光文社新書「傷はぜったい消毒するな」はメチャ面白い
夏井睦著「傷はぜったい消毒するな 〜 生態系としての皮膚の科学」という本の存在は以前から知っていた。しかしトンデモ本の一種かも知れないと手にするのが遅れていたが、先般弟に勧められて読んでみたらこれがメチャ面白いではないか!
トンデモ本の類も嫌いではないのだが夏井睦著「傷はぜったい消毒するな」は購入リストから外れてしまったためかこれまで読むチャンスがなかった。しかしそのタイトル「傷はぜったい消毒するな」ということ自体、なんだか怪しいというか危ない本みたいで後回しになっていた。
しかし読み進むにつれ先入観は簡単に剥がれ落ちるほど面白いだけでなく、私などが申し上げるのも僭越だがその書き方は素晴らしく分かりやすいのだ。こうしたノンフィクションとか科学物の本も多々読んでいるが専門家の多くは文章の専門家ではないことでもあり非常に読みづらいものも多い。しかし本書は医学とか医療という専門家としては異例とも言える分かりやすい例えと書き方は読者をぐいぐいと惹きつける。

ともかく本書のタイトルならびに筆者の勧める怪我にたいする対処はこれまで私たちが当然と考え、再考の余地などないと思っていた「怪我をしたらまずは消毒して乾かす」という常識をくつがえすものである。消毒はいわば傷口に熱湯をかけるような行為であり、いたずらに痛みを増すことになるだけでなく治りを遅くするらしい...。
どこの家庭にも「○○軟膏」とか「マキ○ン」といった切り傷や擦り傷、あるいは小規模の火傷に対処するため常備薬があるに違いない。しかし本書によれば、傷は土などが付いていた場合に水で洗い流した後、消毒薬などを使わず患部を乾かさない「湿潤治療」を行えばよいという。
詳しくは本書を読んでいただくとしてこの「湿潤治療」の特徴は「すぐに傷が治る」「痛みもなくなる」「擦りむき傷も深い創も熱傷(火傷)も同じ方法で治療できる」「消毒薬も軟膏も不要」「最低限、水とラップと絆創膏があれば治療でき、極めて安価」「治療材料が軽くてかさばらない」そして「治療方法が簡単、簡便」という大きな特徴を持っている。
筆者は「湿潤治療」を確立した形成外科医である。その医療の専門家が指摘する現実の医療現場は大きな矛盾を秘めている。
とにかく外傷を負ったとき、我々は外科医などに縫って貰ったりという治療を受け一安心する。何しろ医者は医者であり専門家だからして最良の治療を施してくれるはずだと思っている。しかし筆者によればそうした認識は間違っているようだ。
まず傷の縫合をした医師が外科系の医師でない確率が高いこと。例え外科系の医師だったとしても現在の医学部での教育では「切り傷や擦りむき傷の治療」がすっぽりと抜け落ちているからだという。だから外傷の治療をよく知っているとは限らないのだ...。
一番遅れているのが大学病院というのも多少の経験からうすうす感じていたことで頷ける(笑)。確かに医療設備は最新鋭の物がそろっているかも知れないが相変わらず大学病院の多くは傷や火傷を悪化させ、治りを遅らせ、患者に痛みと後遺症を強いる旧来の治療が行われている。いわば大学病院の外科医にとって怪我の患者は「招かれざる客」なのだという。
なぜ、医学において生物学や科学の新しい成果は取り入れられないのか...筆者は興味深く解説する。
その解説は我々読者に医学の問題だけにとどまらず、例えば昨今原子力研究の専門家などへの不信感が高まっているが、そうした最高学府の長たる専門家たちの言動が何故実情に合わないのか...といった理由にも思い当たることが多く興味深い。
是非1度目を通していただきたい一冊である。なお筆者はインターネットサイト「新しい創傷治療」を開設しているのでこちらもお勧めである。なお「湿潤治療」は現在、人間だけでなく動物病院でも採用し始めているという。犬の飼い主の1人としてこちらも調べておこうと考えている。
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「傷はぜったい消毒するな 〜 生態系としての皮膚の科学
」
2009年6月20日 初版1刷発行
著者:夏井 睦
発行所:株式会社光文社
コード:ISBN978-4-334-03513-6
