スティーブ・ジョブズ 1995 〜ロスト・インタビュー(講談社刊)〜 雑感
映画「スティーブ・ジョブズ 1995 〜 失われたインタビュー 〜」公開記念として講談社から刊行された同名の書籍を手にして読み始めた。まだ映画は見ていないが YouTubeにアップされている15分間ほどのプロモーション映像と共にスティーブ・ジョブズという希有な男の実像に少しでも近づきたいと楽しんでいる…。
そもそも本映像は1995年にTV局のインタビュー番組として撮られたものだった。しかし番組ではほんの一部しか放映されなかったばかりかオリジナルのテープが紛失し、ために関係者は本編を “ロスト・インタビュー” と呼んでいたという。
しかしスティーブ・ジョブズが亡くなってからまもなく,偶然にオリジナルからVHSにコピーしたテープが発見され、今回の映画公開となったわけだ。そして本書はそのインタービューの内容をテキスト化し翻訳したものであり、後半は原文(英語)との対訳も載っている。
※「スティーブ・ジョブズ 1995 〜ロスト・インタビュー(講談社刊)」表紙
さて、スティーブ・ジョブズ本人のことは勿論、Appleの事情に疎い一般の人から見ればTV番組用として撮られた18年も前のインタビューを今更仰々しく映画に仕立てるなど大げさだと思われるかも知れない。いや、事情通の1人だと自負している私自身も本音をいえば、映画公開はともかく早々にDVDで流通させて欲しいと考えている。しかし要はスティーブ・ジョブズが大のインタビュー嫌いなこともあってこの時期の...それもこれだけまとまった映像が他にほとんどなく貴重な映像なことは間違いないのだ。
※映画「スティーブ・ジョブズ 1995 〜 失われたインタビュー 〜」プロモーションビデオ
さらに一番の魅力はその内容である。当時コンピュータ業界で最も影響力のあるジャーナリストとして知られていたロバート・X・クリングリーがインタビューアーだったからか、気に入らないと途中で席を立ってしまうことさえあったジョブズが、スカリーとの確執、アップルを辞めざるを得なかった背景、ゼロックス・パロアルト研究所を訪れた話、あるいは当時のNeXT社の現状などについてきちんと語っていることだ。
ちなみにロバート・X・クリングリーはこれ以前に「コンピュータ帝国の興亡(原題:ACCIDENTAL EMPIRES)」という本を出版している。
※ロバート・X・クリングリー著「コンピュータ帝国の興亡」アスキー出版局刊表紙
無論Apple社を創立するに至るエピソードや相棒のスティーブ・ウォズニアックとの思い出などもジョブズ自身が語っていることに大きな魅力があるものの、ジョブズ自身が「それらはすでに古代史であり大したことではない」というのも彼らしい…。
また興味深い事にスティーブ・ジョブズはインタビューの翌年(1996年)年末にNeXT社をAppleに売却し、自身も古巣へ戻ることになる。その後の活躍はあらためて申し上げる必要はないと思うが、この1995年時点でのインタービューで交わす彼のパーソナルコンピュータの未来像といった話はその後のApple社の動向や我々の日常生活の変革に繋がる驚くほど先見性を持った内容であることに注目すべきだろう。
勿論スティーブ・ジョブズが未来へ附言することはこれが初めてではなく、例えば29歳のとき米国PLAYBOY誌のインタビューで語った内容と照らし合わせると一層スティーブ・ジョブズという男が常々何を考えていたかがより鮮明になってくるに違いない。
このインタビューのあった1995年、スティーブ・ジョブズにとって気詰まりの時代であり岐路にあったことは間違いない。Appleを退社後、勢いづいて設立したNeXT社は思ったようにいかず、結局ハードウェア部門をキヤノンに売却し当時のビジネスはNeXT STEP (OS) の開発および販売に限られ、鳴かず飛ばずの状態だった。
別途ピクサーは上昇機運にあったもののジョブズにとっての天職はやはりコンピュータの世界で日の目を見ることであり、宇宙を凹ますことだったに違いない。
NeXTのことを聞かれたとき、ジョブズは「NeXTの話なんか、ほんとうは聞きたくないんだろう?」と返している。多分に彼はあまり話したくなかったに違いないし事実その話はかなり短い。
