iPhone XRとScandyProによる3Dスキャン覚書

そこにある人物やオブジェクトをそのままスキャンし、3Dモデルとして形成すめ3Dスキャンは大変魅力的だがまだまだ技術的な壁や予算面の壁が厚くて高い分野でもある。無論数百万もの予算があれば実際に使い物になるであろう製品やシステムは存在するが一般ユーザーには手も足も出ない。


しかし調べて見ると市場には五万円とか十万円といった価格で入手できる3Dスキャナーも存在する。しかしMacで使えるものはほとんどないが、そんな中で少し前にMacサポートを歌う製品のひとつであるXYZプリンティング社の3Dスキャナーを幸いにも借り受けることができた。
これで大げさだが夢が叶うかと驚喜しあれこれと試行錯誤を続けたがMacの環境で使うソフトウェアに問題があり購入は断念せざるを得なかった。

3Dモデルを3Dプリンターでプリントする…ことはすでに珍しい事ではなくなっているが、そのためにはモデリングをやらなければならない。そしてその為の優秀なソフトウェアも存在するが、人の顔を代表とするような複雑な形状を易々と作り出せる者ばかりではないし、架空のフィギュアならまだしも、そこに実際にいる人物…私自身でも良いし愛犬でも良いが…を瓜二つの正確さでモデリングすることは難しい。しかし3Dスキャナーであればそんな夢のようなことが実現できる理屈なのだ。

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※ScandyProによる3Dスキャン例。画面は各種編集モード


実際に結婚式やらの記念にと新郎新婦の全身をスキャニングして十数センチのフィギュアにしてくれるようなビジネスも存在する。無論そうしたことを実現するためには前記したような高価で場合によっては大がかりなシステムが必要となる。
しかしなんとかそこそこの性能でもよいから使えるシステムはないかと色々と調べてきたが、ここにきてiOS向けのアプリで魅力的な製品が登場してきた。

その大きな要因はiPhone X以降に搭載された「TrueDepthカメラ」による。TrueDepth(トゥルーデプス)カメラとは、Appleが開発しiPhone Xのインカメラにはじめて搭載したカメラシステムの呼び名であり、顔認証システム「Face ID」をはじめ複数の機能に活用されるものだ。

TrueDepthカメラは赤外線カメラ、環境光センサー、ドットプロジェクタ等のユニットを総称した呼び名であり、各種センサーがユーザーの顔の特有の形状を正確に読み取ることで精度の高い顔認証を実現し顔の傾きや表情なども高精度で読み取り可能な先進のテクノロジーだ。
要はこのカメラを3Dスキャナーとして使おうというアプリがいくつか登場した訳である。

それらの中で今回私が選んだのは “ScandyPro” というソフトウェアだ。例えばiPhone XRのインカメラに搭載された7メガピクセルのカメラの場合、解像度設定は実用1MMまで活用できる。
アプリのインストール自体は無料だが、スキャンしたデータの保存など実用とするには内部課金を必要とするが実によくできたアプリケーションだ。
なにしろiPhone X以降のユーザーなら必要な予算はサブスクリプションの僅かなものだけだ。
ただしiPhoneとScandyProをいかに上手に使ったとしても、それだけでモデリングが完成するわけではない。実際には別途パソコンにデータを取り込み、Meshmixerといったアプリを使い、データ修復のプロセスもセットで学ぶことが必要である。

アプリの細かな機能説明はここではやらないが、保存したデータの補正やエフェクト、スキャンしたデータを現実風景に合成して表示させるAR機能、あるいは操作過程の録画保存の機能まである。

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※スキャンしたデータを実写風景に表示させるAR機能もある


ちなみに別途人の顔だけのスキャンに特化したアプリもあり、大変優秀なものだったが課金が高いしカラー情報(カラーマッピング)を保持したデータ保存ができないのでScandyProに落ち着いた次第。
ScandyProなら出力フォーマットもテクスチャーすなわちカラー情報を含んだPLYをサポートの他、PBJ/ STL/ USDZ/ GLB でも保存可能だ。

さてScandyProはとてもよく出来たアプリだが、実際の3Dスキャニングにはいわゆるコツを会得する必要がある。理屈はインカメラを適切な距離で対象物に向け、ゆっくり…丁寧にカメラを回り込ませるように移動するわけだがこれがなかなか旨く行かない。動きが速かったり角度が違ったりとデータ取得が不連続になると画面が赤くフラッシュすると同時にバイブレーションする。このエラーをなるべく少なく、そして素早く回避しつつスキャンニングしなければならない。

