Lisa 筐体デザイン再考

些かタイミングを逸したが1月19日(1983年)はLisaが発表された記念日である。そのLisaをあらためて現在の視点から眺めると30数年前に羨望の目で見ていた印象とはかなり違った思いを抱く...。あくまで本体のデザインや製品の作りといった点においての感想だが、今回はそんなお話しをしたい。早い話がLisaはデザインでもAppleらしからぬ愚行をやっている...。


Appleといえばデザイン、デザインといえばAppleといった感がする昨今だが、Appleのいうところのデザインは決して形だけを意味するものではなく使い勝手や機能までをも含む意味合いを含んでいる。とはいえAppleが作ってきたパソコンたちがすべてそうしたデザイン的に優れていたのかといえば...そんなことはない...。

Apple II のケースにしてもタイプライターを思わせるシンプルで実用的なデザインではあってもそのデザインは現在の視点からは観るべき点はあまりない。ケースに収めたということ自体が当時として斬新だったのだ。そしてApple III は贔屓目に見てもよいデザインとは思えない(笑)。ではLisaはどうなのだろうか...。

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※当研究所で常に可動状態にあるApple Lisa 2/10


Lisaの...あくまで製品の筐体デザインに関していうなら、これまた素敵とは申し上げられないだろう。スティーブ・ジョブズもカンチレバー上に突き出たスクリーンを持つその両サイドの形状を額が狭い原始人に例え「クロマニョンルック」と批判したという(笑)。

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※スティーブ・ジョブズが「クロマニョンルック」と批判したカンチレバー上に突き出たスクリーンを持つLisa


確かに横からのフォルムは顎が突き出た人の顔のようにも見えるが、スティーブ・ジョブズが心血を注いで開発したMacintoshだって横からのフォルムは程度問題で似たようなものだ...。

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※Macintosh 128Kのサイドデザイン。程度の違いはあれどLisaのサイドデザインと似ている


当ブログではこれまでにもLisaのあれこれに関して考察してきたが、今になって思えば商業的に失敗したその理由は決して1万ドルという高い値付けだけではなかったように思う。
最初に思うことはやはりその筐体のサイズだろうか...。ブラウン管式のディスプレイ、その横に2台の5.25インチのフロッピーディスクを装備し(Lisa 2になってからソニー製3.5インチを採用)当時としては広大な1MBのメモリを搭載したマシンは時代の壁は崩せずどうしてもこのサイズになってしまうのだろう。何しろLisaより1年後に登場したMacintoshのメモリはたったの128KBだったしLisaと同様な1MBのメモリを実装したMacintosh Plusは1986年にならないと登場しなかった。それだけLisaは進んだ設計ではあった。
したがって筐体のサイズがでかくなるのは仕方がないとはいえ、いくらアメリカのエグゼクティブの机が大きいといってもおいそれと乗せるわけにもいかないだろう。

例えばそのメモリだが、512KBのメモリボードを2枚装備して1MBを実現していたがその512KBのメモリボードのサイズにしても今では考えられないほどに基板が大きい。現在ならご承知のように204ピンのSO-DIMM規格では幅:67.60 mm x 高さ:30.00 mmといった小さなボードに数GBものメモリ容量を乗せることか出来る。

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※Lisaの基盤ユニット。手前の2枚がそれぞれ512KBのメモリボード


そして最大の間違いはProFileと呼ぶ5MBの外付けハードディスクの選択だ。
後にLisa 2/10 とマイナーチェンジされてから10MBのハードディスクが内蔵されたが、この外付けProFileはなんとも不細工だった。いやそのデザインとか外付けが...ということではない。当時として技術的な限界もあったし制約もあったから闇雲に批判するつもりはないしProFile単体で見るならこれはこれで素敵でもあると思う。

私が批判するのはLisa本体を考えた上でのProFileのデザインとサイズである。
このProFileは一般的にLisa本体の上に乗せられて利用することを推奨された。無論別途机上に置いても問題はないがそれだけスペースを要するわけで、Lisa本体の上に乗せるのがスタイルとされたしAppleのカタログの多くにもそうした形で写真が載っている。

問題は実際に置いて見ると実に見栄えが悪いのだ。それは単純にProFileの横幅とLisaの横幅が違うからである。なぜこんな事になったのだろうか...。それはこのProFile、そもそもApple III 向けに開発されたものであり、それをそのままLisaにも流用したからである。

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※本体側面に合わせてProFileを置いて見るとサイズの違いがよくわかる


スティーブ・ジョブズは早い時期にLisa開発のプロジェクトから外されたがためにジェフ・ラスキンが企画を進めていたMacintoshプロジェクトに頭を突っ込んだことはよく知られているとおりだ。ただしLisaの開発とMacintoshの開発はリリース時期を競い合っていただけでなくシステムソフトウェア類にしても情報の行き来はあったようだしプログラマーのビル・アトキンソンらは双方掛け持ちで仕事をしていたようだ。

しかし少なくとも強力な発言権がスティーブ・ジョブズにあったならProFileをそのままLisaに使うという愚行はしなかったのではないだろうか。ゼロから作り直すというリスクは犯さないにしてもせめて筐体のサイズはLisaの横幅に合わせてつくり直させたのではないかと想像しているのだが...。

そしてLisa最初のフロントデザインは当然のことながらキーボードやマウスとボディの面取りのデザインなどで共通性があったもののProFileは先の理由によりLisaの純正周辺機器としての主張は弱くなっていた。さらに後に価格を低く抑え、フロッピーディスクをMacintoshと同じ3.5インチのもの一基に変更したフロントは殺風景になったためだろうか、初期デザインにはなかった11本のスリットを入れた。

このスリットは向かって右側にフロッピーディスク上部へハードディスクを内蔵したモデルも用意したことでもあり、本体内の熱を逃がす目的も兼ねてはいるが、如何せんProFileはもとよりキーボードやマウスとのデザインの統一性は完全に崩れたといってよいだろう。

こうして34年も時を超えて現在の視点から見るとLisaという画期的なコンピュータはApple社内の覇権争いに巻き込まれ当初の理想を様々な意味で歪められたように思われる。
とはいえLisaがなかったらMacintoshもなかったし、Macintoshに刺激されたビル・ゲイツがWindowsの開発に着手することもなかったか…あったとしても現在のパソコンの状況とは随分と違った結果になったと思われる。

Lisaは商業的には失敗したパソコンであったし、その斬新的な仕様すべてがAppleのオリジナルであったとは言わないが、いわば現在のパーソナルコンピュータの母なる存在と言ってよいコンピュータだったことは間違いないのである。

【主な参考資料】
・「レボリューション・イン・ザ・バレー」オイラリー・ジャパン刊
・「アップル・コンフィデンシャル 2.5J」(上) アスペクト刊
・「マッキントッシュ伝説」アスキー出版局刊
・「アップルデザイン」アクシスパブリッシング刊






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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員