裾分一弘著「レオナルド・ダ・ヴィンチ - 手稿による自伝 -」入手
これまでにもレオナルド・ダ・ヴィンチ関連の書籍やら手稿やらに関していくつかのトピックをご紹介してきた。レオナルド・ダ・ヴィンチについてのあれこれを知ることは私にとって大きな楽しみのひとつなのだが困ったことに手稿はもとより欲しい関連図書のほとんどはすでに絶版だったり高価だったりで入手が困難なことである。今回も古書ながら状態の良い中央公論美術出版社刊「レオナルド・ダ・ヴィンチ - 手稿による自伝 -」(裾分一弘著)をやっと手に入れた次第。
本書は1983年(昭和58年)7月に発行されたものだが当時の定価で3,000円だったから些か値の張る書籍である。無論高いか安いかはそれを欲する人の考え方、価値観1つではあるが、裾分一弘先生の著書は一般的に高価なだけでなくすでに絶版のものが多いし再版されたというものはほとんどないようだ。したがって「レオナルドの手稿、素描・素画に関する基礎的研究」や「レオナルドに会う日」もそうだったが、丹念に古書を含めて探さない限り良い状態のものを手に入れることはなかなかに難しいのである。
とはいえレオナルド・ダ・ヴィンチを真正面から知るには世界的にもレオナルド研究の第一人者として知られている裾分一弘先生の著書を読むことは私にとって喜びであるし不可欠でもある。
さて本書を簡単に申し上げるならその帯に書かれているように「レオナルド自身が書いた手稿にもとづいて、その一生を追う画期的な伝記。周辺の伝記や古記録を援用しながら、女性観、絵画論、解剖、晩年の世界の終末観まで、レオナルドの内面から人と芸術を解き明かす。」というものだ。

※中央公論美術出版社刊「レオナルド・ダ・ヴィンチ - 手稿による自伝 -」(裾分一弘著) 化粧箱デザイン
誰もがその名を知っているレオナルド・ダ・ヴィンチだがその遺作は驚くほど少ない。パリのルーヴル美術館に収蔵されている「モナ・リザ」は勿論としても「聖アンナと聖母子」「洗礼者聖ヨハネ」、フィレンツェのウフィツィ美術館収蔵で未完の「三博士礼拝」、ミラノのサンタ・マリア・デレ・グラツィエ寺の「最後の晩餐」などを数えても十指を出ない。
本書によればほぼ同時代の画家、ドイツのデューラーは油彩画約120点、17世紀のレンブラントは100点を数えているというからそれらと比べるとレオナルドの作品は驚くほど少ないのである。
ただし以前「マドリッド手稿」でもご紹介したとおり彼は直筆の手稿を6000ページとも8000ページともいわれるように膨大な数を残している(失われた量も多いらしいが...)。
その中には意外と多くの素描をはじめ自然観察の記録、日記や書簡の草稿、日々の断想や所見といったものがいわゆる鏡文字で書かれている。したがってもともとレオナルドの人と芸術を伝える直接的な資料は、公的な記録や契約書の類を含めても決して多くなく、ヴァザーリの「レオナルド伝」などが貴重な存在となるわけだが、そもそもヴァザーリが書いた「美術家列伝」にあるレオナルドがフランソワ1世の腕の中で亡くなったという記述にしても歴史的に正しくないし、ヴァザーリがいう「モナ・リザ」の説明も現実に彼はその実物を一度も目にすることなく書いたと推察されるなど、記述の多くは事実とほど遠いものと考えられる。
無論直筆の手稿すなわち本人の残した記録がそのまま真実であったかどうかについては判断が難しい点もあるし彼は自身の身の上に関してはほとんど記録を残していないのである。
本書は伝記やそれらの研究書を参照しつつ、基本的にはレオナルドが記した手稿を元にして彼の芸術と人となりを語らしめようとしたものであり、つまりはレオナルドの手稿から伝記を紡ぎ出そうという裾分一弘先生ならではの試みなのだ。とはいえ伝記といってもレオナルドの生い立ちを時系列に追っていくという単純なものではなく例えば「左利きの少年」「永遠の女性像」「レオナルドの無学」そして「画家いかにあるべきか」といった章毎にレオナルドの芸術と人となりを浮き彫りにするといった内容である。
私にとって特に興味の対象は本文はもとよりだが、巻末に用意された「レオナルド・ダ・ヴィンチ年譜」や「手稿本の年次一覧(抄)」である。
ともかくも本書をはじめ裾分一弘先生の著書を開くと何だかレオナルドに会えるような...会った気がして楽しくなるのである。
なおこの原稿がアップされている頃には同じく裾分一弘先生が1977年に出版した『レオナルド・ダ・ヴィンチの「絵画論」攷』が届く予定になっている....。これまたページをめくっていくのが無類の楽しみだ...。
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「レオナルド・ダ・ヴィンチ - 手稿による自伝 -」