ただしいわゆる慣れというかコツを掴めば少しずつ上手になるが一番の問題はスキャニングするのがインカメラだということ。具体的な対策については別途ご紹介するつもりだが、自撮りするならともかく対面のオブジェクトや人物などにカメラを向ければ必然的に液晶が見えなくなる(笑)。液晶画面が見えなければ対象物をきちんとフレーミングして捕らえることが出来なくなる理屈で旨くいくはずはない…。

この自己矛盾の解決する方法はScandyPro自身がサポートしている別のiPhone/iPadでリアルタイム映像をモニター可能にする機能がある。同一Wi-Fi環境下でモニター側を確認しながらメインのiPhoneを対象物に向けることが出来るわけだ。ただしこの方法は当然ながらデバイスが2台必要となる。
また対象に向けるiPhoneの動きを別のiPhone/iPadで確認といえば簡単そうだが、両デバイスの位置関係が離れていると実にやりにくい。

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※ScandyProにはスキャン画像を別のデバイスにモニターさせることができる機能がある


ということで1台のiPhoneでなんとか正確なスキャニングが出来る方法はないかと考えた末に鏡を使うことを思いついた。
TrueDepthカメラに45度の角度で鏡を置けば、iPhoneの先端部位を対象物に向けつつ液晶画面を確認することが出来るというわけだ。

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※自作の「ミラーアダプター」。鏡は安全性と薄さを考慮しステンレス製を使った


早速3DプリンターでiPhoneに取り付ける「ミラーアダプター」を作ってみたが、結果は上々だった。しかしスキャニングしたデータの左右が逆になること、鏡の精度が悪ければスキャニングの結果にも影響が出ること、そしてアダプターの寸法やらをしっかりとしないとiPhoneを傷つけてしまいかねないことなどの問題もある。私はiPhoneにクリアケースを着けたままで装着できるアダプターを作った。

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※iPhone XRに「ミラーアダプター」を装着したところ


「ミラーアダプター」はそれなりの成果を出したが優秀なiPhoneの光学系に鏡を介在させた映像を…という点が気になったし、幸い個人的には買い換え前のiPhone6s Plusを残して置いたため、前記した2台のデバイスを同時に使う手法を考えてみた。
要はiPhone同士の背を合わせる形にセッティングできる器具を用意すれば良い理屈で、それを片手で持てるよう工夫すればiPhone XRのインカメラで捕らえた映像がリアルタイムでその背面のiPhoneにモニターできる。
そしてこれであれば位置関係に混乱を起こさずに操作できることになる。

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※自作の「デュアルiPhoneグリップ」にiPhone XRとモニター用iPhone 6s Plusを取り付けた例


結局手元にあった同じ形のスマホホルダーを2台取り付けるグリップを3Dプリンターで作ってみたらなかなかに便利だったし、正確で緻密なスキャニングができるためスキャン結果にもミスが少なくなったからデータも綺麗に取り込めるようになった。

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※「デュアルiPhoneグリップ」で3Dスキャン実施中


後はいかにスムーズに、対象物を囲むようにスキャンできるかだ。
ちなみに私の目的・目標は人のバストアップまたは頭部をスキャニングし、それをカラー3Dプリンター(まだ持っていないが = 笑)で1/6程度のサイズで再現することだ。そして愛犬の姿もリアルなフィギュアとして残しておきたい…。
以下3つのスキャニング例を動画でご紹介しよう。



※iPhone XRとScandyProによる3Dスキャン_バストアップ例




※愛犬を3Dスキャン




※頭部のみ360度スキャン例


で、使い始めてから一週間ほど経ったがまだまだ理想にはほど遠い結果だが日々少しずつ進歩しているつもりである。
特に人の顔は少し歪めば別人になってしまうし、オリジナルの人物と分からないような結果では意味が無い。それだけ高いハードルだと思っているが急がずノウハウを蓄積していきたい。
結論めくが、3Dスキャンは2D写真撮影より難しいし忍耐と繰り返しの実戦が重要。ただし一旦旨く行けば素晴らしい結果が得られる。なにしろスマホから優れた3Dコンテンツを作成でき、3Dプリンターの活用や3Dデザインプロジェクトをすぐに開始できるのだ。イライラしないで挑戦し続けることが大事。

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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員