丹波焼 市野信水作の文琳茶入を手にして
やっとお気に入りの青織部の抹茶茶盌を手に入れたわけだが、続いて文琳茶入を手に入れることができた。茶入れとはまさしく抹茶を入れる器であるが、狭義には棗(なつめ)に代表される木製茶器に対する陶磁器製の茶器を指すという。棗は形だけのものは最初に揃えたが、陶器の茶入れが欲しくなったのである…。
少しずつ分かってきたことは利休や織部などの茶人たちの特異性である。そもそもある意味出来の良さはともかく普通の陶器に過ぎない雑器にまで当時の茶人たちは何故もあれほど個性やら美意識を引き出して美しさと価値を見出したのだろうか…という疑問があった。それがバブリーな桃山という時代に後押しされたとはいえ、間違いなく茶の湯文化の特殊性でもあるわけで、茶人たちはいわば茶器の姿を借りた自己表現を繰り広げたのであり、武力を見立てに変えた一種の知的武装でもあったのかも…。
何しろ名物といわれる茶入は一国一城に匹敵する程の価値を持つ貴重なものであり、時には所有者の家柄や資格をも左右すると考えられ、事実この小さな茶入れひとつに命がかかる場合もあった。
ところでこの度石川県金沢市より届いた茶入れは日本六古窯の地「丹波」における茶陶作家の第一人者である市野信水作の文琳茶入だという。

※丹波焼 市野信水作の文琳茶入と共箱
茶入れというと茶壺を想像する人もいるかも知れないが、茶入れは茶壺のように大きくはなくこの文琳茶入のサイズも胴径6.5cm/高さ6.5cm ほどの実に可愛らしい品である。
茶入れは通常蓋には象牙が用いられ、蓋の裏には金箔張りが施されていることが多いというが本作品もその典型的な例のようで、象牙製の蓋の裏は金箔貼りになっている。そして共箱は勿論だが、仕覆(しふく=茶器などの道具を入れる袋)は上等な正絹緞子(どんす)の裂を使ったものでなかなかに美しい。

※上等な正絹緞子(どんす)の裂を使って作られた仕覆はなかなか美しい
そもそも茶入れはその形により主に肩衝(かたつき)と茄子(なす)に区別されるという。また茄子にしても微妙な形の相違によって、「大海(たいかい)、内海(ないかい)」「文琳(ぶんりん)」そして「尻膨(しりふくら)」と区別されが他にも文琳と茄子の中間の形の「文茄」とか「丸壺」「瓢箪」などバリエーションもあるらしい。
本茶入れは茶入の形態の一種である丸形の茶入であるからして広義には茄子であるが、その形から文琳茶入とされている。
まあまあ茶道にも一般には知られていない専門用語が多々出てくるので戸惑うばかりだが、こればかりはひとつひとつ覚えるしかないしこれまた楽しいものだ…。


※象牙製の蓋裏には金箔が使われている
「茄子」とは、丸形で全体の形が京都地方名産の加茂ナスに似ているのでこのような名前がついたという。また「文琳」の意味だがそれは林檎の意味で、中国の「詩経」の分類からきた雅称(風雅な名前)であるらしい。まあリンゴに見立てた形だとするなら、まさしくMacユーザーにはうってつけだ(笑)。
ともかく同じ茶入れでも「茄子」は肩衝よりも格式が上らしく、歴史上特に有名なものを天下三茄子と称し茶道具の茶入の中でも優れているとされ「付藻(九十九髪)茄子」「松本茄子」そして「富士茄子」の三つを指し、名物と言われているという。
その付藻(九十九髪)茄子はもともと足利義満所有の唐物茶入のひとつだったらしいが、後に織田信長の手に渡る。そして現在は静嘉堂文庫美術館に収納されているが、その姿および肩衝の代表作で重要文化財に指定されている「初花」や「勢高」そして重要美術品の「新田」は中島誠之助著「天下の茶道具、鑑定士・中島の眼~へうげもの名品名席実見記」で見ることが出来るし別途 NHKのアニメワールドサイト「へうげもの名品名席」でも一連の名物および解説を閲覧することができる。
ともかく付藻(九十九髪)茄子の姿と今回手に入れた「文琳」を比較して見ると確かに「文琳」の方が全体に丸みを帯びていて林檎に見立てたとしても不思議はない...。
まあ分かったような言い方をするならこの文琳茶入はなかなか姿形がよく、釉薬の景色がとても趣き深い風情を醸し出している…とでも表現すればよいのだろうか(笑)。
ともかく一見して可愛さを感じるし、もう少し詳しく見れば釉薬の加減で面積の大半は渋い茶色に見えるものの、甑際(こしきぎわ)~ 首と肩の境から肩に掛けて ~は窯変だろうか…緑色に見える釉色部位がある。そして腰帯という一条の筋があり景色となっている。また高台は糸切りの痕がありこれまたひとつの見所だ。

※茶入れの底には糸切りの痕がある
さらに「文琳」の意味がリンゴの形に見立てたものと知った後だからかも知れないが、私には見る角度により この茶入れの緑がかった部位がリンゴの果梗についた1枚の葉のように思えて仕方がない。
この文琳茶入に銘をつけるとするなら迷わず “林檎” とするだろう(笑)。

