「TypeDesigner」を手にして池田友也さんを偲ぶ
先日のこと、一通のお問い合わせメールをいただいた。一応こうしたサイトを公開していると日々さまざまなメールをいただくが、それらは仕事の依頼から取材の依頼あるいは機材貸し出し依頼といったものからアップしたアーティクルの誤字脱字のご指摘まで様々だ(笑)。ただし多くは広告まがいなもの、スパムと思われるものも多いので個別にご返事を出すことは少ない…。ともかくそうした中の一通に目が止まった…。それは「Macテクノロジー研究所のタイトルに使われているフォントはなにか?」といった質問だった。
そういえばこれまでこの種の質問を受けたことはなかったが、私自身このタイプフェースをとても気に入っているからこそサイト開設以来背景デザインは変えてもタイプフェースはそのままにして現在に至っている。
実はこのタイプフェースは1998年にPalm Soft Inc.からリリースされた「TypeDesigner」というソフトウェアで作ったものなのだ…。


※「TypeDesigner」はサンプルリストがカラーで紹介された豪華なマニュアルとCD-ROMの組み合わせだった
「TypeDesigner」は、ダウンロードが主になっている現在の視点から見れば誠に贅沢な作りだが、銀色に光った立派な表紙を持ち270ページほどもあるまさしく一冊の本といった作りだ。そしてその全ページカラーというマニュアルにはCD-ROMが一枚同梱されているという体裁である。
CD-ROMに収録されている「TypeDesigner」はタイトルやロゴなどに使用する斬新でお洒落なタイプフェースが1,000種も用意されているもので、テキスト入力しタイプフェースを選びサイズと文字間隔の調整だけで目的を達することが出来る…。無論ここでいうタイプフェースとはPostScriptやTrueType などのフォントではなくいわば、フォントのクリップアートといったものなのだ。

※「TypeDesigner」によるタイプフェース例
実はこの「TypeDesigner」には個人的にいろいろな思いが詰まっている…。
薄れた記憶をたどってみると、確か1997年暮れか1998年初頭の頃だったと思うが私は自社製品の売り込みのためにソフトバンクを訪れた。
いつものように受付で訪問を伝え、広いロビーで担当者を待っていると「あっ、松田さん!」と声をかけられた。
それは日本の大手メーカーを退職しカリフォルニアで起業したIさんだった。私はMacの黎明期、このIさんの肝いりで対談の席に駆り出されたり、書籍作りのためにインタビューに応じたりしただけでなく独立後は私の会社のソフトウェアを米国で売りたいという話をいただき良きパートナーを得たと喜んだ。したがって友人とMacworldExpoのためにサンフランシスコへ出向いた際にはIさんの車でAppleのキャンパスを訪れたり、その帰りに彼の事務所にも立ち寄らせていただいたことがある。
ただし残念ながらビジネスは続かず次にIさんの消息を知ったのはとあるカメラサイトにチーフプロデューサーとしてその名を見つけたときだった…。
ともかくソフトバンクのロビーで私に声をかけたIさんは「新しいプロダクトはあの池田さんとのコラボなんですよ」といった後でそれがどのようなアプリケーションなのかを説明してくれた。彼は私のフォント好き、グラフィック好きを分かっていたはずだ…。そしてそれからどれほど時間が経ったのかは記憶にないが、私はその製品…「TypeDesigner」を嬉々として購入した。
「TypeDesigner」を使うにはPowerMacの漢字Talk 7.5以降の環境を必要とする。したがって残念ながらMac OS Xでは動作しないからすでに過去の産物には違いない。しかしフォントを立体的に…といった風にデザインするツールはあっても「TypeDesigner」のようなクリップアート感覚のものはほとんどないため、私はいまだに時々起動させてみたくなる。
無論今となっては商用印刷には向かないものの、ウェブのデザインなどにはまだまだ活用できる魅力を持っている。そして当サイトのタイトルにある “MacTechnology Lab.”というタイプフェースはまぎれもなくこの「TypeDesigner」で作ったものなのだ。

※「TypeDesigner」の操作画面
「TypeDesigner」はそれ自体、私の趣味趣向にドンピシャ合致する製品だが、実はこの「TypeDesigner」を企画しチーフデザイナーを務めたのが前記した池田さん…池田友也さんというイラストレーターなのだ。ただし彼は残念なことに彼は「TypeDesigner」がリリースされた同年(1998年)の10月31日に若くして亡くなられた…。

※池田友也さんの名刺。この頃カルフォルニアのバークレーで活動されていた
私は池田さんと十分な交流を持ったことはなかったが、演算星組が「Mac書道」を開発していた時期にサラリーマンだった私は多いとき、週に2度ほども会社の帰りに演算星組に立ち寄ったものだが、その時々に池田友也さんというお人柄に触れただけでなく「電脳絵巻」といったMac用クリップアートのデザイナーとしての能力を眩しく拝見していた。

※「電脳絵巻〜地の巻」より池田友也さんの作品例をMacPaintで再現
したがってそうしたご縁で「Mac書道」のマニュアル一部を書かせていただき、巻末の「スタッフ紹介」やアプリケーションのアバウトに私の名が明記され良い思い出となった。池田友也さんといえばその他にも1988年にElectronic Arts社からリリースされたモノクログラフィックソフト兼アニメーションソフトの「Studio 1」において彼がアニメーションデータを描いたと耳にし、これまた早速手に入れた記憶がある。

