電子ピアノとグランドピアノの違いを考察する
電子ピアノを手にいれて楽しむようになったが、必然的に例えばYouTubeにアクセスしてもピアノの演奏はもとより、ピアノという楽器に関する様々な情報が気になるのでよく見聞きしている。そんな中にはピアノ練習は本物のピアノでなければ上達せず…といったことを話す人もいれば、そんなことはないと電子ピアノを楽しむことに擁護する人もいて興味深い。
私事だが、当初何も考えずに安いと言うだけで88鍵の電子ピアノを手に入れた。その楽器で40年ぶりの本格的なピアノ練習を始めたわけだが、技術というかテクニックのテの字もままならないのに生意気だがタッチがどうにも気になってきた。
これがMIDIなどと接続していわゆるキーボードとしての役割なら問題なく楽しめると思うが、ことクラシックピアノの代わりとしては当然とは言え気になる点も多い。実は手に入れた製品は電子ピアノと言うよりはやはり電子キーボードというべき製品だった…。
■本物のピアノと電子ピアノの酷本的な違いとは
まず結論めくが、本物のピアノと電子ピアノの違いをおさらいしておこう…。
電子ピアノと本物のピアノの主な違いは、音の生成方法と鍵盤の感触の違いと言ってよい。電子ピアノは、サンプリングしたピアノの音色をデジタル的にシミュレートし、押された鍵盤に合わせた音がスピーカーから再生される。そして最近の電子ピアノはよく出来ており、本物のピアノのような音色を出すこともできるが、当然ながら完全に本物のピアノの音と一緒であるはずはないのだ。
なぜなら例えばグランドピアノは、弦をハンマーが打弦することによって音を生成し、弦の振動は共鳴板はもとより木製のピアノ筐体全体に共鳴することで独特な豊かで深みのある音になる。また、ピアノの鍵盤は、弦に触れる重みやレスポンスが非常に機械的でリアルであり、演奏する際に非常に感覚的な経験を奏者に提供してくれると言われている。
いまひとつ別の角度から申し上げれば、ピアノとハープシコード、オルガンは同じような鍵盤を持っているもののご承知のように別の楽器として分類されている。
それは音の出し方が違うからで、繰り返すがピアノはフェルトを巻いたハンマーで弦を叩くことで音を発するが、ハープシコードは弦を引っ掻くことで発音する。またオルガンは圧縮した空気がリードを震わせることで音を出すわけだ…。
この理屈からいっても電子ピアノと本物のピアノは音を出す仕組みがまったく別の楽器であり、ピアノの代替として電子ピアノをと安直に考えてはいけないと言うのも一理ある。
したがってとある音楽教室の先生は「電子ピアノによる練習では音楽大学への進学は無理」と言いきっているようだし自宅に電子ピアノがある場合でも本物のピアノに買い換えるよう指導する先生もいるという。
勿論これはピアノを習う当事者が音大を目指し将来ピアニストになるべく指導を受ける場合であるが、こうした点についてはもっと柔軟な考え方を持っている教師もいるようだ。
一番の問題は例え一軒家であっても都心に済む者にとってピアノを思う存分練習することは騒音の面で難しい。無論スペースと予算に余裕があれば専用の防音設備を整えた空間を作ることもできようが、誰も彼もがこうした理想的な環境を作り出すことができるはずもない。
ましてやマンション暮らしとなればなおさらで、その点電子ピアノはコンパクトで手頃な価格であるだけでなく夜間でもヘッドフォンで練習することが出来、かつ本物のピアノのように調弦といったメンテナンスもほとんど不用だ。
ということでピアノを練習し楽しむためには電子ピアノの存在はとても有り難い存在なのだ。ただし繰り返すが、本物のピアノとはそもそも音の出し方が違うため電子ピアノの音が急速に良くなってきたにしろ同じであるはずもない…。
ただし本物のピアノに拘る…拘ざるを得ないのは音楽を極め、プロになろうとする人たちでありピアノを趣味として、人生を豊かにしたいと考える人たちと同一視するのも間違っていると思う。
そういえば私自身40年程前(1981年)から近所のピアノ教室に通ったが、当時は基本的な知識もなかったため単に「なぜだろうか?」という疑問だけが残ったことがある。
それは自宅に当時として安くはないアップライト型の電子ピアノを買ってそれで練習していたが、一週間に一度ピアノ教室へ通いそこにあった本物のピアノで演奏するとどういうわけか、自宅のピアノより弾きやすいのだ。
ひとつ分かったことは自宅の電子ピアノの鍵盤はプラスチックだったが、教室のピアノは鍵盤もそのベースは木製だった。その上にどのような塗装がなされているのかは知らないものの指が滑らず、大げさに言えば鍵盤に指が吸い付く感じでとても心地よかったことを覚えている。
