久しぶりに再読したアラン・ケイの論文
ここしばらく書棚に入れっぱなしになっていた「アラン・ケイ」(アスキー出版局刊)を久しぶりに引っ張り出した。教育とコンピュータに関わることを調べると同時にAltoやSmalltalkそしてLisaプロジェクトについて再確認する機会があったからである。無論Macintoshユーザーならずともアラン・ケイの名はご承知だろう。
アラン・ケイ(Alan C. Kay)は「パーソナルコンピュータの父」とか「Dynabookの生みの親」といったことでも知られているが、Appleのフェローだった時期がある。
アラン・ケイは1940年にマサチューセッツのスプリングフィールドで生まれた。10歳でクイズ・キッズというラジオ番組のチャンピオンになり,神童として名前が知れ渡っていたが、その後ブルックリン・ハイスクールを退学になり、10年間もジャズと ロックのプロ・ギタリストとしてギターを弾いていた。現在でも音楽好きの彼の自宅には自作のパイプオルガンがあるという。
その後、1961年に徴兵されたのをきっかけとして空軍の援助でコロラド大学に進み、1968年には有名なダイナブックのコンセプトを発表している。
スタンフォード大学の人工知能研究所を経て1972年にゼロックス社のパロ・アルト研究所に入るが、この研究所でパーソナルコンピュータの原型ともいえるAltoやオブジェクト指向言語のSmalltalk開発の指揮を執ることになる。
このパロ・アルト研究所に当時のApple Computer社、スティーブ・ジョブズがビル・アトキンソンらを連れ、そこでAltoを見たのがAppleがその後のLisaを開発する大きな動機付けとなったことは、あまりにも有名な話だ。
「未来を予測する最前の方法は、それを発明してしまうこと」という台詞や、発表されたばかりのMacintoshを見て「1/4ガロンのガソリンタンクしか持たないホンダ」と発言しスティーブ・ジョブズを怒らせたこともよく知られている話しである。ただし彼は「Macintoshは批判されるに足る最初のコンピュータだ」ともフォローしているのだが...。
さて、「アラン・ケイ」(アスキー出版局刊)には彼の3つの論文が和訳されているが、あらためてMacintoshはもとよりパーソナルコンピュータとは我々にとって何なのかを考えてみたい方には是非これらアラン・ケイの論文に目を通していただくことをお勧めしたい。

ただし天才と称されるアラン・ケイだが、彼とて時代という大きな流れの中に存在するわけであり、総てを見通せているわけではないのも事実で、そこがまたリアルで面白い。
例えば彼はパーソナルコンピュータをツールとしては考えず、ダイナミックなメディアとして捉えている感があり、ダイナブックもそうした延長線上に位置づけていたと思われる。そして近未来のパーソナルコンピュータの姿を思い描いてはいたが、後に我々が実際に手にするいわゆるパッケージソフトウェアというものには思いを寄せていないようである...。
本論文の「マイクロエレクトロニクスとパーソナル・コンピュータ (Microelectronics and the Personal Computer)」で彼は人々の要求が多様であることに触れて言う。
「...子供といわず大人といわず、あらゆるユーザーが、専門家の力を借りることなく、コンピュータに有益な作業をさせられなくてはいけない」とし、続けて「パーソナルコンピュータの最大の障碍は、たんなる『束の間の救い』というレベルを超えるには、専門家ではないユーザーでさえも、たぶんまちがいなく、なんらかのプログラミングをしなければならないことである」と記している。
彼は子供も含めて、ダイナミックなシミュレーションを必要とするとき...それはゲームでも音楽でも、そしてアニメーションでも...Smalltalkでユーザー自身が作り上げることを考えていた。したがって現在のように特定の目的のための既成品ソフトウェアが多様に、それも豊富に存在する事を背景にしたパーソナルコンピュータは考えていなかったようだ。
無論現在の既成アプリケーション利用が当然となっていることがパーソナルコンピュータと我々ユーザーにとってベストなことなのかはわからない。しかし文字通り誰でもが思うがままにプログラミングを扱える言語やシステムがあればともかく、現行ではアプリケーションでさえ使うに難しい場合が多いという事実は大いに考えさせられることである。それとも後50年、あるいは100年も経てばアラン・ケイの予言は現実のものとなるのだろうか...。
いずれにしてもアラン・ケイはコンピュータをコミュニケーションのための増幅機であり、ファンタジー・アンプリファイアと捉えている。そして彼の思い描いたパーソナルコンピュータは決して使い勝手や目的を無視して機能を増やすだけの道具、機械ではなかったはずだ。しかし我々の実態はアラン・ケイの思い、願いからかなり離れてしまっているようである...。
いま、私の手元にアラン・ケイ関連資料としてはこの「アラン・ケイ」(アスキー出版局刊)、「マッキントッシュ伝説」」(アスキー出版局刊)、そして「アラン・ケイ~パソコンを発明した」CD-ROM電子ブック(アスキー刊)、そして1989年にボストンで開催したMacworld Expoの基調講演をアラン・ケイが行ったその一部始終を収めたビデオなどなどがある。それらを私は何回読み、見ただろうか。特にCD-ROMでは当時のAltoなどが動いている映像が見られるので楽しい。
何かアイデアに行き詰まったとき、アラン・ケイの論文を読むと思考回路がリフレッシュされるような気がするのだ。
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「アラン・ケイ」
1992年3月31日 初版発行
著者:Alan Curtis Kay
翻訳:鶴岡雄二
監修:浜野保樹
発行:株式会社アスキー
