iPadアプリ「熈代勝覧」を開発したハンズメモリーの方々と対談【1】
iPadアプリ「お江戸タイムトラベル 200年前の日本橋 ~絵巻『熈代勝覧』の世界~」を開発したハンズメモリーのメンバー3人の方に開発のきっかけやそのご苦労話、皆さんで一緒に仕事をはじめたきっかけなどなどをお伺いした。今回はその第1回目、導入部分をご紹介する。
時 : 2012年3月15日
場所 : 新宿野村ビル49階 土佐料理 祢保希(ねぼけ)
出席 : 山口賢造さん、佐々木圭さん、飛田優介さん
インタビューアー : 松田純一

※ハンズメモリーの皆さん。右から山口賢造さん、飛田優介さん、佐々木圭さん
松田 今日はよろしくお願いします。さて、早速ですが皆さんでハンズメモリーを立ち上げられたということですが、法人化されたのですか?
山口 とりあえず私が事業主という形になっているんですが、現時点では個人事業の形です。今後、売り上げや進捗状況を見ながらそういったことを考えていこうかと...
松田 まあ、私らの時代は今のようにフレキシブルな考え方ができなくて、会社設立といえば即株式会社か有限会社か...といったことでしたけどね。法人化といえば聞こえはいいけど、個人事業の方が自由度が高いかも知れませんね。
山口 しかし、いつ事業を大きくする、人を増やすかといった...ことになると...
松田 そうですね、こちらにいらっしゃる初期創立メンバーの方々は十分にお話し合いされ納得された上での事業展開ですから問題ないでしょうが、今後新たに人を増やすとなれば、オフィスはどこ?といった外見とか初任給は?ということになるでしょうからねぇ(笑)
一同 はい...(笑)
松田 ですから今の時代は組織の形などよりフレキシブルに動けた方が良いかも知れませんね。
山口 そうですね。そういったところで振り回されないようにという感じの規模感でやっていきたいなという気持ちが強いですが、まあ...
松田 皆さんはハンズメモリーご専任なんですか?
山口 はい、そうです。
佐々木 フルタイムです。
山口 というわけで、まだオフィスがないので皆自宅でやってまして、週に少なくとも2回、多いときには4回ぐらい会って、結構時間を取って話をしたり...。で、会わない日はiChatで...といった感じでいまは進めています。
松田 そういえば、失礼ですが皆さん既婚者ですか...
一同 首を横に...
佐々木 あの、皆独身です(笑)
山口 そういう自由もありで(笑)
松田 皆さん独身なら、札幌あたりに拠点を持たれるといいかも知れませんよ。何しろ家賃が安いですから...。
佐々木 (松田さんは) 札幌と東京を頻繁に往復されていたんですか?
松田 そうなんですよ。まあ、今更後悔しているわけでもありませんが、とにかく旅費と電話代がかかりましたからね。支店など置かず東京にすべてのスタッフがいればかからない経費ですから...。特に今のようにiChatとかSkypeがありませんでしたから電話代がべらぼうでした。
山口 当時の電話代ってのは大きいですよね。 あの、僕は85年にNECの88というパソコンで長崎からパソコン通信をやったんですが、当時まだ中学生だったんですがその時の電話代が恐ろしい金額で 、親がぴっくりしてやってはダメだと慌てるほどとんでもない額でしたね。
松田 そうした意味では馬鹿な時代でしたが、いまはいろいろな選択肢があるしiChatやFaceTimeがありますからねぇ。そう...皆さんが一緒にお仕事するのはどんなきっかけがあったのですか?
山口 これはですね、まあ前職がMac専門の開発会社でやってまして、で...佐々木君だけは僕たちの在職前にいたんですね。
松田 ほう...
山口 で、ご存じかも知れませんけどMac用の国産ブラウザがあるんですが、これは彼がデザインを担当しまして、その後花見みたいな事があってたまたま会ったんですよ。
佐々木 たまたま...
山口 僕はそのブラウザのデザインは彼だと聞いていたので...興味本位でいろいろと話をして、生まれ故郷も近いし...あっ僕は長崎なんですが彼は福岡と...。そんなことを含めて話が盛り上がりまして。最初は勉強会といった乗りでたまに会ってソフトのことをいろいろ教えて欲しいな...と集まり始めたのがきっかけですね。
松田 なるほど。
山口 前職でソフトを作るといった感じで僕もやっていたんですが、丁度彼がいた会社が去年6月...?
