Appleロゴデザインとその変遷

Appleはコンピュータ業界はもちろん、音楽や映像、デザインやポップカルチャー等にも大きな影響を与え続けてきた。今回はApple Computer社のシンボルであるアップル・ロゴの成立とその変遷をいくつかの資料を基に検証してみる。


Apple Computer社成功の秘密は様々な言われようがあるが、「アップル デザイン」の中でインテルのロバート・ノイスが「シリコンバレーのどの会社もPCを作れる可能性があったのに、どこもWozniakとJobsほどのビジョンを持ち合わせていなかった」と語っているのは興味深い。
さて早速だが、Apple Computer社が設立された直後の会社のロゴは、現在のような「囓りかけのリンゴ」ではなく、ペン画だったことはご存じだと思う。

page4_blog_entry271_1.jpg

※Apple社の最初期ロゴ(「SoFar」より)

Apple Computer社はこれまでスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックにより設立されたという事になっているが、事実としてはもう一人の共同設立者がおり、彼...ロン・ウェインによってそれはデザインされたものだという。このペン画はリンゴの木に寄りかかっているアイザック・ニュートンを描いたものだった。
なお、ロン・ウェインはジョブズの依頼でApple II用のケースデザインも考えたという。しかし、そのデザインはジョブズの趣味に合わず、結局ウォズニアックの古い友人ジェリー・マノックに相談する。マノックはかつてヒューレット・パッカード社のデザイナーだったからだ。

結局彼はジョブズの依頼を1,500ドルで請け負い、低予算で、それも展示会に間に合わせるために急いで製作が可能なリアルインジェクションモールディングという成形方法でApple IIのケースを製造することにした。
このケース制作に関しても紆余曲折があったが結果としてきちんとしたケースに基盤を収めたことがApple II成功のひとつの鍵となったことは確かである。ここに初めてユーザーが購入後すぐに使うことが出来る"パーソナルコンピュータ"が誕生した。

page4_blog_entry271_2.jpg

※Apple II のケースデザイン。蓋の上にはTVモニターやDiskIIを乗せるのが一般的だった


さて、ロゴに話を戻そう...。
ジョブズはしばらくして、ロン・ウェインによるそのロゴが堅苦しいイメージであること、そして小さくして利用するのには適していないことを理由にロゴを変えることにする。
具体的には1977年の4月、広報会社レジス・マッケンナ社に依頼し、そのアート・ディレクターであったロブ・ヤノフが現在のロゴの先駆けとなったあの6色のアップルロゴ、すなわち「囓りかけのリンゴ」をデザインした。同時にヤノフは6色の境界線に黒い線を入れることを提案した。それは印刷の時に色合わせが容易になるからだったが、細部のディティールにこだわるジョブズはこれを強く拒んだために、当時のApple社長マイケル・M・スコットは「もっとも印刷に金のかかるロゴ」と嘆いたという。
ちなみに何故あの6色なのかという疑問はApple IIユーザーなら簡単なことだ。それは緑、黄、オレンジ、赤、紫そして青というApple IIが出力できるカラーを讃えたものだからである。

またロブ・ヤノフは林檎の右サイドを囓った形にした理由として、英語で「かじる」を意味する「バイト(a bite)」と、コンピュータ世界の情報量の単位である「ビット&バイト(byte)」を掛けたつもりだったと説明している。そして、その "囓り後" があるおかげで、その形がチェリートマトに見えないようにといった意図もあったらしい。

この辺の事情は「マッキントッシュ伝説」の中でレジス・マッケナ社の代表であるマッケナ自身がインタービューに答えて、その行きがかりを認めている。
ただし、当時のロゴは現在のロゴとまったく同じであったわけではない。それはロゴが単独で使用されるだけでなくリンゴの囓ったカーブに合わせて "apple computer" というロゴタイプが加わっていた。

page4_blog_entry271_3.jpg

※Apple IIeのマニュアルに印刷されている当時のロゴおよびロゴタイプの使用例


「アップル デザイン」によれば、ジョブズはジェリー・マノックに、このロゴを使ったバッヂを作らせ、すべてのアップル製品に取り付けることにした...とある。ここでもジョブズは色と色の境界線があることを拒み、カラー同士が接していなければ承知せず、また仕上がったあるロットのロゴが、境界の色が混じり合っているからという理由で、受け取りを拒否したこともあるという。
そして様々な製品やパッケージに採用できるようにと、ロゴの各部の比率をきちんと定めたのもジェリー・マノックの役割だった。

さて、"Apple"という社名の由来については、これまた多くの伝説がある。リンゴがジョブズの好物であったとか、ジョブズがビートルズのファンだったとか。さらにジョブズが一時果樹園で働いていたという話まである。ただし確実なことは"Apple"という名はジョブズが発案したことだ。これは確からしい。