またいま思えば当時の電子ピアノはキーの重さは本物のピアノに似せて作ってあるもののアクションの基本はバネ式だったに違いない。
■電子ピアノにも良し悪しがある
さて、ここからは電子ピアノのアクションについて少し深掘りしてみたい。ところでグランドピアノの鍵盤がどのようなアクションで音を出すのか…といった写真や図解をご覧になったことがおありだろうか。
著作権の関係上、既存の図版を掲載するわけにはいかなかったがネットをググればピアノの構成図のようなデータは多々確認出来るので是非一度ご覧になっていただきたい。
ピアノのアクションはグランドピアノとアップライトでは大きく違うものの木材や金属製のピン、フェルトなどで構成されているがその多くの素材は木材だ。そして特にグランドピアノのそれは複雑な機構でその加工精密度はヤマハの場合5/100ミリを基準にしているという。
この微妙で精緻なアクション機構とセンサースイッチで音を出し消す電子ピアノのキータッチが同じであるはずはないが近年各メーカーが電子ピアノに "ハンマーアクション" と呼ぶピアノの機構を真似たものを研究採用するようになってきた。
ちなみに私が手に入れた前記した電子ピアノは鍵盤サイズや沈む深さ、そして重さなども実際のピアノをお手本にしているものの価格からしてその鍵盤の仕組みは一番単純なライト・ウェイト・キー方式といういわばバネで押されたキーを元の位置に戻しているものと思われる。
この他電子キーボーとのアクションとしては基本はライト・ウェイト・キーと同じながらさらに鍵盤の奏者側に慣性を付けるための重りが付けられたセミ・ウェイト・キーという方式も出て来ている。
※電子ピアノ/電子キーボードに採用されている主な三種のキーアクションを簡単な模型で説明します
そして電子キーボードのアクションとしては理想に近いものと言われているハンマーアクション方式あるいはピアノタッチ鍵盤と呼ばれるタイプが登場しているわけだが、これらはグランドピアノのタッチに近づけようと各社が力を入れている鍵盤の仕様だ。
仕組みはグランドピアノのそれと比較して大幅に簡素化されてはいるものの理屈は本物のピアノとかなり近づけて作られていて、鍵盤を押すことで重りの付いたバーへ力が加わる仕組みになっている。そして鍵盤の慣性や戻る力はすべて重り(重力)の力によるもので高速な連打など繊細な表現がしやすくなっているという。
■電子ピアノを買い換えた
最後に私自身のことをお話ししたい…。前記のことを総括すると電子ピアノは本物のピアノと同じであるはずはないことを認識した上で住宅事情などを考慮すれば電子ピアノの存在は得がたいものだともいえる。
ただ理屈が多くなるが、一般的な電子ピアノは例えばMIDIと接続して打ち込みに使うなどの際にはキーのアクションがどうのこうのといったことはあまり気にならないと思う。しかし電子ピアノを "ピアノ" としてクラシック音楽を勉強あるいは楽しみたいと考えるなら長い目で見てライト・ウェイト・キー方式ではなくピアノの感触に近いというハンマーアクション方式の電子ピアノを使うべきだということになる。
そして私の様に単にクラシックあるいはジャズピアノの演奏を楽しむならそれで良いが、もし貴方が将来ピアニストになりたいという夢や希望があるなら、日々の練習は電子ピアノにしても週に一二度、いやできるだけ多く本物のピアノに触れ、それで演奏を奏でる機会を忘れてはいけないということになる…。
さて、私の使ってきた電子ピアノは鍵盤のタッチによる強弱も実際は4段階程度にしか表現できないしバネ式の宿命か、とある刹那に音が出なかったり鍵盤の奥を押さえるのがかなり重かったり…を感じる。勿論人前で演奏することもないしあくまで自分の楽しみのためにチャレンジしているわけだし、電子ピアノのスペックをどうこういう前に己の技量が追いついていないことは十分承知だが、少しでも納得出来る環境で楽しみたいからとこの度思い切って電子ピアノを買い換えることにした。
なにしろ最初は惚け防止も含めて単純にピアノ練習をと軽く考えていたが、少し進めて行くにつれいわゆる「はまって」しまったのだ(笑)。
新しい電子ピアノへの拘りは88鍵は当然だが主に二点だ…。ひとつは無論ハンマーアクション機構を持つこと、そしてせっかくだから設置した際にアップライトピアノらしさをと鍵盤を支える左右の板に装飾的な脚部を持つデザインの製品にした。

