iPadアプリ「熈代勝覧」を開発したハンズメモリーの方々と対談【3】
iPadアプリ「お江戸タイムトラベル 200年前の日本橋 ~絵巻『熈代勝覧』の世界~」を開発したハンズメモリーのメンバー3人の方に開発のきっかけやそのご苦労話、皆さんで一緒に仕事をはじめるきっかけなどなどをお伺いした。今回はその第3回目、対談は佳境に入る。 時 : 2012年3月15日
場所 : 新宿野村ビル49階 土佐料理 祢保希(ねぼけ)
出席 : 山口賢造さん、佐々木圭さん、飛田優介さん
インタビューアー : 松田純一
松田 今後はiOSも...今回リリースされたSiriの日本語版であるとか、iSightカメラも良くなって...これでページをめくるといったアイデアも登場しましたね。ですからいわゆるインターフェースも手法が変わってくると思いますけど、それらに伴い「熈代勝覧」ですけど、Mac版も作るというのは考えられないですか?
山口 なるほど...iPhoneは考えましたが、Mac版は...言われてみればそうだよねぇ。
佐々木 画面が大きいし。
松田 何だか時代に逆行するんですけど、私自身は古いタイプのユーザーなのかパソコンが好きなんですね。勿論iPadの魅力や利点を否定するわけではまったくないんですけど、やはり指一本でアクセスできるものは良いとしても何かを効率的に生み出すのはやはりパソコンの方がまだまだ有利だと...。PhotoshopのiPad版も出来ましたけどあれを使う気にはならない...(笑)。
一同 (笑)。
松田 次のMountain LionからMac OS Xも”Mac”の名称が取れるようですから、より統合して例えばSiriもMacでこそ使いたいし機能を載せて欲しいと思うんですよ。
山口 うんうん...
松田 そうすればもう少し強力な使い方もできるでしょうし膨大な調べ物がSpotlight以上に楽しく効率的に...ナレッジナビゲータではないですけど...できるかも知れませんよね。
山口 はい。
松田 そうすれば「熈代勝覧」だけでなく国宝級の美術品なども効率よく検索して閲覧できるようになると思うし、であればまだまだパソコン...Macの存在価値もあるように思うんですけどね。ただプログラマとして難しいのは、もしMac版の「熈代勝覧」はiPad版をそのまま移植しました...では売れないでしょうから...。
佐々木 そうですね、そこが難しいとこですね。
松田 ですから価格なども含めてゼロから考える必要があるんでしょうね...。そう、今回のiPad版は実装が2ヶ月くらいでできたようですね。
山口 だいたい実装期間はそのくらいです。
松田 それは大したものですね。
山口 飛田君が結構...パワーを上げて...
佐々木 僕も結構無茶いうんですね(笑)。前の会社もその前にいた会社でも皆から「ひどいこと言うね」と...(笑)
一同 (大笑)
山口 でもあの...やっぱりメモリのね、管理の完璧さには俺結構驚いたよ。パフォーマンスがよくて落ちないっていう実装はやはり飛田さんならではだと...
佐々木 初期の頃のプロトタイプとはまったく違う感じなんです...。そこからどんどんブラッシュアップしていって...
山口 そうそう。
松田 私も様々なプログラマー...と仕事をしていたわけですけど、笑ったことは...考えて考えてひとつのプログラムを作る訳じゃあないですか...。そうするとまあ...今の若いプログラマの方たちは物事をよく理解されていますが、古いタイプのプログラマの中には「俺が...自分が作った」と主張するタイプが多いんですよ。
山口 なるほど。
松田 そりゃあ、確かにコーディングしたのは当人ですが、そのう...仕様を決めインターフェースを考え、バグの検証をし、ましてやサンプルデータやパッケージ、マニュアル作りにいたって初めてひとつのプロダクトとなるわけで、様々な人たちの手が加わっているはずなんですね。ですからそうした自己主張...私は大嫌いなんですが...逆に羨ましいのは仕事を重ねるごとにプログラマ自身にノウハウは蓄積していくけど企業にはソースコードという形だけのものしか残らないんですね。ですから例えばいくら私が社長ですと言っても技術的な蓄積といった充実感は得られないんですよ。まあ他人の書いたソースコードを見るのも面白いものではないしね...