佐々木 7月...
山口 7月にとある会社の方に買収されまして、その前ぐらいからそろそろ始めないかという話になって。僕としても是非一緒にやりたいと...。そしてその前から飛田君とはずっとそこら辺の話を僕が彼にそうした経緯を話してたんですよ...佐々木君もそうしたことで会社を出るからと、そしたら彼としても喜んで...という話だったので...基本的には9月から始めたと...
松田 昨年の9月からですね。
山口 はい、昨年の9月から...。で、すぐにプロダクトを出せれば表向きに「独立しました」といえたんですけど、それこそいろいろと準備に時間がかかって...先日やっと「お江戸タイムトラベル 200年前の日本橋 ~絵巻『熈代勝覧』の世界~」をリリースできたんで公にしたという感じです。
松田 ウェブページでざっくりとは拝見してますけど、飛田さんがプログラマ、佐々木さんがデザイン、そして山口さんが...あれこれ..と(笑)。
一同 (笑)
山口 それは他の会社とちょっと違うかも知れませんが、結構いまiPhoneの開発会社というのは...
松田 お仕事はiPhoneやiPadに特化してしまおうと...
山口 そうですね!飛田君は中学時代からMacのプログラムをやっていたんで、もう十四五年くらいやってるんですね。で、前職でもMac版のバンドルソフトは結構彼が手がけていて...そういうこともあって歳の割にはいろいろとMacのプログラミングをやっているという珍しい経歴の持ち主で。人気のあるナビアプリや定番になっている仕事効率化のアプリ等も彼の担当ですね。
松田 私もユーザーです...
山口 あのiPhone版とiPad版は両方とも彼が1人でプログラミングしまして、ちょっと重厚なソフトウェアの開発を彼にやってもらっていたわけで、ということでキャリアもあるし非常に...なんというのかな、僕たちが言ったことを実現してくれる力量の持ち主だったんで。で、もともと彼自身も京都から来たんですけど、佐々木君のデザインに憧れていたこともあって、だからそういう意味でも...なんていうのかな...
松田 繋がり...ですか。
山口 そう、繋がりがあるというか、そこから始まっているというか。
松田 いまはユーザーインターフェースといわれていたあれこれが「デザイン」という一言でくくれてしまう時代になりましたから、素敵ですね。
山口 そうですねぇ。
松田 ところで先日拝見した「お江戸タイムトラベル 200年前の日本橋 ~絵巻『熈代勝覧』の世界~」ですが...なんていいましたっけ。
山口 きだいしょうらん...
松田 はい。あれが最初のお仕事となったわけですね。

※iPadアプリとしてリリースした「お江戸タイムトラベル 200年前の日本橋 ~絵巻『熈代勝覧』の世界~」の一シーン
山口 そうですね、最初のお仕事です。私達が出た後にやはり前職に関わりのあるクライアントさんがいらして、独立しましたという連絡を取ったら、よかったら良いコンテンツがあるからどうかというお話しをいただいて、喜んでということで。9月くらいから伺って...お話しを聞き始めたという。
で、コンテンツ自体がかなり面白いもので、スタートしては良い素材というか、お話しをいただいたなあと。それから結構、2ヶ月くらいユーザーインターフェースとかどういう方向性に持っていくかという話をしながらですね、始めたばかりでちょっと足並みが揃っていないところもあったんですけど。で、10月...11月くらいからかな...実装を初めて...
佐々木 はい。軽く走り始めて。
松田 最近はどうなんでしょうか...。私の所にも良い話より悪い話がよく入ってくるんですが。クライアントからの仕事の依頼時に当初から金銭的にも厳しい話から始まるときが多いと聞くんですよ。
山口 そうですね、正直なところ...2008年にApp Storeがオープンして、私達の会社が電車の乗り換え案内アプリを出したことで...これも実はインターフェースを彼(佐々木さん)がやったんですが、アップルのCMに選ばれました。そういうことで結構お仕事をいただいたんですが、金銭的には厳しくなってきましたね
松田 私らの時代は...昔の話で恐縮ですが、クライアントからの特注開発依頼には数百万円とか数千万の見積もりを出した。だからやっていけたんですが、最近はクライアントの中には志が低いんでしょうか、「自分たちはアプリを無償で配布するので、なるべく安くしてくれ」とか...。
山口 ああ...