※Donner 電子ピアノ 88鍵盤 DDP-90
そうした点を踏まえて選んだ "Donner 電子ピアノ 88鍵盤 DDP-90" はペダルがダンパーに加えソフト、ソステヌートを使うことができる3本ペダルであること、鍵盤カバーを開けると譜面立てとなり、なによりもグランドピアノのタッチを再現したという…鍵盤の重さを低音部では重く、高音部では軽くなるように、そして音域によって弾きごたえを段階的に変化させ、高い連打性能はもとより自然なタッチ感を実現した「ウェイテッド・ハンマー・アクッション」を搭載していることだ。

※蓋をした状態のDonner 電子ピアノ 88鍵盤 DDP-90
また鍵盤を保護するキー・カバーを閉じるとフラットになり、簡単な書き物テーブルとしての利用も可能な点も気に入った。なにしろ狭い部屋だ…簡易の机が増えた感じで嬉しいし、そのキー・カバーにはピアノ・フィンガーガード機構が付き、フタで指をはさむ心配がないという。

※蓋で指を挟まないピアノ・フィンガーガード機構が付いている
こうしたスペックでも奥行きはわずか35cmというスリムさなのもよい。
肝心の音だが、以前の電子ピアノがフランスのDREAM最新音源を採用してのに比べ、詳しい事は不明ながらDonner 電子ピアノ 88鍵盤 DDP-90は独自のAWMサンプリングを採用とのことで一種類のグランドピアノの音が採用されている。

※電源スイッチと音量調節ダイアル
■Donner 電子ピアノ 88鍵盤 DDP-90の実際
さて手元に届いたのはDonner 電子ピアノ 88鍵盤 DDP-90という製品。88鍵なのは当然としても一体型(組立式)のスタンドがありこの価格にしては立派なアップライト型ピアノの雰囲気を味わえる。

一番の特徴はグランド・ピアノと同様に低音部では重く、高音部にいくほど軽くなるタッチを再現したウェイテッド・ハンマーアクション鍵盤を採用している点だ。また独自のAWMサンプリング技術により一種類のグランドピアノの音源を採用しており、一般的な電子キーボードのように複数の楽器音源は持っておらず、あくまでピアノを再現することに注視している製品である。
① デザイン
簡易形の台に電子ピアノを乗せて利用していた身としてはDDP-90の家具調デザインは本物のピアノに触れているように思え、視覚的にも楽しんでいるし嬉しくて仕方ない。特に簡易形とはいえ奥行き35cmといった制約の中でも装飾の足があるのも最高。