一同 (笑)。
松田 プログラマ当人はソースコードとは別次元で、ひとつひとつ技術的な壁を乗り越えていくごとに知識と能力がパワーアップしていくわけですよ。それは羨ましいですよ(笑)。どうですか、飛田さん?
一同 (笑)。
飛田 ああ、最終的に手を下せるというところは...勿論...面白いんですけど。

※ハンズメモリーの飛田優介さん(右)とインタビューアーの松田純一
松田 そうでしょうね。
山口 松田さんのおっしゃる、プログラマが「俺がやった...」というのは僕は逆にね...今の方が酷くなってると...(笑)。これは結構皆で話すことなんですけど、実はこのメンバーに至るまでには何回かエンジニアの方と...いろいろとメンバーがいたんですね。
松田 ええ...
山口 で、そういうところが強いんですね。で、結局気に入らないともう「プイッ」という感じの...そういう感じは意外に今の方が多いんではないかなと...
松田 こういうと語弊があるかも知れませんが、我々の時代およびそれ以前のプログラマはいわゆる職業プログラマーという意識はもともと薄かったように思うんですよ。無論人によりますけど。プログラマーという職業を目指して系統立てて勉強...訓練したというより、気がついたら他の仕事よりプログラムが性に合っていた...といった具合ですか...。
そもそも...子供たちに「将来どんな仕事をやりたい?」と聞いたとして、「僕は消防士、サッカー選手、私はお花屋さん...」などなど可愛い答えが多々あるでしょうが「僕、プログラマー!」というのはないでしょう(笑)。
山口 いないねぇ。
松田 そうした意味ではプログラマーという職業はまだまだ認知されていない仕事の類かも知れませんし魅力を感じられない仕事のうちだったかもしれませんよね...これまでは。ですから私らの知っているプログラマの中にはサラリーマンをやったことがない人も結構いましたね。勿論サラリーマンが偉いわけでもありませんが(笑)、よい意味で組織の中でルールに従って...様々な人とコラボしていくというか...働くことになれていないというか、嫌いなタイプも多くて...
山口 ああ...分かります。
松田 そう、ご存じのApple創立者の一人だったスティーブ・ウォズニアックがいますよね。で、世間ではAppleの中で常に悪役はジョブズでウォズは善人だと...。
山口 ははははは...
松田 ジョブズは山分けの金はちょろまかすは、功績だけは自分のものとするし...反対にウォズは常に良い人だと。
山口 うふふふ...
松田 ストックオプションを貰えない社員たちにウォズプランでしたか、株を配ったりね...。しかしそのウォズを企業の枠組みの中で働かせようとした当時の人たち...マイク・マークラやジョブズも含めてですが、めちゃ大変だったようですね。
山口 はあ...
松田 とにかく気に入らないと働かない。もともと彼はそれまでの勤めを辞めてまでAppleという会社を設立するのには反対していたわけです...。確かにウォズは天才ですが、一般企業の中でやるべき事とその納期が決まってそれまでに...となるとウォズのようなスタッフは能力の問題以前に当てにならずダメなんですね。ま、天才とはそうしたものなんでしょうが...。そうした意味で現在はプログラマーという職業も良い意味で一皮むけて...世間からも理解されているように思えますけど。
で、どうですか...ご自分たちのお仕事ですから難しいでしょうが、出来としては...考えていたとおりに開発できたわけですか。もっとああしたかった、こうしたかったという事もおありなんでしょうか(笑)。
佐々木 はい...。
松田 クライアントさんと意見が合わなかったとか。
佐々木 それはですね、幸いに今回はなかったです。
松田 時間的な制約とか...
佐々木 (やはり)時間的な制約ですね。あと、実際にリリースして...あのリリースしてから気づいたこともありまして...
松田 はい。
佐々木 もっと、こうしたら巻物が楽しくなるよ...とか...
松田 それは...またバージョンアップの楽しみになるかも知れませんね(笑)。ただしこのクラスのiOSアプリのバージョンアップってなかなかお金とれないでしょ?
山口 そうなんですよ。そこがすごく大変ですよね。

※「お江戸タイムトラベル 200年前の日本橋 ~絵巻『熈代勝覧』の世界~」の「ちょこっと図鑑」表示例
松田 私は「熈代勝覧」を知人に見せたときに冗談で言ったんですけど、無料版はあちらこちらを虫食い状態にして...(笑)。
一同 (笑)。
松田 肝心なところを...