松田 しかし開発側に言わせればプロダクトを無償で配るとか有償でといったことは本来関係ないことですよね。そうした時代にプロダクトを一本一本開発し、それこそ組織を運営していくという難しさはお感じになりますか。
山口 おっしゃるとおりで、一応私達の考え方として例えばよく広告代理店さんとかが、持ってこられる企画というのがいま松田さんがおっしゃるように、これ無料で配るから...お金も持ってないし...というわけですよ。本来お金を持っている人たちが(笑)。
で、どうですかという話が最初来るんですね。で、3年くらい前は1回ちょっとやってみようかと...やってみたんですが採算取れませんし、このままやっていたら恐ろしいことになると思ったので基本的にそうした話はお断りする方向でやっています。
で、いま思うこととしてはApp Storeの価値は一応全世界にプロダクトを配れるということだと。ただし日本における企画というのはほとんど国内で配布させようというアプリが非常に多いと。そうなるともう母数が、特にiPad用となれば数も少ないんで、売り上げ自体もあまり見込めないということがあってですね、出版社さんたちから当初電子書籍うんぬんの話がいろいろと来たんですが驚くほど制作費が安くて、これでは決してできませんと...。極端な話10万円でどうですかといった話がくるんですね。
そんなのもう、仕様書書いて終わりといった感じですが、そういうのを平気で持ってこられるのもあって。で、彼らの言い分はうちは無報酬なのでというよくわかんない理由を言われることもあって、当初...iPadが出てきたころは特に問題として出てきましたね。
ただiPhoneがこれだけ普及してきたんで、最近はそのところの母数はある程度広がったと言うこともあり理解をしてくれる会社さんも出てきたという感じですね。
松田 いずれにしてもクライアント側はそうして開発したプロダクトを有償無償はともかく自身のビジネスを有利に展開するために活用するわけですから、マイナス面だけを開発側に押しつけるのはいかがなものかと思いますね。
しかし問題は中には例え10万円でも仕事がないよりましだと受けてしまう開発者もいることが難しい問題でもありますね。
そうした開発者がアプリのアイコンをデザインして欲しいとデザイナーの方に依頼するとき、開発費が望めないのでデザイン代を出来高払いにして欲しい...といった要求をするケースが本当にあるらしいんですよ。
デザインの出来高払いなんてねぇ(笑)
山口 企画を持ってくるのは自由なんですが、一時は本当にそんな話も多かったですね。そうした話は僕たち、お断りしますけどね。だからどうにか生き残れたんでしょうか。しかしそれでダメになった人も多かった...
松田 無論良いものをお作りになるというのが第1でしょうが、狭い業界でありますけど会社とか組織のクオリティを下げないように努力しないと結局良い仕事が来なくなりますね。
山口 松田さんがコーシンのとき、受託はどのくらいのパーセンテージだったんですか
松田 売り上げでいえばパッケージより受託のビジネスの方がアベレージでは多かったと思いますね。
山口 そうですか。
松田 パッケージソフトは好きなことを好きなようにできますが、開発に時間がかかりますからねぇ。
山口 なるほど。
松田 やはりMac版のアプリケーション開発は1年有にかかるというのが普通でしたから...。したがって企業側からいえば、その間売り上げは発生しないけど当然のことながら給料や賞与は出ていくということですから。その上に1年間かけて作り上げたプロダクトが思った通りに売れていわゆる開発費の元を取れ、利益を出せるかといえば事はそんなに簡単ではありませんから(笑)。
しかし当時は価格は今とちがって高価でしたから何とかなりましたけど、iPhoneやiPad用として数百円では市場が広がったとはいえ売り上げを維持するのは大変でしょうね。
告知の重要性もあるでしょうし、それを持続することも大切だし。
山口 まったくですねぇ。
松田 良いものを作れば売れるという単純なものではありませんよね。
山口 本当にそうですね。で、パッケージの場合は...バグといったものの対処もあるんでしょうけどどのくらいの間隔でアップデートされてたんですか?
