"Macintosh" という製品名は無くなるのか?

最近アップルのサイトを見ると “Macintosh” という表記がないことに気づく...。Appleから「Macintoshという表記は無くなり今後はMacという名称に統一する」といった正式なアナウンスはないが、どうやらAppleは“Macintosh” という歴史的な名を捨て去るつもりのように思える。


「Macintosh」とは申し上げるまでもなく1984年1月に発表された一体型パーソナルコンピュータの製品名である。
そもそもその名は小規模な開発プロジェクトを率いていた故ジェフ・ラスキンが名付けた名前だった。彼はプロジェクトの着想時にリンゴの1品種である “McIntosh”のスペルを意図的に変更して命名したという。
Lisaもそうだったが、Macintoshも元々はコード名だったものをそのまま製品名として使われたのだ。

jobs20101118.jpg

※Macintoshを前にご機嫌なスティーブ・ジョブズ(1984年)


Appleは1982年にMacintoshという名を登録商標にしようと考えたがすでにオーディオメーカーが登録済みのものと音が類似と判断され申請は却下された。苦肉の策でAppleはMacintoshを “MAC” と短縮して使うことを考えた。事実Macintoshのリリース時にバンドルされた2つのアプリケーションは「Macintosh Paint」および「Macintosh Write」ではなく「MacPaint」ならびに「MacWrite」とすでに略称、愛称的な使い方がされていた。
対外的にそれは「Mouse-Activated Computer」すなわち「マウスを使うコンピュータ」を表すと主張するつもりだった。しかしMacintoshがリリースされる1年前になってやっと名称使用のライセンスを受けることができたのである。
公式にその後の法的な解決に至るあれこれは公表されていないが1986年にはその登録商標を膨大な金額を払って取得したらしい。

MacName_01.jpg

※1984年にリリースされた最初のMacintosh


これまでにもスティーブ・ジョブズがラスキン率いるMacintoshプロジェクトをいかに乗っ取ったか...といった経緯は断片的に紹介してきたが結局ジョブズはラスキンをプロジェクトから追い出し退職に追い込んだ。だからというわけでもないがジョブズはラスキンを好きではなかったこともあり、ジョブズがMacintoshプロジェクトのリーダーとなった際、最初に企画したことはMacintoshという名称を「Bicycle (自転車)」に変えようとしたことだった。
ちなみにジョブズが当時盛んにMacintoshを「知的自転車」であると発言していた裏にはこうした経緯もあったのである。
結局この案は誰も相手にしなかったこともあって取り下げられたがMacintoshという名はジョブズにとってジェフ・ラスキンのアイデアを引きずっているという意味でも理想的な名称ではなかったものと思われる。

MacName_02.jpg

※最初のMacintosh背面に燦然と輝くエンブレム


したがって今、Appleが...いやスティーブ・ジョブズがMacintoshという名を消し去ったとしても私は驚くに当たらないと思っている。そして一時期、例えば「Power Macintosh」などという名称も引きずっていたし、そもそも「PowerBook」という名もPowerBook 100の時には「Macintosh PowerBook」だったが近年は「iMac」を始め「MacBook」「Mac Pro」そして「Mac mini」といった製品名...すなわちMacintoshとフルネーム表記する機会はなくなっていた。
それに古いユーザーなら「Mac」とは「Macintosh」の略称、愛称だと認識するだろうが近年の新しいユーザーはすでに「マック」という名は知っていても「マッキントッシュ」という名は知らない時代になったのかも知れない。さらにアップルジャパンのサイトを見ても製品解説などのページ本文に”Macintosh”という表記は見あたらない...。

ともあれ現時点でAppleから名称変更といったプレスリリースはないわけで、現行機種の総称として「Macintosh」と呼ぶことは間違いではないだろう。しかし念のためアップルジャパンのプレスリリースそれ自体の変遷を振り返ってみると面白いことが分かった。
それは今年、すなわち2010年6月15日までに公開されたプレスリリースのフッターとして記されている「Appleについて」の書き方だ。
その6月15日「Apple、まったく新しいMac miniを発表」というプレスリリースの「Appleについて」には「AppleはApple IIでパーソナルコンピュータ革命に火をつけ、Macintoshによって、再び、全く新しいパーソナルコンピュータを創出しました。」という説明がなされている。注目すべきは当然ながら”Macintosh” という名称が用いられていることだ。無論過去のプレスリリースにも同種の表現が用いられている。
しかし2010年6月28日の「iPhone 4の販売台数、170万台を突破」というプレスリリースには「Appleは世界で最も優れたパーソナルコンピュータであるMacをデザインするとともに、OS X、iLife、iWork、そしてプロフェッショナル向けのソフトウェアを開発しています。」と変わったのである。そしてそれ以降現在までのプレスリリースはすべてMacintoshという表記はなくMacで統一しているようである。
すなわち正式発表はないものの、Appleの内部的には今年の6月に発表したiPhone 4を機会にプロダクトをより家電指向とするためにも「Macintosh」という名称を「Mac」とすることに決めたのかも知れない。ただし当然のことながらコピーライトの表記にはいまだに「Macintosh」という表記は残されている。

スティーブ・ジョブズがAppleに復帰してから様々な変革があった。結果的に会社の業績を伸ばしたのだからその手腕は賞賛に値するわけだが、それにしても数多くのプロダクトを整理しパーソナルコンピュータ群をプロとコンシューマ、デスクトップとポータブルといった4つのセグメントに分けた製品を開発してきた。その過程でNewtonやPippinなどを廃し、PoweBookというノート型プロダクト名もMacBookと改めた。

MacName_03.jpg

※最初のMacintoshを振り返るスティーブ・ジョブズ。Macintoshの名を廃しMacにするのは彼の新しい決意の表れなのかも知れない


推測ではあるがジョブズは自分不在の時代に存在したすべてを消し去り、すべてを新しく再構築するという理念に突き動かされてきたようにも感じる。繰り返すが前記6月28日以降の表記にこれまでずっと使われていた "Apple II" という記述も消えていることにも注目だ。ジョブズにとってすでにApple IIもアピールするに値しない遠い過去のプロダクトなのかも知れない。
その彼がApple Computerという社名をAppleに変更した後、最後の砦であるMacintoshという名称を廃しMACに統一するつもりだとしても不思議ではない。
というか、彼がMacintoshプロジェクトを奪ったときには変更できなかった「Macintosh」という名をこの時期になって捨て去ることでスティーブ・ジョブズの仕事は完成形となるのかも知れない。
勿論最初期からのMacintoshを嬉々として使ってきた1人としては寂しい限りなのだが...。

[追伸]その後数名の方からご指摘をいただいたが、Finderのアバウトに"The Macintosh Desktop Experience"とMacintoshという表記が残っていることを知った。まだ探せばいくつかあるのかも知れないが、なにか私にはこの表記さえ修正忘れのような気もするのだが(笑)

【主な参考文献】

・オーエン・W・リンツメイヤー著「アップルコンフィデンシャル」アスキー出版局刊
関連記事
広告
ブログ内検索
Macの達人 無料公開
[小説]未来を垣間見た男 - スティーブ・ジョブズ公開
オリジナル時代小説「木挽町お鶴御用控」無料公開
オリジナル時代小説「首巻き春貞」一巻から外伝まで全完無料公開
ラテ飼育格闘日記
最新記事
カテゴリ
リンク
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

mactechlab

Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員