山口 なるほどね(笑)。有料版はちゃあんと見えると...
松田 ちゃんと見える。ただ「熈代勝覧」...巻物を歴史物と捉えるとすると、ユーザーの範囲を狭めてしまうことになりませんか?
山口 そうですね。宿命といったことがそこにありますね。今回も歴史物ということでかなり、え〜まあ、クライアントのアリギリスさん曰く、「熈代勝覧」は年齢が高めの人たちに買っていただけるんじゃないか...という意見があったんですけど、そこをできるだけ若い人たちを含めて見てもらえるようなティストにしたいなあというのはあったんですけど。まあなかなかそこは、プロモーションも含めて難しいなあという気がしますね。
松田 映画...というよりTVドラマがそうですけど話題の新番組などはホームページを充実させているように思えますね。
山口 なるほど...
松田 どうしてかというと、例えばお江戸タイムトラベルの「熈代勝覧」をリリースしました...。それで終わりじゃなくて、そこと何か...もうひとつ深いところというか広がりというか...
佐々木 そうですね...
松田 連携させていかないと製品が売れ続けてくれないと...ね。
山口 いま、だからFacebookページが...あの...アリギリスさんがお江戸的なネタを不定期ではあるんですが提供してくれますので、そこでの拡散を狙ってはいるんですけども。まあ、まだちょっと末広がりにはなっていないですが...
佐々木 おっしゃるとおり、あの...ドラマでも映画でも今はウェブサイトとコンテンツと連動して新しい何か、ウェブサイトを見て初めて分かるところとか、多いですね。
松田 そうすると、ウェブサイトにユーザーの書き込みが増えたり...私の好きだったTBSでしたか、TVドラマの「JIN 仁」では時代考証家の方が当時の豆知識的なコンテンツを提供したりしてそれで視聴者は随分と楽しみ、喜んでいましたね。
それから言うのは簡単なんですけど...実現はなかなか難しいですけど、ああいう「お江戸トラベル」といった巻物...コンテンツを見せる手法ですが、それが時間と共に成長していくような、変化していくようなね...工夫...
佐々木 ああ...
松田 そういったアイディアはないかなあと...。
山口 うんうん。
松田 要するに、当然のことですがソフトウェアをダウンロードし購入する。それを見ました。で、2日3日使いました。まあ普通の方ならそれまででしょう...。
山口 ああ。
松田 日本橋まで見てしまって...行ってしまって(笑)、説明という説明、解説という解説を全部チェックして...

※絵巻「熈代勝覧」の最後はこの日本橋のシーン
佐々木 はい(笑)。
松田 なるほど、ここまでか...ということですよね。その後、家族や友人たちに「こういうのがあるぞ」と見せることはあっても、自分自身のために繰り返し見て楽しむということは書籍の再読と違って消費されてしまう度合いが高いと思うんですね。
山口 なるほど。
松田 特に、これまではなかなか出来得なかったことなんですが、iOSのアプリケーションはですね、上手な言い方を思いつきませんが...成長していく、常に同じでない。コンテンツとして再度見るときには前回とどこか違うというか、新しい発見を促すアイデアというものが欲しいと思っているんですよ。そうであればユーザーの手元であっという間に消費され忘れ去られるということは免れるかも知れないな...と。
山口 はい。
松田 昔、我々も...例えばテキストエディターを開発するとき、それは無料で配布しそれで使うデジタルペーパーを100枚いくら...で売ろうかと(笑)。デジタルペーパーを使い切ったらアプリは使えないわけですから消耗品を買っていただけるのではないかといった意地悪なこともアイデアとして考えたんですが...。まあ開発側としても大変な努力ですし、850円程度ではやってられませんかね(笑)。
一同 (笑)。
松田 ともかく、でないと...アプリケーションという概念そのものが Cloudなどの台頭を含めて薄くなっていくんではないかと危惧してるんです。アプリ好きの一人として。やはり...所詮、こうしてテーブルの上にあって手で触って握れる「物」の強さというか...デジタルはデジタルの魅力や利点は勿論あるわけですが、どこか儚さを感じてしまうんですね。
山口 うんうん...
