"Think different"広告に見るAppleの1998年
暮れの掃除ということで小さな書棚の奥を探っていたら1998年3月に出版された「クレイジーな人たちへ〜アップル宣言」という小さな書籍が出てきた。このThink differentキャンペーンは前年の1997年にスタートしたもので、あの「1984」のコマーシャルを製作した会社が作ったものだ。
最初このコマーシャルはソフト過ぎて物足りないと批評された。確かにアインシュタインやガンジー、そしてエジソンたちのモノクロポスターを見ただけではその真意を瞬時に理解することは難しかったかも知れない。その隅に小さな6色のアップルロゴを発見してやっと「Appleの広告だ!」と認識した人も多かったようだ。
※企業のコマーシャルが一冊の本となったというユニークな一冊
しかし1997年はスティーブ・ジョブズ氏が iCEOに就任し、翌1998年1月開催のMacworld Expoにおいて1998年度の第1四半期には黒字を計上できそうだと述べて来場者の拍手を受けた記念すべき年であり、かつ5月のWWDCではあの初代 iMacを発表し大成功を収めた年でもあった。
そうした時期におけるAppleの広告としてこのThink differentは些かインパクトが弱いものであったかも知れないし事実そうした批判を意識してか前記した広告代理店はAppleのG3プロセッサのスピードを強調するためにインテルのペンティアムIIをカタツムリの上に乗せて歩かせる過激なコマーシャルをも投入した。
無論それまで長きにわたってAppleの広告代理店を務めてきたBBDO社との契約を打ち切り、Macintosh発表時のスーパーボール時に流した伝説的なコマーシャル「1984」を製作したTBWAチアット/ディ社と契約し直したのもスティーブ・ジョブズ氏の意図からくる路線変更だったことだろう。
※Macworld Expo サンフランシスコの会場内に告知された "Think different" 広告たち。すべて筆者が撮影
また1998年はAppleという企業の体質を大きく変えるニュースも多かった年だ。当時も利益を上げていたといわれていた子会社のクラリス従業員の多くをレイオフし、かつ社名をファイルメーカーに変えた。さらにMessagePad 2100やeMate 300などといったNewton関連製品の開発打ち切りを発表した。
市場やユーザーは大いに不満の声を上げたが2期連続の黒字を計上するという何よりのニュースがあったためか、それらの不満は最小限に抑えられた感がある。
この1998年という年はそうしたあれやこれやでAppleにとっては今では考えられないほど激動の一年であったといえる。
そうした中で「クレイジーな人たちへ」という一見過激なコピーかと思えるものの、そのポスターや広告はモノクロ写真であったこと、そして偉大な人たちの顔がそこにあったにせよ全体的なイメージとしては静かなものであったと言えるかも知れない。
しかし2006年のはじめにあたりあらためてその広告が一冊の本になった「クレイジーな人たちへ〜アップル宣言」を見るにつけ、やはり尋常でない優秀な広告であったのだとあらためて感じる...。
そして大変うがったインスピレーションかも知れないが、苦境のAppleを再び活気に満ちた企業に戻そうとしていたスティーブ・ジョブズ氏自身このクレイジーな人たちの仲間に相応しい人物だったのかも知れない。
"To the crazy Ones. Here's to the creazy ones."で始まるThink differentのコピーこそアインシュタインやガンジーではなくスティーブ・ジョブズ氏自身にもっとも相応しいものであったといえるのではないだろうか。
_____________________________________________________________
「クレイジーな人たちへ〜アップル宣言」
1998年3月14日 初版発行
企画・構成:フライ・コミュニケーションズ
訳者:真野流 北山耕平
協力:アップルコンピュータ株式会社
発行所:株式会社 三五館
書籍コード:ISBN4-88320-908-3
定価:本体1,000円 (税別)
_____________________________________________________________
最初このコマーシャルはソフト過ぎて物足りないと批評された。確かにアインシュタインやガンジー、そしてエジソンたちのモノクロポスターを見ただけではその真意を瞬時に理解することは難しかったかも知れない。その隅に小さな6色のアップルロゴを発見してやっと「Appleの広告だ!」と認識した人も多かったようだ。