コード:ISBN4- 7561-0107-0 C3055
価格:2,400円(税別)
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アラン・ケイ(Alan C. Kay)は「パーソナルコンピュータの父」とか「Dynabookの生みの親」といったことでも知られているが、Appleのフェローだった時期がある。
アラン・ケイは1940年にマサチューセッツのスプリングフィールドで生まれた。10歳でクイズ・キッズというラジオ番組のチャンピオンになり,神童として名前が知れ渡っていたが、その後ブルックリン・ハイスクールを退学になり、10年間もジャズと ロックのプロ・ギタリストとしてギターを弾いていた。現在でも音楽好きの彼の自宅には自作のパイプオルガンがあるという。
その後、1961年に徴兵されたのをきっかけとして空軍の援助でコロラド大学に進み、1968年には有名なダイナブックのコンセプトを発表している。
スタンフォード大学の人工知能研究所を経て1972年にゼロックス社のパロ・アルト研究所に入るが、この研究所でパーソナルコンピュータの原型ともいえるAltoやオブジェクト指向言語のSmalltalk開発の指揮を執ることになる。
このパロ・アルト研究所に当時のApple Computer社、スティーブ・ジョブズがビル・アトキンソンらを連れ、そこでAltoを見たのがAppleがその後のLisaを開発する大きな動機付けとなったことは、あまりにも有名な話だ。
「未来を予測する最前の方法は、それを発明してしまうこと」という台詞や、発表されたばかりのMacintoshを見て「1/4ガロンのガソリンタンクしか持たないホンダ」と発言しスティーブ・ジョブズを怒らせたこともよく知られている話しである。ただし彼は「Macintoshは批判されるに足る最初のコンピュータだ」ともフォローしているのだが...。
さて、「アラン・ケイ」(アスキー出版局刊)には彼の3つの論文が和訳されているが、あらためてMacintoshはもとよりパーソナルコンピュータとは我々にとって何なのかを考えてみたい方には是非これらアラン・ケイの論文に目を通していただくことをお勧めしたい。

ただし天才と称されるアラン・ケイだが、彼とて時代という大きな流れの中に存在するわけであり、総てを見通せているわけではないのも事実で、そこがまたリアルで面白い。
例えば彼はパーソナルコンピュータをツールとしては考えず、ダイナミックなメディアとして捉えている感があり、ダイナブックもそうした延長線上に位置づけていたと思われる。そして近未来のパーソナルコンピュータの姿を思い描いてはいたが、後に我々が実際に手にするいわゆるパッケージソフトウェアというものには思いを寄せていないようである...。
本論文の「マイクロエレクトロニクスとパーソナル・コンピュータ (Microelectronics and the Personal Computer)」で彼は人々の要求が多様であることに触れて言う。
「...子供といわず大人といわず、あらゆるユーザーが、専門家の力を借りることなく、コンピュータに有益な作業をさせられなくてはいけない」とし、続けて「パーソナルコンピュータの最大の障碍は、たんなる『束の間の救い』というレベルを超えるには、専門家ではないユーザーでさえも、たぶんまちがいなく、なんらかのプログラミングをしなければならないことである」と記している。
彼は子供も含めて、ダイナミックなシミュレーションを必要とするとき...それはゲームでも音楽でも、そしてアニメーションでも...Smalltalkでユーザー自身が作り上げることを考えていた。したがって現在のように特定の目的のための既成品ソフトウェアが多様に、それも豊富に存在する事を背景にしたパーソナルコンピュータは考えていなかったようだ。
無論現在の既成アプリケーション利用が当然となっていることがパーソナルコンピュータと我々ユーザーにとってベストなことなのかはわからない。しかし文字通り誰でもが思うがままにプログラミングを扱える言語やシステムがあればともかく、現行ではアプリケーションでさえ使うに難しい場合が多いという事実は大いに考えさせられることである。それとも後50年、あるいは100年も経てばアラン・ケイの予言は現実のものとなるのだろうか...。
いずれにしてもアラン・ケイはコンピュータをコミュニケーションのための増幅機であり、ファンタジー・アンプリファイアと捉えている。そして彼の思い描いたパーソナルコンピュータは決して使い勝手や目的を無視して機能を増やすだけの道具、機械ではなかったはずだ。しかし我々の実態はアラン・ケイの思い、願いからかなり離れてしまっているようである...。
いま、私の手元にアラン・ケイ関連資料としてはこの「アラン・ケイ」(アスキー出版局刊)、「マッキントッシュ伝説」」(アスキー出版局刊)、そして「アラン・ケイ~パソコンを発明した」CD-ROM電子ブック(アスキー刊)、そして1989年にボストンで開催したMacworld Expoの基調講演をアラン・ケイが行ったその一部始終を収めたビデオなどなどがある。それらを私は何回読み、見ただろうか。特にCD-ROMでは当時のAltoなどが動いている映像が見られるので楽しい。
何かアイデアに行き詰まったとき、アラン・ケイの論文を読むと思考回路がリフレッシュされるような気がするのだ。
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「アラン・ケイ」
1992年3月31日 初版発行
著者:Alan Curtis Kay
翻訳:鶴岡雄二
監修:浜野保樹
発行:株式会社アスキー
コード:ISBN4- 7561-0107-0 C3055
価格:2,400円(税別)
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