「アップルを創った怪物〜もうひとりの創業者、ウォズアック自伝」を読む
“ウォズアック”とはご承知の通りスティーブ・ジョブズと一緒にAppleを起業し、世界初のパーソナルコンピュータであるApple IIを作った天才エンジニア、スティーブ・ウォズニアックのことだ。本書は彼が創業の秘話を初公開した自伝である。
Appleの歴史を語ることは二人の創業者(本当はもうひとりロン・ウェインがいたが...)、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックについて語ることだ。しかしこれまでApple創業時の逸話や伝説の類は多々見聞きするものの、それらの多くはよくあるように事実とは言い難い話にさらに尾ひれがつき、訳が分からないものになっている傾向がある。
やはり真実を語れるのは当事者でしかないが、これまでインタビューなどで断片的な情報しか伝えていなかったスティーブ・ウォズニアックの生の声が聞こえる(読める)のが本書の特徴である。

※ダイヤモンド社刊「アップルを創った怪物~もうひとりの創業者、ウォズアック自伝」表紙
本書はアップルフリークでさえその帯に記された数行の記述を読めば早くも引き込まれてしまう逸話が多々登場する。 彼によれば「僕について世の中で言われていることには間違いが多すぎる」とのことで、例えば大学を中退したとか(していない)、コロラド大学から放校になったとか(なっていない)、ジョブズと高校生の同級生だったとか(何年かずれている)ということらしい...。
さらに私自身も正確に知らなかったことだが、ウォズニアックは形式的にはAppleを辞めてはいないのだという...。そして本文によれば、今に至るまでウォズニアックはAppleの従業員であり、社員証も持っているし給料もとっても少ないけどもらっているという。
だから、イベントや講演ではAppleを代表してしゃべることができるわけだ。
さて、この二人のスティーブの物語は多くの人たちの手によりさまざまな書籍となっているが、それらに共通なことはどちらかといえばジョブズが悪役なのに対してウォズニアックは善人として描かれていることだ。
Apple創立以前の話しだが、ジョブズがゲーム機の設計を頼まれそれをウォズニアックに依頼し無事完成後に報酬の700ドルを半分ずつ得たが、本当はより高額をジョブズが得ていたという話は我々の間にはよく知られていることである。早い話、ジョブズは友人のウォズニアックを騙したのだ...。
一方自身で「ウォズ・プラン」と名付け、Appleの株式公開時に株を持っていなかった社員に一人2,000株ずつ安くわけたという話しは金銭に執着のないウォズニアックの人柄が現れている。
あるいは秘密主義(そうした方がビジネス上有利だから)のジョブズに反してウォズニアックは、例えばApple Iの設計に関してホームブリュー・コンピュータ・クラブで開発の仔細を公開するなど自分の知っていることを多くの人たちと共有したいという開けっぴろげな性格を見せている。
こうしたことからもウォズニアックは人間味に溢れた暖かい人物であるといわれている。そして敵の多いジョブズとは違い、多くの人たちから敬愛されているが、ジョブが表舞台に多々登場するのに対してウォズニアックはシャイであまり表に出なかったこともあり、意外とその素顔は知られていない部分が多い...。
本書にはウォズニアックが始めてジョブズに会ったときのエビソードや自身の飛行機事故などについても書かれているし、自身がフリーメーソンとして活動していることなども赤裸々に記されている。そして白か黒かではなくグレースケールで物事を見るべきだという人生哲学も披露されているが、正直私の知りたかったことはそんなに書かれていない...。
それは本書が自身の生い立ちとか生き様について多くのスペースが割かれており、私が知りたいAppleとかジョブズとの関係についてあまり詳しくは書かれていないのだ。
ウォズニアックには申し訳ないが、個人的に知りたいことはウォズニアックの人生哲学でもなければその人柄でもなく、彼の目を通して見たAppleやスティーブ・ジョブズとの関係なのだ。とはいえジョブズはAppleのシンボルでもあり、ウォズニアックといえどもある種の遠慮があるのかも知れない...。
ただし本書ではじめて知り得たこともある。それは私が以前「スティーブ・ジョブズとパロアルト研究所物語」で検証したことがあったが、ジョブズやビル・アトキンソンらがパロアルト研究所に出向き、後のLisa開発のイマジネーションを得たその場にウォズニアックも同行していたことがウォズニアックの口から語られていることだ。
このジョブズたちによるパロアルト研究所訪問を紹介した幾多の情報にウォズニアックが同行していたと記述されているものはほとんどないのだが “さもありなん” と納得した次第である。まあ現実はそんなものなのだ(笑)。
それから笑ったのはMac OS 7の時代、Macはよくクラッシュすることでも知られていたが、ウォズニアックによればその原因はMac OSにあったのではなく多くのユーザーが使っていたブラウザ、あのIE(インターネット・エクスプローラ)にあるという...。
仔細は本書で確認されたし(笑)。
というわけで本書はそのスティーブ・ウォズニアックの自伝であるが、自身が書き下したものではなくジーナ・スミスのインタービューをまとめた形で実現したものである。そのため訳者の井口耕二氏が述べているように、同様のことが繰り返されていたり前後で話が些か違っていたりということもあるようだ。
しかし冒頭に書いたとおり、そもそも過去に起こった物事の真実は当事者とか本人に聞くのが一番だとしても、それが事実であるかどうかは分からない...。
ただしその語り口のなかにこれまで我々が思い込んでいた間違いを訂正せざるを得ないものも多々あり、本書はAppleをより良く知る上でも貴重でユニークな一冊であるといえよう。
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「アップルを創った怪物~もうひとりの創業者、ウォズアック自伝」
2008年11月28日 第1刷発行
著者:スティーブ・ウォズニアック
訳者:井口耕二
発行:ダイヤモンド社
コード:ISBN 978-4-478-00479-1
