Apple製作のビデオ "The Lisa ー It Works the Way You Work" 紹介
AppleはこれまでにTVコマーシャル向けだけでなく製品の認知を目的にさまざまなビデオを制作してきた。それらの多くは私たちの目に触れているがまだまだ知られていない映像も存在する。いま私の手元にある1983年製作のVHSビデオテープ "The Lisa ー It Works the Way You Work" もそんな類の映像のようだ。今となってはLisa関連情報は少なく、検索した限りではYouTubeにも見あたらなかったのであらためてご紹介しよう。
今でこそMacintoshというパーソナルコンピュータをアピールするのに、ワンボタン・マウスであるとかデスクトップにあるフォルダやファイルあるいはゴミ箱のアイコンを机上のメタファーとして説明することはなくなったが、最初にグラフィカル・ユーザーインターフェース (GUI) を採用したパソコン Lisa の価値をいかに当時のユーザーや市場に知らしめるかはAppleにとって一番難しいことだったに違いない。
なにしろそれまでのパソコンはすべてMS-DOSがそうであったようにコマンドを文字列として打ち込まなければならなかったわけで、突然GUIなどと言われても逆に困惑する場合もあっただろう。そしてLisaテクノロジーとは何か、何が...何処が優れているのかを知ってもらうには具体的な映像として見せるのが一番なのは昔も今も違いはない。ただしインターネットなどが私たちの眼前になかった当時としてはこうしたビデオ映像を製作し、営業担当者はもとより販売店やユーザーに知らしめる必要があったわけだ。
手元にある1本のVHSビデオテープにはLisa一連のマニュアルやリーフレットのデザインと同一の紫色のラインとLisaのロゴが配されたシールが貼られ、そこには“Product Trainer Certification”、“Course Manager’s Presentation on the Desktop Manager”そして“The Lisa ー It Works the Way you Work”と印刷されている。無論下部には“Apple Computer”とあり、アップル正規のビデオであることを示している。

※VHSビデオにはLisa特有のデザインをほどこしたラベルが貼られている
12分程度のその内容は当時のAppleがいかにしてメタファーとしてのデスクトップをアピールすべきかを考えた結果が読み取れてなかなか興味深い。
※映像はアップロードの関係上2つに分けてあるのでご了承願いたい
具体的な内容は前記映像をご覧いただきたいが、ストーリーはエアーポートに到着した男女2人の対比で展開する。そして共にそれぞれのオフィスに到着し男女ペアで会話が進行していく...。
一方が従来のアナログ的仕事を遂行し、それと比較する形で一方はLisaを使って効率の良い作業を進めるといった内容である。
机上に置かれたメモをゴミ箱に捨てる行為、ファイルフォルダの中身の確認、そしてキャビネットの中に収納されている多くのフォルダから目的の書類を探す面倒さ加減といったものをLisaのデスクトップを操作しながら進める作業と比較し、いかにLisaが便利で簡単そして効率の良い仕事ができるかをアピールする映像になっている。

※実際のキャビネットとその中の書類をLisaのアイコンと対比させて理解を促している
Lisaに向かう2人にはどこか余裕があり、最後にはシャンパンで乾杯といったシーンもある。

※Lisaで書類を作り計算結果をコピー&ペーストする2人には余裕が感じられる
一方のアナログ的作業をしている2人の机上は書類で散乱しロールペーパーのついた計算機の結果をメモしたりする姿にはイライラ感が漂う。そして書類の作り直しのためにプリントされた一部をハサミで切り取り、セロファンテープで別の書類に貼り付けるとき、テープが手に貼り付いたり、テープカッターからテープが取れてしまったりという効率と作業性の悪さを演出している...。

