アップルビジネス昔話し〜危ないベンチャー企業の見分け方

皆さんは「危ない会社の見分け方」をご存じだろうか? 「危ない」とは、一言でいうならまともな会社でなく、取引をすべきでない企業を意味する。無論投資などは論外だ。今回は私が体験したとっておきの実例を紹介する。 



誰でも理屈より、実体験を重ねて会得した"感"がビジネス判断の際に力を発揮することがある。私も長い間のビジネスにおいてそうしたいくつかのノウハウを持っているつもりだが、酒の席などで面白半分に披露するそのひとつに「美人の社長秘書がいるベンチャー企業には気を付けろ!!」という持論がある(笑)。いや、笑い事ではないのだ…。 

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ここでいうところの「危ない」とは、取引をすべきでない企業を意味する。ましてや投資などは論外である。そうした企業と無理に取引すればトラブルが多発するだけでなく、契約不履行など、多大な損害を被る可能性がある。 
まずはその実例をご紹介しよう。タイトルは昔話としているが、この話はそんなに昔のことではなくホンの○年前の実話である。 

ある日、アップルコンピュータ社から紹介を受けたという電話が入った。余談ながら後でアップルに確認したところ一般的な問い合わせとしてその内容から私の会社に相談してみろと話を振ったとのことだった。 
電話口でソフトウェア開発の依頼をしたいという話をいただき、私は早速都内の某所にあったその会社を訪ねた。 
雑居ビルの一室に事務所を構えていたその会社はインターネットを使ったコンテンツ配信ビジネスを始めたばかりという、文字通りのベンチャー企業のようだった。しかしすでに数社のベンチャーキャピタルから資金を集めており、来年には上場を果たすべく準備を整えているというふれ込みだった。 

近々新築のテナントビルに引っ越しもするという説明を、眩しく羨ましく思いながら聞いていたが同時にいつもの癖でその社長を観察し始めていた。彼は私より一回り以上若く、スマートでハンサムな男だったし著作もあった。 
依頼事を要約すると現在Windows版が稼働しているが、そのMacintosh版の開発を依頼したいということだった。また嬉しいことに開発依頼という単発の話しだけでなく、自社が不得手なMacintosh全般のコンサルタントなどを含む長期のビジネス契約を結びたいという、私にとっては喉から手がでるような魅力的な話であった。 

その後、数回その会社を訪れて見積そして契約書のドラフトについての話を進めるにつれ、長い間身につけてきた私の"感"がブレーキを踏み始めた...。理屈においては確かに美味しい話しであり、不景気のこの時代になんとも嬉しいビジネスなのである。しかしどこかおかしい...。 
そう感じる第一の理由は社長の話しっぷりであった。確かに魅力的な人であり一種のカリスマ性を感じさせるし身なりも良い。しかし会話の語尾が不明瞭であるばかりか、一貫した内容でないこと。そして頻繁にこちらの話の腰を折り、話題が頻繁に変わることなどなどだ...。穏和な感じを見せるかと思えば即威圧的な話し方になる。後で振り返ると「何の話をしたのか?」と思うほど印象が薄いのだ。 

そして決定的だったのは顧問弁護士が5人もいると豪語したその会社から提示された基本契約書は私の会社の顧問弁護士に相談するまでもなく、常識的な契約書から見ると多々おかしな部分が目立った。 
帰社する車の中で目を通した限りでも、それは素人のつぎはぎのように思えた。そしてもっとも決定的だったのは、聞いていたとおり新築のビルに移った後に出向いた際、私の持論...そう...絵に描いたように典型的な超美人秘書がいたことである(笑)。 

私は何かデータが出そろった気持ちで心構えが決まった。契約に則り、やるべきことは粛々とやらなければならいが、このビジネスは長く続かない覚悟をしておかなければならない...いつ終わってもよい心構えをしておくことがポイントのように思えた。それは即私の会社のスタッフらにも伝えた。 
その後6ヶ月ほどは契約書に基づいた取引が続いたが、その間も数回の訪問そして反対に社長が私の会社に来訪されるなどのやり取りがあったがある日突然新しく社長に就任したという男から連絡が入り、そのビジネスは頓挫した。 

企業は当然のことだが人事が入れ替わり、社長が替わることも珍しいことではないからそれが問題なのではない。しかし新社長の説明によればその原因が前の社長が会社の金を流用し、いわゆるトンズラしたとのこと...(^_^;)。でも、それだけなら単なる取引先である我々にはまったく関係のないことなのだが、変な会社は新しく社長になる人も変なのだから始末が悪い(笑)。 

新社長がいわく、まだ契約期間が半年も残っている当該契約に対して「高いから払えない」と言い出した。そしてそのトラブルのせめぎ合いが3ヶ月ほど続いた後に、あらら...またしても社長が変わった.....。 
勿論そんな企業は上場できるハズもないし、問題の社長はその後テレビや新聞報道されたある事件の片棒をかついだとの事で逮捕され一部のニュースでは実名報道がなされたという。「やはりなあ...」というのが正直な感想だった。 

事実その会社は後から思えばベンチャーキャピタルなどから集められるだけの金を集めてトンズラするために設立されたような会社に思えた。 
ともかく当時の私の会社としては3人目の社長の代に様々な折衝の結果、減額をさせられたにしても売掛代金の回収を行うことができ、致命的な損害は避けることができた。 
その後どのような紆余曲折があったかは知るところではないが、私が意外に思うのは現在でもその社名の会社は存在するだけでなく驚いたことに問題の発端である最初の社長だった人がまたまた代表取締役に納まっていることだ(笑)。それも顔写真まで載せて...。 

現在彼らのやっている企業活動がどのようなものであるかに興味はないが、ウェブで見る限りは「いかにも」それらしい...(^_^;)。もし私のクライアントたちが取引をするような話を聞けば放ってはおけないから関わらないようにアドバイスをするだろうし一消費者としても関わらないことをお勧めする。 
こうした人たちは人を引きつけるという意味では天性の秀でた能力を持っているのだろうが、その能力の方向が間違っている。そして彼らが二度三度同じようなことで甘い汁を吸うようなことができるわけはないと...世の中はそんなに甘くないと思いたい。しかし現実を見ていると彼らのビジネスが成立しているのであれば「甘い世の中」もあるんだという気もするしその影で様々な不利益を被っている人たちもいることになる。 

話を戻すが、ではなぜ「美人社長秘書」がいるベンチャー企業は危ないのだろうか(笑)。その理由を説明するのはそんなに難しいことではない。 
明確な技術やノウハウ、そして商品・製品でビジネスを起こすのではなく、言葉巧みに人から金を集めて線香花火のようなあるいは打ち上げ花火のようなビジネスを考える輩には人一倍の"看板"が必要なのだ。 
人は弱い部分を隠したいがために、別の衣で武装しようとする。そのひとつが例えば身分不相応の豪華なオフィスであったり、本来は不用なはずの秘書を置き、資金力のあるまともな企業であるという体裁を整えたいと願う。それもとびっきりの美人秘書を置いて...。 
貴方の会社に、美人社長秘書はいないだろうか?(爆)


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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員