「アンナ・マグダレーナ・バッハの楽譜帳」を精査する
「アンナ・マグダレーナ・バッハの楽譜帳」とは申し上げるまでもなくJ・S・バッハが2番目の妻であるアンナ・マグダレーナ・バッハに贈った楽譜帳のことである。したがって別途「アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」とも呼ばれるが、バッハたちがこの楽譜帳のことを何と呼んでいたかの記録はない。しかしバッハ家の音楽事情を知る上でもこの楽譜帳は貴重な研究対象でもある。
「アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」に拘っている…。1725年にバッハが妻、アンナ・マグダレーナに贈ったこの楽譜帳の原本は現在西ベルリン国立図書館に所蔵されている。そのファクシミリ版がドイツの音楽出版社ベーレンライター(Bärenreiter-Verlag)社により発刊されていたことを知り、先般入手したことは既にお知らせした。
この楽譜帳にはピアノを練習しようとする人なら必ず1度は弾いてみようとするに違いない「ト調のメヌエット」などの直筆楽譜が載っているわけだが、アンナ・マグダレーナの直筆で見るその譜面は一般的に印刷された五線譜を見るのとはまた違った喜びを覚える。


※「アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」ファクシミリ版表紙(上)とページを開いた例(下)
無論私が「アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」のファクシミリ版を入手したのはピアノの練習のためではない(笑)。
一介のバッハファンではあるものの膨大な作品を生んだ彼の並外れた音楽活動の原動力は何かといえば、間違いなく家庭と信仰にあったに違いない…。なにしろバッハは「音楽は神の賜物」と信じていたらしい…。ともあれ信仰はとりあえず横に置いておくとして特に2番目の妻であったアンナ・マグダレーナと子供たちの存在はバッハの音楽活動に多大な影響を与えたと考えられる。
そうした影響を直に感じられる資料としてこの「アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」すなわち「アンナ・マグダレーナ・バッハの楽譜帳」の存在は大変貴重なのである。
とはいえ先般入手したファクシミリ版は楽譜ページはバッハやアンナ・マグダレーナたちの直筆に触れることができるが、解説はドイツ語、英語およびフランス語なので大意はともかく詳細な点をスラスラと理解できない点もあるのが残念なところ…。
ともかくこの楽譜帳のなりたちは勿論、関係する様々な情報を理解したいと考え別途3つの資料というかアイテムを手に入れた。
ひとつはベーレンライター社がファクシミリ版以前に出版していた同名の出版物(BA5115)を元にして全音楽譜出版社が1976年6月に初版した「J・S・バッハ アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」である。


※全音楽譜出版社刊「J・S・バッハ アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」。日本語で解説が読める
勿論これは日本語による出版だが、ファクシミリ版ではないものの元ネタは一緒であり、楽譜は一部直筆の紹介のために原典のモノクロ写真ページがあるし認識しやすい一般的な五線譜で構成されているので譜面の確認など実用性はこちらの方が良好だ。
事実その製本や表紙のデザインは少し判型が小型なものの細部はともかく、原本の雰囲気を踏襲したものであることがお分かりだと思う。
2つ目は2枚組のCDである。「アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」を資料として楽しもうと考えているが当然ながらこれはまさしく楽譜帳であり、そのほとんどが世に名高い音楽である。したがって概略は知ってはいるもののバッハやアンナ・マグダレーナが書き写した音楽がどのようなものなのかを知らずして事の神髄を語ることは出来ない。
なお、このCDジャケットを一瞥すればどんなコンセプトの録音なのかはお分かりだろう…。そう、やはりこれも楽譜帳の表示デザインを意識して配したものであり、「アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」に収録されている譜面をピアノで演奏したCDなのだ。

※「アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」収録の楽曲をピアノと声楽で再現した2枚組CD
3つ目はマリーア・ヒューブナー著/伊藤はに子訳「アンナ・マグダレーナ・バッハ 資料が語る生涯
」という書籍である。
先にご紹介した講談社刊「バッハの思い出」はアンナ・マグダレーナの真筆ではなくフィクション…小説だったが、本書はライプツィヒにあるバッハ・アルヒーフの研究員、マリーア・ヒューブナーがあらゆる検証可能な伝記的資料を体系的に解明した成果であり、現時点でアンナ・マグダレーナの生涯を知るには最良のものに違いない。
それは2001年9月22日、アンナ・マグダレーナ・バッハの300回目の誕生日が巡ってきたことをきっかけに、バッハ・アルヒーフが「ヨハン・セバスティアン・バッハの最愛の妻アンナ・マグダレーナ・バッハ生誕300年」というテーマの下、展示会を催すことがきっかけとなった。

