ヴァザーリ著「ルネサンス画人伝」について
ジョルジョ・ヴァザーリ著「ルネサンス画人伝」(白水社刊)を手に入れた。本書は不朽の古典的名著といわれるヴァザーリの「画家・彫刻家・建築家列伝」からジョットやダ・ヴィンチをはじめ15人を選び完訳したものだ。
「画家・彫刻家・建築家列伝」(Le vite de' piu eccelenti pittori, scultori e architettori)は一般的に「美術家列伝」などと呼ばれているイタリア・ルネサンス期の250人余りの画家・彫刻家・建築家を扱った評伝であり、往時の芸術論や作品あるいは芸術家たちに触れる場合には避けては通れない美術史の基本的な資料となっている。
ジョルジョ・ヴァザーリ(Giorgio Vasari 1511年7月30日〜1574年6月27日)自身画家・建築家でありメディチ家のトスカーナ大公コジモ1世お抱えの芸術家であった。
私がヴァザーリの「美術家列伝」を意識するようになったのはレオナルド・ダ・ヴィンチについて調べはじめたときからだ。何故ならご承知の方も多いと思うが近代までその詳しいことが分からなかったレオナルドを知るそもそもの大きな手がかりがこの「美術家列伝」であり、現在我々がレオナルドという人物に対して持っているイメージの多くが本書によるものだからである。
あの「モナ・リザ」がフランチェスコ・デル・ジョコンドのために、その妻の肖像を描いたものという "定説" もこの「美術家列伝」によるものだ。

※ヴァザーリ「ルネサンス画人伝」白水社刊
その「美術家列伝」においてヴァザーリはレオナルド・ダ・ヴィンチに関し「真に驚嘆すべき神的なひとであった」とか「この上なく偉大なる才能が、多くの場合、自然に、ときに超自然的に、天の采配によって人々の上にもたらされるものである」といったようにベタほめである。しかし「美術家列伝」は本来評伝であり、レオナルドの伝記的な記述も含むわけだが当サイト別項「『ダ・ヴィンチ〜ミステリアスな生涯』は最高!」でも記したとおり、「美術家列伝」にあるレオナルドがフランソワ1世の腕の中で亡くなったという記述は歴史的に正しくないことや、前記したヴァザーリがいういわゆる「モナ・リザ」の説明も現実にはその実物を一度も目にすることなく書いたと推察されるなど、それらの記述は事実ではなく創作と考えられる点も多い。
しかし今日...現在においてもヴァザーリの残したレオナルド像は私たちの"定説"として浸透してしまった感もあるほど強烈なものになっている。
まあ...悪たれ口を叩くなら、まさしくヴァザーリは「見てきたような嘘をつき...」ということになるのだろうが、目的は事実の描写というより「こうあるべき」という自身が芸術家であったヴァザーリの理想を描くことであったのかも知れない。
「レオナルド神話を創る〜万能の天才とヨーロッパ精神」の中で著者であるA・リチャード・ターナーは名言を吐いている。「...ヴァザーリがレオナルド・ダ・ヴィンチの文字による肖像を描き上げ、その後の世代にとっての出発点になった」と...。
我々がレオナルドという人物を知る一番の根拠だった当該資料がいわば創作部分の多いものだったことは近年知られることとなったが、ヴァザーリが「美術家列伝」を出版した時点ではレオナルドの最も忠実な弟子であり遺言により膨大な手記と絵画およびデッサンを贈られたフランチェスコ・メルツィは生きており、ヴァザーリは1566年に彼に会っているという。
「美術家列伝」の出版はレオナルドの死の31年後の1550年であり、メルツィに会った2年後の1968年に改訂版を出している。したがってヴァザーリの擁護をするなら、すでに当時において早くもレオナルドの生涯やその人物像について創作を許すほど曖昧模糊であり、すでに伝説となっていたと推察すべきなのかも知れない。
その「美術家列伝」はレオナルドを語る際には必ずといってよいほど参照されることでもあり断片的に見知ってはいたが是非その全容を見たいと考えて白水社刊「ルネサンス画人伝」を手にしたわけである。
本書は冒頭にも記したが本来250人余りもの芸術家を扱った原著からチマブーエ、ジョット、ウッチェルロ、マザッチョ、ピエール・デルラ・フランチェスカ、フラ・アンジェリコ、フィリッポ・リッピ、ベルリーニ、ボッティチェルリ、マンテーニャ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ジョルジョーネ、ラファエルロ、ミケランジェロ、ティツィアーノの15人に関して完訳されているものだ。また別途「続ルネサンス画人伝」および「ルネサンス彫刻家建築家列伝」(共に白水社刊)が刊行されているがまずは目的のレオナルド・ダ・ヴィンチについての記述を読みたいが為に本書を手にした。
しかし本書の評伝内容がこれまで見たようにどこまで歴史的な事実であるかはともかく、確かにヴァザーリの筆になる本書は面白い。レオナルド・ダ・ヴィンチの稿だけでなくジョットやマザッチョあるいはラファエルロやミケランジェロの稿も思わず読みふけってしまう。やはり名著といわれるだけのことはある...。
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ヴァザーリ「ルネサンス画人伝」
1982年4月2日第1刷発行 2000年1月25日第14刷発行
著者:ジョルジョ・ヴァザーリ(Giorgio Vasari )
訳者:平川祐弘、小谷年司、田中英道
発行:株式会社 白水社
書籍コード:ISBN4-560-03909-7 C1071