[最終回に続く]
■お江戸タイムトラベル 200年前の日本橋 ~絵巻『熈代勝覧』の世界~ - Arigillis Inc.
場所 : 新宿野村ビル49階 土佐料理 祢保希(ねぼけ)
出席 : 山口賢造さん、佐々木圭さん、飛田優介さん
インタビューアー : 松田純一
松田 今後はiOSも...今回リリースされたSiriの日本語版であるとか、iSightカメラも良くなって...これでページをめくるといったアイデアも登場しましたね。ですからいわゆるインターフェースも手法が変わってくると思いますけど、それらに伴い「熈代勝覧」ですけど、Mac版も作るというのは考えられないですか?
山口 なるほど...iPhoneは考えましたが、Mac版は...言われてみればそうだよねぇ。
佐々木 画面が大きいし。
松田 何だか時代に逆行するんですけど、私自身は古いタイプのユーザーなのかパソコンが好きなんですね。勿論iPadの魅力や利点を否定するわけではまったくないんですけど、やはり指一本でアクセスできるものは良いとしても何かを効率的に生み出すのはやはりパソコンの方がまだまだ有利だと...。PhotoshopのiPad版も出来ましたけどあれを使う気にはならない...(笑)。
一同 (笑)。
松田 次のMountain LionからMac OS Xも”Mac”の名称が取れるようですから、より統合して例えばSiriもMacでこそ使いたいし機能を載せて欲しいと思うんですよ。
山口 うんうん...
松田 そうすればもう少し強力な使い方もできるでしょうし膨大な調べ物がSpotlight以上に楽しく効率的に...ナレッジナビゲータではないですけど...できるかも知れませんよね。
山口 はい。
松田 そうすれば「熈代勝覧」だけでなく国宝級の美術品なども効率よく検索して閲覧できるようになると思うし、であればまだまだパソコン...Macの存在価値もあるように思うんですけどね。ただプログラマとして難しいのは、もしMac版の「熈代勝覧」はiPad版をそのまま移植しました...では売れないでしょうから...。
佐々木 そうですね、そこが難しいとこですね。
松田 ですから価格なども含めてゼロから考える必要があるんでしょうね...。そう、今回のiPad版は実装が2ヶ月くらいでできたようですね。
山口 だいたい実装期間はそのくらいです。
松田 それは大したものですね。
山口 飛田君が結構...パワーを上げて...
佐々木 僕も結構無茶いうんですね(笑)。前の会社もその前にいた会社でも皆から「ひどいこと言うね」と...(笑)
一同 (大笑)
山口 でもあの...やっぱりメモリのね、管理の完璧さには俺結構驚いたよ。パフォーマンスがよくて落ちないっていう実装はやはり飛田さんならではだと...
佐々木 初期の頃のプロトタイプとはまったく違う感じなんです...。そこからどんどんブラッシュアップしていって...
山口 そうそう。
松田 私も様々なプログラマー...と仕事をしていたわけですけど、笑ったことは...考えて考えてひとつのプログラムを作る訳じゃあないですか...。そうするとまあ...今の若いプログラマの方たちは物事をよく理解されていますが、古いタイプのプログラマの中には「俺が...自分が作った」と主張するタイプが多いんですよ。
山口 なるほど。
松田 そりゃあ、確かにコーディングしたのは当人ですが、そのう...仕様を決めインターフェースを考え、バグの検証をし、ましてやサンプルデータやパッケージ、マニュアル作りにいたって初めてひとつのプロダクトとなるわけで、様々な人たちの手が加わっているはずなんですね。ですからそうした自己主張...私は大嫌いなんですが...逆に羨ましいのは仕事を重ねるごとにプログラマ自身にノウハウは蓄積していくけど企業にはソースコードという形だけのものしか残らないんですね。ですから例えばいくら私が社長ですと言っても技術的な蓄積といった充実感は得られないんですよ。まあ他人の書いたソースコードを見るのも面白いものではないしね...
一同 (笑)。
松田 プログラマ当人はソースコードとは別次元で、ひとつひとつ技術的な壁を乗り越えていくごとに知識と能力がパワーアップしていくわけですよ。それは羨ましいですよ(笑)。どうですか、飛田さん?