※マリーア・ヒューブナー著/伊藤はに子訳「アンナ・マグダレーナ・バッハ~資料が語る生涯」春秋社刊表紙
そもそもアンナ・マグダレーナという女性は大作曲家の妻にして、才能ある宮廷歌手、多岐にわたる夫の協力者、そしてヨハン・クリストフ・フリードリッヒとヨハン・クリスティアン・バッハという著名な音楽家の母親である。
本書にもあるとおり、彼女の献身的な協力なくしては、ライプツィヒ時代のバッハが職務を全うしつつ、芸術的な課題に取り組むことは難しかったに違いない…。
それほど重要人物にもかかわらず、これまで余りにも過小評価されてきた感のあるアンナ・マグダレーナという1人の女性の存在が本書において史実として扱われるようになったのである。そして意外なことも分かった…。
私はアンナ・マグダレーナが結婚前に宮廷歌手であったことは知っていたが、それはバッハと結婚後もっぱら彼女の歌声は家庭内とか私的な場でしか活躍のチャンスはなかったのだろうと考えていた。しかし結婚後も多くはないがプロの歌手として報酬を得る公での活動もしていたことが分かり何だか嬉しくなった…。
無論これだけではなく、J・S・バッハのより深い理解のために小林義武著「バッハとの対話―バッハ研究の最前線
」やマルティン・ペッツォルト著/鈴木雅明監修・小岩信治・朝山奈津子訳「バッハの街 音楽と人間を追い求める長い旅へのガイド
」という本なども斜め読みしながらアンナ・マグダレーナとその楽譜帳をより良く理解したいと楽しんでいる…。
「アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」に拘っている…。1725年にバッハが妻、アンナ・マグダレーナに贈ったこの楽譜帳の原本は現在西ベルリン国立図書館に所蔵されている。そのファクシミリ版がドイツの音楽出版社ベーレンライター(Bärenreiter-Verlag)社により発刊されていたことを知り、先般入手したことは既にお知らせした。
この楽譜帳にはピアノを練習しようとする人なら必ず1度は弾いてみようとするに違いない「ト調のメヌエット」などの直筆楽譜が載っているわけだが、アンナ・マグダレーナの直筆で見るその譜面は一般的に印刷された五線譜を見るのとはまた違った喜びを覚える。


※「アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」ファクシミリ版表紙(上)とページを開いた例(下)
無論私が「アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」のファクシミリ版を入手したのはピアノの練習のためではない(笑)。
一介のバッハファンではあるものの膨大な作品を生んだ彼の並外れた音楽活動の原動力は何かといえば、間違いなく家庭と信仰にあったに違いない…。なにしろバッハは「音楽は神の賜物」と信じていたらしい…。ともあれ信仰はとりあえず横に置いておくとして特に2番目の妻であったアンナ・マグダレーナと子供たちの存在はバッハの音楽活動に多大な影響を与えたと考えられる。
そうした影響を直に感じられる資料としてこの「アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」すなわち「アンナ・マグダレーナ・バッハの楽譜帳」の存在は大変貴重なのである。
とはいえ先般入手したファクシミリ版は楽譜ページはバッハやアンナ・マグダレーナたちの直筆に触れることができるが、解説はドイツ語、英語およびフランス語なので大意はともかく詳細な点をスラスラと理解できない点もあるのが残念なところ…。
ともかくこの楽譜帳のなりたちは勿論、関係する様々な情報を理解したいと考え別途3つの資料というかアイテムを手に入れた。
ひとつはベーレンライター社がファクシミリ版以前に出版していた同名の出版物(BA5115)を元にして全音楽譜出版社が1976年6月に初版した「J・S・バッハ アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」である。