※従来どおりのアナログ的作業にはイライラ感が漂う(笑)
本映像はLisaで行う作業がこれまでのアナログ的作業のどのような行為に対比するかを分かりやすく映像化したわけだが、すでにデスクトップの概念やアイコンそしてメニューやウィンドウ操作を当たり前としている我々にはこの映像はどこか滑稽に思える。しかしLisaが登場した1983年の当時を振り返ってみればマウスの操作1つをとってみても知らない人たちがほとんどだったのだから笑うわけにはいかない...。
パーソナルコンピュータがビジネスの世界に入ってくる前の会社の情景がどのようなものだったか、いまの若い方たちには想像もできないに違いない。
私が一部上場会社に配属された1960年後半から1970年代の机上にいわゆる機械らしきものは電話機しかなかったのである。当時は電卓さえまだまだ普及していない時代であり、ゼロックスコピー機もファクシミリも勿論なかったし、そうそう...ボールペンもオフィスにはなく、記帳は付けペンをインクに浸しながら使っていた有り様だ。あと機械らしきアイテムといえば専用の部屋に置かれたタイプライターくらいなものだった。
その後の10年、大企業そのものには大型コンピュータが導入されつつあったがごく一般の人たちにとってApple IIはもとよりLisaのようなパーソナルコンピュータなど想像もつかない...とてつもない未来のマシンだったのだ。したがってこのビデオに登場するアナログ的作業をする人たちの姿を私などは到底笑えるものではないが、Lisaテクノロジーを当時企業のエグゼクティブたちに売り込もうとしていたAppleとしては頭の痛い事だったに違いない。
何しろエグゼクティブといえば一般的には若造ではない...。企業の管理職、役員といったポジションの人たちだから当然のこと年齢もそれなりに上の場合が多い。したがってコンピュータ利用といった進んだ環境には拒否反応を抱く人たちも多く存在したのである。だからこそこうした具体的な映像でこれまでの世界と新しい世界とを具体的に対比させて見せるという方法も必要とされた時代だったわけだ。
まあまあ、今となっては何ともわざとらしいビデオではあるがそうした時代を反映していることを考えながら見ていただくと興味は倍増するに違いない。
本映像はその“Product Trainer Certification”といったビデオタイトルでもお分かりだと思うが、一般ユーザーに向けたコマーシャルといった意図で作られたのではなく、販売側の認識を高めるための作品だったようだ。なおアップロードの関係上動画は2つに分けているのでご了承願いたい。
【追記 : 2009/05/04】
本記事を読んでいただいた方からご指摘があり、本ビデオに関してひとつのモヤモヤが解決した...。
それは本文でも記したとおり、映像の最後にLisaを使う2人がシャンパンで乾杯するシーンがある。その際に男性が「Here's looking at you, kid.」という台詞をいう...。
この台詞は1942年製作の映画「カサブランカ」の中でハンフリー・ボガードがイングリッド・バーグマンに向かっていう有名な台詞なのである。

和訳は一般的に「君の瞳に乾杯」とされているが、それはともかく私はそこまでは気がついていたものの、単にクサイ台詞でエンディングなのか...と聞き流していた。しかしご指摘があって再度認識をあらたにしたが、イングリッド・バーグマンの役名はイルザ・ラントとかエルザ・ラントなどと記されるもののその表記は “ilsa Lund” とされている。
私の苦手とする言語に関する話しになるので心許ないが、例えばBess, Beth, Bettie, Betty, Eliza, Elsa, Elsie, Libby, Lily, Lisa, Lise, Lisette, Liz, Liza, Lizzie, Lizzyなどなどという名はすべて “Elizabeth (エリザベス)” の愛称である。
だとするならイングリッド・バーグマンの役名もそのうちの一つなのではないか...。
もしかしたらビデオのシナリオライターはLisaと “ilsa Lund” を引っかけてこの台詞を言わせたのかも知れない。だとするなら「君の瞳に乾杯」というよりもその真意は「リサに乾杯!」という意味になるのだろう。
深読みのし過ぎだろうか...(笑)。
今でこそMacintoshというパーソナルコンピュータをアピールするのに、ワンボタン・マウスであるとかデスクトップにあるフォルダやファイルあるいはゴミ箱のアイコンを机上のメタファーとして説明することはなくなったが、最初にグラフィカル・ユーザーインターフェース (GUI) を採用したパソコン Lisa の価値をいかに当時のユーザーや市場に知らしめるかはAppleにとって一番難しいことだったに違いない。
なにしろそれまでのパソコンはすべてMS-DOSがそうであったようにコマンドを文字列として打ち込まなければならなかったわけで、突然GUIなどと言われても逆に困惑する場合もあっただろう。そしてLisaテクノロジーとは何か、何が...何処が優れているのかを知ってもらうには具体的な映像として見せるのが一番なのは昔も今も違いはない。ただしインターネットなどが私たちの眼前になかった当時としてはこうしたビデオ映像を製作し、営業担当者はもとより販売店やユーザーに知らしめる必要があったわけだ。
手元にある1本のVHSビデオテープにはLisa一連のマニュアルやリーフレットのデザインと同一の紫色のラインとLisaのロゴが配されたシールが貼られ、そこには“Product Trainer Certification”、“Course Manager’s Presentation on the Desktop Manager”そして“The Lisa ー It Works the Way you Work”と印刷されている。無論下部には“Apple Computer”とあり、アップル正規のビデオであることを示している。

※VHSビデオにはLisa特有のデザインをほどこしたラベルが貼られている
12分程度のその内容は当時のAppleがいかにしてメタファーとしてのデスクトップをアピールすべきかを考えた結果が読み取れてなかなか興味深い。
※映像はアップロードの関係上2つに分けてあるのでご了承願いたい
具体的な内容は前記映像をご覧いただきたいが、ストーリーはエアーポートに到着した男女2人の対比で展開する。そして共にそれぞれのオフィスに到着し男女ペアで会話が進行していく...。
一方が従来のアナログ的仕事を遂行し、それと比較する形で一方はLisaを使って効率の良い作業を進めるといった内容である。
机上に置かれたメモをゴミ箱に捨てる行為、ファイルフォルダの中身の確認、そしてキャビネットの中に収納されている多くのフォルダから目的の書類を探す面倒さ加減といったものをLisaのデスクトップを操作しながら進める作業と比較し、いかにLisaが便利で簡単そして効率の良い仕事ができるかをアピールする映像になっている。

