「本屋の香りスプレー」で思い出す人生の岐路と運命
「本屋の香りスプレー」というのをご存じだろうか。MacTechnology Lab.ウェブサイトに紹介記事を載せてあるのでご一読いただきたいが、このアロマスプレーを仕事部屋にシュッとやった途端、昔の記憶が鮮明に甦ってきた。
本好きで活字中毒は若い時からのものだが、私は一時期本気で書店に勤めようとしたことがあった。しかし運命の糸は私を違う道に引っ張り、果てにアップルジャパンのデベロッパーとして小さな会社を起業する方向に進んでいった。
ということで今回は「本屋の香りスプレー」のアロマを嗅いだ瞬間に思い出した昔話をさせていただく...。

少々前振りが長くなるが、東証一部上場企業に勤務していた私はある日、係長の上司に「会社を作ろうと思うが一緒にやらないか」と誘われた。勤務先にこれといった不満があったわけでもないが上司に認められたことや新しい世界を知りたくてその場で快諾したと思う。要は単なる世間知らずの若者だった。
ちょうど勤務先の会社では大型コンピュータが導入されて本稼働したばかりの時代だったこともあり部長に強く慰留された。しかし私の決心は変わらず将来への不安も感じないまま退職し、係長の上司が設立した小さな会社の役員となった。
「給与は保証するからまずは君たちがビジネスの基礎を作ってくれ。自分はいまの仕事を整理でき次第辞めてこちらに移るから」という話しだった。無論社長は登記上その上司だったが一年経っても二年経っても上司は会社を辞めずいろいろと理由をつけ「もう少しだ」と言い訳するばかりだった。
最初の頃はそれでも未来を夢見て仕事に精を出したが、起業時の話しとは随分と違っている現実を思い知りこのままでは生殺し状態だと会社を辞める決心をした。こちらは大企業を袖にして約束を果たしたのに肝心の上司が約束を果たしてくれないのだから何をか況んやである。結果数年後のことだがこの上司(課長に昇進していた)は約10年間その地位を利用して私腹を肥やしていた(業務上横領)ことが発覚。課長は自殺を図ったが死にきれずに病院へ。そしてそれから十数年後に亡くなったという。
ともあれ私は失業しハローワークに通いながら次の仕事を見つけなければならなかった。ときは1976年だったが翌年の1977年には結婚しようと現在の妻と約束していたし約束を果たすためにも正業に就かなければと考えた。
これまた今から思えば若気の至りだとしか言えないが、あまり深くも考えずいくつかの会社に履歴書を送ったり面接を受けたりした。それらの中に池袋駅前にあった大手書店が含まれていた。
本好きとして書籍に囲まれながらの仕事もいいかも知れないというノー天気な思いだけの決断だったが意外なほど簡単に面接も通り、採用ということになった。そして後日書面で正式な通知を郵送するので対処するようにとの話しだった。
したがって普通で考えれば私はそのまますんなりと本屋の店員となっていたはずだが、運命は私を書店へ勤務させることを拒んだ...。
数日後書店から届いた封筒を開けると入社に関しての細則と共に給与等の条件が記された用紙が入っていた。しかしその用紙を見て私は愕然としたのだった。
何故なら私自身に示された給与額明細とは別に他者の給与額明細も同梱されていたからだ。明らかに事務担当の初歩的ミスだろうが問題は私と同年配の男性の給与額は私のそれより高かったのだ。
面接時に「当社では貴方が必要です。最良の待遇を持って迎えます」と言われてどこか有頂天になっていたのかも知れないが、それだけにその給与差は容認できなかった。その一件だけで私は書店に入社することを止め、結果として神田神保町にあった社長1人しかいない極小の貿易商社へ勤めることになった。
結局その商社に12年勤務し、1989年にMacintoshのソフトウェアを開発する専門の会社を起業することになるのだから人生まさしくどこでどうなるものか分からない。しかし確かだと思えることはもし書店に勤務していたら私がパーソナルコンピュータと出会ったとしても起業まですることは叶わなかったに違いない。
貿易商社に勤務していた時代は本職もがんばったが、次第にパソコン雑誌のライターの仕事や書籍出版の依頼、あるいはコンピュータによるアニメーション作成といった依頼や注文が相次ぎ、そうした環境が私の背中を押してくれたのだ。
「本屋の香りスプレー」のアロマを嗅いだ瞬間、そんな若かりし頃の無謀な時代を思い出した。
