ルイス・ブニュエル監督1968年制作「銀河」をやっと入手
キリスト教、あるいはキリストをテーマにした映画は数え切れないほどあるがこのルイス・ブニュエル監督が1968年に制作した「銀河」(原題 : LA VOIE LACTEE)は一筋縄ではいかない作品だ。いやはや全編を通して神学書や福音書から採られたさまざまな異端のエピソードが時間と空間を超えてリアルタイムに進行するそのストーリーはまるで平行世界(宇宙)のようだ...。
タイトルの「銀河」とはスペインの聖地サンチャゴ・デ・コンポステーラに向かって中世の巡礼者たちが通った道のことだという。
サンチャゴ・デ・コンポステーラの地には使徒聖ヤコブの墓があったからだが伝説によれば7世紀、輝く星が使徒の墓のある場所を教えたという...。それがコンポステーラ...”星の原”という名の起こりとなった。そして巡礼たちは銀河の流れる方角に道をたどったのである。

※ルイス・ブニュエル監督「銀河」のVHSパッケージ
ストーリーの核はピエールとジャンという2人の男がパリ郊外から巡礼地のスペインへ徒歩で向かう。その途上で出会う様々な人物は異端的な神学を熱心に語り、その周囲では神学や福音書に親しんでいる人たちには思わず苦笑するような出来事が多々起こる。それもピエールとジャンがいる現代だけではなく、ストーリーはキリストの時代はもちろん中世へと飛んでは戻りつつリアルタイムに進行し、まるで平行宇宙を見るように変化する。

※ストーリーはピエールとジャンという2人の男がパリ郊外から聖地サンチャゴ・デ・コンポステーラへ徒歩で向かうところから始まる
ストーリー全体が神学的なジョークのようであり、キリストが登場するかと思えばサド侯爵が...といった具合に傍若無人な展開ながらキリスト教の歴史を横断するといったものだ。
一見キリスト教ならびにその教義を笑い飛ばし、皮肉っているかのようだが、全編を通して眺めてみるとブニュエルの意図はそんなに単純ではないように思える。
確かに異端的な言動が多々展開し、正統なキリスト教を揶揄するシーンが重なる。第一、巡礼者であるはずの2人も宗教に感化された人物とは思えない言動をし、盗むし聖地に着いたらついたで娼婦を買いに行く(笑)。
しかしイエス・キリストの姿は意外に現代的というか快活な普通の人間として描かれていることも面白い。

※イエス・キリストの姿は現代的で快活な人物として描かれている
ブニュエル監督自身は無神論者というレッテルを貼られていたものの「私が無神論者でいられるのも神様のお陰です」と言っていたというからことはそんなに単純ではないようだ。
私には「銀河」全編を通して語られる異端のストーリーはそれらを提示することでキリスト教の真の教義を映画を見る者にあらためて考えさせようとする意図のようにも思える。そしてキリストの描かれ方と共に推測すれば異端とか聖体論争、教義の解釈などで争ってきたのは神自身の問題ではなく我々人間の問題であり、その滑稽さ幼稚さが人類の悲劇を生んできたそのことを批判しているようにも思える。
そもそも福音書の内容においてもご承知のようにイエス自身が記録したものではない。
イエスは生前、制度としての教会組織はもとより自身での著作はまったく残さなかった。したがって良くも悪くも現在の教会組織やそのより所ともなる正典(マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの4福音書)は後年残された多くの資料から選別され、”ニカイア信条” が代表するようにある意味教会側に都合の良い解釈の元にまとめ上げられたものと言える。
したがって本作品でイエス・キリストが人間味豊かな人の子として、そして悪意を感じさせない描かれ方をされていることを考えれば、ブニュエル監督が批判している対象はキリストならびに宗教そのものではなく “人間が作り選別・差別し、権威付けして守ってきた” 教義...すなわちローマカトリック教会のあり方を批判しているようにも感じるのだが...。
この「銀河」という作品、昔その存在を知り一度見てみたいと考えたがずっと忘れていた。それが先日Twitterへの書き込みで知り、急遽あちこちを探し回ったがなかなか手に入らなかったもののやっとレンタル落ちのVHSテープが手に入った次第。
このテープはあまり多くの人に使われなかったのか、幸いノイズもほとんどない良好な状態で鑑賞することが出来た。
ルイス・ブニュエルは「アンダルシアの犬」でデビューを飾り、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の「昼顔」や「哀しみのトリスターナ」といった作品でも知られている著名な映画監督だが、この「銀河」はルイス・ブニュエルのスタイルが決定的となったとされる快作でありもし機会があれば是非ご覧になることをお勧めしたい。
______________________________________________________________________________
「銀河 - LA VOIE LACTEE」 1984年公開映画
ルイス・ブニュエル監督 1968年 フランス=イタリア合作/カラー/102分
【主なキャスト】
・ピエール....................ポール・フランクール
・ジャン.......................ローラン・テルジェフ
・キリスト....................ベルナール・ヴェルレー
・死の天使....................ピエール・クレマンティ
・サド侯爵....................ミシェル・ピコリ
・マリア.......................ディフィーヌ・セイリグ
______________________________________________________________________________
タイトルの「銀河」とはスペインの聖地サンチャゴ・デ・コンポステーラに向かって中世の巡礼者たちが通った道のことだという。
サンチャゴ・デ・コンポステーラの地には使徒聖ヤコブの墓があったからだが伝説によれば7世紀、輝く星が使徒の墓のある場所を教えたという...。それがコンポステーラ...”星の原”という名の起こりとなった。そして巡礼たちは銀河の流れる方角に道をたどったのである。

