スティーブン・レビー著「ハッカーズ」の勧め
スティーブ・ジョブズの人気がそうさせるのか、最近Apple Computer社が設立された時代背景について聞かれることが多くなった。そして同時に「なにか当時を知るためにお勧めの本があるか」といったことも問われる機会が多い。無論これ一冊で万全といったものはあり得ないが、まずお勧めすべき一冊はスティーブン・レビー著「ハッカーズ」であろう…。
スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックらが会社を興そうと考え始めたのは1970年半ばだが、その背景として個人で持つことが可能なホビーコンピュータ Altair 8800などが登場し始めたことによる。そしてホームブリューコンピュータクラブなどの設立がそうした時代の背中を強く押し始めた…。
これらの時代背景については当サイトでも多々取り上げてきたが無論参考となる資料や書籍もいろいろと揃えてあるもののそのピカイチはスティーブン・レビー著「ハッカーズ」(工学社刊)だと思う。

※スティーブン・レビー著「ハッカーズ」(工学社刊)
ご承知の方やお詳しい方も多いと思うが、主に日本のマイコンとかパソコンの黎明期を克明に紹介したものとしては富田倫生著「パソコン創世記」(TBSフリタニカ)がある。この時代を克明に取材しこれほど詳しく記録したものは他に類がない大作である。

※富田倫生著「パソコン創世記」(TBSフリタニカ)
またもう少し読みやすいものとしてはSE編集部編「僕らのパソコン30年史~ ニッポン パソコンクロニクル」(翔泳社刊)があるが、やはり本場である米国やらの歴史を追ったものとしてはP.フライバーガー/Mスワイン著「パソコン革命の英雄たち」(マグロウヒルブック刊)を筆頭にクリスチャン・ワースター著「THE COMPUTER~写真で見る歴史」(タッシェン・ジャパン刊)などがあるものの、白眉な一冊はやはりスティーブン・レビー著「ハッカーズ」(工学社刊)に違いない。

※SE編集部編「僕らのパソコン30年史~ ニッポン パソコンクロニクル」(翔泳社刊)

※P.フライバーガー/Mスワイン著「パソコン革命の英雄たち」(マグロウヒルブック刊)

※クリスチャン・ワースター著「THE COMPUTER~写真で見る歴史」(タッシェン・ジャパン刊)
この「ハッカーズ」の一番の魅力はマイクロコンピュータとかパーソナルコンピュータがどのように進化してきたか…といったことではなく、ハッカーと称された魅力的で好奇心と反骨精神および優れた技術を身につけた人たちが時代の渦の中でどのように新しいものを生みだし、あるいはそれらを咀嚼していったかを克明に紹介していることだ。いわばテクノロジーが主役ではなく人間を主役としてパソコンの歴史を追っている点にある。
簡単に目次をご紹介すると第1部「真のハッカーたち」では50年代と60年代のMITと題して第一章から第7章まで、第2部「ハードウェア・ハッカーたち」では70年代のサンフランシスコ周辺がテーマで第8章から第13章までが、そして第3部「ゲーム・ハッカーたち」は80年代のシェラネバダと題して第14章から第20章までが描かれている。
さらに「エピローグ」では真性ハッカーの終焉と題した一文がある。
面白いのは冒頭に「ハッカー紳士録」という登場人物とマシンの一覧リストがあることだ。
当サイトでも名前が登場したことのあるスティーブ・ドンビア、リー・フェルゼンスタイン、エド・ロバーツ、レスリー・ソロモン、ジム・ウォーレン、そしてビル・ゲイツやスティーブ・ウォズニアックも登場する。勿論本文にはスティーブ・ジョブズも出てくる。それぞれ登場した主なアーティクルにリンクを貼っておくので参考にしていただきたい。
さて、本書「ハッカーズ」が並の読み物と違うのはひとえに著者スティーブン・レビーの力量による。無論本書は翻訳本であり私は原文を読んだわけではないが、1951年生まれのスティーブン・レビーというジャーナリストは業界で高い評価を受けている人物なのだ。彼はニューズウィーク誌のチーフ・テクノロジーライターやワイアード誌のライターを経たジャーナリストであり、主な著書には本書「ハッカーズ」を始めとして「暗号化」「iPodは何を変えたのか?」「マッキントッシュ物語―僕らを変えたコンピュータ」などがある。
興味深いのは以前「Walter Isaacson著『スティーブ・ジョブズ 』への批判について」というアーティクルを書いたがそれは「MACLALALA2」にJohn Siracusa(ジョン・シラキューサー)とJohn Gruber(ジョン・グルーバー)両氏によりウォルター・アイザックソン著「スティーブ・ジョブズ」の痛切な批判がなされていることを知ったからだ。
そしてジョン・グルーバー自身のポッドキャストには「きちんとしたことが書けるとしたら(伝記を書く適任者は)誰だったろうかという問いにスティーブン・レビーの名前が挙がったという。
確かにもし、スティーブ・ジョブズの公式伝記をこのスティーブン・レビーが書いていたらAppleの内部事情や開発秘話といったよりリアルで私達が知りたいあれこれに関しても記してくれたのではないかと思うがこればかりは何ともならない(笑)。しかし公式うんぬんといった冠はどうでも良いので個人的にはスティーブン・レビーにスティーブ・ジョブズの伝記を書いて貰いたいと思う気持ちは日増しに強くなる。
ともかくパーソナルコンピュータの歴史はそれに関わったハッカーたちの歴史でもある。ただ単に箱物としての機器だけを追っていては真の歴史は浮かび上がってこないしリアリティが感じられない。
そうした意味においてもパソコンの歴史に興味を持った方々には是非本書をお勧めする次第である。名著である。
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「ハッカーズ
」
1987年3月5日 初版発行
2007年3月1日 第3版第7刷発行
著者:スティーブン・レビー
発行:株式会社 工学社
コード:ISBN978-4-87593-100-3
価格:2,500円(税別)
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スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックらが会社を興そうと考え始めたのは1970年半ばだが、その背景として個人で持つことが可能なホビーコンピュータ Altair 8800などが登場し始めたことによる。そしてホームブリューコンピュータクラブなどの設立がそうした時代の背中を強く押し始めた…。
これらの時代背景については当サイトでも多々取り上げてきたが無論参考となる資料や書籍もいろいろと揃えてあるもののそのピカイチはスティーブン・レビー著「ハッカーズ」(工学社刊)だと思う。