② キータッチ
鍵盤を始めて押した瞬間に大げさかも知れないが「あっピアノだ!」と感じた。グランドピアノにせよアップライトピアノにせよ、指の記憶が宿った感じで明らかに前記電子キーボードのそれとは違う。搭載されている「ウェイテッド・ハンマー・アクッション」は期待通りだった。

③ 音
詳しいことは不明だがこれまでの電子ピアノがフランスのDREAM最新音源の採用だった。しかしDonner 電子ピアノ 88鍵盤 DDP-90は独自のAWMサンプリングで一種類のグランドピアノの音源を搭載している。為に確かに内蔵された10W×2個のスピーカーからの音は「これぞピアノの音」だと思えるリアリティを感じさせる。また念のためだがこのDDP-90はピアノ音源のみ搭載でよくある128音…といった他の楽器音のバリエーションは含まれていない。これこそピアノであることを主張しているようにも思える。
④ 蓋がある利点
これは汚れやアクシデントから鍵盤を守ってくれるだけでなく蓋を閉めると奥行き20cm程度はフラットになり、ちょっした物書き程度が可能になるので嬉しい。ただしこの上で珈琲など飲み物を飲むのは厳禁である。

またピアノの蓋はよくカタンと落ちるように締まり、ために手の指を挟んで酷い目にあった経験はおありだろうか…。しかしこのDDP-90は鍵盤内右サイドにカバーをゆっくりと閉じる特殊なフィンガーガード装置が付いているため安全である。
⑤ 3本ペダル
ダンパーに加えソフト、ソステヌートを使うことができる3本ペダルが装備されているので本格的な練習も可能。
⑥ インターフェース
MP3入力端子、MIDI端子、サステインペダル入力端子、オーディオ入力端子、オーディオ出力端子、2つのヘッドホン出力端子(6.35mm)が装備されている。
⑦ 本体サイズと重量
137×35×78cm 33Kg
⑧ 組立について
私はなんとか…なんとか一人で組み立てたが、やはり二人で組立や移動をすべきだ。組立そのものは難しくないがサイズが大きいし雑に組み立てようとすると両脚と3本ペダルのバー部位にしてもネジ留め位置の板を割ってしまう可能性もある。また台を組立後、鍵盤本体部位を乗せるにしても重さは25kg以上はあると思うので一人だと腰を痛める可能性大。
なお同梱のマニュアルは英語で日本語表記は無いが、Amazonの製品ページから日本語マニュアル(PDF)をダウンロードすることが可能。
■総括
こうしてコスパも超良い電子ピアノの賛美ばかり書くと「本物のピアノも知らずいい気なものだ」とか「本物のピアノで練習できない者の物言い」などと思われるかも知れない。しかし私はグランドピアノを知らないで物言いしているわけではない。若い時代に1年半ピアノ教室に通いそこにあったグランドピアノやアップライトピアノで練習した経験も持っている。それに確かに私だって自宅にグランドピアノを置けるものならそれに越したことはないが、無いものねだりしても何の益もないし物事には常に「上には上が」あるものだ。したがって己が実現可能な範囲、できる範囲のことで人生を楽しむのが正解だと考えている…。
というわけで、鍵盤の感触や力の入れ具合がこれまでとは大きく違ったので練習してきた曲も最初から指使いを含めて練習し直す必要性を感じている。またピアニッシモからフォルテに至る音の強弱もこれまでとは格段の違いで表現できるようだし、まったく使いこなせていないものの、ペダルはダンパーに加えソフト、ソステヌートを使うことができる本格的な3本ペダルなのもこれから様々な曲を練習する際に違和感なく楽しむことができるに違いない。
それほどDonner 電子ピアノ 88鍵盤 DDP-90は良い意味でこれまでの電子ピアノとは違いグランドピアノのそれを思わせるタッチにはゾクゾク感が止まらない(笑)。これは期待以上であり長い付き合いになりそうだ…。
私事だが、当初何も考えずに安いと言うだけで88鍵の電子ピアノを手に入れた。その楽器で40年ぶりの本格的なピアノ練習を始めたわけだが、技術というかテクニックのテの字もままならないのに生意気だがタッチがどうにも気になってきた。