もしかしたらこの時期、水面下でAppleに戻ることを画策していたという推論も成り立つほど、ジョブズの本心は何といってもAppleに戻りたいと考えていたようだ。しかし現実は彼の思うようになったし、NeXT社の遺産が現在のMac OS X誕生の核となった。
さて、スティーブ・ジョブズが意外にも素直にインタビューに応じているのは相手がクリングリーだったからというだけでなく、Appleについて…Appleの未来についてジョブズ自身が話したかったからかも知れないとも感じた。それは彼の頭の中には常にAppleという存在が大きかったに違いないからだ。そして常々市場で話題になる事を意図的に画策した感のあるジョブズだからしてアピールの良い機会だと考えたのかも知れない。
私は相変わらずだが、このインタビューの内容も資料としての魅力で目を通しているものの、念のため申し上げれば例え本人の口から語られることだとしてもそれが事実であるかどうかはまた別の問題だと考えるべきだ。TV放映されるために撮られたインタビューでもあり、ジョブズとしても一般視聴者の目・耳を意識して話をした点もあるに違いないし勘違いや思い違いもありうる。
ともあれ、そもそも本書はもとより同名の映画にしてもスティーブ・ジョブズやAppleに興味のない人は見るはずもないだろう(笑)。しかし少しでもIT業界に足を突っ込んでいる方やAppleおよびそのプロダクトのコンセプト、その特異性に興味のある方には是非接していただくことをお勧めする。何故ならスティーブ・ジョブズこそAppleそのものであり、現在は彼のいなくなったAppleではあるものの、彼のスピリットは弱まりつつもAppleの製品に反映され続けると思われるからだ。
それはともかく来月10月5日の忌日を前に、本書を手にして思うことは素直に「スティーブ・ジョブズという男…後少なくとも10年は生きていて欲しかった」ということに尽きる。
そしてまたスティーブ・ジョブズと同じ時代に生き、リアルタイムにパーソナルコンピュータの進化に接し、Appleというユニークな相手とその市場でビジネスに…それもジョブズの息吹を感じながら…関わることができたことは何事にも代え難い体験であり思い出であると痛切に感じている。
そもそも本映像は1995年にTV局のインタビュー番組として撮られたものだった。しかし番組ではほんの一部しか放映されなかったばかりかオリジナルのテープが紛失し、ために関係者は本編を “ロスト・インタビュー” と呼んでいたという。
しかしスティーブ・ジョブズが亡くなってからまもなく,偶然にオリジナルからVHSにコピーしたテープが発見され、今回の映画公開となったわけだ。そして本書はそのインタービューの内容をテキスト化し翻訳したものであり、後半は原文(英語)との対訳も載っている。
※「スティーブ・ジョブズ 1995 〜ロスト・インタビュー(講談社刊)」表紙
さて、スティーブ・ジョブズ本人のことは勿論、Appleの事情に疎い一般の人から見ればTV番組用として撮られた18年も前のインタビューを今更仰々しく映画に仕立てるなど大げさだと思われるかも知れない。いや、事情通の1人だと自負している私自身も本音をいえば、映画公開はともかく早々にDVDで流通させて欲しいと考えている。しかし要はスティーブ・ジョブズが大のインタビュー嫌いなこともあってこの時期の...それもこれだけまとまった映像が他にほとんどなく貴重な映像なことは間違いないのだ。
※映画「スティーブ・ジョブズ 1995 〜 失われたインタビュー 〜」プロモーションビデオ
さらに一番の魅力はその内容である。当時コンピュータ業界で最も影響力のあるジャーナリストとして知られていたロバート・X・クリングリーがインタビューアーだったからか、気に入らないと途中で席を立ってしまうことさえあったジョブズが、スカリーとの確執、アップルを辞めざるを得なかった背景、ゼロックス・パロアルト研究所を訪れた話、あるいは当時のNeXT社の現状などについてきちんと語っていることだ。
ちなみにロバート・X・クリングリーはこれ以前に「コンピュータ帝国の興亡(原題:ACCIDENTAL EMPIRES)」という本を出版している。