※なかなか深みのある美しさを見せてくれる文琳茶入れだが、銘は「林檎」としようか(笑)
さて、私には色々な茶器を集める趣味もないし財力もないから、茶入れはこれひとつで満足だ。長いお付き合いをしつつお点前の度に愛でてあげたいと思う。しかし茶の世界はほんの少しずつにしても分かってくると楽しいものだが反面こんなにも面倒な約束事があるのかと今更ながらに驚く。
なにしろ前記した仕覆の紐の結び方があるというのは良しとしても、茶入れに濃茶が入っている時と入っていない時では結び方が違うのだ。慣れればまさしく合理的なのだろうが、この世界は本当に奥が深い…。
少しずつ分かってきたことは利休や織部などの茶人たちの特異性である。そもそもある意味出来の良さはともかく普通の陶器に過ぎない雑器にまで当時の茶人たちは何故もあれほど個性やら美意識を引き出して美しさと価値を見出したのだろうか…という疑問があった。それがバブリーな桃山という時代に後押しされたとはいえ、間違いなく茶の湯文化の特殊性でもあるわけで、茶人たちはいわば茶器の姿を借りた自己表現を繰り広げたのであり、武力を見立てに変えた一種の知的武装でもあったのかも…。
何しろ名物といわれる茶入は一国一城に匹敵する程の価値を持つ貴重なものであり、時には所有者の家柄や資格をも左右すると考えられ、事実この小さな茶入れひとつに命がかかる場合もあった。
ところでこの度石川県金沢市より届いた茶入れは日本六古窯の地「丹波」における茶陶作家の第一人者である市野信水作の文琳茶入だという。

※丹波焼 市野信水作の文琳茶入と共箱
茶入れというと茶壺を想像する人もいるかも知れないが、茶入れは茶壺のように大きくはなくこの文琳茶入のサイズも胴径6.5cm/高さ6.5cm ほどの実に可愛らしい品である。
茶入れは通常蓋には象牙が用いられ、蓋の裏には金箔張りが施されていることが多いというが本作品もその典型的な例のようで、象牙製の蓋の裏は金箔貼りになっている。そして共箱は勿論だが、仕覆(しふく=茶器などの道具を入れる袋)は上等な正絹緞子(どんす)の裂を使ったものでなかなかに美しい。

※上等な正絹緞子(どんす)の裂を使って作られた仕覆はなかなか美しい
そもそも茶入れはその形により主に肩衝(かたつき)と茄子(なす)に区別されるという。また茄子にしても微妙な形の相違によって、「大海(たいかい)、内海(ないかい)」「文琳(ぶんりん)」そして「尻膨(しりふくら)」と区別されが他にも文琳と茄子の中間の形の「文茄」とか「丸壺」「瓢箪」などバリエーションもあるらしい。
本茶入れは茶入の形態の一種である丸形の茶入であるからして広義には茄子であるが、その形から文琳茶入とされている。
まあまあ茶道にも一般には知られていない専門用語が多々出てくるので戸惑うばかりだが、こればかりはひとつひとつ覚えるしかないしこれまた楽しいものだ…。


※象牙製の蓋裏には金箔が使われている
「茄子」とは、丸形で全体の形が京都地方名産の加茂ナスに似ているのでこのような名前がついたという。また「文琳」の意味だがそれは林檎の意味で、中国の「詩経」の分類からきた雅称(風雅な名前)であるらしい。まあリンゴに見立てた形だとするなら、まさしくMacユーザーにはうってつけだ(笑)。
ともかく同じ茶入れでも「茄子」は肩衝よりも格式が上らしく、歴史上特に有名なものを天下三茄子と称し茶道具の茶入の中でも優れているとされ「付藻(九十九髪)茄子」「松本茄子」そして「富士茄子」の三つを指し、名物と言われているという。
その付藻(九十九髪)茄子はもともと足利義満所有の唐物茶入のひとつだったらしいが、後に織田信長の手に渡る。そして現在は静嘉堂文庫美術館に収納されているが、その姿および肩衝の代表作で重要文化財に指定されている「初花」や「勢高」そして重要美術品の「新田」は中島誠之助著「天下の茶道具、鑑定士・中島の眼~へうげもの名品名席実見記」で見ることが出来るし別途 NHKのアニメワールドサイト「へうげもの名品名席」でも一連の名物および解説を閲覧することができる。
ともかく付藻(九十九髪)茄子の姿と今回手に入れた「文琳」を比較して見ると確かに「文琳」の方が全体に丸みを帯びていて林檎に見立てたとしても不思議はない...。
まあ分かったような言い方をするならこの文琳茶入はなかなか姿形がよく、釉薬の景色がとても趣き深い風情を醸し出している…とでも表現すればよいのだろうか(笑)。
ともかく一見して可愛さを感じるし、もう少し詳しく見れば釉薬の加減で面積の大半は渋い茶色に見えるものの、甑際(こしきぎわ)~ 首と肩の境から肩に掛けて ~は窯変だろうか…緑色に見える釉色部位がある。そして腰帯という一条の筋があり景色となっている。また高台は糸切りの痕がありこれまたひとつの見所だ。

※茶入れの底には糸切りの痕がある
さらに「文琳」の意味がリンゴの形に見立てたものと知った後だからかも知れないが、私には見る角度により この茶入れの緑がかった部位がリンゴの果梗についた1枚の葉のように思えて仕方がない。
この文琳茶入に銘をつけるとするなら迷わず “林檎” とするだろう(笑)。

※なかなか深みのある美しさを見せてくれる文琳茶入れだが、銘は「林檎」としようか(笑)
さて、私には色々な茶器を集める趣味もないし財力もないから、茶入れはこれひとつで満足だ。長いお付き合いをしつつお点前の度に愛でてあげたいと思う。しかし茶の世界はほんの少しずつにしても分かってくると楽しいものだが反面こんなにも面倒な約束事があるのかと今更ながらに驚く。
なにしろ前記した仕覆の紐の結び方があるというのは良しとしても、茶入れに濃茶が入っている時と入っていない時では結び方が違うのだ。慣れればまさしく合理的なのだろうが、この世界は本当に奥が深い…。
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