一同 (笑)。
飛田 ああ、最終的に手を下せるというところは...勿論...面白いんですけど。

※ハンズメモリーの飛田優介さん(右)とインタビューアーの松田純一
松田 そうでしょうね。
山口 松田さんのおっしゃる、プログラマが「俺がやった...」というのは僕は逆にね...今の方が酷くなってると...(笑)。これは結構皆で話すことなんですけど、実はこのメンバーに至るまでには何回かエンジニアの方と...いろいろとメンバーがいたんですね。
松田 ええ...
山口 で、そういうところが強いんですね。で、結局気に入らないともう「プイッ」という感じの...そういう感じは意外に今の方が多いんではないかなと...
松田 こういうと語弊があるかも知れませんが、我々の時代およびそれ以前のプログラマはいわゆる職業プログラマーという意識はもともと薄かったように思うんですよ。無論人によりますけど。プログラマーという職業を目指して系統立てて勉強...訓練したというより、気がついたら他の仕事よりプログラムが性に合っていた...といった具合ですか...。
そもそも...子供たちに「将来どんな仕事をやりたい?」と聞いたとして、「僕は消防士、サッカー選手、私はお花屋さん...」などなど可愛い答えが多々あるでしょうが「僕、プログラマー!」というのはないでしょう(笑)。
山口 いないねぇ。
松田 そうした意味ではプログラマーという職業はまだまだ認知されていない仕事の類かも知れませんし魅力を感じられない仕事のうちだったかもしれませんよね...これまでは。ですから私らの知っているプログラマの中にはサラリーマンをやったことがない人も結構いましたね。勿論サラリーマンが偉いわけでもありませんが(笑)、よい意味で組織の中でルールに従って...様々な人とコラボしていくというか...働くことになれていないというか、嫌いなタイプも多くて...
山口 ああ...分かります。
松田 そう、ご存じのApple創立者の一人だったスティーブ・ウォズニアックがいますよね。で、世間ではAppleの中で常に悪役はジョブズでウォズは善人だと...。
山口 ははははは...
松田 ジョブズは山分けの金はちょろまかすは、功績だけは自分のものとするし...反対にウォズは常に良い人だと。
山口 うふふふ...
松田 ストックオプションを貰えない社員たちにウォズプランでしたか、株を配ったりね...。しかしそのウォズを企業の枠組みの中で働かせようとした当時の人たち...マイク・マークラやジョブズも含めてですが、めちゃ大変だったようですね。
山口 はあ...
松田 とにかく気に入らないと働かない。もともと彼はそれまでの勤めを辞めてまでAppleという会社を設立するのには反対していたわけです...。確かにウォズは天才ですが、一般企業の中でやるべき事とその納期が決まってそれまでに...となるとウォズのようなスタッフは能力の問題以前に当てにならずダメなんですね。ま、天才とはそうしたものなんでしょうが...。そうした意味で現在はプログラマーという職業も良い意味で一皮むけて...世間からも理解されているように思えますけど。
で、どうですか...ご自分たちのお仕事ですから難しいでしょうが、出来としては...考えていたとおりに開発できたわけですか。もっとああしたかった、こうしたかったという事もおありなんでしょうか(笑)。
佐々木 はい...。
松田 クライアントさんと意見が合わなかったとか。
佐々木 それはですね、幸いに今回はなかったです。
松田 時間的な制約とか...
佐々木 (やはり)時間的な制約ですね。あと、実際にリリースして...あのリリースしてから気づいたこともありまして...
松田 はい。
佐々木 もっと、こうしたら巻物が楽しくなるよ...とか...
松田 それは...またバージョンアップの楽しみになるかも知れませんね(笑)。ただしこのクラスのiOSアプリのバージョンアップってなかなかお金とれないでしょ?
山口 そうなんですよ。そこがすごく大変ですよね。

※「お江戸タイムトラベル 200年前の日本橋 ~絵巻『熈代勝覧』の世界~」の「ちょこっと図鑑」表示例
松田 私は「熈代勝覧」を知人に見せたときに冗談で言ったんですけど、無料版はあちらこちらを虫食い状態にして...(笑)。
一同 (笑)。
松田 肝心なところを...
