CREALITY 3Dスキャナ「CR-Scan Lizard」を手にして…

クラウドファンディングのMakuakeでCREALITYの3Dスキャナ「CR-Scan Lizard」が発表されたのを知り、即効でフルバージョンの仕様を支援した。昨年レーザー加工機の支援で懲り、もうクラウドファンディングはやらないと誓ったのに…である(笑)。


言い訳としては3Dスキャナという製品には大いに興味があり、ある意味ずっとウォッチングしてきたからこそ今回の製品スペックに取り憑かれたと言って良い。またどこのメーカーとも知れない企業ではなくこれまでも幾多の3Dプリンターメーカーとして知られていたCREALITYブランドだったので大きな問題はないだろうと考えた。

CREALITY3DScan_01.jpg

※CREALITY 3Dスキャナ「CR-Scan Lizard」とApple M1 iMac 24インチ


■個人的な3Dという世界に魅入られた歴史
振り返って見ると3Dという世界は1980年前後からパソコンを手にした私の目標というか興味の対象だった。
具体的に言うなら私が初めて3Dソフトを体験したのは1982年のこと、Apple II 向け最初の3Dソフト「Apple WORLD」だった。ワイヤーフレームオンリーだったがウォークスルーも可能だった。

CREALITY3DScan_00.jpg

※Apple II 向けとして最初の3Dソフト「Apple WORLD」(1982年)


その3DもApple II、PC-9801、PC-100そしてMacintoshへとハードウェアが推移していったしハードウェアの進化と平行して3Dの表現もカラーになっただけでなくいわゆるレイトレーシングがサポートされたりとリアルになっていく。
ただし一般的なパソコンでは所詮可能なことは知れていたわけで近未来のテクノロジーを垣間見たいと私は無謀にもPC-9801上で動作する大変高価なシステム…PersonalLINKSを買っただけでなく。さらに勢いでSIGGRAPHに参加するため初めて渡米した(1987年)。

CREALITY3DScan_08.jpg

※メタボールも実現可能なPersonalLINKSシステム


その後も初めてMacintosh版がリリースされると聞いた国産3Dソフト “Shade” を当時のMACLIFE誌の依頼で初めてそのレビューを書いたり、自身でも数十万円もする3Dソフトウェアを色々と買い漁った…。しかしそうした中でフラストレーションが次第に大きくなる。
ひとつにはモデリングの問題だ。それぞれが高度な表現、容易なモデリング操作を謳うものの現実としては目の前にあるオブジェをリアルにモデリングするには多大な時間を犠牲にするしモデリングの技術をも必要とする。

そんな環境下で次第に高度なモデリング操作についていけず、だからこそ3Dスキャナといったハードウェアに期待するようになった。そしてまた写真と見紛うようなリアルなモデリング&レンダリングを繰り返す内、思わぬストレスというか不満も湧き出してきた。
それは当たり前なことだが、パソコンのモニター内に作ったオブジェには手を触れることができないという事実だった。この思いが後年私をして3Dプリンターに手を染めるようになったそもそもの切っ掛けである。
そう…申し上げるまでもなく3Dプリンターはモデリングしたデジタルデータをこの手に触れる、持つことが出来る…現実の物体として形作れる魔法の機器なのだ…。

■魅力の3Dスキャナ
さて、3Dスキャナとは、ここにある物体の形状を非接触でセンサーで読み取り、3Dデータとして形成する装置・機器あるいはそのシステムである。
その存在は目新しいものではないが、当初は大変高価な装置だったりしてパーソナルユーザーが手にすることなど出来得ないものだったし、その規模も目的に従い大がかりなものから手で持ち操作するものまで色々な製品があった。

勿論一介のユーザーがそんな機器を手にすることができる訳も無いが、テクノロジーの進歩により工夫すれば手持ちのカメラやスマホでそこそこの結果を出せるというものが登場した。多くの写真を撮り、そこから3Dデータを形成するソフトウェアもあれば、iPhoneをその3Dスキャナにするアプリも多々登場してきた…。
2019年にはXYZプリンティングの「ハンドヘルド 3D スキャナー 2.0」も手に入れたが結果Macではトラブルが多く使い物にならなかった。

CREALITY3DScan_09.jpg

※iPhoneを3Dスキャナにするべく独自の工夫もした一例


しばし諦めかけていたときクラウドファンディングのMakuakeにCREALITYの3Dスキャナの告知が始まった事を知った。数回クラウドファンディングでは痛い思いをさせられたが、それらは聞いたこともないメーカーだったもののCREALITYといえば幾多の3Dプリンターを販売している企業だ。そしてそのスペックを見る限りは使うに値する製品のように思えたので支援することにした。

■CREALITY 3Dスキャナ「CR-Scan Lizard」を使う
CREALITY 3Dスキャナ「CR-Scan Lizard」は最大0.05mmの高精度でデータを取得できるという。これまでこうしたレベルの製品はせいぜい0.1mm程度の精度だったから上々のスペックである。
ただし使い勝手や附属のソフトウェアの出来は実際に使ってみなければわからない…。ともあれCREALITYという企業が作るのだからしてそうそう変なものではないことを信じて配送を待った…。

