか面白くもない製品がほとんどだ(笑)。しかもパソコンを使うことは必然的にキーボードと向かい合うことであり、キーボードを無視して事実上パソコンを操作することはできないわけで、キーボードとはとても重要な周辺機器である。それなのにキーボードはいわばメーカーから与えられたものを使うしかない...というか、そうしたことに疑問すらわかないユーザーも多いのが現実だろう。
Appleは最近もアルミニウムをベースにした新しい2種類のキーボードを製品化したが、それは雑然として製品になりがちな他社製キーボードとは比較にならないシンプルかつクールなデザインである点はAppleの真骨頂であろう。とはいえこの最新型が旧来のキーボードより格段に優れ、使い勝手にもめざましい進化が見られるわけではないところにキーボードという製品の難しいところがある。
Appleは1984年にリリースした最初のMacintosh 128Kでそれまでのパソコンとは違ったアプローチをした。GUIもそのうちの大きな要因だったしワンボタンマウスも3.5インチフロッピーディスクもそうだった。それらに一貫していたことはメーカーとしてユーザーインターフェイスをきちんと認識していたことだと思う。単純に機器をカバーするためのデザイン設計ではなく最初にデザインありき、使い勝手の良さを追求したコンセプトがうかがえる製品だった。

※Apple Adjustable Keyboardフルセット(ケーブル類はつなげていない)
話をキーボードに絞れば、Apple IIから最新のMacBook Airに至るまで数多くのキーボードがAppleから提供されたが、キーボード製品そのもので忘れられないものがあるとすれば1992年5月に発表された「Apple Adjustable Keyboard」ただ一つだといってもよいかも知れない。あえてもう一つ上げるとすれば、拡張キーボードがあるが、これとてその名の通り往時のキーボードを拡張した製品であり、単体で目新しい特徴を持っていたわけではない。そして後のキーボードは当時のマシン本体に合わせて無難なものでしかなく、Performaの一時期などは見るからにコストダウン第一で製造したような粗悪なキーボードも存在した。
そうしてAppleの歴史、キーボードの変遷をあらためて眺めてみればやはりApple Adjustable Keyboardの存在は歴然と輝いてくるし、これを抜きにパソコンのキーボードを語ることはできないと思う。
さて、ではApple Adjustable Keyboardとはどのような製品だったのだろうか。
ひと言でいってしまえばその名の通り「調節可能なキーボード」ということになる。調節とは使い手に都合の良いように変えることが出来るという意味だが、事実我々の手は大きさも指の長さも太さも人それぞれで違う。特に長時間の使用にも疲れを感じさせず、何よりも使い勝手の良いものでなければならないはずだがそんな多種多様なニーズにひとつのキーボードで対応できるわけはない。
ともあれ、両手をキーボードの上に置いてみれば分かるが、両腕はキーボードのホームポジション位置に寄せられて手の甲はハの字形に置かれるのが普通だ。それらを考慮すればキーボードもそうした我々人間の制約に合わせて形状を作ればよいかというと、これがなかなか難しい。ハの字形の角度だって人それぞれで違うだろうし、キーボードの何処を中心にしてハの字形に分割したらよいのか...。第一スペースキーはどうしたらよいか。スペースキーも左右にそれぞれ用意するべきなのか...。そうした複雑な要求に対しひとつの理想型がApple Adjustable Keyboardだといえる。


※Apple Adjustable Keyboardのフルキー(上)とテンキー(下)の拡大
Apple Adjustable Keyboardはフルキー部分とテンキーに別れている設計である。テンキーが不要なら使わなくてもよいしこの分離型はキーボード設計のひとつの回答でもある。ただしApple Adjustable Keyboardのテンキーは単純なテンキーではなくカーソルキーやファンクションキーが付属している。そしてフルキーの方は大きめなスペースキーを中央に取り残す形で最上段の数字キーの「5」と「6」の間から上部に角度を付けて左右2つに分離するようになっている。したがって左右に分離させる際の角度は自身の手の置き方に合わせれば理想に近いポジションを得ることが出来ることになる。またフルキーならびにテンキー両方に取り外し可能な専用パームレストが付いている。
キーボードに限らず我々は慣れという代物に判断を曇らせてしまう場合があるが、いまそのキーに指を触れてみるとキーストロークも良くそのインターフェイスがADBでなくUSBならいまでも使ってみたいと思わせるに十分な代物だ。
当時、もしこのキーボードがすべてのマックに同梱されていたなら、Apple製品のキーボード評価はもっと高く、多くのユーザーの記憶に留まっただろう。しかしコストの問題もあり実際にはオプションという形で販売したために実物をご覧になった方は意外と少ないのではないか。
手元にあるApple Adjustable Keyboardは経年変化でボディ部位が変色しているが全体のコンデションは悪くない。またそのパッケージはAppleのプロダクトとしては地味なものだが、蓋を開けてみると一部がアップルロゴの形にくり抜かれているなどAppleの拘りを感じさせる。


