スペシャルイベントで発表の「Mac App Store」は世界を変える!?
Appleがスペシャルイベント「Back to the Mac」で発表したあれこれのうち、個人的に一番注目しているのが「Mac App Store」である。発表によれば90日間以内に公開されるというが、これはMacintoshの使い勝手を代えるのは勿論のこと、市場のあり方や流通形態をも変えてしまう大きな出来事となるに違いない。
パソコンのソフトウェアに対するとらえ方は当然と言え時代と共に大きく変わってきた。暫定ダイナブックとしてAltoおよびSmalltalkを開発研究していたアラン・ケイはその利用者が子供であったとしてもその理想形は使いたいソフトウェアを自分で作るというスタンスを考えていた。無論そうしたことが可能なほどコンピュータは人間に歩み寄る必要があるとされていたわけだが...。
1970年代後半に登場したパーソナルコンピュータにとっても状況はほとんど変わらず、後に一部オーディオカセット・テープに収録されたゲームソフトなどが売られ始めたものの現在のようにユーザーが欲しいと考えるアプリがそこいらに売っているわけではなく、基本的にはBASICなどのプログラミングを勉強してユーザー自身が工夫することが求められていた。まさしくBASICあってのパソコンユーザーという時代だった。そして雑誌にソフトウェアのプログラムリストが掲載され、ユーザーは徹夜でそのプログラムリストを自身のマシンに入力することも珍しいことではなかったのである。
その後初めての表計算ソフトとして知られたApple II用のVISICALCなどが登場しソフトウェアはハードウェアの販売促進に大きな役割を果たすと共にビジネスの対象となることもわかってきたのか、ソフトウェアを製品として流通させるパブリッシャーやソフトハウスが台頭してくる。

※スペシャルイベント「Back to the Mac」で「Mac App Store」を発表するAppleのスティーブ・ジョブズ氏
私自身もそうした流れに押された1人だが、1989年にMacintosh専門のソフトウェア会社を設立し翌年の1990年から実にさまざまなアプリケーションを開発して世に問うことになったが、その販売形態はすべてパッケージ(箱)に収め、シリンクし、パソコンショップの店頭に並べなければならなかった。しかしまさか全国のパソコンショップに直売りするわけにもいかないからと現実にはカテナ、ソフトバンク、コンピュータウェーブ、ソフトウェアジャパンといったソフトウェア流通会社に持ち込んで販売してもらうための営業活動を行う必要があった。
その上にショップ側の客引きを手伝うためもあって秋葉原のショップ店頭の一画を使いアプリケーションの実演を請われるケースも多く、人材不足の我々は苦慮したものだった。
ともかくその前提としてパッケージには流通させるに不可欠な商品コードの付加は勿論、ユーザーに渡った際のサポートを考慮してパッケージ毎にシリアルナンバーを付けて管理する必要が求められた。
我々ソフトウェア会社はパッケージに同封したユーザー登録葉書を返送してもらうことでユーザー個人とシリアルナンバーを照合したデータベースを持ち、不正利用を防ぐことはもとよりバージョンアップ時の告知をするなどしていたが、インターネットが普及するまでは登録ユーザー全員に郵便物として葉書や封筒を郵送しなければならず、手間はもとよりコストもかかったのである。
こうした状況はいわゆるパソコン通信の台頭とインターネット普及で大きく変わっていくことになる。
日本でMacintosh用アプリケーションがダウンロード販売という形で始められ、普及し始めたときにも私の会社はいち早く対応した...。
それは1993年4月だったが、NIFTY-Serveの中にSOFTEXというソフトウェアをダウンロード販売するシステムが加わることになり、我々関係していた会社にもその対応を求められたわけだがMacintosh関係として一番に対応した会社が私のところだった。
私たちは「QTアルバム」「QTフォトカッター」そして「QTシネマ」というパッケージソフトと比較してコンパクトなMacintosh用オリジナルアプリケーションを開発して事に当たったが、残念ながらまだまだ認知されずビジネスとしては成功したとはいえなかったし、シリアル管理などの難しさを味わった...。
しかし今やiPhoneやiPadのアプリケーションはご承知のようにiTunesという基幹アプリケーションにより管理運用され、いつでも手軽にダウンロード購入できる時代になっている。したがってMacintosh用アプリケーションも理屈は同じことができるはずだし、仲介の流通企業が不用でパッケージも不用となればコスト的にも安価な提供ができる理屈だ。無論「Mac App Store」でどれほどのアプリケーションが揃うかは分からないが、これまでのApp Store同様に開発企業はもとより個人の開発者の意欲に大きな影響を与えるものと思われる。
