レオナルド・ダ・ヴィンチの書棚にあった本とは?
本好きの1人として他人の蔵書や書斎を覗くのは大変興味のあることだ。本棚に並んでいる本を見ればその人となりが分かる...といった言葉もあったと思うが、事レオナルド・ダ・ヴィンチがどのような本を所有し読んでいたかは特別興味深い。
先にご紹介した「マドリッド手稿」を少しづつ斜め読みをしているがその中で大変目を引く記述があった。それはレオナルド自身が所有していた書物のリストが書かれているのだ。これは面白いではないか!
無論こうした分野をアカデミックに調べている専門の方々がいるわけだから興味本位の取り上げ方は迷惑かも知れないがまあお遊びということでお許し願いたい。
レオナルド・ダ・ヴィンチが所有していた書物のリストは「マドリッド手稿2」に116冊記述され、別途「アトランティコ手稿」に40冊ほどあるという。
現在と違い、もともと彼が書き残した手稿に使われた紙自体が貴重な時代であったし、ましてや書物はそこいらで売られているものではなかった。また私たち自身もそうだが本当に自身の好みから手にする本と仕事で関連知識や情報を知りたいがためにやむを得ず購入する本といった区別はあるが、それらを一貫して眺めればその時期に何に興味を持ちどのようなことをやっていた...やろうとしていたか...という推測はできるのではないだろうか。
こうした「下種の勘繰り」的な発想ではあるがその相手がレオナルド・ダ・ヴィンチともなればなおさら勘繰りたくなる(笑)。ちなみにフランチェスコ・ダ・シェナ(FRANCESCO DA SIENA)という本一冊のみ、レオナルドの蔵書としてフィレンツェのロレンツォ図書館に現存しているそうである。

※「マドリッド手稿2」にあるレオナルド直筆の蔵書リストページ(一部)。無論鏡文字で書かれている
さてこの1975年に岩波書店から刊行された「マドリッド手稿」のファクシミリ版には良質の訳書が別途付いているので私などにもその内容がわかるのだが、レオナルドの記述が曖昧なこともあり、かつ500年も前のことだからしてそれらの書物の特定は大変難しいようだ。
しかし私が興味を持つのはそうした緻密な話ではなくレオナルドがどのような分野、話題に興味があったかというその一点にある。これらのリストを眺めてまず納得したことは極めて広範囲な分野の書物が含まれていることだ。医学、哲学、博物学、解剖学、地理、算術、天文学、幾何学そして詩の本や手相術とか骨相学などにまで及んでいる。そして当然のことながら多かれ少なかれレオナルドはこれらの書物に影響を受けているようだ。

※これまた前記ページの一部を左右反転させてみるとスペルの概要が判別できる
例えば「外科術提要(GUIDONE IN CERUSIA)」とか「聖書(BIBBIA)」、「バッティスタ・アルベルティの建築論(BATISTA ALBERTI IN ARCHITETTURA)」、「軍事論(DE RE MILITARI)」、「エウクレイデスの幾何学(EUCLIDE IN GEOMETRIA)」、「透視法概論(PROSPETTIVA COMUNE)」といった書物(どんなものか分からないが...笑)が含まれていることはレオナルドの業績から見て誰しもが頷けるものだろう。
面白いと思うのは(以下和訳の書名のみ記述)「プリニウス」や数冊の「イソップ寓話集」、「霊魂不滅論」、詩集や自身の手稿...「トリヴルツィオ手稿」などがあるだけでなく、科学一辺倒の現在から見ると怪しげな書物らしい本も多々含まれていることだ。
まず「ミラノの手相論」をはじめとする手相の書、「スコトゥスの人相学」、「ダニエルの夢占い」などが含まれているのは興味深い。
特に「アルベルトゥス・マグヌスの神秘論」に至っては文字通り神秘学の分野になり真にレオナルドがこうした傾向の知識をも好んでいたかも知れず、だからこそ「ダ・ヴィンチコード」といった読み物も流行るのかも知れない(笑)。
アルベルトゥス・マグヌス(1193〜1280)は13世紀スコラ哲学の大立て者であり、ドミニコ派の学僧として名声ならぶ者なき人物である。ただ後世このアルベルトゥスの名を騙り魔術書などが多々登場したことを考えるとレオナルドの所持していた「アルベルトゥス・マグヌスの神秘論」がどのようなものなのか俄然知りたくなる。