松田 やはり1年でしょうかね。短くて半年...。なぜって当時バージョンアップなどの連絡も往復葉書といったものに頼らざるを得なかったですからコストもかかるし頻繁にはやっちゃあいられませんよ(笑)
その上、例えばPerformaにバンドルされたアプリの中では40万本以上も売れたものがあったわけですが、それに真っ正面からサポートを心がけることは無理でしたね。
山口 僕と飛田君はコーシングラフィックスさんのバンドルソフトだった「ムービーペイント」といった、ああいうものが最初の出会いだったんですね。で、当時例えば「宛名職人」とかCD-ROMがたくさん付いてきたんですけど唯一Macらしいソフトは「ムービーペイント」といったものしかなかったんで...
松田 ありがとうございます。そうですね、我々も当時は自社開発のアプリはエンターテインメント系に力を入れていたんですが、そのエンターテインメント系製品があるときパタッと売れなくなるんですね。
山口 ああ...
松田 それに気づくのが遅かったというのが大きな反省点ですね。やはりユーティリティ系プロダクトの強さを実感しました。どうしても必要なものとなればユーティリティ系は最優先になりますからね。
反してエンターテインメント系は時代なんでしょうか、オトーサンやOLさんたちが会社でパソコンに向かい日々悪戦苦闘している。その上、家に帰ってからもアニメーションかよ...ということになるんでしょうか(笑)
山口 なるほど。
松田 話を戻しますけど、Mac用としても数千円という価格を見ると「高いな」と感じる時代になりましたよね。しかしそれで利益をあげなければならない...
山口 そうですよね。そこが僕たちもねぇ...。実は僕たちはいま、大きな問題としてはプライシングなんですよね。そこでいわゆるソーシャル的なもので少しは補ってくれると...ま比較的安ければ「ぶあっ」と恐ろしいぐらいに広がるんですけど、ちょっとこの値段どうよ...という高さだとやはり「ぴゅっ」と上がって「ぴゅっ」と止まる感じで。
で1回落ちてしまうとなかなかね、そこから上がってくるのは大変なんで...プライシングは一番キモかなあと。
ただ(販売の)本数が読めないということがあるんで、そこはいまからどのようにやっていくか...は考えているんですけど。
松田 やはりどのようなマスメディアに載って告知しようがユーザーに知られる...記憶に残るピークはほんの数日ですよね。
山口 はい...
松田 その上に自社の大切な告知を苦労してあれこれやったにしても、そんな時に限ってスティーブ・ジョブズが亡くなった...といった大きなニュースが飛び込んで埋もれてしまうとかね(笑)
一同 (笑)

※ハンズメモリーの山口賢造さん(右)とMacテクノロジー研究所主宰、松田純一
松田 そうしたこともあり得ますから、ではどうするか。それは意図的に告知のピークを複数作る...作り続けるしかないですよね。
山口 ははあ...
松田 そのためにはネタ作りというんですかね、プロモーションというとその一言で終わってしまいますが、まああらゆる泥臭い手段を使ってでもユーザーさんの目に...
山口 届くように...
松田 はい。目に触れるようにすると...。ただし現実的にはTVコマーシャルを打つわけにもいきませんからコストを最低に抑えてどうするかと...。
で、自分たちでやっているのに何ですが例えばバナー広告の時代ではもうないですよね。私自身、バナーなどクリックしませんもの(笑)。バナーもクリックさせるのではなく新聞広告と同様、常に同じ場所に継続して表示しているという企業への安心感が大切な時代なのかも知れません。
山口 (笑)
松田 で、どうまとめるかですが今回の対談もそもそもが長くなるでしょうから1度にアップするんではなく、複数回に分けて...以前高木利弘さんとの対談は2回に分けてアップしたんですが、お陰様で好評でしたし2回に分けたことは正解だったんだと思っているんですがね。
山口 はあ、あれは僕も読んで...面白かったです。
松田 ですから今回の対談も、どんな感じでまとめるかはこれからご相談したいと思います。
山口 はい。
松田 というわけで遅ればせながら本題ですが(笑)、開発のお話しと3人の方の役割分担などをお聞かせいただけませんか。
山口 はい、わかりました。
(第2回に続く)
■お江戸タイムトラベル 200年前の日本橋 ~絵巻『熈代勝覧』の世界~ - Arigillis Inc.
