SF小説 石川英輔著「大江戸神仙伝」考
すでに38年も昔の話になるが1985年11月8日、日本テレビ系列の「金曜ロードショー」で滝田栄が主役を務めたSFドラマが放映された。その原作だという石川英輔著「大江戸神仙伝」をやっと手に入れたが大変面白いのでその後のシリーズを含む七冊合本版(Kindle版)を購入した次第。
たった一度見たTVドラマが妙に心に残っていることはないだろうか。私にはこの金曜ロードショー「大江戸神仙伝」なるSFドラマはときに思い出すほど気になっていた物語だった。

※TVドラマ「大江戸神仙伝」のオープニング画面
後に漫画もTVドラマも大ヒットした「仁」も想像するにこの「大江戸神仙伝」をヒントにして生まれたのではないかと勝手に考えている。
ともあれこれまでタイトルも分からなければ原作があるのかあるいはオリジナルな作品なのかも分からないまま時が過ぎてしまったが、ふとしたきっかけで文庫本に出会え,同時にTVドラマも嬉しいことにYouTubeで見つけることが出来た。


※「大江戸神仙伝」の文庫本(上)と続編を含む7作品の合本(Kindle版)
私はTVドラマを見たのが最初だったが、製薬会社の研究職で妻に先立たれた速見洋介(滝田栄)が主人公。ある日、突然日本橋で文政五年の江戸時代にタイムスリップしてしまう。
困惑しているときに本道(内科)の医師である北山涼哲に助けられその自宅に転がり込んだ速見は、160年前の江戸の生活の豊かさに目を見張る。江戸の常識に対する無知と旺盛な好奇心、現代に由来する知識や、所持していた腕時計あるいはボールペンなどの進んだ道具から北山涼哲は仙境から来たと呼ばれるようになった。そんな洋介に涼哲から江戸煩い(脚気)で幼友達が危篤だと知らされた。
事実江戸時代は白米を多く食べることから下々は勿論上は将軍にいたるまで脚気で死ぬことも多い時代で,脚気がビタミンB1の不足によることを当然のこと知らず対処方法もなかった。
速見洋介は製薬会社で研究員だった知識と経験を生かし米糠からビタミンB1剤を抽出し涼哲の患者を完治させたことで涼哲はもとよりコミュニティの富豪たちからも尊敬される存在となっていく。また16歳の辰巳芸者いな吉に惚れられ旦那となり、水揚げすることに。
…といったあらすじではあるが、当然と言っては語弊があるものの原作とTVドラマではストーリーの流れはもとより登場人物の役割や作品のコンセプトもかなり違っていた…。
TVドラマの「大江戸神仙伝」のキモは,江戸と現代を行き来する能力を持った速見洋介の存在はもとより、まったく価値観が違う江戸の生活とそこに生きる人たちとのギャップが面白いわけだが、1時間半ほどの尺のなかに起承転結を展開させる必要もあり、速見洋介の作り出した脚気薬に目につけた男にいな吉と北山涼哲が攫われ、その人質と交換で薬の作り方を教えろと脅迫されるという展開があるが、原作には無論この種の事件ともいうべき大事はその後のシリーズ七巻においても一切無く第一悪人が登場しない…。
原作七巻を読む限り、著者のいわんとするところは時空を越えて江戸と現代を行き来するその能力でもなければ時に江戸ではいな吉と、現代では有能な女性編集者の尾形流子との熱烈なラブシーンでもなく、我々が長い間の教育の不備ともいうべき偏見より江戸時代は野蛮であり、科学や文明が発達していない暗黒の時代といった通念を正そうとすることこそ本書の目的であるように思える。
というわけでページの多くは江戸時代の貧しくとも魅力的な人々の生き様とその説明に割かれていて、タイムトラベルとか素敵な女性との秘め事といった描写はあくまでその調味料というわけだ。
なぜに江戸は我々の先入観と違い、なかなかに素晴らしい時代だったのか…については是非本書を手にしていただきたいが、とかく我々は江戸時代よりは明治時代が、明治時代よりは現代が人々の暮らしに豊かさを与えたのだと教育されてきたが、それはあくまで現代にどっぷりと浸かった我々の考えであって、本書は人一人の幸せを考えたとき、単純にそうとも言えないことに気づかせてくれる。
「大江戸神仙伝」はまさしく江戸のガイドブックなのである。
たった一度見たTVドラマが妙に心に残っていることはないだろうか。私にはこの金曜ロードショー「大江戸神仙伝」なるSFドラマはときに思い出すほど気になっていた物語だった。