※全音楽譜出版社刊「J・S・バッハ アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」。日本語で解説が読める
勿論これは日本語による出版だが、ファクシミリ版ではないものの元ネタは一緒であり、楽譜は一部直筆の紹介のために原典のモノクロ写真ページがあるし認識しやすい一般的な五線譜で構成されているので譜面の確認など実用性はこちらの方が良好だ。
事実その製本や表紙のデザインは少し判型が小型なものの細部はともかく、原本の雰囲気を踏襲したものであることがお分かりだと思う。
2つ目は2枚組のCDである。「アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」を資料として楽しもうと考えているが当然ながらこれはまさしく楽譜帳であり、そのほとんどが世に名高い音楽である。したがって概略は知ってはいるもののバッハやアンナ・マグダレーナが書き写した音楽がどのようなものなのかを知らずして事の神髄を語ることは出来ない。
なお、このCDジャケットを一瞥すればどんなコンセプトの録音なのかはお分かりだろう…。そう、やはりこれも楽譜帳の表示デザインを意識して配したものであり、「アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」に収録されている譜面をピアノで演奏したCDなのだ。

※「アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」収録の楽曲をピアノと声楽で再現した2枚組CD
3つ目はマリーア・ヒューブナー著/伊藤はに子訳「アンナ・マグダレーナ・バッハ 資料が語る生涯
先にご紹介した講談社刊「バッハの思い出」はアンナ・マグダレーナの真筆ではなくフィクション…小説だったが、本書はライプツィヒにあるバッハ・アルヒーフの研究員、マリーア・ヒューブナーがあらゆる検証可能な伝記的資料を体系的に解明した成果であり、現時点でアンナ・マグダレーナの生涯を知るには最良のものに違いない。
それは2001年9月22日、アンナ・マグダレーナ・バッハの300回目の誕生日が巡ってきたことをきっかけに、バッハ・アルヒーフが「ヨハン・セバスティアン・バッハの最愛の妻アンナ・マグダレーナ・バッハ生誕300年」というテーマの下、展示会を催すことがきっかけとなった。

※マリーア・ヒューブナー著/伊藤はに子訳「アンナ・マグダレーナ・バッハ~資料が語る生涯」春秋社刊表紙
そもそもアンナ・マグダレーナという女性は大作曲家の妻にして、才能ある宮廷歌手、多岐にわたる夫の協力者、そしてヨハン・クリストフ・フリードリッヒとヨハン・クリスティアン・バッハという著名な音楽家の母親である。
本書にもあるとおり、彼女の献身的な協力なくしては、ライプツィヒ時代のバッハが職務を全うしつつ、芸術的な課題に取り組むことは難しかったに違いない…。
それほど重要人物にもかかわらず、これまで余りにも過小評価されてきた感のあるアンナ・マグダレーナという1人の女性の存在が本書において史実として扱われるようになったのである。そして意外なことも分かった…。
私はアンナ・マグダレーナが結婚前に宮廷歌手であったことは知っていたが、それはバッハと結婚後もっぱら彼女の歌声は家庭内とか私的な場でしか活躍のチャンスはなかったのだろうと考えていた。しかし結婚後も多くはないがプロの歌手として報酬を得る公での活動もしていたことが分かり何だか嬉しくなった…。
無論これだけではなく、J・S・バッハのより深い理解のために小林義武著「バッハとの対話―バッハ研究の最前線
- 関連記事
-
- 「美しき姫君〜発見されたダ・ヴィンチの真作」を読了 (2012/12/11)
- ルイス・ミランの譜本 ' El maestro ' ファクシミリ版入手 (2012/11/20)
- 「ビウエラ七人衆」ファクシミリ版譜本CD-ROM購入 (2012/10/30)
- 「バッハの思い出」ドイツ語版入手で調査最終章 (2012/10/10)
- リュート・ハープシコードってご存じですか? (2012/09/25)
- 「アンナ・マグダレーナ・バッハの楽譜帳」を精査する (2012/09/19)
- 竹之内響介氏著「ダイアリー 47年目のラブレター」に感涙 (2012/09/14)
- 「アンナ・マグダレーナ〜バッハの思い出」英語原著入手 (2012/09/11)
- あなたは童謡「風」という歌を知ってますか? (2012/09/07)
- 「アンナ・マグダレーナ・バッハの楽譜帳」ファクシミリ版入手 (2012/09/04)
- 文庫本「アンナ・マグダレーナ・バッハ〜バッハの思い出」読了 (2012/08/28)