価格:2,000円(税別)
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Appleの歴史を語ることは二人の創業者(本当はもうひとりロン・ウェインがいたが...)、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックについて語ることだ。しかしこれまでApple創業時の逸話や伝説の類は多々見聞きするものの、それらの多くはよくあるように事実とは言い難い話にさらに尾ひれがつき、訳が分からないものになっている傾向がある。
やはり真実を語れるのは当事者でしかないが、これまでインタビューなどで断片的な情報しか伝えていなかったスティーブ・ウォズニアックの生の声が聞こえる(読める)のが本書の特徴である。

※ダイヤモンド社刊「アップルを創った怪物~もうひとりの創業者、ウォズアック自伝」表紙
本書はアップルフリークでさえその帯に記された数行の記述を読めば早くも引き込まれてしまう逸話が多々登場する。 彼によれば「僕について世の中で言われていることには間違いが多すぎる」とのことで、例えば大学を中退したとか(していない)、コロラド大学から放校になったとか(なっていない)、ジョブズと高校生の同級生だったとか(何年かずれている)ということらしい...。
さらに私自身も正確に知らなかったことだが、ウォズニアックは形式的にはAppleを辞めてはいないのだという...。そして本文によれば、今に至るまでウォズニアックはAppleの従業員であり、社員証も持っているし給料もとっても少ないけどもらっているという。
だから、イベントや講演ではAppleを代表してしゃべることができるわけだ。
さて、この二人のスティーブの物語は多くの人たちの手によりさまざまな書籍となっているが、それらに共通なことはどちらかといえばジョブズが悪役なのに対してウォズニアックは善人として描かれていることだ。
Apple創立以前の話しだが、ジョブズがゲーム機の設計を頼まれそれをウォズニアックに依頼し無事完成後に報酬の700ドルを半分ずつ得たが、本当はより高額をジョブズが得ていたという話は我々の間にはよく知られていることである。早い話、ジョブズは友人のウォズニアックを騙したのだ...。
一方自身で「ウォズ・プラン」と名付け、Appleの株式公開時に株を持っていなかった社員に一人2,000株ずつ安くわけたという話しは金銭に執着のないウォズニアックの人柄が現れている。
あるいは秘密主義(そうした方がビジネス上有利だから)のジョブズに反してウォズニアックは、例えばApple Iの設計に関してホームブリュー・コンピュータ・クラブで開発の仔細を公開するなど自分の知っていることを多くの人たちと共有したいという開けっぴろげな性格を見せている。
こうしたことからもウォズニアックは人間味に溢れた暖かい人物であるといわれている。そして敵の多いジョブズとは違い、多くの人たちから敬愛されているが、ジョブが表舞台に多々登場するのに対してウォズニアックはシャイであまり表に出なかったこともあり、意外とその素顔は知られていない部分が多い...。
本書にはウォズニアックが始めてジョブズに会ったときのエビソードや自身の飛行機事故などについても書かれているし、自身がフリーメーソンとして活動していることなども赤裸々に記されている。そして白か黒かではなくグレースケールで物事を見るべきだという人生哲学も披露されているが、正直私の知りたかったことはそんなに書かれていない...。
それは本書が自身の生い立ちとか生き様について多くのスペースが割かれており、私が知りたいAppleとかジョブズとの関係についてあまり詳しくは書かれていないのだ。
ウォズニアックには申し訳ないが、個人的に知りたいことはウォズニアックの人生哲学でもなければその人柄でもなく、彼の目を通して見たAppleやスティーブ・ジョブズとの関係なのだ。とはいえジョブズはAppleのシンボルでもあり、ウォズニアックといえどもある種の遠慮があるのかも知れない...。
ただし本書ではじめて知り得たこともある。それは私が以前「スティーブ・ジョブズとパロアルト研究所物語」で検証したことがあったが、ジョブズやビル・アトキンソンらがパロアルト研究所に出向き、後のLisa開発のイマジネーションを得たその場にウォズニアックも同行していたことがウォズニアックの口から語られていることだ。
このジョブズたちによるパロアルト研究所訪問を紹介した幾多の情報にウォズニアックが同行していたと記述されているものはほとんどないのだが “さもありなん” と納得した次第である。まあ現実はそんなものなのだ(笑)。
それから笑ったのはMac OS 7の時代、Macはよくクラッシュすることでも知られていたが、ウォズニアックによればその原因はMac OSにあったのではなく多くのユーザーが使っていたブラウザ、あのIE(インターネット・エクスプローラ)にあるという...。
仔細は本書で確認されたし(笑)。
というわけで本書はそのスティーブ・ウォズニアックの自伝であるが、自身が書き下したものではなくジーナ・スミスのインタービューをまとめた形で実現したものである。そのため訳者の井口耕二氏が述べているように、同様のことが繰り返されていたり前後で話が些か違っていたりということもあるようだ。
しかし冒頭に書いたとおり、そもそも過去に起こった物事の真実は当事者とか本人に聞くのが一番だとしても、それが事実であるかどうかは分からない...。
ただしその語り口のなかにこれまで我々が思い込んでいた間違いを訂正せざるを得ないものも多々あり、本書はAppleをより良く知る上でも貴重でユニークな一冊であるといえよう。
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「アップルを創った怪物~もうひとりの創業者、ウォズアック自伝」
2008年11月28日 第1刷発行
著者:スティーブ・ウォズニアック
訳者:井口耕二
発行:ダイヤモンド社
コード:ISBN 978-4-478-00479-1
価格:2,000円(税別)
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