※企業のコマーシャルが一冊の本となったというユニークな一冊
しかし1997年はスティーブ・ジョブズ氏が iCEOに就任し、翌1998年1月開催のMacworld Expoにおいて1998年度の第1四半期には黒字を計上できそうだと述べて来場者の拍手を受けた記念すべき年であり、かつ5月のWWDCではあの初代 iMacを発表し大成功を収めた年でもあった。
そうした時期におけるAppleの広告としてこのThink differentは些かインパクトが弱いものであったかも知れないし事実そうした批判を意識してか前記した広告代理店はAppleのG3プロセッサのスピードを強調するためにインテルのペンティアムIIをカタツムリの上に乗せて歩かせる過激なコマーシャルをも投入した。
無論それまで長きにわたってAppleの広告代理店を務めてきたBBDO社との契約を打ち切り、Macintosh発表時のスーパーボール時に流した伝説的なコマーシャル「1984」を製作したTBWAチアット/ディ社と契約し直したのもスティーブ・ジョブズ氏の意図からくる路線変更だったことだろう。
※Macworld Expo サンフランシスコの会場内に告知された "Think different" 広告たち。すべて筆者が撮影
また1998年はAppleという企業の体質を大きく変えるニュースも多かった年だ。当時も利益を上げていたといわれていた子会社のクラリス従業員の多くをレイオフし、かつ社名をファイルメーカーに変えた。さらにMessagePad 2100やeMate 300などといったNewton関連製品の開発打ち切りを発表した。
市場やユーザーは大いに不満の声を上げたが2期連続の黒字を計上するという何よりのニュースがあったためか、それらの不満は最小限に抑えられた感がある。
この1998年という年はそうしたあれやこれやでAppleにとっては今では考えられないほど激動の一年であったといえる。
そうした中で「クレイジーな人たちへ」という一見過激なコピーかと思えるものの、そのポスターや広告はモノクロ写真であったこと、そして偉大な人たちの顔がそこにあったにせよ全体的なイメージとしては静かなものであったと言えるかも知れない。
しかし2006年のはじめにあたりあらためてその広告が一冊の本になった「クレイジーな人たちへ〜アップル宣言」を見るにつけ、やはり尋常でない優秀な広告であったのだとあらためて感じる...。
そして大変うがったインスピレーションかも知れないが、苦境のAppleを再び活気に満ちた企業に戻そうとしていたスティーブ・ジョブズ氏自身このクレイジーな人たちの仲間に相応しい人物だったのかも知れない。
"To the crazy Ones. Here's to the creazy ones."で始まるThink differentのコピーこそアインシュタインやガンジーではなくスティーブ・ジョブズ氏自身にもっとも相応しいものであったといえるのではないだろうか。
_____________________________________________________________
「クレイジーな人たちへ〜アップル宣言」
1998年3月14日 初版発行
企画・構成:フライ・コミュニケーションズ
訳者:真野流 北山耕平
協力:アップルコンピュータ株式会社
発行所:株式会社 三五館
書籍コード:ISBN4-88320-908-3
定価:本体1,000円 (税別)
_____________________________________________________________
- 関連記事
-
- Apple 元DR副社長ハイディー・ロイゼンの思い出 (2006/03/06)
- 伝説となった Apple CONVENTION '86 裏話 (2006/03/02)
- スティーブ・ジョブズとパロアルト研究所物語 (2006/02/25)
- Apple QuickTake100 リリース前秘話 (2006/02/24)
- 久しぶりの「漢字Talk1.0」は面白い! (2006/02/19)
- "Think different"広告に見るAppleの1998年 (2006/01/02)
- 千駄ヶ谷にある旧アップル本社ビルを見上げて... (2005/07/08)
- Mac Fan MVP’99特別賞の回想と秘話 (2005/05/16)
- NIBBLE NOTCH って...知ってますか? (2005/03/15)
- 「MACLIFE」創刊は20ページのアップルグッズカタログが (2005/03/07)
- Mac専門誌「MACLIFE」創刊前夜〜アップルの広告など... (2005/03/06)