※実際のキャビネットとその中の書類をLisaのアイコンと対比させて理解を促している
Lisaに向かう2人にはどこか余裕があり、最後にはシャンパンで乾杯といったシーンもある。

※Lisaで書類を作り計算結果をコピー&ペーストする2人には余裕が感じられる
一方のアナログ的作業をしている2人の机上は書類で散乱しロールペーパーのついた計算機の結果をメモしたりする姿にはイライラ感が漂う。そして書類の作り直しのためにプリントされた一部をハサミで切り取り、セロファンテープで別の書類に貼り付けるとき、テープが手に貼り付いたり、テープカッターからテープが取れてしまったりという効率と作業性の悪さを演出している...。

※従来どおりのアナログ的作業にはイライラ感が漂う(笑)
本映像はLisaで行う作業がこれまでのアナログ的作業のどのような行為に対比するかを分かりやすく映像化したわけだが、すでにデスクトップの概念やアイコンそしてメニューやウィンドウ操作を当たり前としている我々にはこの映像はどこか滑稽に思える。しかしLisaが登場した1983年の当時を振り返ってみればマウスの操作1つをとってみても知らない人たちがほとんどだったのだから笑うわけにはいかない...。
パーソナルコンピュータがビジネスの世界に入ってくる前の会社の情景がどのようなものだったか、いまの若い方たちには想像もできないに違いない。
私が一部上場会社に配属された1960年後半から1970年代の机上にいわゆる機械らしきものは電話機しかなかったのである。当時は電卓さえまだまだ普及していない時代であり、ゼロックスコピー機もファクシミリも勿論なかったし、そうそう...ボールペンもオフィスにはなく、記帳は付けペンをインクに浸しながら使っていた有り様だ。あと機械らしきアイテムといえば専用の部屋に置かれたタイプライターくらいなものだった。
その後の10年、大企業そのものには大型コンピュータが導入されつつあったがごく一般の人たちにとってApple IIはもとよりLisaのようなパーソナルコンピュータなど想像もつかない...とてつもない未来のマシンだったのだ。したがってこのビデオに登場するアナログ的作業をする人たちの姿を私などは到底笑えるものではないが、Lisaテクノロジーを当時企業のエグゼクティブたちに売り込もうとしていたAppleとしては頭の痛い事だったに違いない。
何しろエグゼクティブといえば一般的には若造ではない...。企業の管理職、役員といったポジションの人たちだから当然のこと年齢もそれなりに上の場合が多い。したがってコンピュータ利用といった進んだ環境には拒否反応を抱く人たちも多く存在したのである。だからこそこうした具体的な映像でこれまでの世界と新しい世界とを具体的に対比させて見せるという方法も必要とされた時代だったわけだ。
まあまあ、今となっては何ともわざとらしいビデオではあるがそうした時代を反映していることを考えながら見ていただくと興味は倍増するに違いない。
本映像はその“Product Trainer Certification”といったビデオタイトルでもお分かりだと思うが、一般ユーザーに向けたコマーシャルといった意図で作られたのではなく、販売側の認識を高めるための作品だったようだ。なおアップロードの関係上動画は2つに分けているのでご了承願いたい。
【追記 : 2009/05/04】
本記事を読んでいただいた方からご指摘があり、本ビデオに関してひとつのモヤモヤが解決した...。
それは本文でも記したとおり、映像の最後にLisaを使う2人がシャンパンで乾杯するシーンがある。その際に男性が「Here's looking at you, kid.」という台詞をいう...。
この台詞は1942年製作の映画「カサブランカ」の中でハンフリー・ボガードがイングリッド・バーグマンに向かっていう有名な台詞なのである。

和訳は一般的に「君の瞳に乾杯」とされているが、それはともかく私はそこまでは気がついていたものの、単にクサイ台詞でエンディングなのか...と聞き流していた。しかしご指摘があって再度認識をあらたにしたが、イングリッド・バーグマンの役名はイルザ・ラントとかエルザ・ラントなどと記されるもののその表記は “ilsa Lund” とされている。
私の苦手とする言語に関する話しになるので心許ないが、例えばBess, Beth, Bettie, Betty, Eliza, Elsa, Elsie, Libby, Lily, Lisa, Lise, Lisette, Liz, Liza, Lizzie, Lizzyなどなどという名はすべて “Elizabeth (エリザベス)” の愛称である。
だとするならイングリッド・バーグマンの役名もそのうちの一つなのではないか...。
もしかしたらビデオのシナリオライターはLisaと “ilsa Lund” を引っかけてこの台詞を言わせたのかも知れない。だとするなら「君の瞳に乾杯」というよりもその真意は「リサに乾杯!」という意味になるのだろう。
深読みのし過ぎだろうか...(笑)。
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