反面、これまで海外のアプリケーションの販売代理権を取得したり、日本語のローカライズをした製品を販売してきた企業らはその存続が危ぶまれることになるだろう。それは言うまでもなく開発者側自らが「Mac App Store」にアップロードする方が告知も販売戦略もストレートでコントロールしやすいからだしユーザーの利便性も格段に良いからだ。
Appleはこれまでの批判の答えとして「Mac App Store」の発表と時を同じくし、アプリの審査プロセスに関するガイドラインを公表したが、不透明さはまだ残っているものの「Mac App Store」による販売はシリアル管理からメーカー側を解放してくれることにもなり、大変効率がよい。
なにしろ「Mac App Store」による販売は勿論、その自動アップデートにはインターネット接続が不可欠であり、ユーザー側もその環境無くしては理想的なパソコン利用ができない時代になっているから開発側はパッケージにこだわる理由は少なくなったわけだ。
したがって機が熟せば例えばAdobeとかMicrosoftといった大手も「Mac App Store」で販売を開始するだろうし、ソフトウェアの流通のあり方が根本的に変わる時代になった。だから「Mac App Store」の登場でビジネスの形態を変えざるを得ない企業が多々出てくることは間違いあるまい...。
無論これからもパッケージとして販売される製品も存在するはずだがその数はかなり限られたものとなるに違いない。
とはいえこれまたApp Storeと同様に日々膨大な数の製品が登場する「Mac App Store」に於いてユーザーにそれを告知し、興味を持たせてダウンロードさせるに至ることは容易ではない。
アイコンデザインを別にすれば一昔前のようにショップの店頭で目立つようにとパッケージの箱を大ぶりにしたり、パッケージデザインに工夫をしたりといったことも出来ないから、これまで以上に販売促進のためのプロモーションやリリース告知に工夫と努力が問われることになる。
それに開発側に水を差すようだが、そもそも個人のプログラマが空いた時間を使ってプログラミングするならともかく、ビジネスとして正面から取り組む場合に採算を取るのは至難の業であることも承知しておく必要があるだろう。
消費者にとっても、そして商品を提供する側にとっても良い時代になったのだろうが、ビジネスとして成功することを考えるなら問題がなくなったわけではなく、新たな問題や壁をきちんと認識し、それにどう対処していくかが重要になってくるに違いない。
パソコンのソフトウェアに対するとらえ方は当然と言え時代と共に大きく変わってきた。暫定ダイナブックとしてAltoおよびSmalltalkを開発研究していたアラン・ケイはその利用者が子供であったとしてもその理想形は使いたいソフトウェアを自分で作るというスタンスを考えていた。無論そうしたことが可能なほどコンピュータは人間に歩み寄る必要があるとされていたわけだが...。
1970年代後半に登場したパーソナルコンピュータにとっても状況はほとんど変わらず、後に一部オーディオカセット・テープに収録されたゲームソフトなどが売られ始めたものの現在のようにユーザーが欲しいと考えるアプリがそこいらに売っているわけではなく、基本的にはBASICなどのプログラミングを勉強してユーザー自身が工夫することが求められていた。まさしくBASICあってのパソコンユーザーという時代だった。そして雑誌にソフトウェアのプログラムリストが掲載され、ユーザーは徹夜でそのプログラムリストを自身のマシンに入力することも珍しいことではなかったのである。
その後初めての表計算ソフトとして知られたApple II用のVISICALCなどが登場しソフトウェアはハードウェアの販売促進に大きな役割を果たすと共にビジネスの対象となることもわかってきたのか、ソフトウェアを製品として流通させるパブリッシャーやソフトハウスが台頭してくる。

※スペシャルイベント「Back to the Mac」で「Mac App Store」を発表するAppleのスティーブ・ジョブズ氏
私自身もそうした流れに押された1人だが、1989年にMacintosh専門のソフトウェア会社を設立し翌年の1990年から実にさまざまなアプリケーションを開発して世に問うことになったが、その販売形態はすべてパッケージ(箱)に収め、シリンクし、パソコンショップの店頭に並べなければならなかった。しかしまさか全国のパソコンショップに直売りするわけにもいかないからと現実にはカテナ、ソフトバンク、コンピュータウェーブ、ソフトウェアジャパンといったソフトウェア流通会社に持ち込んで販売してもらうための営業活動を行う必要があった。
その上にショップ側の客引きを手伝うためもあって秋葉原のショップ店頭の一画を使いアプリケーションの実演を請われるケースも多く、人材不足の我々は苦慮したものだった。