※Apple Adjustable Keyboardパッケージ(上)と緩衝材にもアップルロゴが抜かれている(下)
そんなApple Adjustable Keyboardだが、ひとつ大きな欠点がある。
それはパームレストを含めたフルセットを机上に置くにはかなりのスペースを必要とすることだ。もしかしたらこのApple Adjustable Keyboardが日本で今ひとつ売れなかったのはコストの問題と共に設置サイズの問題があったのかも知れない。
パソコンのキーボード作りは難しいと同時にあまり面白みがないのではないか...。誰もが真に使いやすいとは思っていないQWERTY配列、どれもこれもキートップを同じように並べただけのような製品に新しいアイデアなど考えつかないのか面白くもない製品がほとんどだ(笑)。しかもパソコンを使うことは必然的にキーボードと向かい合うことであり、キーボードを無視して事実上パソコンを操作することはできないわけで、キーボードとはとても重要な周辺機器である。それなのにキーボードはいわばメーカーから与えられたものを使うしかない...というか、そうしたことに疑問すらわかないユーザーも多いのが現実だろう。
Appleは最近もアルミニウムをベースにした新しい2種類のキーボードを製品化したが、それは雑然として製品になりがちな他社製キーボードとは比較にならないシンプルかつクールなデザインである点はAppleの真骨頂であろう。とはいえこの最新型が旧来のキーボードより格段に優れ、使い勝手にもめざましい進化が見られるわけではないところにキーボードという製品の難しいところがある。
Appleは1984年にリリースした最初のMacintosh 128Kでそれまでのパソコンとは違ったアプローチをした。GUIもそのうちの大きな要因だったしワンボタンマウスも3.5インチフロッピーディスクもそうだった。それらに一貫していたことはメーカーとしてユーザーインターフェイスをきちんと認識していたことだと思う。単純に機器をカバーするためのデザイン設計ではなく最初にデザインありき、使い勝手の良さを追求したコンセプトがうかがえる製品だった。

※Apple Adjustable Keyboardフルセット(ケーブル類はつなげていない)
話をキーボードに絞れば、Apple IIから最新のMacBook Airに至るまで数多くのキーボードがAppleから提供されたが、キーボード製品そのもので忘れられないものがあるとすれば1992年5月に発表された「Apple Adjustable Keyboard」ただ一つだといってもよいかも知れない。あえてもう一つ上げるとすれば、拡張キーボードがあるが、これとてその名の通り往時のキーボードを拡張した製品であり、単体で目新しい特徴を持っていたわけではない。そして後のキーボードは当時のマシン本体に合わせて無難なものでしかなく、Performaの一時期などは見るからにコストダウン第一で製造したような粗悪なキーボードも存在した。
そうしてAppleの歴史、キーボードの変遷をあらためて眺めてみればやはりApple Adjustable Keyboardの存在は歴然と輝いてくるし、これを抜きにパソコンのキーボードを語ることはできないと思う。
さて、ではApple Adjustable Keyboardとはどのような製品だったのだろうか。
ひと言でいってしまえばその名の通り「調節可能なキーボード」ということになる。調節とは使い手に都合の良いように変えることが出来るという意味だが、事実我々の手は大きさも指の長さも太さも人それぞれで違う。特に長時間の使用にも疲れを感じさせず、何よりも使い勝手の良いものでなければならないはずだがそんな多種多様なニーズにひとつのキーボードで対応できるわけはない。
ともあれ、両手をキーボードの上に置いてみれば分かるが、両腕はキーボードのホームポジション位置に寄せられて手の甲はハの字形に置かれるのが普通だ。それらを考慮すればキーボードもそうした我々人間の制約に合わせて形状を作ればよいかというと、これがなかなか難しい。ハの字形の角度だって人それぞれで違うだろうし、キーボードの何処を中心にしてハの字形に分割したらよいのか...。第一スペースキーはどうしたらよいか。スペースキーも左右にそれぞれ用意するべきなのか...。そうした複雑な要求に対しひとつの理想型がApple Adjustable Keyboardだといえる。


※Apple Adjustable Keyboardのフルキー(上)とテンキー(下)の拡大
Apple Adjustable Keyboardはフルキー部分とテンキーに別れている設計である。テンキーが不要なら使わなくてもよいしこの分離型はキーボード設計のひとつの回答でもある。ただしApple Adjustable Keyboardのテンキーは単純なテンキーではなくカーソルキーやファンクションキーが付属している。そしてフルキーの方は大きめなスペースキーを中央に取り残す形で最上段の数字キーの「5」と「6」の間から上部に角度を付けて左右2つに分離するようになっている。したがって左右に分離させる際の角度は自身の手の置き方に合わせれば理想に近いポジションを得ることが出来ることになる。またフルキーならびにテンキー両方に取り外し可能な専用パームレストが付いている。
キーボードに限らず我々は慣れという代物に判断を曇らせてしまう場合があるが、いまそのキーに指を触れてみるとキーストロークも良くそのインターフェイスがADBでなくUSBならいまでも使ってみたいと思わせるに十分な代物だ。
当時、もしこのキーボードがすべてのマックに同梱されていたなら、Apple製品のキーボード評価はもっと高く、多くのユーザーの記憶に留まっただろう。しかしコストの問題もあり実際にはオプションという形で販売したために実物をご覧になった方は意外と少ないのではないか。
手元にあるApple Adjustable Keyboardは経年変化でボディ部位が変色しているが全体のコンデションは悪くない。またそのパッケージはAppleのプロダクトとしては地味なものだが、蓋を開けてみると一部がアップルロゴの形にくり抜かれているなどAppleの拘りを感じさせる。


※Apple Adjustable Keyboardパッケージ(上)と緩衝材にもアップルロゴが抜かれている(下)
そんなApple Adjustable Keyboardだが、ひとつ大きな欠点がある。
それはパームレストを含めたフルセットを机上に置くにはかなりのスペースを必要とすることだ。もしかしたらこのApple Adjustable Keyboardが日本で今ひとつ売れなかったのはコストの問題と共に設置サイズの問題があったのかも知れない。
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