時 : 2012年3月15日
場所 : 新宿野村ビル49階 土佐料理 祢保希(ねぼけ)
出席 : 山口賢造さん、佐々木圭さん、飛田優介さん
インタビューアー : 松田純一

※ハンズメモリーの皆さん。右から山口賢造さん、飛田優介さん、佐々木圭さん
松田 今日はよろしくお願いします。さて、早速ですが皆さんでハンズメモリーを立ち上げられたということですが、法人化されたのですか?
山口 とりあえず私が事業主という形になっているんですが、現時点では個人事業の形です。今後、売り上げや進捗状況を見ながらそういったことを考えていこうかと...
松田 まあ、私らの時代は今のようにフレキシブルな考え方ができなくて、会社設立といえば即株式会社か有限会社か...といったことでしたけどね。法人化といえば聞こえはいいけど、個人事業の方が自由度が高いかも知れませんね。
山口 しかし、いつ事業を大きくする、人を増やすかといった...ことになると...
松田 そうですね、こちらにいらっしゃる初期創立メンバーの方々は十分にお話し合いされ納得された上での事業展開ですから問題ないでしょうが、今後新たに人を増やすとなれば、オフィスはどこ?といった外見とか初任給は?ということになるでしょうからねぇ(笑)
一同 はい...(笑)
松田 ですから今の時代は組織の形などよりフレキシブルに動けた方が良いかも知れませんね。
山口 そうですね。そういったところで振り回されないようにという感じの規模感でやっていきたいなという気持ちが強いですが、まあ...
松田 皆さんはハンズメモリーご専任なんですか?
山口 はい、そうです。
佐々木 フルタイムです。
山口 というわけで、まだオフィスがないので皆自宅でやってまして、週に少なくとも2回、多いときには4回ぐらい会って、結構時間を取って話をしたり...。で、会わない日はiChatで...といった感じでいまは進めています。
松田 そういえば、失礼ですが皆さん既婚者ですか...
一同 首を横に...
佐々木 あの、皆独身です(笑)
山口 そういう自由もありで(笑)
松田 皆さん独身なら、札幌あたりに拠点を持たれるといいかも知れませんよ。何しろ家賃が安いですから...。
佐々木 (松田さんは) 札幌と東京を頻繁に往復されていたんですか?
松田 そうなんですよ。まあ、今更後悔しているわけでもありませんが、とにかく旅費と電話代がかかりましたからね。支店など置かず東京にすべてのスタッフがいればかからない経費ですから...。特に今のようにiChatとかSkypeがありませんでしたから電話代がべらぼうでした。
山口 当時の電話代ってのは大きいですよね。 あの、僕は85年にNECの88というパソコンで長崎からパソコン通信をやったんですが、当時まだ中学生だったんですがその時の電話代が恐ろしい金額で 、親がぴっくりしてやってはダメだと慌てるほどとんでもない額でしたね。
松田 そうした意味では馬鹿な時代でしたが、いまはいろいろな選択肢があるしiChatやFaceTimeがありますからねぇ。そう...皆さんが一緒にお仕事するのはどんなきっかけがあったのですか?
山口 これはですね、まあ前職がMac専門の開発会社でやってまして、で...佐々木君だけは僕たちの在職前にいたんですね。
松田 ほう...
山口 で、ご存じかも知れませんけどMac用の国産ブラウザがあるんですが、これは彼がデザインを担当しまして、その後花見みたいな事があってたまたま会ったんですよ。
佐々木 たまたま...
山口 僕はそのブラウザのデザインは彼だと聞いていたので...興味本位でいろいろと話をして、生まれ故郷も近いし...あっ僕は長崎なんですが彼は福岡と...。そんなことを含めて話が盛り上がりまして。最初は勉強会といった乗りでたまに会ってソフトのことをいろいろ教えて欲しいな...と集まり始めたのがきっかけですね。
松田 なるほど。
山口 前職でソフトを作るといった感じで僕もやっていたんですが、丁度彼がいた会社が去年6月...?