定価:本体6,800円+税
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「画家・彫刻家・建築家列伝」(Le vite de' piu eccelenti pittori, scultori e architettori)は一般的に「美術家列伝」などと呼ばれているイタリア・ルネサンス期の250人余りの画家・彫刻家・建築家を扱った評伝であり、往時の芸術論や作品あるいは芸術家たちに触れる場合には避けては通れない美術史の基本的な資料となっている。
ジョルジョ・ヴァザーリ(Giorgio Vasari 1511年7月30日〜1574年6月27日)自身画家・建築家でありメディチ家のトスカーナ大公コジモ1世お抱えの芸術家であった。
私がヴァザーリの「美術家列伝」を意識するようになったのはレオナルド・ダ・ヴィンチについて調べはじめたときからだ。何故ならご承知の方も多いと思うが近代までその詳しいことが分からなかったレオナルドを知るそもそもの大きな手がかりがこの「美術家列伝」であり、現在我々がレオナルドという人物に対して持っているイメージの多くが本書によるものだからである。
あの「モナ・リザ」がフランチェスコ・デル・ジョコンドのために、その妻の肖像を描いたものという "定説" もこの「美術家列伝」によるものだ。

※ヴァザーリ「ルネサンス画人伝」白水社刊
その「美術家列伝」においてヴァザーリはレオナルド・ダ・ヴィンチに関し「真に驚嘆すべき神的なひとであった」とか「この上なく偉大なる才能が、多くの場合、自然に、ときに超自然的に、天の采配によって人々の上にもたらされるものである」といったようにベタほめである。しかし「美術家列伝」は本来評伝であり、レオナルドの伝記的な記述も含むわけだが当サイト別項「『ダ・ヴィンチ〜ミステリアスな生涯』は最高!」でも記したとおり、「美術家列伝」にあるレオナルドがフランソワ1世の腕の中で亡くなったという記述は歴史的に正しくないことや、前記したヴァザーリがいういわゆる「モナ・リザ」の説明も現実にはその実物を一度も目にすることなく書いたと推察されるなど、それらの記述は事実ではなく創作と考えられる点も多い。
しかし今日...現在においてもヴァザーリの残したレオナルド像は私たちの"定説"として浸透してしまった感もあるほど強烈なものになっている。
まあ...悪たれ口を叩くなら、まさしくヴァザーリは「見てきたような嘘をつき...」ということになるのだろうが、目的は事実の描写というより「こうあるべき」という自身が芸術家であったヴァザーリの理想を描くことであったのかも知れない。
「レオナルド神話を創る〜万能の天才とヨーロッパ精神」の中で著者であるA・リチャード・ターナーは名言を吐いている。「...ヴァザーリがレオナルド・ダ・ヴィンチの文字による肖像を描き上げ、その後の世代にとっての出発点になった」と...。
我々がレオナルドという人物を知る一番の根拠だった当該資料がいわば創作部分の多いものだったことは近年知られることとなったが、ヴァザーリが「美術家列伝」を出版した時点ではレオナルドの最も忠実な弟子であり遺言により膨大な手記と絵画およびデッサンを贈られたフランチェスコ・メルツィは生きており、ヴァザーリは1566年に彼に会っているという。
「美術家列伝」の出版はレオナルドの死の31年後の1550年であり、メルツィに会った2年後の1968年に改訂版を出している。したがってヴァザーリの擁護をするなら、すでに当時において早くもレオナルドの生涯やその人物像について創作を許すほど曖昧模糊であり、すでに伝説となっていたと推察すべきなのかも知れない。
その「美術家列伝」はレオナルドを語る際には必ずといってよいほど参照されることでもあり断片的に見知ってはいたが是非その全容を見たいと考えて白水社刊「ルネサンス画人伝」を手にしたわけである。
本書は冒頭にも記したが本来250人余りもの芸術家を扱った原著からチマブーエ、ジョット、ウッチェルロ、マザッチョ、ピエール・デルラ・フランチェスカ、フラ・アンジェリコ、フィリッポ・リッピ、ベルリーニ、ボッティチェルリ、マンテーニャ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ジョルジョーネ、ラファエルロ、ミケランジェロ、ティツィアーノの15人に関して完訳されているものだ。また別途「続ルネサンス画人伝」および「ルネサンス彫刻家建築家列伝」(共に白水社刊)が刊行されているがまずは目的のレオナルド・ダ・ヴィンチについての記述を読みたいが為に本書を手にした。
しかし本書の評伝内容がこれまで見たようにどこまで歴史的な事実であるかはともかく、確かにヴァザーリの筆になる本書は面白い。レオナルド・ダ・ヴィンチの稿だけでなくジョットやマザッチョあるいはラファエルロやミケランジェロの稿も思わず読みふけってしまう。やはり名著といわれるだけのことはある...。
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ヴァザーリ「ルネサンス画人伝」
1982年4月2日第1刷発行 2000年1月25日第14刷発行
著者:ジョルジョ・ヴァザーリ(Giorgio Vasari )
訳者:平川祐弘、小谷年司、田中英道
発行:株式会社 白水社
書籍コード:ISBN4-560-03909-7 C1071
定価:本体6,800円+税
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