「音楽家レオナルド・ダ・ヴィンチ」音楽之友社刊を手にして
「万能の天才」といえばまず頭に浮かぶ人物はレオナルド・ダ・ヴィンチだが、そういえば音楽に関しての研究は最近まであまり目にしたことがなかった。確かにヴァザーリなどの筆によりレオナルドがリラの名手であったことなどは知られていたが、彼の多才な才能の中で音楽の話題はこれまで以外と少なかったといえる。
今般自分が古楽器のリュートを手にしたきっかけもあってその歴史を調べているときレオナルド・ダ・ヴィンチの名前に遭遇したことがある...。
レオナルド・ダ・ヴィンチのマニアとしてこれまで数種の手稿を手に入れ楽しんできたが、音響に関する記述があることや「絵画論」に絵画と音楽に関しての比較をした記述があることなどは知っているが、ことレオナルドがどのような音楽活動をしていたのか…といった具体的なあれこれに関しては読んだ記憶がない…。
例えばレオナルド・ダ・ヴィンチの生涯と業績を分かりやすく魅力的に解説した大型本「レオナルド・ダ・ヴィンチが遺した宝物」(トランスワールド・ジャパン刊)にも音楽に関する成果についての記述はないようだ。
今更ながら「これは変だ?」と思い、レオナルドと音楽について考察した書籍を探してみたが…意外と少ないのだ。
別途「ダ・ヴィンチ 秘密の楽譜」という魅力的なタイトルを持つ一冊があったので取り寄せたが、内容は学術的な扱いではないようなので面白いが鵜呑みにはできない…。
レオナルドと音楽の関係を学術的に探求した本で日本語で読めるものとすれば今回手に入れた「音楽家レオナルド・ダ・ヴィンチ」音楽之友社刊が逸品のようだがその大型本もいまや絶版になっている。

※エマニュエル・ヴィンターニッツ著の大型本「音楽家レオナルド・ダ・ヴィンチ」音楽之友社刊
さて、ジョルジョ・ヴァザーリの「芸術家列伝」によればレオナルドは「幼少期にリラを弾くのを学ぼうと決心するや、この上なく気高く優雅な精神の持ち主らしく、すぐにそれに合わせて即興的に天使のように歌うのであった」とある。また後年の1494年、ロドヴィーコ・スフォルツァ公が即位した年、そのミラノ公にリラの演奏を望まれ、銀製で馬の頭蓋骨を模った楽器を作って持参し、宮廷に来たどの音楽家より優れた演奏を披露したという旨のエピソードが書かれている。
現在の我々から見れば、絵画やスケッチなど後世に残っているものこそ重要で価値あるものであり、特にレオナルドの名は画家として評価されたわけであるからして例え優れた演奏をしたとしてもその瞬間に消え去ってしまう音楽はさほど重要ではないと考えがちかも知れない。
しかし当時は音楽の方が絵画よりいわゆるその芸術的価値が高く見られていたらしい。したがって自身が熱心なリラの演奏者だったというミラノ公からレオナルドがリラの演奏を望まれ呼ばれたことはレオナルドがいかに優れた音楽家であったか…という証明にもなる。
ただし残念なことに我々はレオナルドの演奏に接することはできないわけだし(笑)、彼が遺した曲集といったものも発見されていない。だから近代の我々はレオナルドと音楽の関係はそんなに深くはなかったと考えがちだが、当然のことながら当時楽譜は手描きであった。さらにそれが出版されるようになったのは印刷技術が向上した以降だったし、楽譜があったとしても残されているものが活動のすべてではない。
そもそもレオナルドだけでなくバッハにしても譜面として残されたものとは比較にならない膨大な演奏活動があったはずだから遺されたものだけですべてを判断することは間違いの元だ。そして当時はなによりも即興演奏が優れていないと音楽家として認められなかったという話もあり、事実バッハもレオナルドも即興演奏の名手であった。
そういえば、レオナルドが愛した楽器だというリラについてだが、ヴァザーリの英訳をしたルートヴィヒ・ゴールドシャイダーが "Lira" を "Lute" として訳したことなどからレオナルドがリュートの名手と書かれることが多くなったらしいが原意はあくまでリュートでなくリラだという。ただレオナルドはチェトラという古代ギリシャのキタラとルネサンス期のシターンのどちらとも考えられる楽器でも優れた演奏だったという話もあるからして、もしかしたらリュートも上手だったのかも知れない。まあ弦楽器だし…。
ちなみにここでいう "Lira" だが馴染みのない我々には竪琴のイメージがあるが、形はフィーデルかヴィオラに近く弓で演奏する楽器で正確にはリラ・ダ・ブラッチョ( Lira da Braccio )というものだそうだ。