※TVドラマ「大江戸神仙伝」のオープニング画面
後に漫画もTVドラマも大ヒットした「仁」も想像するにこの「大江戸神仙伝」をヒントにして生まれたのではないかと勝手に考えている。
ともあれこれまでタイトルも分からなければ原作があるのかあるいはオリジナルな作品なのかも分からないまま時が過ぎてしまったが、ふとしたきっかけで文庫本に出会え,同時にTVドラマも嬉しいことにYouTubeで見つけることが出来た。


※「大江戸神仙伝」の文庫本(上)と続編を含む7作品の合本(Kindle版)
私はTVドラマを見たのが最初だったが、製薬会社の研究職で妻に先立たれた速見洋介(滝田栄)が主人公。ある日、突然日本橋で文政五年の江戸時代にタイムスリップしてしまう。
困惑しているときに本道(内科)の医師である北山涼哲に助けられその自宅に転がり込んだ速見は、160年前の江戸の生活の豊かさに目を見張る。江戸の常識に対する無知と旺盛な好奇心、現代に由来する知識や、所持していた腕時計あるいはボールペンなどの進んだ道具から北山涼哲は仙境から来たと呼ばれるようになった。そんな洋介に涼哲から江戸煩い(脚気)で幼友達が危篤だと知らされた。
事実江戸時代は白米を多く食べることから下々は勿論上は将軍にいたるまで脚気で死ぬことも多い時代で,脚気がビタミンB1の不足によることを当然のこと知らず対処方法もなかった。
速見洋介は製薬会社で研究員だった知識と経験を生かし米糠からビタミンB1剤を抽出し涼哲の患者を完治させたことで涼哲はもとよりコミュニティの富豪たちからも尊敬される存在となっていく。また16歳の辰巳芸者いな吉に惚れられ旦那となり、水揚げすることに。
…といったあらすじではあるが、当然と言っては語弊があるものの原作とTVドラマではストーリーの流れはもとより登場人物の役割や作品のコンセプトもかなり違っていた…。
TVドラマの「大江戸神仙伝」のキモは,江戸と現代を行き来する能力を持った速見洋介の存在はもとより、まったく価値観が違う江戸の生活とそこに生きる人たちとのギャップが面白いわけだが、1時間半ほどの尺のなかに起承転結を展開させる必要もあり、速見洋介の作り出した脚気薬に目につけた男にいな吉と北山涼哲が攫われ、その人質と交換で薬の作り方を教えろと脅迫されるという展開があるが、原作には無論この種の事件ともいうべき大事はその後のシリーズ七巻においても一切無く第一悪人が登場しない…。
原作七巻を読む限り、著者のいわんとするところは時空を越えて江戸と現代を行き来するその能力でもなければ時に江戸ではいな吉と、現代では有能な女性編集者の尾形流子との熱烈なラブシーンでもなく、我々が長い間の教育の不備ともいうべき偏見より江戸時代は野蛮であり、科学や文明が発達していない暗黒の時代といった通念を正そうとすることこそ本書の目的であるように思える。
というわけでページの多くは江戸時代の貧しくとも魅力的な人々の生き様とその説明に割かれていて、タイムトラベルとか素敵な女性との秘め事といった描写はあくまでその調味料というわけだ。
なぜに江戸は我々の先入観と違い、なかなかに素晴らしい時代だったのか…については是非本書を手にしていただきたいが、とかく我々は江戸時代よりは明治時代が、明治時代よりは現代が人々の暮らしに豊かさを与えたのだと教育されてきたが、それはあくまで現代にどっぷりと浸かった我々の考えであって、本書は人一人の幸せを考えたとき、単純にそうとも言えないことに気づかせてくれる。
「大江戸神仙伝」はまさしく江戸のガイドブックなのである。
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