※ロバート・X・クリングリー著「コンピュータ帝国の興亡」アスキー出版局刊表紙
無論Apple社を創立するに至るエピソードや相棒のスティーブ・ウォズニアックとの思い出などもジョブズ自身が語っていることに大きな魅力があるものの、ジョブズ自身が「それらはすでに古代史であり大したことではない」というのも彼らしい…。
また興味深い事にスティーブ・ジョブズはインタビューの翌年(1996年)年末にNeXT社をAppleに売却し、自身も古巣へ戻ることになる。その後の活躍はあらためて申し上げる必要はないと思うが、この1995年時点でのインタービューで交わす彼のパーソナルコンピュータの未来像といった話はその後のApple社の動向や我々の日常生活の変革に繋がる驚くほど先見性を持った内容であることに注目すべきだろう。
勿論スティーブ・ジョブズが未来へ附言することはこれが初めてではなく、例えば29歳のとき米国PLAYBOY誌のインタビューで語った内容と照らし合わせると一層スティーブ・ジョブズという男が常々何を考えていたかがより鮮明になってくるに違いない。
このインタビューのあった1995年、スティーブ・ジョブズにとって気詰まりの時代であり岐路にあったことは間違いない。Appleを退社後、勢いづいて設立したNeXT社は思ったようにいかず、結局ハードウェア部門をキヤノンに売却し当時のビジネスはNeXT STEP (OS) の開発および販売に限られ、鳴かず飛ばずの状態だった。
別途ピクサーは上昇機運にあったもののジョブズにとっての天職はやはりコンピュータの世界で日の目を見ることであり、宇宙を凹ますことだったに違いない。
NeXTのことを聞かれたとき、ジョブズは「NeXTの話なんか、ほんとうは聞きたくないんだろう?」と返している。多分に彼はあまり話したくなかったに違いないし事実その話はかなり短い。
もしかしたらこの時期、水面下でAppleに戻ることを画策していたという推論も成り立つほど、ジョブズの本心は何といってもAppleに戻りたいと考えていたようだ。しかし現実は彼の思うようになったし、NeXT社の遺産が現在のMac OS X誕生の核となった。
さて、スティーブ・ジョブズが意外にも素直にインタビューに応じているのは相手がクリングリーだったからというだけでなく、Appleについて…Appleの未来についてジョブズ自身が話したかったからかも知れないとも感じた。それは彼の頭の中には常にAppleという存在が大きかったに違いないからだ。そして常々市場で話題になる事を意図的に画策した感のあるジョブズだからしてアピールの良い機会だと考えたのかも知れない。
私は相変わらずだが、このインタビューの内容も資料としての魅力で目を通しているものの、念のため申し上げれば例え本人の口から語られることだとしてもそれが事実であるかどうかはまた別の問題だと考えるべきだ。TV放映されるために撮られたインタビューでもあり、ジョブズとしても一般視聴者の目・耳を意識して話をした点もあるに違いないし勘違いや思い違いもありうる。
ともあれ、そもそも本書はもとより同名の映画にしてもスティーブ・ジョブズやAppleに興味のない人は見るはずもないだろう(笑)。しかし少しでもIT業界に足を突っ込んでいる方やAppleおよびそのプロダクトのコンセプト、その特異性に興味のある方には是非接していただくことをお勧めする。何故ならスティーブ・ジョブズこそAppleそのものであり、現在は彼のいなくなったAppleではあるものの、彼のスピリットは弱まりつつもAppleの製品に反映され続けると思われるからだ。
それはともかく来月10月5日の忌日を前に、本書を手にして思うことは素直に「スティーブ・ジョブズという男…後少なくとも10年は生きていて欲しかった」ということに尽きる。
そしてまたスティーブ・ジョブズと同じ時代に生き、リアルタイムにパーソナルコンピュータの進化に接し、Appleというユニークな相手とその市場でビジネスに…それもジョブズの息吹を感じながら…関わることができたことは何事にも代え難い体験であり思い出であると痛切に感じている。
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