価格:840円(税別)
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トンデモ本の類も嫌いではないのだが夏井睦著「傷はぜったい消毒するな」は購入リストから外れてしまったためかこれまで読むチャンスがなかった。しかしそのタイトル「傷はぜったい消毒するな」ということ自体、なんだか怪しいというか危ない本みたいで後回しになっていた。
しかし読み進むにつれ先入観は簡単に剥がれ落ちるほど面白いだけでなく、私などが申し上げるのも僭越だがその書き方は素晴らしく分かりやすいのだ。こうしたノンフィクションとか科学物の本も多々読んでいるが専門家の多くは文章の専門家ではないことでもあり非常に読みづらいものも多い。しかし本書は医学とか医療という専門家としては異例とも言える分かりやすい例えと書き方は読者をぐいぐいと惹きつける。

ともかく本書のタイトルならびに筆者の勧める怪我にたいする対処はこれまで私たちが当然と考え、再考の余地などないと思っていた「怪我をしたらまずは消毒して乾かす」という常識をくつがえすものである。消毒はいわば傷口に熱湯をかけるような行為であり、いたずらに痛みを増すことになるだけでなく治りを遅くするらしい...。
どこの家庭にも「○○軟膏」とか「マキ○ン」といった切り傷や擦り傷、あるいは小規模の火傷に対処するため常備薬があるに違いない。しかし本書によれば、傷は土などが付いていた場合に水で洗い流した後、消毒薬などを使わず患部を乾かさない「湿潤治療」を行えばよいという。
詳しくは本書を読んでいただくとしてこの「湿潤治療」の特徴は「すぐに傷が治る」「痛みもなくなる」「擦りむき傷も深い創も熱傷(火傷)も同じ方法で治療できる」「消毒薬も軟膏も不要」「最低限、水とラップと絆創膏があれば治療でき、極めて安価」「治療材料が軽くてかさばらない」そして「治療方法が簡単、簡便」という大きな特徴を持っている。
筆者は「湿潤治療」を確立した形成外科医である。その医療の専門家が指摘する現実の医療現場は大きな矛盾を秘めている。
とにかく外傷を負ったとき、我々は外科医などに縫って貰ったりという治療を受け一安心する。何しろ医者は医者であり専門家だからして最良の治療を施してくれるはずだと思っている。しかし筆者によればそうした認識は間違っているようだ。
まず傷の縫合をした医師が外科系の医師でない確率が高いこと。例え外科系の医師だったとしても現在の医学部での教育では「切り傷や擦りむき傷の治療」がすっぽりと抜け落ちているからだという。だから外傷の治療をよく知っているとは限らないのだ...。
一番遅れているのが大学病院というのも多少の経験からうすうす感じていたことで頷ける(笑)。確かに医療設備は最新鋭の物がそろっているかも知れないが相変わらず大学病院の多くは傷や火傷を悪化させ、治りを遅らせ、患者に痛みと後遺症を強いる旧来の治療が行われている。いわば大学病院の外科医にとって怪我の患者は「招かれざる客」なのだという。
なぜ、医学において生物学や科学の新しい成果は取り入れられないのか...筆者は興味深く解説する。
その解説は我々読者に医学の問題だけにとどまらず、例えば昨今原子力研究の専門家などへの不信感が高まっているが、そうした最高学府の長たる専門家たちの言動が何故実情に合わないのか...といった理由にも思い当たることが多く興味深い。
是非1度目を通していただきたい一冊である。なお筆者はインターネットサイト「新しい創傷治療」を開設しているのでこちらもお勧めである。なお「湿潤治療」は現在、人間だけでなく動物病院でも採用し始めているという。犬の飼い主の1人としてこちらも調べておこうと考えている。
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「傷はぜったい消毒するな 〜 生態系としての皮膚の科学
2009年6月20日 初版1刷発行
著者:夏井 睦
発行所:株式会社光文社
コード:ISBN978-4-334-03513-6
価格:840円(税別)
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