※スティーブン・レビー著「ハッカーズ」(工学社刊)
ご承知の方やお詳しい方も多いと思うが、主に日本のマイコンとかパソコンの黎明期を克明に紹介したものとしては富田倫生著「パソコン創世記」(TBSフリタニカ)がある。この時代を克明に取材しこれほど詳しく記録したものは他に類がない大作である。

※富田倫生著「パソコン創世記」(TBSフリタニカ)
またもう少し読みやすいものとしてはSE編集部編「僕らのパソコン30年史~ ニッポン パソコンクロニクル」(翔泳社刊)があるが、やはり本場である米国やらの歴史を追ったものとしてはP.フライバーガー/Mスワイン著「パソコン革命の英雄たち」(マグロウヒルブック刊)を筆頭にクリスチャン・ワースター著「THE COMPUTER~写真で見る歴史」(タッシェン・ジャパン刊)などがあるものの、白眉な一冊はやはりスティーブン・レビー著「ハッカーズ」(工学社刊)に違いない。

※SE編集部編「僕らのパソコン30年史~ ニッポン パソコンクロニクル」(翔泳社刊)

※P.フライバーガー/Mスワイン著「パソコン革命の英雄たち」(マグロウヒルブック刊)

※クリスチャン・ワースター著「THE COMPUTER~写真で見る歴史」(タッシェン・ジャパン刊)
この「ハッカーズ」の一番の魅力はマイクロコンピュータとかパーソナルコンピュータがどのように進化してきたか…といったことではなく、ハッカーと称された魅力的で好奇心と反骨精神および優れた技術を身につけた人たちが時代の渦の中でどのように新しいものを生みだし、あるいはそれらを咀嚼していったかを克明に紹介していることだ。いわばテクノロジーが主役ではなく人間を主役としてパソコンの歴史を追っている点にある。
簡単に目次をご紹介すると第1部「真のハッカーたち」では50年代と60年代のMITと題して第一章から第7章まで、第2部「ハードウェア・ハッカーたち」では70年代のサンフランシスコ周辺がテーマで第8章から第13章までが、そして第3部「ゲーム・ハッカーたち」は80年代のシェラネバダと題して第14章から第20章までが描かれている。
さらに「エピローグ」では真性ハッカーの終焉と題した一文がある。
面白いのは冒頭に「ハッカー紳士録」という登場人物とマシンの一覧リストがあることだ。
当サイトでも名前が登場したことのあるスティーブ・ドンビア、リー・フェルゼンスタイン、エド・ロバーツ、レスリー・ソロモン、ジム・ウォーレン、そしてビル・ゲイツやスティーブ・ウォズニアックも登場する。勿論本文にはスティーブ・ジョブズも出てくる。それぞれ登場した主なアーティクルにリンクを貼っておくので参考にしていただきたい。
さて、本書「ハッカーズ」が並の読み物と違うのはひとえに著者スティーブン・レビーの力量による。無論本書は翻訳本であり私は原文を読んだわけではないが、1951年生まれのスティーブン・レビーというジャーナリストは業界で高い評価を受けている人物なのだ。彼はニューズウィーク誌のチーフ・テクノロジーライターやワイアード誌のライターを経たジャーナリストであり、主な著書には本書「ハッカーズ」を始めとして「暗号化」「iPodは何を変えたのか?」「マッキントッシュ物語―僕らを変えたコンピュータ」などがある。
興味深いのは以前「Walter Isaacson著『スティーブ・ジョブズ 』への批判について」というアーティクルを書いたがそれは「MACLALALA2」にJohn Siracusa(ジョン・シラキューサー)とJohn Gruber(ジョン・グルーバー)両氏によりウォルター・アイザックソン著「スティーブ・ジョブズ」の痛切な批判がなされていることを知ったからだ。
そしてジョン・グルーバー自身のポッドキャストには「きちんとしたことが書けるとしたら(伝記を書く適任者は)誰だったろうかという問いにスティーブン・レビーの名前が挙がったという。
確かにもし、スティーブ・ジョブズの公式伝記をこのスティーブン・レビーが書いていたらAppleの内部事情や開発秘話といったよりリアルで私達が知りたいあれこれに関しても記してくれたのではないかと思うがこればかりは何ともならない(笑)。しかし公式うんぬんといった冠はどうでも良いので個人的にはスティーブン・レビーにスティーブ・ジョブズの伝記を書いて貰いたいと思う気持ちは日増しに強くなる。
ともかくパーソナルコンピュータの歴史はそれに関わったハッカーたちの歴史でもある。ただ単に箱物としての機器だけを追っていては真の歴史は浮かび上がってこないしリアリティが感じられない。
そうした意味においてもパソコンの歴史に興味を持った方々には是非本書をお勧めする次第である。名著である。
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「ハッカーズ
1987年3月5日 初版発行
2007年3月1日 第3版第7刷発行
著者:スティーブン・レビー
発行:株式会社 工学社
コード:ISBN978-4-87593-100-3
価格:2,500円(税別)
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