「大塚国際美術館」ひとり旅 (9) 〜ついに、ピカソの「ゲルニカ」と対面
1階は系統展示としては現代作品の場所だが、他にテーマ展示として「空間表現」「トロンプ・ルイユ(だまし絵)」「時」そして「生と死」をテーマにした作品がセレクトされている。しかし系統展示としての現代作品はピカソの「ゲルニカ」が独り占めしているようなインパクトで見る者に迫ってくる。
この階に「ゲルニカ」が展示されていることは知っていたが、実はこの1階にはひとつだけ環境展示の場がある。まずはそれを鑑賞しようと狭いスペースに立ち入ったが、それがイタリア、ウルビーノにあるという「ストゥディオーロ」(小書斎)と名付けられたものだ。
この部屋の特長は床から約2メートルほどまですべてが寄木細工の装飾で覆われ、その上方壁面には彩色による古今の著名人28点の肖像画で飾られていることだ。

※「ストゥディオーロ」(小書斎)の一郭
ではなぜこの階にこの「ストゥディオーロ」の環境展示があるかといえば、それは寄木細工と共に描かれている幾何学的形態や静物あるいは都市の景観などがめざましい「トロンプ・ルイユ(だまし絵)」効果を有しているからに違いない。

※「ストゥディオーロ」(小書斎)のだまし絵一部
ルネサンスには書斎を持つことが知識人たちの流行であり、その装飾は持ち主の教養のありようを端的に示すものとして重要視されたようだ。しかし28人もの著名人たちに見下ろされたこんな書斎で落ち着いて読書などできようか…(笑)。
そんなことを考えながら1Fのテーマ展示をざっと回ったが、昔澁澤龍彦の著書で知った「麗しのロジーヌ」というアントニー・ヴィールツの絵に釘付けになった。

※アントニー・ヴィールツ作「麗しのロジーヌ」は小さな絵だった
その若くて美しい女性が骸骨と対峙しているという作品だが、私にとっては馴染みのある作品ではあったがまずはその小さなサイズに驚いた。ずっと大きい絵だと思い込んでいたが、それは大変小さな額装だった。
骸骨に貼られている小さなラベルには「麗しのロジーヌ」の文字があるが、前記した澁澤龍彦はその著書『幻想の肖像』で「麗しのロジーヌ」を解説している。それによれば向かい合った裸体の少女と骸骨とは、要するに同じ人間の別の姿にすぎないとし、豊満な肉体美を誇る少女もやがて、死すべき時がくれば彼女の前に立っている骸骨となるという寓意だと述べていた。要するに「メメントモリ…死を思え」ということか。この作品がテーマ展示の「生と死」のコーナーに展示されている所以であろう。

※故澁澤龍彦の書籍などで馴染んでいた「麗しのロジーヌ」に会えて感激
「麗しのロジーヌ」というどこか懐かしい作品に出会ったことで足腰の疲れがほんの少し和らいだように思いつつ、待望の「ゲルニカ」に会いに行った。
想像はしていたが第一印象はデカイ…ということだった(笑)。絵の正面を外さず、可能な限り引いて写真を撮ったが14mmの広角で何とかやっと左右が入るというサイズなのだ。しかしこのピカソが魂をはき出した作品に没頭すると人間の愚かしさと暴力の悲惨さをあらためて感じざるを得ない。


※ピカソの大作「ゲルニカ」
この階には他のピカソ作品はもとよりアンディ・ウォーホルの作品やボロック、リキテンスタイン、そしてミロ、モンドリアン、キリコ、ダリ、エルンストなどなどお馴染みの作品が展示されている。




※上からピカソ、アンディ・ウォーホル、ミロそしてモンドリアンの作品たち
ふと何かが足りないと感じて立ち止まったが、そういえばルネ・マグリッドの作品がないようだ…。単に見落としかもしれないと後で展示作品リストも斜め読みしたがやはり見つからない。著作権がクリアされなかったのだろうか…。
実はこの大塚国際美術館の素晴らしいところは当然といえば当然なのだが展示の複製画制作に際して著作権者に正式に許可を取っていることだ。
これは想像するに企画段階の仕事としては建物建設以上に重要で神経の使うものだったと想像できるが、原画所蔵の美術館責任者や芸術家の子息たちを招き、承諾のための検品をさせているというのだから凄い。無論中には当初懐疑的な人たちもいたようだがピカソの令息などから陶板による出来の素晴らしさにメッセージが寄せられているという。
かなり、足腰に来ていることを実感しながら最後の展示階である2Fへ向かった。
つづく
■大塚国際美術館
この階に「ゲルニカ」が展示されていることは知っていたが、実はこの1階にはひとつだけ環境展示の場がある。まずはそれを鑑賞しようと狭いスペースに立ち入ったが、それがイタリア、ウルビーノにあるという「ストゥディオーロ」(小書斎)と名付けられたものだ。
この部屋の特長は床から約2メートルほどまですべてが寄木細工の装飾で覆われ、その上方壁面には彩色による古今の著名人28点の肖像画で飾られていることだ。