これがMIDIなどと接続していわゆるキーボードとしての役割なら問題なく楽しめると思うが、ことクラシックピアノの代わりとしては当然とは言え気になる点も多い。実は手に入れた製品は電子ピアノと言うよりはやはり電子キーボードというべき製品だった…。
■本物のピアノと電子ピアノの酷本的な違いとは
まず結論めくが、本物のピアノと電子ピアノの違いをおさらいしておこう…。
電子ピアノと本物のピアノの主な違いは、音の生成方法と鍵盤の感触の違いと言ってよい。電子ピアノは、サンプリングしたピアノの音色をデジタル的にシミュレートし、押された鍵盤に合わせた音がスピーカーから再生される。そして最近の電子ピアノはよく出来ており、本物のピアノのような音色を出すこともできるが、当然ながら完全に本物のピアノの音と一緒であるはずはないのだ。
なぜなら例えばグランドピアノは、弦をハンマーが打弦することによって音を生成し、弦の振動は共鳴板はもとより木製のピアノ筐体全体に共鳴することで独特な豊かで深みのある音になる。また、ピアノの鍵盤は、弦に触れる重みやレスポンスが非常に機械的でリアルであり、演奏する際に非常に感覚的な経験を奏者に提供してくれると言われている。
いまひとつ別の角度から申し上げれば、ピアノとハープシコード、オルガンは同じような鍵盤を持っているもののご承知のように別の楽器として分類されている。
それは音の出し方が違うからで、繰り返すがピアノはフェルトを巻いたハンマーで弦を叩くことで音を発するが、ハープシコードは弦を引っ掻くことで発音する。またオルガンは圧縮した空気がリードを震わせることで音を出すわけだ…。
この理屈からいっても電子ピアノと本物のピアノは音を出す仕組みがまったく別の楽器であり、ピアノの代替として電子ピアノをと安直に考えてはいけないと言うのも一理ある。
したがってとある音楽教室の先生は「電子ピアノによる練習では音楽大学への進学は無理」と言いきっているようだし自宅に電子ピアノがある場合でも本物のピアノに買い換えるよう指導する先生もいるという。
勿論これはピアノを習う当事者が音大を目指し将来ピアニストになるべく指導を受ける場合であるが、こうした点についてはもっと柔軟な考え方を持っている教師もいるようだ。
一番の問題は例え一軒家であっても都心に済む者にとってピアノを思う存分練習することは騒音の面で難しい。無論スペースと予算に余裕があれば専用の防音設備を整えた空間を作ることもできようが、誰も彼もがこうした理想的な環境を作り出すことができるはずもない。
ましてやマンション暮らしとなればなおさらで、その点電子ピアノはコンパクトで手頃な価格であるだけでなく夜間でもヘッドフォンで練習することが出来、かつ本物のピアノのように調弦といったメンテナンスもほとんど不用だ。
ということでピアノを練習し楽しむためには電子ピアノの存在はとても有り難い存在なのだ。ただし繰り返すが、本物のピアノとはそもそも音の出し方が違うため電子ピアノの音が急速に良くなってきたにしろ同じであるはずもない…。
ただし本物のピアノに拘る…拘ざるを得ないのは音楽を極め、プロになろうとする人たちでありピアノを趣味として、人生を豊かにしたいと考える人たちと同一視するのも間違っていると思う。
そういえば私自身40年程前(1981年)から近所のピアノ教室に通ったが、当時は基本的な知識もなかったため単に「なぜだろうか?」という疑問だけが残ったことがある。
それは自宅に当時として安くはないアップライト型の電子ピアノを買ってそれで練習していたが、一週間に一度ピアノ教室へ通いそこにあった本物のピアノで演奏するとどういうわけか、自宅のピアノより弾きやすいのだ。
ひとつ分かったことは自宅の電子ピアノの鍵盤はプラスチックだったが、教室のピアノは鍵盤もそのベースは木製だった。その上にどのような塗装がなされているのかは知らないものの指が滑らず、大げさに言えば鍵盤に指が吸い付く感じでとても心地よかったことを覚えている。
またいま思えば当時の電子ピアノはキーの重さは本物のピアノに似せて作ってあるもののアクションの基本はバネ式だったに違いない。
■電子ピアノにも良し悪しがある