※現存するリラ・ダ・ブラッチョ( Lira da Braccio )の好例。長い弓で演奏するそうだ。「音楽家レオナルド・ダ・ヴィンチ」より
レオナルドの手稿から弟子のフランチェスコ・メルツィが抜粋してまとめた「絵画論」には詩と音楽と絵画を芸術として比較し、どれが一番優れているかを考察している箇所があって興味深いが、本書「音楽家レオナルド・ダ・ヴィンチ」は文字通り音楽家としてのレオナルドを緻密に描いた価値ある一冊に違いない。そして私のささやかなレオナルド・ダ・ヴィンチコーナーの書棚にあたらい興味を満たしてくれるものとなった。
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「音楽家レオナルド・ダ・ヴィンチ」
1985年12月1日 第1刷発行
著者:エマニュエル・ヴィンターニッツ
訳者:金澤正剛
発行所:株式会社音楽之友社
コード:ISBN4-276-12120-5 C1073
価 格:6,500円(税別)
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今般自分が古楽器のリュートを手にしたきっかけもあってその歴史を調べているときレオナルド・ダ・ヴィンチの名前に遭遇したことがある...。
レオナルド・ダ・ヴィンチのマニアとしてこれまで数種の手稿を手に入れ楽しんできたが、音響に関する記述があることや「絵画論」に絵画と音楽に関しての比較をした記述があることなどは知っているが、ことレオナルドがどのような音楽活動をしていたのか…といった具体的なあれこれに関しては読んだ記憶がない…。
例えばレオナルド・ダ・ヴィンチの生涯と業績を分かりやすく魅力的に解説した大型本「レオナルド・ダ・ヴィンチが遺した宝物」(トランスワールド・ジャパン刊)にも音楽に関する成果についての記述はないようだ。
今更ながら「これは変だ?」と思い、レオナルドと音楽について考察した書籍を探してみたが…意外と少ないのだ。
別途「ダ・ヴィンチ 秘密の楽譜」という魅力的なタイトルを持つ一冊があったので取り寄せたが、内容は学術的な扱いではないようなので面白いが鵜呑みにはできない…。
レオナルドと音楽の関係を学術的に探求した本で日本語で読めるものとすれば今回手に入れた「音楽家レオナルド・ダ・ヴィンチ」音楽之友社刊が逸品のようだがその大型本もいまや絶版になっている。

※エマニュエル・ヴィンターニッツ著の大型本「音楽家レオナルド・ダ・ヴィンチ」音楽之友社刊
さて、ジョルジョ・ヴァザーリの「芸術家列伝」によればレオナルドは「幼少期にリラを弾くのを学ぼうと決心するや、この上なく気高く優雅な精神の持ち主らしく、すぐにそれに合わせて即興的に天使のように歌うのであった」とある。また後年の1494年、ロドヴィーコ・スフォルツァ公が即位した年、そのミラノ公にリラの演奏を望まれ、銀製で馬の頭蓋骨を模った楽器を作って持参し、宮廷に来たどの音楽家より優れた演奏を披露したという旨のエピソードが書かれている。
現在の我々から見れば、絵画やスケッチなど後世に残っているものこそ重要で価値あるものであり、特にレオナルドの名は画家として評価されたわけであるからして例え優れた演奏をしたとしてもその瞬間に消え去ってしまう音楽はさほど重要ではないと考えがちかも知れない。
しかし当時は音楽の方が絵画よりいわゆるその芸術的価値が高く見られていたらしい。したがって自身が熱心なリラの演奏者だったというミラノ公からレオナルドがリラの演奏を望まれ呼ばれたことはレオナルドがいかに優れた音楽家であったか…という証明にもなる。
ただし残念なことに我々はレオナルドの演奏に接することはできないわけだし(笑)、彼が遺した曲集といったものも発見されていない。だから近代の我々はレオナルドと音楽の関係はそんなに深くはなかったと考えがちだが、当然のことながら当時楽譜は手描きであった。さらにそれが出版されるようになったのは印刷技術が向上した以降だったし、楽譜があったとしても残されているものが活動のすべてではない。
そもそもレオナルドだけでなくバッハにしても譜面として残されたものとは比較にならない膨大な演奏活動があったはずだから遺されたものだけですべてを判断することは間違いの元だ。そして当時はなによりも即興演奏が優れていないと音楽家として認められなかったという話もあり、事実バッハもレオナルドも即興演奏の名手であった。
そういえば、レオナルドが愛した楽器だというリラについてだが、ヴァザーリの英訳をしたルートヴィヒ・ゴールドシャイダーが "Lira" を "Lute" として訳したことなどからレオナルドがリュートの名手と書かれることが多くなったらしいが原意はあくまでリュートでなくリラだという。ただレオナルドはチェトラという古代ギリシャのキタラとルネサンス期のシターンのどちらとも考えられる楽器でも優れた演奏だったという話もあるからして、もしかしたらリュートも上手だったのかも知れない。まあ弦楽器だし…。
ちなみにここでいう "Lira" だが馴染みのない我々には竪琴のイメージがあるが、形はフィーデルかヴィオラに近く弓で演奏する楽器で正確にはリラ・ダ・ブラッチョ( Lira da Braccio )というものだそうだ。

※現存するリラ・ダ・ブラッチョ( Lira da Braccio )の好例。長い弓で演奏するそうだ。「音楽家レオナルド・ダ・ヴィンチ」より
レオナルドの手稿から弟子のフランチェスコ・メルツィが抜粋してまとめた「絵画論」には詩と音楽と絵画を芸術として比較し、どれが一番優れているかを考察している箇所があって興味深いが、本書「音楽家レオナルド・ダ・ヴィンチ」は文字通り音楽家としてのレオナルドを緻密に描いた価値ある一冊に違いない。そして私のささやかなレオナルド・ダ・ヴィンチコーナーの書棚にあたらい興味を満たしてくれるものとなった。
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「音楽家レオナルド・ダ・ヴィンチ」
1985年12月1日 第1刷発行
著者:エマニュエル・ヴィンターニッツ
訳者:金澤正剛
発行所:株式会社音楽之友社
コード:ISBN4-276-12120-5 C1073
価 格:6,500円(税別)
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