山口 なるほどね(笑)。有料版はちゃあんと見えると...
松田 ちゃんと見える。ただ「熈代勝覧」...巻物を歴史物と捉えるとすると、ユーザーの範囲を狭めてしまうことになりませんか?
山口 そうですね。宿命といったことがそこにありますね。今回も歴史物ということでかなり、え〜まあ、クライアントのアリギリスさん曰く、「熈代勝覧」は年齢が高めの人たちに買っていただけるんじゃないか...という意見があったんですけど、そこをできるだけ若い人たちを含めて見てもらえるようなティストにしたいなあというのはあったんですけど。まあなかなかそこは、プロモーションも含めて難しいなあという気がしますね。
松田 映画...というよりTVドラマがそうですけど話題の新番組などはホームページを充実させているように思えますね。
山口 なるほど...
松田 どうしてかというと、例えばお江戸タイムトラベルの「熈代勝覧」をリリースしました...。それで終わりじゃなくて、そこと何か...もうひとつ深いところというか広がりというか...
佐々木 そうですね...
松田 連携させていかないと製品が売れ続けてくれないと...ね。
山口 いま、だからFacebookページが...あの...アリギリスさんがお江戸的なネタを不定期ではあるんですが提供してくれますので、そこでの拡散を狙ってはいるんですけども。まあ、まだちょっと末広がりにはなっていないですが...
佐々木 おっしゃるとおり、あの...ドラマでも映画でも今はウェブサイトとコンテンツと連動して新しい何か、ウェブサイトを見て初めて分かるところとか、多いですね。
松田 そうすると、ウェブサイトにユーザーの書き込みが増えたり...私の好きだったTBSでしたか、TVドラマの「JIN 仁」では時代考証家の方が当時の豆知識的なコンテンツを提供したりしてそれで視聴者は随分と楽しみ、喜んでいましたね。
それから言うのは簡単なんですけど...実現はなかなか難しいですけど、ああいう「お江戸トラベル」といった巻物...コンテンツを見せる手法ですが、それが時間と共に成長していくような、変化していくようなね...工夫...
佐々木 ああ...
松田 そういったアイディアはないかなあと...。
山口 うんうん。
松田 要するに、当然のことですがソフトウェアをダウンロードし購入する。それを見ました。で、2日3日使いました。まあ普通の方ならそれまででしょう...。
山口 ああ。
松田 日本橋まで見てしまって...行ってしまって(笑)、説明という説明、解説という解説を全部チェックして...

※絵巻「熈代勝覧」の最後はこの日本橋のシーン
佐々木 はい(笑)。
松田 なるほど、ここまでか...ということですよね。その後、家族や友人たちに「こういうのがあるぞ」と見せることはあっても、自分自身のために繰り返し見て楽しむということは書籍の再読と違って消費されてしまう度合いが高いと思うんですね。
山口 なるほど。
松田 特に、これまではなかなか出来得なかったことなんですが、iOSのアプリケーションはですね、上手な言い方を思いつきませんが...成長していく、常に同じでない。コンテンツとして再度見るときには前回とどこか違うというか、新しい発見を促すアイデアというものが欲しいと思っているんですよ。そうであればユーザーの手元であっという間に消費され忘れ去られるということは免れるかも知れないな...と。
山口 はい。
松田 昔、我々も...例えばテキストエディターを開発するとき、それは無料で配布しそれで使うデジタルペーパーを100枚いくら...で売ろうかと(笑)。デジタルペーパーを使い切ったらアプリは使えないわけですから消耗品を買っていただけるのではないかといった意地悪なこともアイデアとして考えたんですが...。まあ開発側としても大変な努力ですし、850円程度ではやってられませんかね(笑)。
一同 (笑)。
松田 ともかく、でないと...アプリケーションという概念そのものが Cloudなどの台頭を含めて薄くなっていくんではないかと危惧してるんです。アプリ好きの一人として。やはり...所詮、こうしてテーブルの上にあって手で触って握れる「物」の強さというか...デジタルはデジタルの魅力や利点は勿論あるわけですが、どこか儚さを感じてしまうんですね。
山口 うんうん...
[最終回に続く]
■お江戸タイムトラベル 200年前の日本橋 ~絵巻『熈代勝覧』の世界~ - Arigillis Inc.
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