発行日:1983年7月25日 発行
・著者 :裾分一弘
・発行所:中央公論美術出版
・定価:3,000円
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本書は1983年(昭和58年)7月に発行されたものだが当時の定価で3,000円だったから些か値の張る書籍である。無論高いか安いかはそれを欲する人の考え方、価値観1つではあるが、裾分一弘先生の著書は一般的に高価なだけでなくすでに絶版のものが多いし再版されたというものはほとんどないようだ。したがって「レオナルドの手稿、素描・素画に関する基礎的研究」や「レオナルドに会う日」もそうだったが、丹念に古書を含めて探さない限り良い状態のものを手に入れることはなかなかに難しいのである。
とはいえレオナルド・ダ・ヴィンチを真正面から知るには世界的にもレオナルド研究の第一人者として知られている裾分一弘先生の著書を読むことは私にとって喜びであるし不可欠でもある。
さて本書を簡単に申し上げるならその帯に書かれているように「レオナルド自身が書いた手稿にもとづいて、その一生を追う画期的な伝記。周辺の伝記や古記録を援用しながら、女性観、絵画論、解剖、晩年の世界の終末観まで、レオナルドの内面から人と芸術を解き明かす。」というものだ。

※中央公論美術出版社刊「レオナルド・ダ・ヴィンチ - 手稿による自伝 -」(裾分一弘著) 化粧箱デザイン
誰もがその名を知っているレオナルド・ダ・ヴィンチだがその遺作は驚くほど少ない。パリのルーヴル美術館に収蔵されている「モナ・リザ」は勿論としても「聖アンナと聖母子」「洗礼者聖ヨハネ」、フィレンツェのウフィツィ美術館収蔵で未完の「三博士礼拝」、ミラノのサンタ・マリア・デレ・グラツィエ寺の「最後の晩餐」などを数えても十指を出ない。
本書によればほぼ同時代の画家、ドイツのデューラーは油彩画約120点、17世紀のレンブラントは100点を数えているというからそれらと比べるとレオナルドの作品は驚くほど少ないのである。
ただし以前「マドリッド手稿」でもご紹介したとおり彼は直筆の手稿を6000ページとも8000ページともいわれるように膨大な数を残している(失われた量も多いらしいが...)。
その中には意外と多くの素描をはじめ自然観察の記録、日記や書簡の草稿、日々の断想や所見といったものがいわゆる鏡文字で書かれている。したがってもともとレオナルドの人と芸術を伝える直接的な資料は、公的な記録や契約書の類を含めても決して多くなく、ヴァザーリの「レオナルド伝」などが貴重な存在となるわけだが、そもそもヴァザーリが書いた「美術家列伝」にあるレオナルドがフランソワ1世の腕の中で亡くなったという記述にしても歴史的に正しくないし、ヴァザーリがいう「モナ・リザ」の説明も現実に彼はその実物を一度も目にすることなく書いたと推察されるなど、記述の多くは事実とほど遠いものと考えられる。
無論直筆の手稿すなわち本人の残した記録がそのまま真実であったかどうかについては判断が難しい点もあるし彼は自身の身の上に関してはほとんど記録を残していないのである。
本書は伝記やそれらの研究書を参照しつつ、基本的にはレオナルドが記した手稿を元にして彼の芸術と人となりを語らしめようとしたものであり、つまりはレオナルドの手稿から伝記を紡ぎ出そうという裾分一弘先生ならではの試みなのだ。とはいえ伝記といってもレオナルドの生い立ちを時系列に追っていくという単純なものではなく例えば「左利きの少年」「永遠の女性像」「レオナルドの無学」そして「画家いかにあるべきか」といった章毎にレオナルドの芸術と人となりを浮き彫りにするといった内容である。
私にとって特に興味の対象は本文はもとよりだが、巻末に用意された「レオナルド・ダ・ヴィンチ年譜」や「手稿本の年次一覧(抄)」である。
ともかくも本書をはじめ裾分一弘先生の著書を開くと何だかレオナルドに会えるような...会った気がして楽しくなるのである。
なおこの原稿がアップされている頃には同じく裾分一弘先生が1977年に出版した『レオナルド・ダ・ヴィンチの「絵画論」攷』が届く予定になっている....。これまたページをめくっていくのが無類の楽しみだ...。
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「レオナルド・ダ・ヴィンチ - 手稿による自伝 -」
発行日:1983年7月25日 発行
・著者 :裾分一弘
・発行所:中央公論美術出版
・定価:3,000円
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