ともかくその前提としてパッケージには流通させるに不可欠な商品コードの付加は勿論、ユーザーに渡った際のサポートを考慮してパッケージ毎にシリアルナンバーを付けて管理する必要が求められた。
我々ソフトウェア会社はパッケージに同封したユーザー登録葉書を返送してもらうことでユーザー個人とシリアルナンバーを照合したデータベースを持ち、不正利用を防ぐことはもとよりバージョンアップ時の告知をするなどしていたが、インターネットが普及するまでは登録ユーザー全員に郵便物として葉書や封筒を郵送しなければならず、手間はもとよりコストもかかったのである。
こうした状況はいわゆるパソコン通信の台頭とインターネット普及で大きく変わっていくことになる。
日本でMacintosh用アプリケーションがダウンロード販売という形で始められ、普及し始めたときにも私の会社はいち早く対応した...。
それは1993年4月だったが、NIFTY-Serveの中にSOFTEXというソフトウェアをダウンロード販売するシステムが加わることになり、我々関係していた会社にもその対応を求められたわけだがMacintosh関係として一番に対応した会社が私のところだった。
私たちは「QTアルバム」「QTフォトカッター」そして「QTシネマ」というパッケージソフトと比較してコンパクトなMacintosh用オリジナルアプリケーションを開発して事に当たったが、残念ながらまだまだ認知されずビジネスとしては成功したとはいえなかったし、シリアル管理などの難しさを味わった...。
しかし今やiPhoneやiPadのアプリケーションはご承知のようにiTunesという基幹アプリケーションにより管理運用され、いつでも手軽にダウンロード購入できる時代になっている。したがってMacintosh用アプリケーションも理屈は同じことができるはずだし、仲介の流通企業が不用でパッケージも不用となればコスト的にも安価な提供ができる理屈だ。無論「Mac App Store」でどれほどのアプリケーションが揃うかは分からないが、これまでのApp Store同様に開発企業はもとより個人の開発者の意欲に大きな影響を与えるものと思われる。
反面、これまで海外のアプリケーションの販売代理権を取得したり、日本語のローカライズをした製品を販売してきた企業らはその存続が危ぶまれることになるだろう。それは言うまでもなく開発者側自らが「Mac App Store」にアップロードする方が告知も販売戦略もストレートでコントロールしやすいからだしユーザーの利便性も格段に良いからだ。
Appleはこれまでの批判の答えとして「Mac App Store」の発表と時を同じくし、アプリの審査プロセスに関するガイドラインを公表したが、不透明さはまだ残っているものの「Mac App Store」による販売はシリアル管理からメーカー側を解放してくれることにもなり、大変効率がよい。
なにしろ「Mac App Store」による販売は勿論、その自動アップデートにはインターネット接続が不可欠であり、ユーザー側もその環境無くしては理想的なパソコン利用ができない時代になっているから開発側はパッケージにこだわる理由は少なくなったわけだ。
したがって機が熟せば例えばAdobeとかMicrosoftといった大手も「Mac App Store」で販売を開始するだろうし、ソフトウェアの流通のあり方が根本的に変わる時代になった。だから「Mac App Store」の登場でビジネスの形態を変えざるを得ない企業が多々出てくることは間違いあるまい...。
無論これからもパッケージとして販売される製品も存在するはずだがその数はかなり限られたものとなるに違いない。
とはいえこれまたApp Storeと同様に日々膨大な数の製品が登場する「Mac App Store」に於いてユーザーにそれを告知し、興味を持たせてダウンロードさせるに至ることは容易ではない。
アイコンデザインを別にすれば一昔前のようにショップの店頭で目立つようにとパッケージの箱を大ぶりにしたり、パッケージデザインに工夫をしたりといったことも出来ないから、これまで以上に販売促進のためのプロモーションやリリース告知に工夫と努力が問われることになる。
それに開発側に水を差すようだが、そもそも個人のプログラマが空いた時間を使ってプログラミングするならともかく、ビジネスとして正面から取り組む場合に採算を取るのは至難の業であることも承知しておく必要があるだろう。
消費者にとっても、そして商品を提供する側にとっても良い時代になったのだろうが、ビジネスとして成功することを考えるなら問題がなくなったわけではなく、新たな問題や壁をきちんと認識し、それにどう対処していくかが重要になってくるに違いない。
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