※「ストゥディオーロ」(小書斎)の一郭
ではなぜこの階にこの「ストゥディオーロ」の環境展示があるかといえば、それは寄木細工と共に描かれている幾何学的形態や静物あるいは都市の景観などがめざましい「トロンプ・ルイユ(だまし絵)」効果を有しているからに違いない。

※「ストゥディオーロ」(小書斎)のだまし絵一部
ルネサンスには書斎を持つことが知識人たちの流行であり、その装飾は持ち主の教養のありようを端的に示すものとして重要視されたようだ。しかし28人もの著名人たちに見下ろされたこんな書斎で落ち着いて読書などできようか…(笑)。
そんなことを考えながら1Fのテーマ展示をざっと回ったが、昔澁澤龍彦の著書で知った「麗しのロジーヌ」というアントニー・ヴィールツの絵に釘付けになった。

※アントニー・ヴィールツ作「麗しのロジーヌ」は小さな絵だった
その若くて美しい女性が骸骨と対峙しているという作品だが、私にとっては馴染みのある作品ではあったがまずはその小さなサイズに驚いた。ずっと大きい絵だと思い込んでいたが、それは大変小さな額装だった。
骸骨に貼られている小さなラベルには「麗しのロジーヌ」の文字があるが、前記した澁澤龍彦はその著書『幻想の肖像』で「麗しのロジーヌ」を解説している。それによれば向かい合った裸体の少女と骸骨とは、要するに同じ人間の別の姿にすぎないとし、豊満な肉体美を誇る少女もやがて、死すべき時がくれば彼女の前に立っている骸骨となるという寓意だと述べていた。要するに「メメントモリ…死を思え」ということか。この作品がテーマ展示の「生と死」のコーナーに展示されている所以であろう。

※故澁澤龍彦の書籍などで馴染んでいた「麗しのロジーヌ」に会えて感激
「麗しのロジーヌ」というどこか懐かしい作品に出会ったことで足腰の疲れがほんの少し和らいだように思いつつ、待望の「ゲルニカ」に会いに行った。
想像はしていたが第一印象はデカイ…ということだった(笑)。絵の正面を外さず、可能な限り引いて写真を撮ったが14mmの広角で何とかやっと左右が入るというサイズなのだ。しかしこのピカソが魂をはき出した作品に没頭すると人間の愚かしさと暴力の悲惨さをあらためて感じざるを得ない。


※ピカソの大作「ゲルニカ」
この階には他のピカソ作品はもとよりアンディ・ウォーホルの作品やボロック、リキテンスタイン、そしてミロ、モンドリアン、キリコ、ダリ、エルンストなどなどお馴染みの作品が展示されている。




※上からピカソ、アンディ・ウォーホル、ミロそしてモンドリアンの作品たち
ふと何かが足りないと感じて立ち止まったが、そういえばルネ・マグリッドの作品がないようだ…。単に見落としかもしれないと後で展示作品リストも斜め読みしたがやはり見つからない。著作権がクリアされなかったのだろうか…。
実はこの大塚国際美術館の素晴らしいところは当然といえば当然なのだが展示の複製画制作に際して著作権者に正式に許可を取っていることだ。
これは想像するに企画段階の仕事としては建物建設以上に重要で神経の使うものだったと想像できるが、原画所蔵の美術館責任者や芸術家の子息たちを招き、承諾のための検品をさせているというのだから凄い。無論中には当初懐疑的な人たちもいたようだがピカソの令息などから陶板による出来の素晴らしさにメッセージが寄せられているという。
かなり、足腰に来ていることを実感しながら最後の展示階である2Fへ向かった。
つづく
■大塚国際美術館
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