CREALITY3DScan_02.jpg

※CREALITY 3Dスキャナ「CR-Scan Lizard」の基本システムは専用バッグにセットされていた


その間、スペックなどに関してもいくつか情報が入ってきた。まず一番知りたかったAppleシリコンのM1 Macに対応しているとのことで一安心。やはりこの種のアプリはパソコンのパワーもそれなりに必要となるはずだからとM1 iMac 24インチを注文したわけで最良の環境で活用できそうなのが嬉しい。
結局当初のアナウンスより少し早めに本体一式が無事に届いたが、肝心のMac版ソフトウェアの準備が遅れたため、実用となったのは7月1日からだった。

ハードウェア・スペック
・Accuracy 0.05mm
・Resolution 0.1mm-0.2mm
・Single Capture Range 100mm x 200mm
・Working Distance  150mm – 400mm
・Minimum Scanning   15mm x 15mm x 15mm
・Scanning Speed 10fps
・Light Source  LED+NIR (Note: Near infrared mode, does not irritate eyes)
・Splicing Mode  Fully automatic geometry and visual tracking(without marker)
・Texture Acquisition Extended support to release in March 2022
・Output Format STL/OBJ
・Machine Weight 350g
・Machine Size  155mm x 84mm x 46mm
・Compatible System Windows 10 64-bit / macOS

そういえばクラウドファンディングにも組合せによりセット内容が違ったり価格が違うといったバリエーションがあったが、私はカラーのスキャニングにも対応する最上位のカラーキットを選んだ。
届いたダンボール箱には基本セットともいえる一式が専用のバッグに収まって収納されており、別途カラーのスキャニング時に使う組立式の撮影スタジオや治具などが入っていた。

さて早速M1 iMac 24インチとCREALITY 3Dスキャナを接続してあれこれテストを始めた。使用する専用アプリ「CRStudio2」ではスキャナ本体を手に持ってスキャニングする方法(ハンドスキャン)と専用の円形テーブルにスキャンする物体を置き、自動でスキャニング(テーブルスキャン)する2種類の方法が選べる。しかしどちらにせよ文字通り何の苦労もなく最良の結果を得るのは難しく、為にはやはりある種のコツを会得する必要があるように思う。

CREALITY3DScan_03.jpg

※ハンドスキャンでスキャニング実行中


ということで、要領が分かればどちらのスキャニングにしても難しい事はなく、データの損傷部位やポリゴンのシンプル化などを自動で行い、クオリティの高いデータに仕上げてくれる。

CREALITY3DScan_04.jpg

※クオリティの高いスキャニングが可能


また特にテーブルスキャン時に一度のスキャンではオブジェの向きにより取りこぼしが生じるが、そうした場合はオブジェの置き方を変え追加スキャンが可能。そして優越なのは複数のオブジェの位置合わせを指定することで「CRStudio2」がそれを自動で正確に統合しひとつのオブジェとして完成してくれる。

CREALITY3DScan_05.jpg

※複数回のスキャンで得たオブジェの位置合わせを指示すれば自動で統合作業をしてくれる

ということで、この辺でどのようなオペレーションを行うのか、その概要を動画でご覧いただこう…。




■専用アプリ「CRStudio2」の大問題
CREALITY 3Dスキャナに精通するということはソフトウェアの「CRStudio2」を使いこなすということだ。ということでYouTubeなどから情報を得ようとあれこれと検索してみたが、問題は「CRStudio2」のインターフェースが開発途中で大きく変わってしまった結果、直感的にそれらの情報は役に立たないどころか製品附属の取扱説明書さえ古いインターフェースの解説なので分かりづらい。
ただし、問い合わせたところ最新の日本語取説が用意されていたので助かった…。
しかし取説に従いオペレーションを試みるがどうしても上手く行かないことがある。これまたメーカーに問い合わせて見ると信じられないことだが、マウス操作の中にいわゆる「中ボタンクリック」を促すものがあり、これはマックのマウスではやりようがなかったのだ。

CREALITY3DScan_06.jpg

※仕方がないので取り急ぎWindows向けのマウスを手に入れる事に…


再度この点をメーカーサポートに問い合わせたが、Windows用のマウスを買い、それでオペーレーションすればできる…といった返事があった。これも可笑しな話しだ。なんでわざわざMacユーザーがWindows用マウスを買わなくてはならないのかが問題だし、それでMac版を謳うのはどうかと思う。

■総括
ともあれ、「CRStudio2」はかなりの多機能・高機能なソフトウェアだがスキャニングの実際は対象物との距離や角度、照明といったあれこれを適切に配慮の上で行わないと良い結果は期待できない。
この辺は実際に失敗を重ねつつ、要領を感覚的に覚えていくしか無いが、手元の石膏像や仏像のレプリカなど、比較的複雑なオブジェをスキャンしてみた限りでは…満足できる結果を得ることができた。さらにそのデータを3Dプリンターで出力してみたが感動するほどの出来映えだった。

CREALITY3DScan_07.jpg

※CREALITY 3Dスキャナでスキャンしたデータを3Dプリンターで出力してみた。オリジナルに忠実なクオリティの高い結果が期待できる


ということで、初めて実用となる3Dスキャナを手にした感覚に酔いしれているが、今度はテクスチャーを加えたカラーのスキャニングに挑戦してみたい…。



関連記事
広告
ブログ内検索
Macの達人 無料公開
[小説]未来を垣間見た男 - スティーブ・ジョブズ公開
オリジナル時代小説「木挽町お鶴御用控」無料公開
オリジナル時代小説「首巻き春貞」一巻から外伝まで全完無料公開
ラテ飼育格闘日記
最新記事
カテゴリ
リンク
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

mactechlab

Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員