まさしくこの歳になると「光陰矢のごとし 学なり難し」という言葉が身にしみる...。
■BookStoresFragrance
本好きで活字中毒は若い時からのものだが、私は一時期本気で書店に勤めようとしたことがあった。しかし運命の糸は私を違う道に引っ張り、果てにアップルジャパンのデベロッパーとして小さな会社を起業する方向に進んでいった。
ということで今回は「本屋の香りスプレー」のアロマを嗅いだ瞬間に思い出した昔話をさせていただく...。

少々前振りが長くなるが、東証一部上場企業に勤務していた私はある日、係長の上司に「会社を作ろうと思うが一緒にやらないか」と誘われた。勤務先にこれといった不満があったわけでもないが上司に認められたことや新しい世界を知りたくてその場で快諾したと思う。要は単なる世間知らずの若者だった。
ちょうど勤務先の会社では大型コンピュータが導入されて本稼働したばかりの時代だったこともあり部長に強く慰留された。しかし私の決心は変わらず将来への不安も感じないまま退職し、係長の上司が設立した小さな会社の役員となった。
「給与は保証するからまずは君たちがビジネスの基礎を作ってくれ。自分はいまの仕事を整理でき次第辞めてこちらに移るから」という話しだった。無論社長は登記上その上司だったが一年経っても二年経っても上司は会社を辞めずいろいろと理由をつけ「もう少しだ」と言い訳するばかりだった。
最初の頃はそれでも未来を夢見て仕事に精を出したが、起業時の話しとは随分と違っている現実を思い知りこのままでは生殺し状態だと会社を辞める決心をした。こちらは大企業を袖にして約束を果たしたのに肝心の上司が約束を果たしてくれないのだから何をか況んやである。結果数年後のことだがこの上司(課長に昇進していた)は約10年間その地位を利用して私腹を肥やしていた(業務上横領)ことが発覚。課長は自殺を図ったが死にきれずに病院へ。そしてそれから十数年後に亡くなったという。
ともあれ私は失業しハローワークに通いながら次の仕事を見つけなければならなかった。ときは1976年だったが翌年の1977年には結婚しようと現在の妻と約束していたし約束を果たすためにも正業に就かなければと考えた。
これまた今から思えば若気の至りだとしか言えないが、あまり深くも考えずいくつかの会社に履歴書を送ったり面接を受けたりした。それらの中に池袋駅前にあった大手書店が含まれていた。
本好きとして書籍に囲まれながらの仕事もいいかも知れないというノー天気な思いだけの決断だったが意外なほど簡単に面接も通り、採用ということになった。そして後日書面で正式な通知を郵送するので対処するようにとの話しだった。
したがって普通で考えれば私はそのまますんなりと本屋の店員となっていたはずだが、運命は私を書店へ勤務させることを拒んだ...。
数日後書店から届いた封筒を開けると入社に関しての細則と共に給与等の条件が記された用紙が入っていた。しかしその用紙を見て私は愕然としたのだった。
何故なら私自身に示された給与額明細とは別に他者の給与額明細も同梱されていたからだ。明らかに事務担当の初歩的ミスだろうが問題は私と同年配の男性の給与額は私のそれより高かったのだ。
面接時に「当社では貴方が必要です。最良の待遇を持って迎えます」と言われてどこか有頂天になっていたのかも知れないが、それだけにその給与差は容認できなかった。その一件だけで私は書店に入社することを止め、結果として神田神保町にあった社長1人しかいない極小の貿易商社へ勤めることになった。
結局その商社に12年勤務し、1989年にMacintoshのソフトウェアを開発する専門の会社を起業することになるのだから人生まさしくどこでどうなるものか分からない。しかし確かだと思えることはもし書店に勤務していたら私がパーソナルコンピュータと出会ったとしても起業まですることは叶わなかったに違いない。
貿易商社に勤務していた時代は本職もがんばったが、次第にパソコン雑誌のライターの仕事や書籍出版の依頼、あるいはコンピュータによるアニメーション作成といった依頼や注文が相次ぎ、そうした環境が私の背中を押してくれたのだ。
「本屋の香りスプレー」のアロマを嗅いだ瞬間、そんな若かりし頃の無謀な時代を思い出した。
まさしくこの歳になると「光陰矢のごとし 学なり難し」という言葉が身にしみる...。
■BookStoresFragrance
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