Appleのチーフ・デザイン・オフィサー、ジョナサン・アイブ氏退社についての個人的な考察

Appleは、チーフ·デザイン·オフィサーのジョナサン・アイブ氏ことジョニー・アイブ氏が今年後半にAppleを退社すると発表した。その影響でAppleの時価総額が約1兆円減少したとか、今後のAppleを心配する声も聞くが、個人的には些か遅きに期したと考えている。またアイブ氏の退職はApple Park完成を機会にしてのことだろうが、アイブ氏自身はもっと早くAppleを離れたかったように思う。【以下敬称略】


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まず最初に申し上げておくが、私は1980年にApple IIを手にして以来今日まで熱烈なAppleユーザーというだけでなく、スティーブ・ジョブズ不在の時代から復帰の初期まで、約14年間をアップルジャパンのデベロッパーとしてソフトウェア開発に従事していた。そしてその間、自社開発アプリ数点…Performaへのバンドルを実現しただけでなくスポット販売などにより、Appleはビジネス取引の相手でもあった。

さらに歴代のアップルジャパン社長は勿論、ギル・アメリオ、エレン・ハンコック、ドナルド・A・ノーマン、ガイ・カワサキ、ハイディ・ロイゼン、ロン・オカモトら、その時代時代の要人たちとお会いする機会も得た。そして名刺交換したAppleの本社スタッフは100人をくだらないだろう…。したがってというか、Appleの闇の部分も多々体験してきたし一般のユーザー諸氏やメディアの方々とは些か違い、いまだに公言出来ないことも多くAppleへの評価は手放しで褒めちぎるわけにはいかず必然的に辛口にならざるを得ない…。

ということで、私は大方の人々の評価とは裏腹にアイブのデザイン力に関しても闇雲には認めていない。何故なら古くは20世紀モデルの電源コードのあり方、初代iMacの円形マウスはもとより、現在でもiPhoneのカメラの出っ張りやマウスの充電ポートが裏側にある点などなどデザイン面だけでなく使い勝手を犠牲にしてきた面も目立つからだ。またアイブはソフトウェアのUIに関しても責任を負ったが決して成功したとは思えない。

さて、アイブはスティーブ・ジョブズが復帰したときすでにデザイン部門にいた。そしてジョブズがApple復興を賭けて発表するiMacのデザインをアイブに依頼したことからジョブズとアイブの蜜月が始まった。
要はアイブのデザイン力を認めるか認めないかを含め、スペックは勿論デザインを最終決断したのはCEOのジョブズであっただけでなく、いわばAppleにおけるジョニー・アイブや現CEOのティム・クックを "生み出した" のはまぎれもないスティーブ・ジョブズなのだ。したがって個人の能力や貢献はきちんと評価するにしてもいたずらに「Apple復活を支えたジョナサン・アイブ」等という物言いはどうかと思う。そうした点からも個人的にはAppleにおけるアイブの評価は過大評価されていると考えている。

また逆にアイブから見てAppleにおける仕事はどうだったのだろうか…。
スティーブ・ジョブズが生きているうちはともかく、亡くなってからは決して100%満足していた状態ではなかったと思われる。それは多額の報酬といった面ではなくAppleにおいてのデザインの限界について常々悩んでいたに違いない…。
どういうことかといえばAppleのプロダクトは基本多くはない。Mac、iPhone、iPadなどを列記するまでもなくコンピュータといわゆるガジェット類だ。
そしてアイブの限界以前にAppleにはこれまでの歴史で培ってきた「Appleらしさ」が求められている。したがってアイブならずとも、この伝統といった圧力に暗に縛られているようにも思え、結果新しいデザイン構築に壁というか限界を感じていたに違いない。
要はiMacにしろiPhoneにしろ、その基本デザインはスティーブ・ジョブズの影響力からいまだ脱していないのだ。

それにiMacにしてもiPhoneにしても考えるまでもなく使い勝手を無視したデザインなど出来ようもないし、そうして考えれば現在の基本デザインはiMacにしてもiPhoneにしてもなるべくしてそうなったデザインだともいえる。事実悪い事ではないが、この数年 iMacにしてもiPhoneにしてもデザイン面に目を見張る改革はない。
したがってアイブにしてみればそろそろAppleの呪縛から離れ、自由な仕事をしてみたいと考えたとしても不思議ではなく、Apple Park完成を目処にAppleを離れる決意をしたに違いない。

またCEOのティム・クックから見れば、Apple社内に置いて絶大なる発言力を持つようになったアイブはそろそろ鼻についていたのではないだろうか。ある意味、スティーブ・ジョブズ亡き後のAppleはティム・クックとジョニー・アイブの二人体制で外面を維持してきた傾向があり、その過程でジョニー・アイブをいたずらに怪物にしてしまったのはAppleというよりティム・クックの失策だったともいえる。

さて、ジョニー・アイブが去ったAppleを心配する向きもあるが、プロダクトデザイン/インダストリアルデザインはアイブだけのものではない。世界には優秀なデザイナーは多々存在するし、そうした人たちに光が当たる良い機会になればよい。
したがってアイブ退職後もAppleはクライアントだという話しもあるが、それはお互い未練たらしい(笑)。Appleにしてもアイブにしても退職時のリップサービスであって欲しいと思う。
我々ユーザーは、アイブがデザインしたiPhoneと別のデザイナーがデザインしたiPhoneを選んで使うことはできない。誰の手になるにしろAppleからその時代のニーズに合った優れたデザインが生まれるに違いないしそう願っている。




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主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。ゆうMUG会員