もともとアルベルトゥス・マグヌスには雪が降っていた僧院の庭にオランダの公爵ウィルヘルム二世を招待したとき、彼が準備を始めるとたちまち雪は消え庭の花々は咲き乱れ春のように小鳥たちが鳴き始めた...とか、アルベルトゥスが人間の言葉をしゃべることができる自動人形を作ったなどという伝説を持つ人物なのだから...。
さらにアルベルトゥスの本といわれる中にはランプの中に薬草を投入して悪鬼の幻影を見る方法が述べられているという。そういえばシャーロック・ホームズ物語の中に「悪魔の足」というこの種の話にインスピレーションを受けたと思われる話があったっけ...。
またレオナルドが亡くなって19年後に生まれた自然魔法の大家ともいわれるジャン・バチスタ・デラ・ポルタ(1539〜1615)という当時の医者でさえ独特の骨相学を信じており、例えば牛のような顔をした男は強情で怠惰で怒りっぽい性格の持ち主だと論じていたという時代なのだ。このポルタの著書「人相学」は当時ヨーロッパ中に異常な反響を巻き起こしたという。
現在の私たちから見れば科学的な視点を持っていたという印象を受けるレオナルドがこうした怪しげな魔法書同然の書物を所持していたことは訝しいがさすがのレオナルドも時代の子であることを忘れてはいけないのかも知れない。無論その種の書物を持っていたらからといってそうした趣旨に賛同していたとは限らないが...。
ともあれ山上から発見される貝殻などの化石が旧約聖書でいわれるノアの箱船を証明するものではなく土地の隆起によるものだとし、永久機関はあり得ないと談じているレオナルドが占いや魔法書同然(無論正確な中身は分からないが)の書物を所持していたことは愉快ではないか。
なぜなら私自身も日々時代の最先端テクノロジーのパソコンを操ってはいるがその書棚には「エリファス・レヴィ〜高等魔術の教理と祭儀」「錬金術〜タロットと愚者の旅」「グリヨ・ド・ジヴリ〜悪魔の書」などといった類の書籍が並んでいるからである(笑)。
「マドリッド手稿」のおかげで、それまでは知るよしもないレオナルド・ダ・ヴィンチの書斎を覗いた気がして愉快なひとときを味わった。
先にご紹介した「マドリッド手稿」を少しづつ斜め読みをしているがその中で大変目を引く記述があった。それはレオナルド自身が所有していた書物のリストが書かれているのだ。これは面白いではないか!
無論こうした分野をアカデミックに調べている専門の方々がいるわけだから興味本位の取り上げ方は迷惑かも知れないがまあお遊びということでお許し願いたい。
レオナルド・ダ・ヴィンチが所有していた書物のリストは「マドリッド手稿2」に116冊記述され、別途「アトランティコ手稿」に40冊ほどあるという。
現在と違い、もともと彼が書き残した手稿に使われた紙自体が貴重な時代であったし、ましてや書物はそこいらで売られているものではなかった。また私たち自身もそうだが本当に自身の好みから手にする本と仕事で関連知識や情報を知りたいがためにやむを得ず購入する本といった区別はあるが、それらを一貫して眺めればその時期に何に興味を持ちどのようなことをやっていた...やろうとしていたか...という推測はできるのではないだろうか。
こうした「下種の勘繰り」的な発想ではあるがその相手がレオナルド・ダ・ヴィンチともなればなおさら勘繰りたくなる(笑)。ちなみにフランチェスコ・ダ・シェナ(FRANCESCO DA SIENA)という本一冊のみ、レオナルドの蔵書としてフィレンツェのロレンツォ図書館に現存しているそうである。

※「マドリッド手稿2」にあるレオナルド直筆の蔵書リストページ(一部)。無論鏡文字で書かれている
さてこの1975年に岩波書店から刊行された「マドリッド手稿」のファクシミリ版には良質の訳書が別途付いているので私などにもその内容がわかるのだが、レオナルドの記述が曖昧なこともあり、かつ500年も前のことだからしてそれらの書物の特定は大変難しいようだ。
