久しぶりの「漢字Talk1.0」は面白い!

インテル版Macが話題の中心にあるとき、今さら「漢字Talk 1.0」でもないかも知れないが(笑)、いくかつ確認したいことがあったので久しぶりにMacPlusでその「漢字Talk 1.0」を起動してみた。 


念のために記すが、私のMacintosh Plusは初代Macintosh 128Kから512Kへとアップグレードし、さらに1986年にPlusへと基盤交換をした由緒あるマシンなのである(^_^)。さらに米国の業者へ本体一式を送り、キーボードからマウスに至るまで御影石調に塗ったものだ。 
嬉しいことに内蔵フロッピードライブならびにフロッピーディスクがデータの受け渡し時に重要な役割を果たすことになるがトラブルは発生していないという健康優良児である。 

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※1984年購入のMacintosh 128Kは翌年512Kへのアップグレードを経て1986年にはMacintosh Plusとして生まれ変わった。その後米国の業者へ送り御影石調にペイント


さて周知のように1984年に登場したMacintoshは日本語対応ではなかった。現在でもいち早くユニバーサルバイナリ版の日本語変換プログラムを開発しているエルゴソフト社はこの時代にもいち早くEGWORD 1.1を、そして翌年にはEGWORD 1.2と共に日本語変換プログラムEGBRIDGE 1.0をリリースした。しかしシステム側での正式サポートでない環境は様々なトラブルや不便がありAppleによる正式な対応が切に望まれていた。 
そしてやっと1986年にこの「漢字Talk1.0」が登場したのである。 
しかし待ちに待った日本語OS「漢字Talk1.0」をひと目見たとき、正直気が動転するほどがっかりした。なぜならメニューバーに表示されたその日本語は、スマートなMacintoshの姿には似つかわしくなく、大きめで醜く「これなら、日本語はいらない」と思わせるほどひどい出来だったのである。 

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※9インチのディスプレイと比較しても大変大きく粗雑なフォントだった。なおフロッピーディスク名はバックアップであることを示すために正規名称とは違えてある


それでもいま思えばGUI環境を持ったパソコンのOSとしてはまだWindowsも登場していなかったことでもあり、またすべてをビットマップとしてスクリーンに描画するというMacintoshのシステムならびに「漢字Talk1.0」は出来が悪いなりに先進的な試みであった。 
なにしろそのシステムディスク1枚にシステムは勿論Finder、漢字Talkシステム、ユーザー辞書そしてプリンタドライバ...それも続いてアップデートされた「漢字Talk1.1」にはLaserWriterまで収納されているのだから最新の環境だったのである。 

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※「漢字Talk1.0」の環境設定ウィンドウにはユーザー辞書登録機能の他に外字登録機能もあった(上)。またそのフロッピーベースのシステムフォルダを確認すると最新のレーザープリンタもサポートしていたことがわかる(下)


この「漢字Talk 1.0」のアバウトには開発者の似顔絵が表示されるが、開発にあたった2人の中心人物に日本人がいないのも不思議な思いを禁じ得ない(日系人はいたが)。そうした理由もあってか変換効率などに関しては後年まで期待はずれの面が目立っていたが、ともかくこの「漢字Talk 1.0」の登場でMacintosh OSは正式な日本語対応となった。 
ちなみに「漢字Talk 1.0」のカナ変換エンジンや辞書、漢字フォントといった部分はアップルの独自開発ではなく札幌のSCRという会社から購入した技術だった。 

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※「漢字Talk1.0」のアバウトには開発者たちの似顔絵が表示する


私は後年、当時高品位なMacintosh用日本語フォントを持っていた複数企業に聞いたことがあるが、1986年前後に当時のアップルコンピュータジャパンからフォントの権利を買いたいという申し出が幾多あったそうだ。しかしそのどれも高品位のフォントが喉から手がでるほど必要な事を理解していたであろうアップル側の条件提示はおかしなほど頑なで現実離れしたものであったらしい。そのため交渉は成立せず「漢字Talk 1.0」のフォントは残念ながら美しいものにはほど遠い結果となった...ということのようだ(笑)。 
そして実用レベルに達したのは1988年まで待たされた「漢字Talk2.0」になってからだ。辞書とFEP(日本語変換プログラム)が分離され、Osakaというゴシック体ならびにKyotoという明朝体フォントが使えるようになったのもこの「漢字Talk2.0」からであった。そしてJIS第二水準フォントもサポートされたことで実用レベルのMacintosh日本語環境を長らく望んでいた我々はやっと春がやってきた思いをしたものである。 

今日、一言で「マックの日本語環境」というが、当時のユーザーはもとより代理店やサードパーティ各社はまともな日本語をマックらしく利用できる方法を模索しそれぞれ一冊の本が書けるほどの苦労と努力をしていた時代であった。 
キヤノン販売が漢字ROMを独自に搭載したDynaMacを苦肉の策としてリリースしたこともその一端だし我々ユーザーも別途漢字ROMを有志でいわゆる共同購入した思い出もある。 

しかしすでに20年もの時間が過ぎてしまったからだろうがこのギザギサで見苦しい「漢字Talk 1.0」のフォントもいまとなってはそうした苦闘を思い出さしてくれる懐かしいものになってしまった(笑)。
今回はフォント云々については附言しないがそれにしてもOSとFinderそして日本語システムやプリンタドライバまでもが一枚の2DDフロッピーディスクだけで起動できるのだから凄いではないか!そして我らの漢字Talkは必然的にその後のMac OS多言語化への布石となったことも確かであろう。 


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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員