※「Mac書道」マニュアル巻末のスタッフ紹介(一部)。中央に私のプロフィール紹介があるが、左下が池田友也さんのプロフィールだ
池田さんが活躍された時代のパソコンによるイラストレーションはいわゆるドットつぶしとでも言ったらよいのか…モノクロの点ひとつひとつを上手にON・OFFの上でコントロールしなければならない根気のいる作業を含んでいた。いわば「TypeDesigner」もその延長線上にあったわけだが、類を見ない彼の才能を間近に感じることが出来たその感動がいまだに私をして「TypeDesigner」のタイプフェースに惹きつけられているのである。
そういえばこれまでこの種の質問を受けたことはなかったが、私自身このタイプフェースをとても気に入っているからこそサイト開設以来背景デザインは変えてもタイプフェースはそのままにして現在に至っている。
実はこのタイプフェースは1998年にPalm Soft Inc.からリリースされた「TypeDesigner」というソフトウェアで作ったものなのだ…。


※「TypeDesigner」はサンプルリストがカラーで紹介された豪華なマニュアルとCD-ROMの組み合わせだった
「TypeDesigner」は、ダウンロードが主になっている現在の視点から見れば誠に贅沢な作りだが、銀色に光った立派な表紙を持ち270ページほどもあるまさしく一冊の本といった作りだ。そしてその全ページカラーというマニュアルにはCD-ROMが一枚同梱されているという体裁である。
CD-ROMに収録されている「TypeDesigner」はタイトルやロゴなどに使用する斬新でお洒落なタイプフェースが1,000種も用意されているもので、テキスト入力しタイプフェースを選びサイズと文字間隔の調整だけで目的を達することが出来る…。無論ここでいうタイプフェースとはPostScriptやTrueType などのフォントではなくいわば、フォントのクリップアートといったものなのだ。

※「TypeDesigner」によるタイプフェース例
実はこの「TypeDesigner」には個人的にいろいろな思いが詰まっている…。
薄れた記憶をたどってみると、確か1997年暮れか1998年初頭の頃だったと思うが私は自社製品の売り込みのためにソフトバンクを訪れた。
いつものように受付で訪問を伝え、広いロビーで担当者を待っていると「あっ、松田さん!」と声をかけられた。
それは日本の大手メーカーを退職しカリフォルニアで起業したIさんだった。私はMacの黎明期、このIさんの肝いりで対談の席に駆り出されたり、書籍作りのためにインタビューに応じたりしただけでなく独立後は私の会社のソフトウェアを米国で売りたいという話をいただき良きパートナーを得たと喜んだ。したがって友人とMacworldExpoのためにサンフランシスコへ出向いた際にはIさんの車でAppleのキャンパスを訪れたり、その帰りに彼の事務所にも立ち寄らせていただいたことがある。
ただし残念ながらビジネスは続かず次にIさんの消息を知ったのはとあるカメラサイトにチーフプロデューサーとしてその名を見つけたときだった…。
ともかくソフトバンクのロビーで私に声をかけたIさんは「新しいプロダクトはあの池田さんとのコラボなんですよ」といった後でそれがどのようなアプリケーションなのかを説明してくれた。彼は私のフォント好き、グラフィック好きを分かっていたはずだ…。そしてそれからどれほど時間が経ったのかは記憶にないが、私はその製品…「TypeDesigner」を嬉々として購入した。
「TypeDesigner」を使うにはPowerMacの漢字Talk 7.5以降の環境を必要とする。したがって残念ながらMac OS Xでは動作しないからすでに過去の産物には違いない。しかしフォントを立体的に…といった風にデザインするツールはあっても「TypeDesigner」のようなクリップアート感覚のものはほとんどないため、私はいまだに時々起動させてみたくなる。
無論今となっては商用印刷には向かないものの、ウェブのデザインなどにはまだまだ活用できる魅力を持っている。そして当サイトのタイトルにある “MacTechnology Lab.”というタイプフェースはまぎれもなくこの「TypeDesigner」で作ったものなのだ。

※「TypeDesigner」の操作画面
「TypeDesigner」はそれ自体、私の趣味趣向にドンピシャ合致する製品だが、実はこの「TypeDesigner」を企画しチーフデザイナーを務めたのが前記した池田さん…池田友也さんというイラストレーターなのだ。ただし彼は残念なことに彼は「TypeDesigner」がリリースされた同年(1998年)の10月31日に若くして亡くなられた…。

※池田友也さんの名刺。この頃カルフォルニアのバークレーで活動されていた
私は池田さんと十分な交流を持ったことはなかったが、演算星組が「Mac書道」を開発していた時期にサラリーマンだった私は多いとき、週に2度ほども会社の帰りに演算星組に立ち寄ったものだが、その時々に池田友也さんというお人柄に触れただけでなく「電脳絵巻」といったMac用クリップアートのデザイナーとしての能力を眩しく拝見していた。

※「電脳絵巻〜地の巻」より池田友也さんの作品例をMacPaintで再現
したがってそうしたご縁で「Mac書道」のマニュアル一部を書かせていただき、巻末の「スタッフ紹介」やアプリケーションのアバウトに私の名が明記され良い思い出となった。池田友也さんといえばその他にも1988年にElectronic Arts社からリリースされたモノクログラフィックソフト兼アニメーションソフトの「Studio 1」において彼がアニメーションデータを描いたと耳にし、これまた早速手に入れた記憶がある。

※「Mac書道」マニュアル巻末のスタッフ紹介(一部)。中央に私のプロフィール紹介があるが、左下が池田友也さんのプロフィールだ
池田さんが活躍された時代のパソコンによるイラストレーションはいわゆるドットつぶしとでも言ったらよいのか…モノクロの点ひとつひとつを上手にON・OFFの上でコントロールしなければならない根気のいる作業を含んでいた。いわば「TypeDesigner」もその延長線上にあったわけだが、類を見ない彼の才能を間近に感じることが出来たその感動がいまだに私をして「TypeDesigner」のタイプフェースに惹きつけられているのである。
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