「パソコン革命の英雄たち」によれば、初期からApple社の経営アドバイスを行ってきたマイク・マークラが最初にやったこと、それはAppleという社名を決定づけたことだとされる。この社名なら電話帳で最初に見つけられるから、営業的見地からも利点だと彼は判断したという。また彼は「リンゴが嫌いな人はほとんどいないよ」とも言っている。

また先のレジス・マッケナも、「マッキントッシュ伝説」の中で、一部で彼がAppleという社名を嫌っていたという事を否定し、逆に気に入っていたと話している。そして「私がその名前を推したんです。アップルの周囲にはこの名に反対した人もたくさんいましたが、私は彼らを説得するのにずいぶん時間を費やした覚えがありますよ。」と発言している。

まあ、そうした話の真偽は今となっては知りようがないものの、レジス・マッケナが「マッキントッシュ伝説」の中で語っているように「私には信念がありまして、実は名前(社名)はあまり関係ないと思っています。名前そのものが問題なのではなく、その名前に象徴されるもの、その背景にある考えというのが最も大事なんです」という話は明言だと思う。Appleという名のため...あるいは6色のアップルロゴが成功に結びつく機動力となったのではなく成功したAppleだからこそそれらが注目されるのだ。

ともかくApple Computer社のロゴは"Apple"そのものとなったが関係者一同が意識したかどうかは分からないものの、そもそもシンボル...イメージは無意識にも我々の心象を表しているとも考えられる...。
私の座右の書でもある「Dictionary of Symbols and Imagery(イメージシンボル事典)」Ad de Vries著(大修館書店刊)によれば "apple"とは「この世の物質的欲望と歓喜一般」「不死」「知恵」「性的快楽と豊饒」「不和」「回春」「罪悪」などなど多くの意味を有するシンボルだということが分かる。

無論もともとは旧約聖書のエデンの園、すなわちキリスト教世界のエピソードからイメージが形成されたものだろうが、これらの大意を眺めているとApple Computer社の遍歴がそのまま凝縮されているような感じにも思えて興味深い(^_^)。

こうしたAppleの象徴とされる魅惑の6色アップル・ロゴはジョブズが暫定CEOに就任するや、単色のアップル・ロゴに置き換わっていく。そして1998年5月8日にリリースされたPowerBook G3シリーズに、はじめて単色のアップル・ロゴが使われ現在に至っている。
こうした事からAppleの拘りもあって、これまでマニュアルなどの印刷物などに対しても6色のロゴが常に使われてきたというイメージがある。無論そうした例は多いものの、実際には古い時代はもとよりジョブズがAppleに復帰する以前にも一部のマニュアルなどにはすでに単色のAppleロゴが使われていたことを知るユーザーは少ないかも知れない。
その一例として以下に示すように前記した古いAppleロゴ時代にも単色のロゴ使用例が見られる。

page4_blog_entry271_4.jpg

またあのNewtonのユーザーズガイド表紙にはトータルデザインの見地からか、ホワイト一色のロゴが使われている。

page4_blog_entry271_5.jpg

したがってジョブズ復帰後一夜にしてすべてのAppleロゴが単色になったといった類の話は...眉唾である(笑)。
しかし現在のAppleロゴは単色であっても様々なカラーで表現されている。6色時代とは違い、単色ロゴは確かに扱いやすくなっただけでなくスティーブ・ジョブズの口癖である「シンプル」と「クール」のどちらの要素も備えているように思われる。そしてその変化はApple成長の証であるのかも知れない。

ちなみに現在アップルコンピュータ社の名刺に使われているロゴも単色だが、私が手に入れただけでも以下のような5色のAppleロゴが存在する。あと黄色があれば色味は多少違ってはいるものの、例の6色が揃うことになるのだが...。

page4_blog_entry271_6.jpg

【参考資料】
・「Apple Confidential」Owen W.Linzmayer著、林信行・柴田文彦訳(アスキー出版局刊)
・「マッキントッシュ伝説」斎藤由多加著(アスキー出版局刊)
・「パソコン革命の英雄たち」Paul Freiberger & Michael Swain著、大田一雄訳(マグロウヒル刊)
・「林檎百科〜マッキントッシュクロニエル」SE編集部(翔泳社刊)
・「アップル デザイン」ポール・クンケル著、リック・イングリッシュ写真、大谷和利訳(アクシスパブリッシング刊)






関連記事
広告
ブログ内検索
Macの達人 無料公開
[小説]未来を垣間見た男 - スティーブ・ジョブズ公開
オリジナル時代小説「木挽町お鶴御用控」無料公開
オリジナル時代小説「首巻き春貞」一巻から外伝まで全完無料公開
ラテ飼育格闘日記
最新記事
カテゴリ
リンク
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

mactechlab

Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員