佐々木 7月...
山口 7月にとある会社の方に買収されまして、その前ぐらいからそろそろ始めないかという話になって。僕としても是非一緒にやりたいと...。そしてその前から飛田君とはずっとそこら辺の話を僕が彼にそうした経緯を話してたんですよ...佐々木君もそうしたことで会社を出るからと、そしたら彼としても喜んで...という話だったので...基本的には9月から始めたと...
松田 昨年の9月からですね。
山口 はい、昨年の9月から...。で、すぐにプロダクトを出せれば表向きに「独立しました」といえたんですけど、それこそいろいろと準備に時間がかかって...先日やっと「お江戸タイムトラベル 200年前の日本橋 ~絵巻『熈代勝覧』の世界~」をリリースできたんで公にしたという感じです。
松田 ウェブページでざっくりとは拝見してますけど、飛田さんがプログラマ、佐々木さんがデザイン、そして山口さんが...あれこれ..と(笑)。
一同 (笑)
山口 それは他の会社とちょっと違うかも知れませんが、結構いまiPhoneの開発会社というのは...
松田 お仕事はiPhoneやiPadに特化してしまおうと...
山口 そうですね!飛田君は中学時代からMacのプログラムをやっていたんで、もう十四五年くらいやってるんですね。で、前職でもMac版のバンドルソフトは結構彼が手がけていて...そういうこともあって歳の割にはいろいろとMacのプログラミングをやっているという珍しい経歴の持ち主で。人気のあるナビアプリや定番になっている仕事効率化のアプリ等も彼の担当ですね。
松田 私もユーザーです...
山口 あのiPhone版とiPad版は両方とも彼が1人でプログラミングしまして、ちょっと重厚なソフトウェアの開発を彼にやってもらっていたわけで、ということでキャリアもあるし非常に...なんというのかな、僕たちが言ったことを実現してくれる力量の持ち主だったんで。で、もともと彼自身も京都から来たんですけど、佐々木君のデザインに憧れていたこともあって、だからそういう意味でも...なんていうのかな...
松田 繋がり...ですか。
山口 そう、繋がりがあるというか、そこから始まっているというか。
松田 いまはユーザーインターフェースといわれていたあれこれが「デザイン」という一言でくくれてしまう時代になりましたから、素敵ですね。
山口 そうですねぇ。
松田 ところで先日拝見した「お江戸タイムトラベル 200年前の日本橋 ~絵巻『熈代勝覧』の世界~」ですが...なんていいましたっけ。
山口 きだいしょうらん...
松田 はい。あれが最初のお仕事となったわけですね。

※iPadアプリとしてリリースした「お江戸タイムトラベル 200年前の日本橋 ~絵巻『熈代勝覧』の世界~」の一シーン
山口 そうですね、最初のお仕事です。私達が出た後にやはり前職に関わりのあるクライアントさんがいらして、独立しましたという連絡を取ったら、よかったら良いコンテンツがあるからどうかというお話しをいただいて、喜んでということで。9月くらいから伺って...お話しを聞き始めたという。
で、コンテンツ自体がかなり面白いもので、スタートしては良い素材というか、お話しをいただいたなあと。それから結構、2ヶ月くらいユーザーインターフェースとかどういう方向性に持っていくかという話をしながらですね、始めたばかりでちょっと足並みが揃っていないところもあったんですけど。で、10月...11月くらいからかな...実装を初めて...
佐々木 はい。軽く走り始めて。
松田 最近はどうなんでしょうか...。私の所にも良い話より悪い話がよく入ってくるんですが。クライアントからの仕事の依頼時に当初から金銭的にも厳しい話から始まるときが多いと聞くんですよ。
山口 そうですね、正直なところ...2008年にApp Storeがオープンして、私達の会社が電車の乗り換え案内アプリを出したことで...これも実はインターフェースを彼(佐々木さん)がやったんですが、アップルのCMに選ばれました。そういうことで結構お仕事をいただいたんですが、金銭的には厳しくなってきましたね
松田 私らの時代は...昔の話で恐縮ですが、クライアントからの特注開発依頼には数百万円とか数千万の見積もりを出した。だからやっていけたんですが、最近はクライアントの中には志が低いんでしょうか、「自分たちはアプリを無償で配布するので、なるべく安くしてくれ」とか...。
山口 ああ...
