ラテ飼育格闘日記(80)

6月10日、ラテ2歳の誕生日を迎えた。我が家に来てから長いようで短い一年半が過ぎたが、すでに毎日のタイムスケジュールはラテ中心に回っており彼女のいない生活は考えられなくなっている。 


里親としてラテを引き取るとき、それまで彼女が世話になっていたKさんに「ラテマジックにお気を付けて」と言われた(笑)。ご自身でもワンコを飼い、これまで何匹ものワンコの世話をしてこられた方の物言いである。ではラテマジックとは何か? 
ラテは無類の甘え上手だとのこと。その甘え方をラテマジックと呼んでいるのだが、なかなか上手で巧妙なためその甘えに負けてしまう。感情表現が少々オーバーでそれがまた可愛く思ってしまうのだから始末が悪い。「ラテマジックにお気を付けて」とはいたずらにラテに振り回されないように...という意味であった。 

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※ラテは6月10日の誕生日で2歳になった。でも抱っこは大好きだ(笑)


すでにこの「ワンコ”ラテ”飼育格闘日記」をお読み下さっている方はご存じだと思うが、私はワンコを飼いたいという思いが強くなり、そのために26年も住み慣れた地域から現在の場所に引っ越してきた。とはいえワンコについて知り尽くしていたわけではなく、それまで一度も飼ったこともなかったから、ワンコに対して一般的な知識しか持ってはいなかった。 
ある意味、ワンコはどれもこれも同じだという程度しか考えていなかったといえる。確かに小型から大型までの犬種がいるし、ダックスフンド、チワワ、柴犬、コーギー、あるいはゴールデンレトリーバーなどなど見映えも多種多様なワンコがいるわけだが、いま思うと恥ずかしいものの「ワンコはワンコだ」と漠然と考えていた感がある。 

だから、ラテが我が家に来る前にワンコの飼い方・育て方といった類の本を数冊買い求めてまずは読みあさった。その根底にはそうしたノウハウ本にはそれなりに普遍的で役に立つ内容が多々書かれているだろうと思ったからだ。しかし考え方や立場の違う人たちの書いた複数の本を読むことはオトーサンの頭をかえって混乱させることになった。というより犬という動物に関してのアカデミックで本格的な研究は意外と近年になってからであることも知り、かつそうした研究成果は一般の飼い主に理解される形としてはあまり紹介されていないことも分かった。 

確かに前記したようにワンコの飼育の仕方といった類の本は多いが、そのほとんどはワンコを訓練あるいは躾けという立場から捉えているためノウハウ本のような体裁が多い。吠えの問題、甘噛みの問題、抱きつきの問題、トイレの躾けといった人と一緒に生活する中での問題点をどのように是正できるかという点にポイントが向いている。そしてワンコの個性とか性格などほとんど無視されているし、ワンコ側の気持ちなど二の次であるかのようだ。 

ともかく予備知識がなかったオトーサンはその種の本を多々読んだ結果、ほとんどの本に共通の主張があることは理解できた。それはワンコはオオカミが家畜化されたものであり、社会性はもとよりその本能や行動にはいまだにオオカミの持っていたものを引きずっているということ。そしてオオカミは群れで秩序を持った行動をするため縦社会であり、飼い主やその家族を群れの一員と見なすというものだった。 

その理窟だと、飼い犬から見るとひとつの群れの中に人間と飼い犬がいるわけで、問題は誰がリーダー(ボス)になるか...ということになる。甘やかしたり間違った飼育を行うと飼い犬は自分がリーダーと思い込み...というより飼い主たちにリーダーの素質を見いだせないから自分がリーダーをやるしかないと考え...飼い主を見下した行動を取る。それが高じれば子供や女性たちから噛まれるという大きな問題行動の原因にもなり得るという理窟である。 
だから、リーダーとして家の出入りもワンコより先にしなければならないし、餌を出すときにも人の食事より先に出してはならず、ワンコを抱き上げて飼い主の目線より高くしてはいけないとそれらの本には書いてある。ただし躾けに体罰はいけないともあり、そのコントロールをどうしたらよいのかオトーサンは頭を悩ますようになった。 

しかしである。例えば「飼い犬を人の目の高さより上げてはいけない」というのならマンションの2階以上ではワンコは飼えなくなる(笑)。2階や3階のベランダから下を通る人間どもを見ているワンコはそれだけで自分は人間どもより偉いと思い込むのだろうか。 
理屈っぽいオトーサンは考え込んでしまった。さらに「ワンコはオオカミが先祖だから...」云々という事がすべての前提とされているが、その後に海外の研究家たちの本を読み進むにつれてそもそもワンコの祖先はオオカミだと言い切れるわけではないということも分かってきた。オオカミ、ジャッカル、コヨーテなどなど学説は様々だが、要は十数年万年前にイエイヌとして分化し進化してきたわけでその遺伝的すべてをそのまま引きずっているわけではないはずだ。
 
