映画「アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記」に驚喜!
若い頃に2,3度経験したが、リュートを手にしたことがきっかけでまたまたバッハ熱にうかされている…。バッハのリュート組曲を可能な限り、色々な演奏家の演奏で聴いているが、幾多のバッハ関連書籍類購入と共にこれまでその存在は知っていたものの見る機会がなかった映画「アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記」DVDを入手し、驚きの目と耳を持ってバッハを体験することになった。
映画「アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記」は1967年にドイツとイタリア合作で作られた作品だ。
監督・脚本・編集はダニエル・ユイレとジャン=マリー・ストローブで、音楽を伴奏としてでも解説としてでもなく、美学的素材として利用できるような映画を作りたいという発想から企画が始まったという。まあ、これだけではよく分からないが映画を観ればその意図は理解できるに違いない。
ストーリーはヨーハン・セバスティアン・バッハの2度目の妻であるアンナ・マクダレーナ・バッハが夫、バッハのの生涯を記録し語るというものだが、実に究極の…というべきバッハ映画である。

※DVD「アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記」のパッケージ
なぜならバッハ役は一般的な映画俳優といった人物でなく、オランダの鍵盤楽器奏者・指揮者・教育者・音楽学者にして古楽演奏運動のパイオニアと評されているグスタフ・レオンハルト(Gustav Leonhardt, 1928年5月30日 - 2012年1月16日)が扮しているからだ。それだけでなく18世紀の生活習慣や演奏風景を再現するため、コレギウム・アウレウム合奏団の他、当時の古楽器演奏家たちがこぞって参加している…。したがって各シーンで演じられる音楽は同時録音された本物であり、モノラルながら素晴らしいの一語に尽きる。
映画「アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記」は確かにバッハの一生を追った一種の記録映画といった感じだが、台詞もほとんどなく全編が曲の演奏とアンナ・マクダレーナ・バッハのナレーションで終始するといった不思議な映像だ。それに出演者は演技らしい演技もせず、カメラワークだってほとんど動かない。無論音楽家のレオンハルトに巧い演技を期待するのも酷だが、最初は違和感を持って観ていたものの次第に映像はどこかニュース映像、すなわちドキュメンタリー映画のような気がしてきた...。
バッハの研究が急速に進んだ現在から観ると1960年代の時代考証といったものに多少の問題もあるらしいが、プロの音楽家たちが当時の衣装を纏い、カツラをかぶり、バロック期の楽器を使ってリアルな場所で演奏するという徹底さには凄みさえ感じる。なおバロック・リュートが演奏されている場面もあった…。
それに随所にバッハの手稿による楽譜などが登場し臨場感を増していく。
時代考証の徹底さも際立っている。例えば教会の会衆席にある大きな白い窓は「ステンドクラスでなければおかしいのでは?」という声もあるようだが、解説によればルター派の伝統にのっとったものだという。
グスタフ・レオンハルトは「現代のバッハ」と称されるこどかあるが、そう呼ばれるようになったのには本映画への出演が大きいという。そもそもダニエル・ユイレとジャン=マリー・ストローブらがバッハ役にレオンハルトを起用しようとした時代、レオンハルトはまだ現在のような大きな名声を得ていたわけではなかった。
レオンハルトは、古楽の演奏において、当時の楽器や楽譜に戻って演奏することを重要視した。つまり、あらゆる後世の影響を排除し歴史的に正しい演奏を提唱し実践した演奏家だが、映画が制作された10年前の1957年に出演交渉を始めた当時、レオンハルトの知名度からすれば現在の視点で当然の起用といった観点は通用しなかったと思われる。それだけ本映画はある意味で奇蹟的な文化財的な作品だということができるのではないか。
ただしバッハやその楽曲は勿論、バロック期の音楽に興味のない人にはいたずらに単調で興味のわかない映画に違いないだろうが、バッハ好きには猫に対するマタタビみたいな映画に違いない。(笑)。
さてそのバッハ役のグスタフ・レオンハルトはバッハに似ているか…については当然のことながら数々の肖像画などで見てきたバッハと比べて細身でありイケメン過ぎるかも知れない。
ちなみに映画のタイトルである「アンナ・マグダレーナ・バッハの年代記」だが、公開時には「アンナ・マクダレーナ・バッハの日記」だったそうだが、「アンナ・マクダレーナ・バッハの思い出」と題され20世紀に出版された書籍との混同を避けるために「年代記」としたらしい。

※講談社学術文庫刊「アンナ・マクダレーナ・バッハの思い出」表紙
なお書籍の「アンナ・マグダレーナ・バッハの思い出」はアンナ・マグダレーナ・バッハが書いたものではないことが近年明らかにされているがそもそも読者を欺く意図はなかったらしく偽書として無視するにはもったいないと思う。確かにフィクションではあるが、基本的に資料に当たった末の作品のようであり、バッハとアンナ・マグダレーナの夫婦愛や家族愛に接することが出来るのはバッハ好きとしては嬉しい。
この「アンナ・マグダレーナ・バッハの思い出」という本については機会を見て別途ご紹介できたらと考えている。そして本映画のタイトルは確かに “アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記” となっているが、語りとしての登場は全編にわたるものの、その彼女 (アンナ・マクダレーナ役はクリスティアーネ・ラング) の姿が登場するシーンはかなり少ない。
当然とは言え夫のセバスティアン・バッハに関しては様々な形で研究され、膨大な資料が存在するわけだが、この大作曲家の妻であり多くの子供たちの母、そして優れた声楽家だったというアンナ・マクダレーナ・バッハとは一体どのような女性だったのかという興味が強くわいてきた…。
ともあれ映画「アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記」はこれからも何度も観ることになるだろう…。そういえばグスタフ・レオンハルトは残念なことに今年の一月に鬼籍に入ってしまった…。
■アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記 [DVD]
映画「アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記」は1967年にドイツとイタリア合作で作られた作品だ。
監督・脚本・編集はダニエル・ユイレとジャン=マリー・ストローブで、音楽を伴奏としてでも解説としてでもなく、美学的素材として利用できるような映画を作りたいという発想から企画が始まったという。まあ、これだけではよく分からないが映画を観ればその意図は理解できるに違いない。
ストーリーはヨーハン・セバスティアン・バッハの2度目の妻であるアンナ・マクダレーナ・バッハが夫、バッハのの生涯を記録し語るというものだが、実に究極の…というべきバッハ映画である。

