小松政夫著「のぼせもんやけん2」に見る植木等という男
文化放送に出演していた小松政夫の話を聞き、その著書「のぼせもんやけん2~植木等の付き人時代のこと」(竹書房刊)をAmazonで購入した。植木等といえばバブリーな時代、無責任男の代名詞といったイメージがあるが、本書によれば現代の日本人が忘れている気配りと本当の男の優しさを見る思いがする。
クレイジーキャッツのメンバー植木等を知らない人は少ないと思うが、後年渋い役者としても光を放っていたことは周知のとおりである。すでに亡くなった植木等や他のクレイジーキャッツのメンバーの人となりはすでに伝説になりつつある。
小松政夫の書き下ろし「のぼせもんやけん2~植木等の付き人時代のこと」はそのサブタイトルのとおり、車のセールスマンとしてトップセールスを誇っていた小松政夫(本名:松崎正臣)が、役者になりたい夢を抱いて月給が100,000円だった職を捨て、競争率600倍の難関を突破して植木等の運転手兼付け人となる。そして月給は7,000円に成り下がってしまったが師匠の植木等を生涯「親父」と呼ぶことになり、後の活躍はこれまたご存じのとおりだ。
ただし私は申し訳ないがコメディアンの小松政夫のことを知りたくて本書を買ったのではなく、その師匠だった植木等のエピソードを知りたくて手に入れたのだが、師匠と弟子という関係にもこのような素敵な人間関係があり得たのかということをあらためて知り羨ましいと思った。

機会があったらご紹介したい...いや、告白したいと思うが、私には「上司コンプレックス」といったものがある(笑)。最初東証一部上場企業に約8年勤め、その後紆余曲折があって小さな貿易会社に12年も務めたが、結果として上司に恵まれなかった。最初の上司は随分と前に亡くなったが、個人的には大変世話になったものの、その上司は業務上横領が発覚して自殺未遂という結末に...。そして貿易商社の社長は仲人まで頼んだ人物だったが、私が起業するために同社を退職した翌年、突然取引関係者や応援者らを裏切り、借金をするだけして姿を消した。いまだに生きているのか死んでいるのか分からない。当時は私も被害者の一人だった...。
ともかく、人間的にも社会的にも生涯信頼し頼れる上司には残念なことにこれまで巡り会っていないのだ。
後に自分が起業し社長になったとき、心密かにこの2人の生き様を反面教師として努力したつもりだが、とにもかくにも理想の上司像に憧れているのである。
そんなわけだから小松政夫と植木等の師弟関係に関するいくつかのエピソードをラジオで聴いたとき、思わず感激し...胸にこみ上げるものがあった。
すでに放送済みのエピソードだからひとつご紹介してみようか...。
付き人になって初期の頃、ゴルフの帰りに2人で蕎麦屋に入ったという。小松は師匠がゴルフをしているとき「好きにしていいぞ」と言われたが、昼飯も食べずに師匠を待っていた。植木はそれを知って車が止められる蕎麦屋に入り、「何がいい?」と聞いた...。弟子である小松はカツ丼とか天丼とは言えずに「かけそばをいただきます」と答える。
「ああ、かけそばね...俺は天丼とカツ丼ね」と注文...。それを聞いた小松は「ずいぶんと食欲がある人なんだなあ」と思ったそうだが、かけそばがテーブルに置かれたとき、ともかく弟子は早く食べ終わるのが本道だとあっという間に平らげる。一方、植木は天丼を食べながら「松崎、俺2つ食べようと思ったけど、お腹いっぱいになっちゃったよ、これお前食ってくれ」とカツ丼を差し出したという。無論、植木の言い様は小松政夫が遠慮していること、そして腹を空かしていることを見通した上のことだったわけで、弟子とはいえ小松政夫に恥をかかせないよう、そして恩着せがましくならないようにとの配慮だった。
その後、小松政夫は「一日に一回親父(植木)が喜ぶことをすること」をノルマとして仕え、生涯植木等を「親父さん」と呼び続けた。
とかく人は目上の人間にはへりくだり、目下の人間には必要以上に高圧的になるものだが、植木等という人物はテレビやスクリーンの印象とは違った男の顔を見せる。このような人物を40年間も上司に...いや師匠にできた小松政夫は幸せ者であるし実に羨ましい。
勿論本書には小松政夫があの淀川長治の物真似をするきっかけ話や、付き人時代の苦労話が満載である。昭和42年クレージーキャッツが「梅田コマ」で公演した際、小松政夫は「5分間この場をつなげ」と大役を仰せつかるが...どうしても客にうけない。そのぎりぎりの苦肉の策で誕生したのが「ハイ、みなさん。またお会いしましたね!」というあの淀川長治の物真似だったという。
本書の帯に阿川佐和子が「こんな男と男の関係があったことを、日本人として、決して忘れてはなりませぬ!」と書いている。同感である。
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「のぼせもんやけん2~植木等の付き人時代のこと」
2007年12月21日 初版第1刷発行
著者:小松政夫
発行所:株式会社竹書房