松田 しかし開発側に言わせればプロダクトを無償で配るとか有償でといったことは本来関係ないことですよね。そうした時代にプロダクトを一本一本開発し、それこそ組織を運営していくという難しさはお感じになりますか。
山口 おっしゃるとおりで、一応私達の考え方として例えばよく広告代理店さんとかが、持ってこられる企画というのがいま松田さんがおっしゃるように、これ無料で配るから...お金も持ってないし...というわけですよ。本来お金を持っている人たちが(笑)。
で、どうですかという話が最初来るんですね。で、3年くらい前は1回ちょっとやってみようかと...やってみたんですが採算取れませんし、このままやっていたら恐ろしいことになると思ったので基本的にそうした話はお断りする方向でやっています。
で、いま思うこととしてはApp Storeの価値は一応全世界にプロダクトを配れるということだと。ただし日本における企画というのはほとんど国内で配布させようというアプリが非常に多いと。そうなるともう母数が、特にiPad用となれば数も少ないんで、売り上げ自体もあまり見込めないということがあってですね、出版社さんたちから当初電子書籍うんぬんの話がいろいろと来たんですが驚くほど制作費が安くて、これでは決してできませんと...。極端な話10万円でどうですかといった話がくるんですね。
そんなのもう、仕様書書いて終わりといった感じですが、そういうのを平気で持ってこられるのもあって。で、彼らの言い分はうちは無報酬なのでというよくわかんない理由を言われることもあって、当初...iPadが出てきたころは特に問題として出てきましたね。
ただiPhoneがこれだけ普及してきたんで、最近はそのところの母数はある程度広がったと言うこともあり理解をしてくれる会社さんも出てきたという感じですね。
松田 いずれにしてもクライアント側はそうして開発したプロダクトを有償無償はともかく自身のビジネスを有利に展開するために活用するわけですから、マイナス面だけを開発側に押しつけるのはいかがなものかと思いますね。
しかし問題は中には例え10万円でも仕事がないよりましだと受けてしまう開発者もいることが難しい問題でもありますね。
そうした開発者がアプリのアイコンをデザインして欲しいとデザイナーの方に依頼するとき、開発費が望めないのでデザイン代を出来高払いにして欲しい...といった要求をするケースが本当にあるらしいんですよ。
デザインの出来高払いなんてねぇ(笑)
山口 企画を持ってくるのは自由なんですが、一時は本当にそんな話も多かったですね。そうした話は僕たち、お断りしますけどね。だからどうにか生き残れたんでしょうか。しかしそれでダメになった人も多かった...
松田 無論良いものをお作りになるというのが第1でしょうが、狭い業界でありますけど会社とか組織のクオリティを下げないように努力しないと結局良い仕事が来なくなりますね。
山口 松田さんがコーシンのとき、受託はどのくらいのパーセンテージだったんですか
松田 売り上げでいえばパッケージより受託のビジネスの方がアベレージでは多かったと思いますね。
山口 そうですか。
松田 パッケージソフトは好きなことを好きなようにできますが、開発に時間がかかりますからねぇ。
山口 なるほど。
松田 やはりMac版のアプリケーション開発は1年有にかかるというのが普通でしたから...。したがって企業側からいえば、その間売り上げは発生しないけど当然のことながら給料や賞与は出ていくということですから。その上に1年間かけて作り上げたプロダクトが思った通りに売れていわゆる開発費の元を取れ、利益を出せるかといえば事はそんなに簡単ではありませんから(笑)。
しかし当時は価格は今とちがって高価でしたから何とかなりましたけど、iPhoneやiPad用として数百円では市場が広がったとはいえ売り上げを維持するのは大変でしょうね。
告知の重要性もあるでしょうし、それを持続することも大切だし。
山口 まったくですねぇ。
松田 良いものを作れば売れるという単純なものではありませんよね。
山口 本当にそうですね。で、パッケージの場合は...バグといったものの対処もあるんでしょうけどどのくらいの間隔でアップデートされてたんですか?