※ルイス・ブニュエル監督「銀河」のVHSパッケージ
ストーリーの核はピエールとジャンという2人の男がパリ郊外から巡礼地のスペインへ徒歩で向かう。その途上で出会う様々な人物は異端的な神学を熱心に語り、その周囲では神学や福音書に親しんでいる人たちには思わず苦笑するような出来事が多々起こる。それもピエールとジャンがいる現代だけではなく、ストーリーはキリストの時代はもちろん中世へと飛んでは戻りつつリアルタイムに進行し、まるで平行宇宙を見るように変化する。

※ストーリーはピエールとジャンという2人の男がパリ郊外から聖地サンチャゴ・デ・コンポステーラへ徒歩で向かうところから始まる
ストーリー全体が神学的なジョークのようであり、キリストが登場するかと思えばサド侯爵が...といった具合に傍若無人な展開ながらキリスト教の歴史を横断するといったものだ。
一見キリスト教ならびにその教義を笑い飛ばし、皮肉っているかのようだが、全編を通して眺めてみるとブニュエルの意図はそんなに単純ではないように思える。
確かに異端的な言動が多々展開し、正統なキリスト教を揶揄するシーンが重なる。第一、巡礼者であるはずの2人も宗教に感化された人物とは思えない言動をし、盗むし聖地に着いたらついたで娼婦を買いに行く(笑)。
しかしイエス・キリストの姿は意外に現代的というか快活な普通の人間として描かれていることも面白い。

※イエス・キリストの姿は現代的で快活な人物として描かれている
ブニュエル監督自身は無神論者というレッテルを貼られていたものの「私が無神論者でいられるのも神様のお陰です」と言っていたというからことはそんなに単純ではないようだ。
私には「銀河」全編を通して語られる異端のストーリーはそれらを提示することでキリスト教の真の教義を映画を見る者にあらためて考えさせようとする意図のようにも思える。そしてキリストの描かれ方と共に推測すれば異端とか聖体論争、教義の解釈などで争ってきたのは神自身の問題ではなく我々人間の問題であり、その滑稽さ幼稚さが人類の悲劇を生んできたそのことを批判しているようにも思える。
そもそも福音書の内容においてもご承知のようにイエス自身が記録したものではない。
イエスは生前、制度としての教会組織はもとより自身での著作はまったく残さなかった。したがって良くも悪くも現在の教会組織やそのより所ともなる正典(マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの4福音書)は後年残された多くの資料から選別され、”ニカイア信条” が代表するようにある意味教会側に都合の良い解釈の元にまとめ上げられたものと言える。
したがって本作品でイエス・キリストが人間味豊かな人の子として、そして悪意を感じさせない描かれ方をされていることを考えれば、ブニュエル監督が批判している対象はキリストならびに宗教そのものではなく “人間が作り選別・差別し、権威付けして守ってきた” 教義...すなわちローマカトリック教会のあり方を批判しているようにも感じるのだが...。
この「銀河」という作品、昔その存在を知り一度見てみたいと考えたがずっと忘れていた。それが先日Twitterへの書き込みで知り、急遽あちこちを探し回ったがなかなか手に入らなかったもののやっとレンタル落ちのVHSテープが手に入った次第。
このテープはあまり多くの人に使われなかったのか、幸いノイズもほとんどない良好な状態で鑑賞することが出来た。
ルイス・ブニュエルは「アンダルシアの犬」でデビューを飾り、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の「昼顔」や「哀しみのトリスターナ」といった作品でも知られている著名な映画監督だが、この「銀河」はルイス・ブニュエルのスタイルが決定的となったとされる快作でありもし機会があれば是非ご覧になることをお勧めしたい。
______________________________________________________________________________
「銀河 - LA VOIE LACTEE」 1984年公開映画
ルイス・ブニュエル監督 1968年 フランス=イタリア合作/カラー/102分
【主なキャスト】
・ピエール....................ポール・フランクール
・ジャン.......................ローラン・テルジェフ
・キリスト....................ベルナール・ヴェルレー
・死の天使....................ピエール・クレマンティ
・サド侯爵....................ミシェル・ピコリ
・マリア.......................ディフィーヌ・セイリグ
______________________________________________________________________________
- 関連記事
-
- 映画「アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち」に感涙 (2011/09/13)
- TBS 日曜劇場 JIN -仁-が完結...しかし大いに不満! (2011/06/28)
- 光文社新書「傷はぜったい消毒するな」はメチャ面白い (2011/06/01)
- 素晴らしい!オイゲン・キケロ のラストレコーディング (2011/03/02)
- 裾分一弘著「レオナルド・ダ・ヴィンチ - 手稿による自伝 -」入手 (2011/02/22)
- ルイス・ブニュエル監督1968年制作「銀河」をやっと入手 (2011/01/05)
- 念願の「彼と人魚 (Mr. Peabody and Mermaid)」を入手 (2010/12/07)
- APEC厳戒中の横浜にY嬢と「ドガ展」を見に行く (2010/11/17)
- 今さらではあるが「刑事コロンボ」にはまる! (2010/09/07)
- 学研 大人の科学「テルミン Premium」とは? (2010/07/28)
- 松本侑子著『誰も知らない「赤毛のアン」〜背景を探る』の魅力 (2010/06/25)