※DVD「アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記」のパッケージ
なぜならバッハ役は一般的な映画俳優といった人物でなく、オランダの鍵盤楽器奏者・指揮者・教育者・音楽学者にして古楽演奏運動のパイオニアと評されているグスタフ・レオンハルト(Gustav Leonhardt, 1928年5月30日 - 2012年1月16日)が扮しているからだ。それだけでなく18世紀の生活習慣や演奏風景を再現するため、コレギウム・アウレウム合奏団の他、当時の古楽器演奏家たちがこぞって参加している…。したがって各シーンで演じられる音楽は同時録音された本物であり、モノラルながら素晴らしいの一語に尽きる。
映画「アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記」は確かにバッハの一生を追った一種の記録映画といった感じだが、台詞もほとんどなく全編が曲の演奏とアンナ・マクダレーナ・バッハのナレーションで終始するといった不思議な映像だ。それに出演者は演技らしい演技もせず、カメラワークだってほとんど動かない。無論音楽家のレオンハルトに巧い演技を期待するのも酷だが、最初は違和感を持って観ていたものの次第に映像はどこかニュース映像、すなわちドキュメンタリー映画のような気がしてきた...。
バッハの研究が急速に進んだ現在から観ると1960年代の時代考証といったものに多少の問題もあるらしいが、プロの音楽家たちが当時の衣装を纏い、カツラをかぶり、バロック期の楽器を使ってリアルな場所で演奏するという徹底さには凄みさえ感じる。なおバロック・リュートが演奏されている場面もあった…。
それに随所にバッハの手稿による楽譜などが登場し臨場感を増していく。
時代考証の徹底さも際立っている。例えば教会の会衆席にある大きな白い窓は「ステンドクラスでなければおかしいのでは?」という声もあるようだが、解説によればルター派の伝統にのっとったものだという。
グスタフ・レオンハルトは「現代のバッハ」と称されるこどかあるが、そう呼ばれるようになったのには本映画への出演が大きいという。そもそもダニエル・ユイレとジャン=マリー・ストローブらがバッハ役にレオンハルトを起用しようとした時代、レオンハルトはまだ現在のような大きな名声を得ていたわけではなかった。
レオンハルトは、古楽の演奏において、当時の楽器や楽譜に戻って演奏することを重要視した。つまり、あらゆる後世の影響を排除し歴史的に正しい演奏を提唱し実践した演奏家だが、映画が制作された10年前の1957年に出演交渉を始めた当時、レオンハルトの知名度からすれば現在の視点で当然の起用といった観点は通用しなかったと思われる。それだけ本映画はある意味で奇蹟的な文化財的な作品だということができるのではないか。
ただしバッハやその楽曲は勿論、バロック期の音楽に興味のない人にはいたずらに単調で興味のわかない映画に違いないだろうが、バッハ好きには猫に対するマタタビみたいな映画に違いない。(笑)。
さてそのバッハ役のグスタフ・レオンハルトはバッハに似ているか…については当然のことながら数々の肖像画などで見てきたバッハと比べて細身でありイケメン過ぎるかも知れない。
ちなみに映画のタイトルである「アンナ・マグダレーナ・バッハの年代記」だが、公開時には「アンナ・マクダレーナ・バッハの日記」だったそうだが、「アンナ・マクダレーナ・バッハの思い出」と題され20世紀に出版された書籍との混同を避けるために「年代記」としたらしい。

※講談社学術文庫刊「アンナ・マクダレーナ・バッハの思い出」表紙
なお書籍の「アンナ・マグダレーナ・バッハの思い出」はアンナ・マグダレーナ・バッハが書いたものではないことが近年明らかにされているがそもそも読者を欺く意図はなかったらしく偽書として無視するにはもったいないと思う。確かにフィクションではあるが、基本的に資料に当たった末の作品のようであり、バッハとアンナ・マグダレーナの夫婦愛や家族愛に接することが出来るのはバッハ好きとしては嬉しい。
この「アンナ・マグダレーナ・バッハの思い出」という本については機会を見て別途ご紹介できたらと考えている。そして本映画のタイトルは確かに “アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記” となっているが、語りとしての登場は全編にわたるものの、その彼女 (アンナ・マクダレーナ役はクリスティアーネ・ラング) の姿が登場するシーンはかなり少ない。
当然とは言え夫のセバスティアン・バッハに関しては様々な形で研究され、膨大な資料が存在するわけだが、この大作曲家の妻であり多くの子供たちの母、そして優れた声楽家だったというアンナ・マクダレーナ・バッハとは一体どのような女性だったのかという興味が強くわいてきた…。
ともあれ映画「アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記」はこれからも何度も観ることになるだろう…。そういえばグスタフ・レオンハルトは残念なことに今年の一月に鬼籍に入ってしまった…。
■アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記 [DVD]
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