松田 やはり1年でしょうかね。短くて半年...。なぜって当時バージョンアップなどの連絡も往復葉書といったものに頼らざるを得なかったですからコストもかかるし頻繁にはやっちゃあいられませんよ(笑)
その上、例えばPerformaにバンドルされたアプリの中では40万本以上も売れたものがあったわけですが、それに真っ正面からサポートを心がけることは無理でしたね。
山口 僕と飛田君はコーシングラフィックスさんのバンドルソフトだった「ムービーペイント」といった、ああいうものが最初の出会いだったんですね。で、当時例えば「宛名職人」とかCD-ROMがたくさん付いてきたんですけど唯一Macらしいソフトは「ムービーペイント」といったものしかなかったんで...
松田 ありがとうございます。そうですね、我々も当時は自社開発のアプリはエンターテインメント系に力を入れていたんですが、そのエンターテインメント系製品があるときパタッと売れなくなるんですね。
山口 ああ...
松田 それに気づくのが遅かったというのが大きな反省点ですね。やはりユーティリティ系プロダクトの強さを実感しました。どうしても必要なものとなればユーティリティ系は最優先になりますからね。
反してエンターテインメント系は時代なんでしょうか、オトーサンやOLさんたちが会社でパソコンに向かい日々悪戦苦闘している。その上、家に帰ってからもアニメーションかよ...ということになるんでしょうか(笑)
山口 なるほど。
松田 話を戻しますけど、Mac用としても数千円という価格を見ると「高いな」と感じる時代になりましたよね。しかしそれで利益をあげなければならない...
山口 そうですよね。そこが僕たちもねぇ...。実は僕たちはいま、大きな問題としてはプライシングなんですよね。そこでいわゆるソーシャル的なもので少しは補ってくれると...ま比較的安ければ「ぶあっ」と恐ろしいぐらいに広がるんですけど、ちょっとこの値段どうよ...という高さだとやはり「ぴゅっ」と上がって「ぴゅっ」と止まる感じで。
で1回落ちてしまうとなかなかね、そこから上がってくるのは大変なんで...プライシングは一番キモかなあと。
ただ(販売の)本数が読めないということがあるんで、そこはいまからどのようにやっていくか...は考えているんですけど。
松田 やはりどのようなマスメディアに載って告知しようがユーザーに知られる...記憶に残るピークはほんの数日ですよね。
山口 はい...
松田 その上に自社の大切な告知を苦労してあれこれやったにしても、そんな時に限ってスティーブ・ジョブズが亡くなった...といった大きなニュースが飛び込んで埋もれてしまうとかね(笑)
一同 (笑)

※ハンズメモリーの山口賢造さん(右)とMacテクノロジー研究所主宰、松田純一
松田 そうしたこともあり得ますから、ではどうするか。それは意図的に告知のピークを複数作る...作り続けるしかないですよね。
山口 ははあ...
松田 そのためにはネタ作りというんですかね、プロモーションというとその一言で終わってしまいますが、まああらゆる泥臭い手段を使ってでもユーザーさんの目に...
山口 届くように...
松田 はい。目に触れるようにすると...。ただし現実的にはTVコマーシャルを打つわけにもいきませんからコストを最低に抑えてどうするかと...。
で、自分たちでやっているのに何ですが例えばバナー広告の時代ではもうないですよね。私自身、バナーなどクリックしませんもの(笑)。バナーもクリックさせるのではなく新聞広告と同様、常に同じ場所に継続して表示しているという企業への安心感が大切な時代なのかも知れません。
山口 (笑)
松田 で、どうまとめるかですが今回の対談もそもそもが長くなるでしょうから1度にアップするんではなく、複数回に分けて...以前高木利弘さんとの対談は2回に分けてアップしたんですが、お陰様で好評でしたし2回に分けたことは正解だったんだと思っているんですがね。
山口 はあ、あれは僕も読んで...面白かったです。
松田 ですから今回の対談も、どんな感じでまとめるかはこれからご相談したいと思います。
山口 はい。
松田 というわけで遅ればせながら本題ですが(笑)、開発のお話しと3人の方の役割分担などをお聞かせいただけませんか。
山口 はい、わかりました。
(第2回に続く)
■お江戸タイムトラベル 200年前の日本橋 ~絵巻『熈代勝覧』の世界~ - Arigillis Inc.
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