さて、ここからは電子ピアノのアクションについて少し深掘りしてみたい。ところでグランドピアノの鍵盤がどのようなアクションで音を出すのか…といった写真や図解をご覧になったことがおありだろうか。
著作権の関係上、既存の図版を掲載するわけにはいかなかったがネットをググればピアノの構成図のようなデータは多々確認出来るので是非一度ご覧になっていただきたい。
ピアノのアクションはグランドピアノとアップライトでは大きく違うものの木材や金属製のピン、フェルトなどで構成されているがその多くの素材は木材だ。そして特にグランドピアノのそれは複雑な機構でその加工精密度はヤマハの場合5/100ミリを基準にしているという。
この微妙で精緻なアクション機構とセンサースイッチで音を出し消す電子ピアノのキータッチが同じであるはずはないが近年各メーカーが電子ピアノに "ハンマーアクション" と呼ぶピアノの機構を真似たものを研究採用するようになってきた。
ちなみに私が手に入れた前記した電子ピアノは鍵盤サイズや沈む深さ、そして重さなども実際のピアノをお手本にしているものの価格からしてその鍵盤の仕組みは一番単純なライト・ウェイト・キー方式といういわばバネで押されたキーを元の位置に戻しているものと思われる。
この他電子キーボーとのアクションとしては基本はライト・ウェイト・キーと同じながらさらに鍵盤の奏者側に慣性を付けるための重りが付けられたセミ・ウェイト・キーという方式も出て来ている。
※電子ピアノ/電子キーボードに採用されている主な三種のキーアクションを簡単な模型で説明します
そして電子キーボードのアクションとしては理想に近いものと言われているハンマーアクション方式あるいはピアノタッチ鍵盤と呼ばれるタイプが登場しているわけだが、これらはグランドピアノのタッチに近づけようと各社が力を入れている鍵盤の仕様だ。
仕組みはグランドピアノのそれと比較して大幅に簡素化されてはいるものの理屈は本物のピアノとかなり近づけて作られていて、鍵盤を押すことで重りの付いたバーへ力が加わる仕組みになっている。そして鍵盤の慣性や戻る力はすべて重り(重力)の力によるもので高速な連打など繊細な表現がしやすくなっているという。
■電子ピアノを買い換えた
最後に私自身のことをお話ししたい…。前記のことを総括すると電子ピアノは本物のピアノと同じであるはずはないことを認識した上で住宅事情などを考慮すれば電子ピアノの存在は得がたいものだともいえる。
ただ理屈が多くなるが、一般的な電子ピアノは例えばMIDIと接続して打ち込みに使うなどの際にはキーのアクションがどうのこうのといったことはあまり気にならないと思う。しかし電子ピアノを "ピアノ" としてクラシック音楽を勉強あるいは楽しみたいと考えるなら長い目で見てライト・ウェイト・キー方式ではなくピアノの感触に近いというハンマーアクション方式の電子ピアノを使うべきだということになる。
そして私の様に単にクラシックあるいはジャズピアノの演奏を楽しむならそれで良いが、もし貴方が将来ピアニストになりたいという夢や希望があるなら、日々の練習は電子ピアノにしても週に一二度、いやできるだけ多く本物のピアノに触れ、それで演奏を奏でる機会を忘れてはいけないということになる…。
さて、私の使ってきた電子ピアノは鍵盤のタッチによる強弱も実際は4段階程度にしか表現できないしバネ式の宿命か、とある刹那に音が出なかったり鍵盤の奥を押さえるのがかなり重かったり…を感じる。勿論人前で演奏することもないしあくまで自分の楽しみのためにチャレンジしているわけだし、電子ピアノのスペックをどうこういう前に己の技量が追いついていないことは十分承知だが、少しでも納得出来る環境で楽しみたいからとこの度思い切って電子ピアノを買い換えることにした。
なにしろ最初は惚け防止も含めて単純にピアノ練習をと軽く考えていたが、少し進めて行くにつれいわゆる「はまって」しまったのだ(笑)。
新しい電子ピアノへの拘りは88鍵は当然だが主に二点だ…。ひとつは無論ハンマーアクション機構を持つこと、そしてせっかくだから設置した際にアップライトピアノらしさをと鍵盤を支える左右の板に装飾的な脚部を持つデザインの製品にした。