コード:ISBN978-4-8124-3273-0
価格:1,600円(税別)
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クレイジーキャッツのメンバー植木等を知らない人は少ないと思うが、後年渋い役者としても光を放っていたことは周知のとおりである。すでに亡くなった植木等や他のクレイジーキャッツのメンバーの人となりはすでに伝説になりつつある。
小松政夫の書き下ろし「のぼせもんやけん2~植木等の付き人時代のこと」はそのサブタイトルのとおり、車のセールスマンとしてトップセールスを誇っていた小松政夫(本名:松崎正臣)が、役者になりたい夢を抱いて月給が100,000円だった職を捨て、競争率600倍の難関を突破して植木等の運転手兼付け人となる。そして月給は7,000円に成り下がってしまったが師匠の植木等を生涯「親父」と呼ぶことになり、後の活躍はこれまたご存じのとおりだ。
ただし私は申し訳ないがコメディアンの小松政夫のことを知りたくて本書を買ったのではなく、その師匠だった植木等のエピソードを知りたくて手に入れたのだが、師匠と弟子という関係にもこのような素敵な人間関係があり得たのかということをあらためて知り羨ましいと思った。

機会があったらご紹介したい...いや、告白したいと思うが、私には「上司コンプレックス」といったものがある(笑)。最初東証一部上場企業に約8年勤め、その後紆余曲折があって小さな貿易会社に12年も務めたが、結果として上司に恵まれなかった。最初の上司は随分と前に亡くなったが、個人的には大変世話になったものの、その上司は業務上横領が発覚して自殺未遂という結末に...。そして貿易商社の社長は仲人まで頼んだ人物だったが、私が起業するために同社を退職した翌年、突然取引関係者や応援者らを裏切り、借金をするだけして姿を消した。いまだに生きているのか死んでいるのか分からない。当時は私も被害者の一人だった...。
ともかく、人間的にも社会的にも生涯信頼し頼れる上司には残念なことにこれまで巡り会っていないのだ。
後に自分が起業し社長になったとき、心密かにこの2人の生き様を反面教師として努力したつもりだが、とにもかくにも理想の上司像に憧れているのである。
そんなわけだから小松政夫と植木等の師弟関係に関するいくつかのエピソードをラジオで聴いたとき、思わず感激し...胸にこみ上げるものがあった。
すでに放送済みのエピソードだからひとつご紹介してみようか...。
付き人になって初期の頃、ゴルフの帰りに2人で蕎麦屋に入ったという。小松は師匠がゴルフをしているとき「好きにしていいぞ」と言われたが、昼飯も食べずに師匠を待っていた。植木はそれを知って車が止められる蕎麦屋に入り、「何がいい?」と聞いた...。弟子である小松はカツ丼とか天丼とは言えずに「かけそばをいただきます」と答える。
「ああ、かけそばね...俺は天丼とカツ丼ね」と注文...。それを聞いた小松は「ずいぶんと食欲がある人なんだなあ」と思ったそうだが、かけそばがテーブルに置かれたとき、ともかく弟子は早く食べ終わるのが本道だとあっという間に平らげる。一方、植木は天丼を食べながら「松崎、俺2つ食べようと思ったけど、お腹いっぱいになっちゃったよ、これお前食ってくれ」とカツ丼を差し出したという。無論、植木の言い様は小松政夫が遠慮していること、そして腹を空かしていることを見通した上のことだったわけで、弟子とはいえ小松政夫に恥をかかせないよう、そして恩着せがましくならないようにとの配慮だった。
その後、小松政夫は「一日に一回親父(植木)が喜ぶことをすること」をノルマとして仕え、生涯植木等を「親父さん」と呼び続けた。
とかく人は目上の人間にはへりくだり、目下の人間には必要以上に高圧的になるものだが、植木等という人物はテレビやスクリーンの印象とは違った男の顔を見せる。このような人物を40年間も上司に...いや師匠にできた小松政夫は幸せ者であるし実に羨ましい。
勿論本書には小松政夫があの淀川長治の物真似をするきっかけ話や、付き人時代の苦労話が満載である。昭和42年クレージーキャッツが「梅田コマ」で公演した際、小松政夫は「5分間この場をつなげ」と大役を仰せつかるが...どうしても客にうけない。そのぎりぎりの苦肉の策で誕生したのが「ハイ、みなさん。またお会いしましたね!」というあの淀川長治の物真似だったという。
本書の帯に阿川佐和子が「こんな男と男の関係があったことを、日本人として、決して忘れてはなりませぬ!」と書いている。同感である。
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「のぼせもんやけん2~植木等の付き人時代のこと」
2007年12月21日 初版第1刷発行
著者:小松政夫
発行所:株式会社竹書房
コード:ISBN978-4-8124-3273-0
価格:1,600円(税別)
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