Macintosh 128K マニュアルの秘密!?

 先日ひょんなことから入手を諦めかけていたMacintosh 128Kのユーザーマニュアルを手に入れることが出来た。無論私は最初のMacであるMacintosh 128Kマシンをリアルタイムに購入したユーザーだが、512KならびにPlusへとアップグレードを続ける過程で最初期のマニュアルを処分してしまったのである。

 
Appleがその製品だけでなくパッケージにも拘ることはよく知られているが、その究極はやはり1984年1月に登場したMacintosh 128Kだったと思う。この製品化の陣頭指揮をとったのはご承知のようにスティーブ・ジョブズだったこともあり、その拘りはパッケージはもとよりマニュアルにまで徹底していた。

なお蛇足であるが私たちは現在この最初のMacを “Macintosh 128K”と呼ぶが、リリースされた当時はただ単に“Macintosh”あるいは“Apple Macintosh”と呼ばれていただけだ。無論Macintoshというパソコンは1機種しかなかったのだから...。

その後メモリが512MBに増設されたマシンやMacintosh Plusと区別するために “Macintosh 128K”と称されることになったわけである...。
その “Macintosh 128K”だが、ご承知のように英語版であるからしてマニュアルも当然のことながら英語版だった。そして表紙には現在ピカソ風ロゴとして知られているカラフルなデザインがほどこされている。その後のMacintosh Plusのマニュアル表紙が単にMacの写真を使っているのと比較すればその拘りの深さは推察できるだろう。

そしてこのロゴは外側の段ボールから内箱まで徹底され、マニュアルやシステムディスクなどが収められていたパッケージは「ピカソボックス」などと称されている。

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※ピカソボックスとMacintosh 128Kのマニュアル


さてマニュアルに目を移して見ると、まずはAppleのシンボルともいうべき6色のアップロゴが表紙にプリントされておらず、裏表紙に置かれていることだ。これは企業名より製品名を前面にアピールするための典型的な方策だと思われる。
マニュアルそのものはリング式のものでその後のMacintosh PlusとかMacintosh Portableなどと同じだが、それらと比較してみると一番の違いは各章の冒頭見開きにカラー写真、それも製品そのものというより、そのカルチャー的イメージをアピールするためのデザインを考えた意図が伺える写真が多用されていることだ。別の言い方をするなら金がかかっているというべきか.,..(笑)。

もちろんMacintosh Plusのマニュアル各章冒頭ページも同様にカラー写真が使われているものの、こちらはより実用度というか直接ビジネスを意識させる写真となってしまい面白みに欠ける。そしてMacintosh Portableのマニュアルになるとすでにこうした写真は使われていない。
そうした意味においてもこの “Macintosh 128K”マニュアルは今となっては貴重な資料だが前記した各章に使われた写真の中で、「Chapter 1」および「Appendixes」の2カ所は特に興味深いことを教えてくれる...。

まず「Chapter 1」の写真だが、黒板を背景にしたデスクの上にはMacintoshが置かれ、ポロシャツを着た若い男性がそれを操作している写真だ。状況を想像すると数学の教師という設定なのだろうか...。

mac128k_manual_02.jpg

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※Mac 128Kマニュアル「Chapter 1」の写真とMacintosh部分の拡大


特に注目すべきはそのMacintoshの背面である。
ここには6色のアップルロゴのとなりにあるべき“Macintosh”というエンブレムが無い。
第一このアップルロゴと“Macintosh”のエンブレム位置は実際に出荷されたマシンとは逆なのだ!
また背面から見て実際のマシンは左側に6色アップルロゴ、その右に“エンブレムが配置されているが、マニュアルの写真ではその位置が逆になっている。

mac128k_manual_03.jpg

※実際のMacintosh 128Kの背面。上の写真と比べてみて欲しい


背面の定位置に大きく貼られているはずのステッカーも無い...。さらによく見ていくとどうやらプリンタポートとモデムポートは実際のコネクターとは様子が違い、黒い穴状態に見える。
その上、他の2つのポートも電源ケーブルの位置に邪魔されてよく見えないが、どうも意図的な配置に思えてならない(笑)。
そして決定的なのは電源スイッチの位置だ。
このMacintoshの電源スイッチの位置はOFF位置ではないか!とすれば男性の見ているモニターには電源が入っていないはずだ(笑)。
さらにプログラマーズスイッチも付いていない。
したがってこの写真を撮影する時点でMacintoshが文字通りの意味で完成されていなかったことを示すものだと考えてよいのではないか...。ということはこの写真のマシンはプロトタイプということになる。

撮影時にスイッチの位置などを考慮できなかったことはコマーシャルディレクタなどの認識不足だろうが、そもそもMacintoshのリリース間際は開発側にとって激務の上にも激務だっというから、細部に拘るジョブズでさえもこうした不備を容認するしかなったのではないか。

また「Appendixes」の写真は違う意味で面白い。
そこにはスタンフォード大学構内を自転車に乗っている男性が映っている。そして自転車の前にあるバスケットにMacintoshのキャリングバッグが入っている。

mac128k_manual_04.jpg

※Mac 128Kマニュアル「Appendixes」の写真


これまたよく知られていることだがジョブズはMacintoshの開発チームに関わった当初、Macintoshをユーザーにとっての知的自転車と考え、そのネーミングを「Bicycle」に改名しようとしたことがあった事実を知るとこの写真はより意味深に思える。

問題はこの写真が現実的でないことだ...。なぜなら当時のMacintoshをキャリングケースに入れて自分の自転車のバスケットに入れようとしたことがある者ならキャリングケースが一般的な自転車のカゴには入らないことを知るからだ。
それともアメリカの自転車のバスケットは実際こんなに大きいのだろうか...。
私はアメリカの自転車の実態について知らないために強くは主張できないが、写真を見る限りこのカゴは特注のように思える。

昔、ソニーが小型のトランジスタラジオを開発した際「ワイシャツのポケットに入る」ことをアピールしたかったものの、実際にはほんの少しラジオの方が大きかったので入らなかったという。そこで当時の企画者は営業担当者が着るワイシャツを特注しポケットを大きめなものにして事を解決したという逸話を聞いたことがある。
このMacintoshをバスケットに積んだ写真を見ると私はその逸話を思い出すのである。
一冊のマニュアルから話がこれだけ広がるのだから面白い!
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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員