※Donner 電子ピアノ 88鍵盤 DDP-90
そうした点を踏まえて選んだ "Donner 電子ピアノ 88鍵盤 DDP-90" はペダルがダンパーに加えソフト、ソステヌートを使うことができる3本ペダルであること、鍵盤カバーを開けると譜面立てとなり、なによりもグランドピアノのタッチを再現したという…鍵盤の重さを低音部では重く、高音部では軽くなるように、そして音域によって弾きごたえを段階的に変化させ、高い連打性能はもとより自然なタッチ感を実現した「ウェイテッド・ハンマー・アクッション」を搭載していることだ。

※蓋をした状態のDonner 電子ピアノ 88鍵盤 DDP-90
また鍵盤を保護するキー・カバーを閉じるとフラットになり、簡単な書き物テーブルとしての利用も可能な点も気に入った。なにしろ狭い部屋だ…簡易の机が増えた感じで嬉しいし、そのキー・カバーにはピアノ・フィンガーガード機構が付き、フタで指をはさむ心配がないという。

※蓋で指を挟まないピアノ・フィンガーガード機構が付いている
こうしたスペックでも奥行きはわずか35cmというスリムさなのもよい。
肝心の音だが、以前の電子ピアノがフランスのDREAM最新音源を採用してのに比べ、詳しい事は不明ながらDonner 電子ピアノ 88鍵盤 DDP-90は独自のAWMサンプリングを採用とのことで一種類のグランドピアノの音が採用されている。

※電源スイッチと音量調節ダイアル
■Donner 電子ピアノ 88鍵盤 DDP-90の実際
さて手元に届いたのはDonner 電子ピアノ 88鍵盤 DDP-90という製品。88鍵なのは当然としても一体型(組立式)のスタンドがありこの価格にしては立派なアップライト型ピアノの雰囲気を味わえる。

一番の特徴はグランド・ピアノと同様に低音部では重く、高音部にいくほど軽くなるタッチを再現したウェイテッド・ハンマーアクション鍵盤を採用している点だ。また独自のAWMサンプリング技術により一種類のグランドピアノの音源を採用しており、一般的な電子キーボードのように複数の楽器音源は持っておらず、あくまでピアノを再現することに注視している製品である。
① デザイン
簡易形の台に電子ピアノを乗せて利用していた身としてはDDP-90の家具調デザインは本物のピアノに触れているように思え、視覚的にも楽しんでいるし嬉しくて仕方ない。特に簡易形とはいえ奥行き35cmといった制約の中でも装飾の足があるのも最高。