「ワンコはオオカミが先祖だから...」云々というのなら「我々人間は猿から進化した動物であり、その言動のあれこれは猿を研究することで理解できる」ということになる。無論生き物として猿人や原人の持っていた古い記憶をDNAとして持ち続けている部分もあるかも知れないが、我々は日常猿人やネアンデルタール人を意識して物事を判断していない(笑)。 

まあ、ともかくオトーサンは真面目にワンコのことを知ろうと努力すればするほど納得できない無限ループにはまりこんだ時期があった。確かにオトーサンも後々取り返しの付かないことになってはならないという強迫観念から、ラテにはかなり厳しい躾をはじめた。手加減しながら張り倒したこともあった...。幸いラテはオトーサンの手を怖がる結果にはなっていないが、オトーサンに対して信頼感は寄せるもののやはり怖い存在という観念は持ったようで、女房のいうことを聞かないときにオトーサンが顔を見せるだけで悪さを止める。 
ともかくそうしたジレンマから抜け出すヒントを得られたのは野村潤一郎、コンラート・ローレンツ、スタンレー・コレン、エーベルハルト・トルムラーそして石川利昭ら各氏の著作のおかげだが、なによりも当のラテとの1年半にわたる日々の格闘の中からラテが教えてくれたことが大きいのだ。 

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※気の合う仲間たちと取っ組み合って遊ぶラテ


彼女やその友達たちの行動を観察するに、絶対に人間とワンコを同一視しているとは思えないことを確信するに至った。動物学者や訓練士でもないオトーサンの物言いは説得力に欠けるだろうが、オオカミの子孫だからして飼い主とその家族を群れの一員と見なすという意見には納得できなくなった。というよりある意味でワンコをきちんと観察して付き合っていればそんなことはすぐに分かるのではないか...と思うまでになった。 
初対面の人や子供に向き合うラテの態度はこれまた初対面のワンコたちへの態度とはまったく違う。 
ラテは初対面の子供や幼児に対してさえ、服従の態度で接し、無論噛みつくという素振りも見せない。接触することそのものを喜んでいる。しかしワンコに対しては違う。服従の態度で接するワンコもいるものの、反対に威嚇し、最初から噛みつくような素振りを見せることも多々ある。明らかに人とワンコを区別していることになる。
 
態度や対応が違うと言うことは間違いなく人とワンコを同列に考えていないということであり、ましてや人とワンコを同一視してひとつの群れだと認識してはいないということではないだろうか。そもそも人とワンコの違いを認識できる能力をワンコは持っていると考えなければならないだろう。 
無論群れ云々以前に力関係は存在する。オトーサンは怖いが餌もくれるし散歩にも連れて行ってくれる。オカーサンはともかく優しく何をしても怒らない...などなど。そうした人間の対応にある種のランクを付けてワンコが自身の行動や態度を変えることはあるが、ことあらばリーダーの座を狙ってやろうといった類の意志があるとはどうしても思えないのだ。 
ムツゴロウ動物王国の石川利昭氏は著書「2000匹が教えてくれた犬の真実~飼育マニュアルに吠えろ!」で「犬は人間家族を群れの仲間とは思っていません。犬が人間のボスにならないように、人間も犬のボスにはなれないのです」と言っている。オトーサンには納得の箇所であった。 
いずれにしてもワンコは飼い主が考えている以上に自分のポジションを知り尽くしていると感じる。それらを忘れて羽目を外すことも多々あるものの、自身と飼い主との関係を認知しつつどこまでが自分の行動として許されるかを知っているに違いない。 

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※ラテ2歳の誕生を祝ってささやかなケーキを用意しキャンドルを灯した(上)。ラテは大人しくヨダレを一杯にしてもらえるのを待つ... (下)


ワンコは我々人間の複雑な表現方法を理解するだけでなく、自分をいかにしたら理解してもらえるかを考えて行動に移す術を心得ている。また人間のパートナーとして進化してきたワンコは聡明で学習能力が高く人の気持ちまで理解する。 
それに対して我々はあまりにもこの聡明な生き物の本質を知ろうとしないのではないだろうか。 
ワンコの問題行動のそもそもの発端は、まさしく我々が本当の意味でワンコを知ろうとしないその一点にあるような気がする。 

ラテ2歳の誕生日の夜、小さなショートケーキに数字の2の形をしたキャンドルを灯してささやかなお祝いをした。ケーキを見上げるラテの視線はとても熱く、生クリームのついたカステラを美味しそうに食べたが、ケーキのほとんどは当然のことながらオトーサンの胃袋に入ったのであった(笑)。

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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員