しかし私が興味を持つのはそうした緻密な話ではなくレオナルドがどのような分野、話題に興味があったかというその一点にある。これらのリストを眺めてまず納得したことは極めて広範囲な分野の書物が含まれていることだ。医学、哲学、博物学、解剖学、地理、算術、天文学、幾何学そして詩の本や手相術とか骨相学などにまで及んでいる。そして当然のことながら多かれ少なかれレオナルドはこれらの書物に影響を受けているようだ。

※これまた前記ページの一部を左右反転させてみるとスペルの概要が判別できる
例えば「外科術提要(GUIDONE IN CERUSIA)」とか「聖書(BIBBIA)」、「バッティスタ・アルベルティの建築論(BATISTA ALBERTI IN ARCHITETTURA)」、「軍事論(DE RE MILITARI)」、「エウクレイデスの幾何学(EUCLIDE IN GEOMETRIA)」、「透視法概論(PROSPETTIVA COMUNE)」といった書物(どんなものか分からないが...笑)が含まれていることはレオナルドの業績から見て誰しもが頷けるものだろう。
面白いと思うのは(以下和訳の書名のみ記述)「プリニウス」や数冊の「イソップ寓話集」、「霊魂不滅論」、詩集や自身の手稿...「トリヴルツィオ手稿」などがあるだけでなく、科学一辺倒の現在から見ると怪しげな書物らしい本も多々含まれていることだ。
まず「ミラノの手相論」をはじめとする手相の書、「スコトゥスの人相学」、「ダニエルの夢占い」などが含まれているのは興味深い。
特に「アルベルトゥス・マグヌスの神秘論」に至っては文字通り神秘学の分野になり真にレオナルドがこうした傾向の知識をも好んでいたかも知れず、だからこそ「ダ・ヴィンチコード」といった読み物も流行るのかも知れない(笑)。
アルベルトゥス・マグヌス(1193〜1280)は13世紀スコラ哲学の大立て者であり、ドミニコ派の学僧として名声ならぶ者なき人物である。ただ後世このアルベルトゥスの名を騙り魔術書などが多々登場したことを考えるとレオナルドの所持していた「アルベルトゥス・マグヌスの神秘論」がどのようなものなのか俄然知りたくなる。
もともとアルベルトゥス・マグヌスには雪が降っていた僧院の庭にオランダの公爵ウィルヘルム二世を招待したとき、彼が準備を始めるとたちまち雪は消え庭の花々は咲き乱れ春のように小鳥たちが鳴き始めた...とか、アルベルトゥスが人間の言葉をしゃべることができる自動人形を作ったなどという伝説を持つ人物なのだから...。
さらにアルベルトゥスの本といわれる中にはランプの中に薬草を投入して悪鬼の幻影を見る方法が述べられているという。そういえばシャーロック・ホームズ物語の中に「悪魔の足」というこの種の話にインスピレーションを受けたと思われる話があったっけ...。
またレオナルドが亡くなって19年後に生まれた自然魔法の大家ともいわれるジャン・バチスタ・デラ・ポルタ(1539〜1615)という当時の医者でさえ独特の骨相学を信じており、例えば牛のような顔をした男は強情で怠惰で怒りっぽい性格の持ち主だと論じていたという時代なのだ。このポルタの著書「人相学」は当時ヨーロッパ中に異常な反響を巻き起こしたという。
現在の私たちから見れば科学的な視点を持っていたという印象を受けるレオナルドがこうした怪しげな魔法書同然の書物を所持していたことは訝しいがさすがのレオナルドも時代の子であることを忘れてはいけないのかも知れない。無論その種の書物を持っていたらからといってそうした趣旨に賛同していたとは限らないが...。
ともあれ山上から発見される貝殻などの化石が旧約聖書でいわれるノアの箱船を証明するものではなく土地の隆起によるものだとし、永久機関はあり得ないと談じているレオナルドが占いや魔法書同然(無論正確な中身は分からないが)の書物を所持していたことは愉快ではないか。
なぜなら私自身も日々時代の最先端テクノロジーのパソコンを操ってはいるがその書棚には「エリファス・レヴィ〜高等魔術の教理と祭儀」「錬金術〜タロットと愚者の旅」「グリヨ・ド・ジヴリ〜悪魔の書」などといった類の書籍が並んでいるからである(笑)。
「マドリッド手稿」のおかげで、それまでは知るよしもないレオナルド・ダ・ヴィンチの書斎を覗いた気がして愉快なひとときを味わった。
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