「大塚国際美術館」ひとり旅 (5) 〜祈りの声が聞こえてくる? 聖テオドール聖堂

大塚国際美術館の環境展示の中で、もしかしたら一番地味な場所かも知れないのがこの「聖テオドール聖堂」だ。オリジナルは奇妙な岩が群居しているカッパドキア(トルコ)にあるそうだが、気軽に観光としゃれ込める場所ではないようである。


ともあれオリジナルの場所に行ったことがないからして偉そうなことはいえないが、この再現された「聖テオドール聖堂」を見るとある意味システィーナ礼拝堂といった目玉以上に大塚国際美術館の本気度を感じることができる思いがした…。
そもそも「聖テオドール聖堂」の展示場所は見逃してしまうような位置にある。システィーナ礼拝堂やスクロヴェーニ礼拝堂と同じくB3のフロアーにあるものの、ギャラリーAのエリアにある狭い通路を経て一端外に出なければならないからだ。

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※「聖テオドール聖堂」のエントランスは外からという演出


そして後から気がついたが、この1度日の光が差し込む外に出てから岩窟の聖堂に入るという演出そのものが、素晴らしいと思う。室内に洞窟が再現されているよりずっとリアリティを感じられるからだが、内部保護のために作られたのだろう…赤く塗られた鉄の扉からその岩窟内部に足を踏み入れた途端この場所がレプリカであることを忘れさせてしまう…。

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※足を踏み入れると...【クリックで拡大します】


堅い砂地のままの床、岩を彫ったままの質感を残した壁の一部にキリストの生涯を描いた壁画が残っている。そして奥に小さな四半球型のスペースがありその天井一面にも土着色の強い絵が描かれている。ここが祭室だという。

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※奥にある小さな四半球型のスペースが祭室


上部に彫られた十字架周囲にある飾り文字の碑文からここは10世紀の前半に聖テオドロスに捧げられた聖堂だというが、当時の修道僧たちの厳しい生活の一端を垣間見たような気もした。

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※上部には十字架が彫られていた


写真ではそのスケールが分かりにくいと思うのでサイズを示しておきたいが、間口 496.5 ×奥行 1135 × 高 411.5 cmという実に狭い空間なのである。

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※内部の様子


個人的にビザンチン文化や当時のキリスト教文化に深い知識があるわけでもないものの、幸いというかその場に佇んでいた15分程の間に他の訪問客が1人もいなかったこともあり、前記した四半球型のスペース(コンク)の真下に佇んで目を閉じるとどこからか修道僧たちの祈りの声が聞こえてくるような幻聴を覚えた…。

システィーナ礼拝堂もスクロヴェーニ礼拝堂も実に素晴らしいが、この「聖テオドール聖堂」こそ私が一番来たかった場所なのかも知れない…と思うほど時間と空間を忘れさせる場所であった。

つづく

大塚国際美術館

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主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員