② キータッチ
鍵盤を始めて押した瞬間に大げさかも知れないが「あっピアノだ!」と感じた。グランドピアノにせよアップライトピアノにせよ、指の記憶が宿った感じで明らかに前記電子キーボードのそれとは違う。搭載されている「ウェイテッド・ハンマー・アクッション」は期待通りだった。

③ 音
詳しいことは不明だがこれまでの電子ピアノがフランスのDREAM最新音源の採用だった。しかしDonner 電子ピアノ 88鍵盤 DDP-90は独自のAWMサンプリングで一種類のグランドピアノの音源を搭載している。為に確かに内蔵された10W×2個のスピーカーからの音は「これぞピアノの音」だと思えるリアリティを感じさせる。また念のためだがこのDDP-90はピアノ音源のみ搭載でよくある128音…といった他の楽器音のバリエーションは含まれていない。これこそピアノであることを主張しているようにも思える。
④ 蓋がある利点
これは汚れやアクシデントから鍵盤を守ってくれるだけでなく蓋を閉めると奥行き20cm程度はフラットになり、ちょっした物書き程度が可能になるので嬉しい。ただしこの上で珈琲など飲み物を飲むのは厳禁である。

またピアノの蓋はよくカタンと落ちるように締まり、ために手の指を挟んで酷い目にあった経験はおありだろうか…。しかしこのDDP-90は鍵盤内右サイドにカバーをゆっくりと閉じる特殊なフィンガーガード装置が付いているため安全である。
⑤ 3本ペダル
ダンパーに加えソフト、ソステヌートを使うことができる3本ペダルが装備されているので本格的な練習も可能。
⑥ インターフェース
MP3入力端子、MIDI端子、サステインペダル入力端子、オーディオ入力端子、オーディオ出力端子、2つのヘッドホン出力端子(6.35mm)が装備されている。
⑦ 本体サイズと重量
137×35×78cm 33Kg
⑧ 組立について
私はなんとか…なんとか一人で組み立てたが、やはり二人で組立や移動をすべきだ。組立そのものは難しくないがサイズが大きいし雑に組み立てようとすると両脚と3本ペダルのバー部位にしてもネジ留め位置の板を割ってしまう可能性もある。また台を組立後、鍵盤本体部位を乗せるにしても重さは25kg以上はあると思うので一人だと腰を痛める可能性大。
なお同梱のマニュアルは英語で日本語表記は無いが、Amazonの製品ページから日本語マニュアル(PDF)をダウンロードすることが可能。
■総括
こうしてコスパも超良い電子ピアノの賛美ばかり書くと「本物のピアノも知らずいい気なものだ」とか「本物のピアノで練習できない者の物言い」などと思われるかも知れない。しかし私はグランドピアノを知らないで物言いしているわけではない。若い時代に1年半ピアノ教室に通いそこにあったグランドピアノやアップライトピアノで練習した経験も持っている。それに確かに私だって自宅にグランドピアノを置けるものならそれに越したことはないが、無いものねだりしても何の益もないし物事には常に「上には上が」あるものだ。したがって己が実現可能な範囲、できる範囲のことで人生を楽しむのが正解だと考えている…。
というわけで、鍵盤の感触や力の入れ具合がこれまでとは大きく違ったので練習してきた曲も最初から指使いを含めて練習し直す必要性を感じている。またピアニッシモからフォルテに至る音の強弱もこれまでとは格段の違いで表現できるようだし、まったく使いこなせていないものの、ペダルはダンパーに加えソフト、ソステヌートを使うことができる本格的な3本ペダルなのもこれから様々な曲を練習する際に違和感なく楽しむことができるに違いない。
それほどDonner 電子ピアノ 88鍵盤 DDP-90は良い意味でこれまでの電子ピアノとは違いグランドピアノのそれを思わせるタッチにはゾクゾク感が止まらない(笑)。これは期待以上であり長い付き合いになりそうだ…。
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