心が温かくなる本「見上げてごらん夜の星を」
いま私の机の上に一冊の文庫本がある。竹之内響介著「見上げて ごらん 夜の星を」というご存じ坂本九が歌ってヒットした歌のタイトルをつけた本である。実はこの文庫本はご縁があり、著者ご本人からいただいたものなのだ。
1月21日(土曜日)から映画「三丁目の夕日 '64」が公開上映されるという。この映画は東京オリンピック開催を目前にした時代がテーマなわけだが、本書「見上げて ごらん 夜の星を」も東京オリンピックを翌年に控えた、東京墨田のとある小さな町…が舞台となっている。そして短篇連作集(9篇)による昭和30年代を生きる人々の清々しい生きざまが描かれている。
その時代を私のようにリアルタイムに生きた人たちは勿論だが、お若い方々だとしても本書のページを追う毎にご自分の両親が生きた時代の一端を本書はありありと眼前に再現してくれるに違いない…。

※竹之内 響介著「見上げてごらん夜の星を」(泰文堂刊)表紙
「3丁目の夕日」の時代、すなわち1960年代は貧しくとも幸福であったように言われることが多い。確かに家族は勿論隣近所は文字通り肩を寄せ合い、一生懸命助け合って生きた時代だった。
返すあてもないのに毎日、米や味噌醤油などを借りにくる近所の子だくさんのオバサン…。いつもきまって「うっかりしゃってさあ!きらしちゃった」と明るく、それも毎回同じパターンでやってくる(笑)。母や近所のおかみさんたちも「この前のまだ返してもらってない」などと野暮なことはいわないで「あら、大変だねぇ」といいながら僅かの米などを渡していた。
本書を読み進んでいるとそんなオバサンたちや今から思えば粗末な態で遊び回る子供たちの顔が小説の中の主人公たちと重なる…。
私自身も1964年の東京オリンピックのときは高校一年生であり、「3丁目の夕日」の時代のど真ん中で育った1人なのである。しかし公平に見るなら記憶は美しく残るにしても当時は決して幸福であったとは思えない。
何故なら貧しいということは決して美しいことではないからだ…。

※昭和34年(1959年)前後の珍しく家族全員が揃った写真。時代とは言え貧しさが滲み出ているが(笑)一番右が私で当時10歳か11歳くらいだったはず...
いま振り返ってみても父母だけでなく多くの人々にとって苦労が絶えなかった時代のように思う。我が家も父の仕事が定まらなかった時期など子供心に辛いものがあった。
ただしその時代は確かに貧しかったが、一生懸命勉強し努力し困難に打ち勝てば必ずや未来は明るいのだ…と皆が心のどこかで信じていた時代だったし東京オリンピックがそのひとつの象徴だったといえよう。
さて本書のタイトル「見上げて ごらん 夜の星を」だが、本小説の中にもこの歌が登場するとおり、この歌はそもそも1960年にいずみたく作曲、永六輔作詞による同名ミュージカルの劇中主題歌だったのだ。そして1963年5月に坂本九がシングルレコードとしてリリースすると大ヒットしたわけで1963年が舞台になっている9篇の短篇連作集にはまことに相応しいタイトルだともいえよう。
9篇の短編小説のページをめくると...無論そこに登場する人々は小説中の登場人物だが、描かれている情景がありありと浮かんでくる。
アパートの玄関から見えた筑波山やお化け煙突、そして電車から降りて橋を渡ってくる父の姿などを思い出す。さらに忘れかけていた商店街の街並みや近所の路地に至るまで…そう板塀にあった大きな節の模様や時に異臭を放っていたゴミ箱やドブ板までもが懐かしいように思い出される。
そして気がつくと涙が溢れていた…。
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「見上げてごらん夜の星を
」
2011年10月5日 初版第1刷発行
著者:竹之内 響介
企画・編集:(株)リンダパブリッシャーズ
発行所:株式会社泰文堂
コード:ISBN978-4-8030-0227-0
価格:648円(税別)
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1月21日(土曜日)から映画「三丁目の夕日 '64」が公開上映されるという。この映画は東京オリンピック開催を目前にした時代がテーマなわけだが、本書「見上げて ごらん 夜の星を」も東京オリンピックを翌年に控えた、東京墨田のとある小さな町…が舞台となっている。そして短篇連作集(9篇)による昭和30年代を生きる人々の清々しい生きざまが描かれている。
その時代を私のようにリアルタイムに生きた人たちは勿論だが、お若い方々だとしても本書のページを追う毎にご自分の両親が生きた時代の一端を本書はありありと眼前に再現してくれるに違いない…。

※竹之内 響介著「見上げてごらん夜の星を」(泰文堂刊)表紙
「3丁目の夕日」の時代、すなわち1960年代は貧しくとも幸福であったように言われることが多い。確かに家族は勿論隣近所は文字通り肩を寄せ合い、一生懸命助け合って生きた時代だった。
返すあてもないのに毎日、米や味噌醤油などを借りにくる近所の子だくさんのオバサン…。いつもきまって「うっかりしゃってさあ!きらしちゃった」と明るく、それも毎回同じパターンでやってくる(笑)。母や近所のおかみさんたちも「この前のまだ返してもらってない」などと野暮なことはいわないで「あら、大変だねぇ」といいながら僅かの米などを渡していた。
本書を読み進んでいるとそんなオバサンたちや今から思えば粗末な態で遊び回る子供たちの顔が小説の中の主人公たちと重なる…。
私自身も1964年の東京オリンピックのときは高校一年生であり、「3丁目の夕日」の時代のど真ん中で育った1人なのである。しかし公平に見るなら記憶は美しく残るにしても当時は決して幸福であったとは思えない。
何故なら貧しいということは決して美しいことではないからだ…。

※昭和34年(1959年)前後の珍しく家族全員が揃った写真。時代とは言え貧しさが滲み出ているが(笑)一番右が私で当時10歳か11歳くらいだったはず...
いま振り返ってみても父母だけでなく多くの人々にとって苦労が絶えなかった時代のように思う。我が家も父の仕事が定まらなかった時期など子供心に辛いものがあった。
ただしその時代は確かに貧しかったが、一生懸命勉強し努力し困難に打ち勝てば必ずや未来は明るいのだ…と皆が心のどこかで信じていた時代だったし東京オリンピックがそのひとつの象徴だったといえよう。
さて本書のタイトル「見上げて ごらん 夜の星を」だが、本小説の中にもこの歌が登場するとおり、この歌はそもそも1960年にいずみたく作曲、永六輔作詞による同名ミュージカルの劇中主題歌だったのだ。そして1963年5月に坂本九がシングルレコードとしてリリースすると大ヒットしたわけで1963年が舞台になっている9篇の短篇連作集にはまことに相応しいタイトルだともいえよう。
9篇の短編小説のページをめくると...無論そこに登場する人々は小説中の登場人物だが、描かれている情景がありありと浮かんでくる。
アパートの玄関から見えた筑波山やお化け煙突、そして電車から降りて橋を渡ってくる父の姿などを思い出す。さらに忘れかけていた商店街の街並みや近所の路地に至るまで…そう板塀にあった大きな節の模様や時に異臭を放っていたゴミ箱やドブ板までもが懐かしいように思い出される。
そして気がつくと涙が溢れていた…。
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「見上げてごらん夜の星を
2011年10月5日 初版第1刷発行
著者:竹之内 響介
企画・編集:(株)リンダパブリッシャーズ
発行所:株式会社泰文堂
コード:ISBN978-4-8030-0227-0
価格:648円(税別)
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